アンチヒーローの時代~井上ひさしの「吉里吉里人」を今読む意味
ネットの掲示板でやり取りしていて、井上ひさしの小説「吉里吉里人」を読むことを勧める。幸い相手の人は読む気になったようだった。
東北の寒村がある日突然日本からの独立を宣言する。そこにたまたま居合わせた三文小説家(井上ひさし自身が投影されている)が巡り巡って吉里吉里国に深く関わっていく……という粗筋。昔読んだきりなので細かい部分は忘れているが、抱腹絶倒の作品だった。
井上ひさしはリベラル派の作家として知られていた。確か共産党を支持していた。共産党はアレだけど、言うことは筋が通っていると評する人に何人か会ったことがあるので、そういう理由かもしれない。井上ひさしの政治観・社会観などがよく体現された作品だと思う。
今でも語りぐさとなっているが、美濃部都政の話は「吉里吉里人」で知った(そりゃそうだ。山陰出身なのだから)。朝日新聞や旧社会党に対し「批判するだけしか能がない」という批判があることを知ったのもそう(むしろ、クオリティペーパーという世評の印象が強かった)。リベラルな人だけど、バランス感覚に優れていたのだろう。
ふっと思い浮かんだのが、あとがきの「アンチヒーロー」について。「吉里吉里人」ではアンチヒーローたる主人公の古橋が吉里吉里国のキーマンとして祭り上げられていく過程が面白おかしく描かれてる。
で、ネットの向こうの名も知らない人に読むことを勧めたのは、この「アンチヒーロー」というテーマが頭の片隅にあったから。今の日本がまさにアンチヒーローの時代なのだから。井上ひさしが危惧していたのとは違うルートからそのアンチヒーローは誕生したといっていいだろう。
もう30年以上前の作品だが、作中で取り上げられた諸問題の多くは大きな枠組みとしては今でも存続している。久しぶりに読み返してみたい。
<追記>
「井上ひさしのコメ講座 岩波ブックレットNo.133」(井上ひさし, 岩波書店, 1989)は井上の農業観がよく現れている。「生活者大学校」と銘打った講演の内容をまとめたもの。
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