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2009年8月28日 (金)

邪視――ベニスに死す

「ベニスに死す」:"映画"を観たという気がした。マーラーの交響曲第5番・第4楽章のむせかえるような曲調が全編に渡って画面を支配する。

老作曲家のモデルはマーラー。哲学者のヴィトゲンシュタインが著作でマーラーについて触れていた。確かマーラーは彼の作品を全て破棄するべきだ、みたいな辛辣な言葉が記されていた。が、マーラーの作品自体は――子供の頃聴いた民謡の旋律がふっと浮かんでくるという評だったか――親しみやすい旋律というか俗っぽさも多々ある。

カメラワーク、つまり老作曲家の視線は美少年を追い続ける。あれは邪視だ! かつての自分の視線と同じじゃんと納得しまった。

邪視は西洋の迷信。デスモンド・モリスの「裸のサル」を読んで知ったのだが、見られたものは不幸に、つまり災いがおこるとされている。

僕の場合は美少年ではなく美少女だったが、ああいう視線は得てして相手に悟られてしまう。だから失礼に当たることもあるし、相手にあなたを意識しているというメッセージを送ることにもなる。

作中の美少年タージオは視線に気づきつつ、最後まで老作曲家に歩み寄ることはない。彼の姉妹たちは老作曲家に積極的なのと対照的である。だから名作たり得るのだろう。

美少年、小顔化した現代日本ならよりどりみどりだろう。僕自身は美少年ではなかったが細身で非力だったので、ああいうのがいいとは思わない。

邪視というか、何かついつい惹きつけられてしまうのだが、あなたが美しいからいけないんですよと開き直るか。

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