昔話

2024年3月 1日 (金)

高田本、二周目読了 行為項分析、これからの方針

高田明典『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』を読む。二周目。この本を買ったのは2023年2月24日なので、「昔話はなぜ面白いのか」上下巻より後で読んだことになる。

第4章が物語論概観となっている。下記の通りである。

第4章 物語論概観
1. 概要―物語とは何か―
2. プロップの機能分析
3. バルトの物語構造分析
4. グレマスの行為項分析
5. スーリオの関係分析
6. ジュネットの「物語行為」
7. ブレモンのシーケンス分析
8. トドロフ・前田のシーケンス分析

プロップについては「昔話の形態学」を読了しており前著で反映させている。

バルトについては「物語の構造分析」を読了している。ただ、バルトの分析手法を詳細に解説した本は邦訳されていないとのことである。次の行為項という概念については「物語の構造分析」で知った。それで高田本にたどり着いたのかもしれない。

グレマスについては「構造意味論 方法の探求」「意味について」の二冊を読了した。ただ、非常に難解な本で理解したとは言い難い。ちなみに読むなら「構造意味論 方法の探求」→「意味について」の順がいいと思う。

スーリオについては「二十万の演劇状況」を発注・手元に届いたところである。

ジュネットについてはナラトロジーと思われるので、長編小説や戯曲の分析中心になるのではと予想されるので今回は外した。

ブレモンについては「物語のメッセージ」を読了した。この本はプロップに影響を受けつつ、物語には複数の筋が同時並行的に進行していると分析している。なので一部取り入れるかもしれない。

トドロフについては高田本の参考文献一覧に列挙されておらず、また邦訳された本が多いためどの本を読めばよいのか分からない。おそらく「小説の記号学―文学と意味作用」ではないか。

前田愛「文学テクスト入門」については未発注である。トドロフ・前田の分析もおそらく長編小説の分析に関するものと思われるので今回は外す予定。

ということで、今年は高田本に依拠してグレマスの行為項分析、そして可能であればスーリオの関係分析を援用して昔話/伝説の分析を行ってみたいと思っている。

なお、第3章2項でレヴィ=ストロースの神話分析について取り上げられている。この内シェーマ分析については高田本の第3部 応用編でグレマスの行為項分析に応用されていると考えられるので、そちらも試みてみたい。

「構造人類学」については未読。「神話論理Ⅰ 生のものと火を通したもの」は読了している。

第7章1項ではユングの元型理論が取り上げられている。未来社「石見の民話」では当てはまる事例が極わずかしかないと思われる。その都度取り上げたい。河合隼雄の昔話分析本については読了している。

高田本は物語の分析について幅広い理論を取り上げ解説している。高価だったり現在では入手しづらい理論書も多い。そのため、講義での理解度は7割の学生が7割程度の理解度といった風に書かれている。

「昔話はなぜ面白いのか」上下巻を一通り終えた段階で読んだので既にモチーフ分析は行っていたのだが、今回それに加えて行為項分析を試行してみようと考えた。行為項分析については高田式でのやり方を踏襲した。

行為項モデルはこれ以上シンプルにはできないかと思われるので、アウトプットとしては適当なのではないかと考えている。

前著では面白さの泉源を発想の飛躍と考えたのだが、今回はもう少し違う視点が得られないかなと思っている。

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2024年2月28日 (水)

肝心の図式を書いてなかった

「昔話はなぜ面白いか」上下巻を読み返すと、発想の飛躍に関して「概念―概念」という図式を示していなかった。線は概念と概念とを結んでいることを表している。関係性のなかった概念同士が結合されることで新たな意味が生じるのだから、この欠如は痛い。電子書籍は随時修正可能だが、ペーパーバックは改訂版として出し直しとなる。ペーパーバックについてはこれまで使っていたツールが廃止されたので一からPDFファイルを作成しなければならない。未経験なので非常に面倒に感じる。とりあえず行為項分析が先だ。後回し。

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2024年2月25日 (日)

ふいに閃きが起きる――「えんこうの一文銭」の行為項モデルを思いつく

ふいに閃きが起きた。行為項分析で「えんこうの一文銭」を行為項モデル化する。すると物語の基本構造は示されるが、面白いのは一文銭が補助者である動物たちによってリレーされていくという部分である。

送り手(東岸の爺さん)→えんこうの一文銭を取り返す(豊かさ)(客体)→受け手(西岸の爺さん)
                 ↑
補助者(猫)→     東岸の爺さん(主体)       ←反対者(西岸の爺さん)
 補助者の補助者(犬・鼠・鳶・鵜・鮎)

・えんこうの一文銭の行為項モデルを描くと上記のようになる
・補助者の補助者とは本来想定されていない項目である
・物語全体を貫く意図は東岸の貧しい爺さんが川の西岸の裕福な爺さんから豊かさをもたらすえんこうの一文銭を取り戻すということになる
・猫は補助者に過ぎない
・が、面白いのは猫→鼠→猫(ここで一文銭を川に落としてしまう)→鳶→鵜→鮎→猫といった一文銭のリレーである
・つまり、行為項モデルは物語の基本構造を示してはいるが、それは面白さの説明とは必ずしも一致していないのである
・「えんこうの一文銭」は世界的には「魔法の指輪」として分布している
・主体が東岸の爺さんから途中で猫に代わっている

送り手(猫)→ えんこうの一文銭(客体)→受け手(東岸の爺さん)
                  ↑
補助者(犬・鼠・鳶・鵜・鮎)→ 猫(主体)←反対者(西岸の爺さん)

こうも書けるが本筋は豊かさを取り戻すことだから二次的なものに過ぎないだろう。入れ子構造とも言えるか。

行為項分析については分かってきたかなという感触をつかんできたところであった。「えんこうの一文銭」をなぜ思い出したかは分からない。

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2024年の目標

このところネタ切れだと書いてきた。で、昔話の行為項分析に手をつけはじめた。あと、未到着だがスーリオの古本を注文した。
・昔話の行為項分析+α
・美学関連で購入した書籍の読破
辺りを今年の目標としたい。

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2024年2月24日 (土)

行為項分析――影ワニ

◆あらすじ1

 温泉津の辺りではサメのことをワニと言う。影ワニという怪物がいるという。船が沖を走っているとき、船乗りの影が海に映ることがある。その影を影ワニが呑むと、影を呑まれた船乗りは死ぬと言う。

 昔、ある船乗りが影を呑まれそうになった。気づいた船乗りは反対に影ワニを撃ち殺した。村に帰った船乗りは、ある日浜を歩いていると魚の骨が足の内に突き刺さった。その傷が元で船乗りは死んでしまった。後になって調べてみると、その骨は船乗りが殺した影ワニの骨であった。

 もし影ワニに見つかったら、むしろでも板でも海に投げて自分の影を消さなければならないと言う。

◆モチーフ分析

・温泉津の辺りでは影ワニという怪物がいる
・船乗りの海面に映った影が影ワニに呑まれると、その船乗りは死んでしまう
・影ワニに影を呑まれそうになった船乗りが逆に影ワニを撃ち殺した
・村に戻って浜を歩いていると船乗りの足に魚の骨が刺さった
・その傷が元で船乗りは死んでしまった
・その骨は船乗りが撃ち殺した影ワニだった
・もし影ワニに見つかったら、むしろや板を海に投げて自分の影を消さなければならない。


◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:影ワニ
S2:船乗り

O(オブジェクト:対象)
O1:温泉津
O2:影
O3:魚の骨

+:接
-:離

・温泉津の辺りでは影ワニという怪物がいる
(存在)S1影ワニ:S1影ワニ+O1温泉津
・船乗りの海面に映った影が影ワニに呑まれると、その船乗りは死んでしまう
(捕食)S1影ワニ:S1影ワニ+S2船乗り
・影ワニに影を呑まれそうになった船乗りが逆に影ワニを撃ち殺した
(射殺)S2船乗り:S2船乗り-S1影ワニ
・村に戻って浜を歩いていると船乗りの足に魚の骨が刺さった
(怪我)S2船乗り:S2船乗り-O3魚の骨
・その傷が元で船乗りは死んでしまった
(死亡)O3魚の骨:O3魚の骨-S2船乗り
・その骨は船乗りが撃ち殺した影ワニのものだった
(由来)O3魚の骨:O3魚の骨+S1影ワニ
・もし影ワニに見つかったら、むしろや板を海に投げて自分の影を消さなければならない。
(伝承)S2船乗り:S1影ワニ-O2影

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築する。

送り手(影ワニ)→ 船乗りの捕食(客体)→受け手(船乗り)
            ↑
補助者(魚の骨)→ 影ワニ(主体)← 反対者(船乗り)

 影ワニはある船乗りを捕食しようとしますが、逆に射殺されてしまいます。しかし、その後、影ワニの骨が船乗りの足に刺さり怪我を負うことで船乗りは死んでしまいます。復讐は成ったという結果となります。物語の主となる部分では影ワニが影を捕食する場面は描かれません。

 聴き手は影ワニという恐ろしい妖怪の存在を知らされます。その影ワニが漁師に返り討ちに遭うという展開は驚きをもたらすでしょう。しかし、影ワニは骨になっても復讐するという結末で影ワニの恐ろしさを印象づけるのです。

 発想の飛躍は「影―ワニ」という概念の組み合わせによるものでしょうか。ワニとはサメのことです。影を呑む影ワニという妖怪が誕生した訳です。この伝説では「足―刺さる―骨/影ワニ」という組み合わせも考えられます。

◆あらすじ2

 日祖の港の西側にアバヤという所がある。そこの岬に東から西に通り抜ける大きな洞穴がある。この東側の入口の沖で二人の漁師が漁をしていた。二人とも夢中になっていたが、突然一人が悲鳴を上げた。もう一人が驚いて振り返ると影も形も無かった。海に落ちたのかと、そこら中メガネで探したが見当たらなかった。後で村中総出で、やっと海の底から死んだ漁師の着物だけを拾い上げた。アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいると言われている。

◆モチーフ分析

・アバヤの岬に洞穴がある
・洞穴の東側の沖で漁師が二人漁をしていた
・突然一人が悲鳴を上げ消える
・もう一人が探すが見つからない
・村中総出で探して消えた漁師の着物だけが見つかる
・アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいるという

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:漁師A
S2:漁師B
S3:村人
S4:影ワニ

O(オブジェクト:対象)
O1:アバヤ
O2:洞窟
03:着物

+:接
-:離

・アバヤの岬に洞穴がある
(存在)O2洞窟:O2洞窟+O1アバヤ
・洞穴の東側の沖で漁師が二人漁をしていた
(漁)S1漁師A:S1漁師A+S2漁師B
・突然一人が悲鳴を上げ消える
(消失)S2漁師B:S2漁師B-S1漁師A
・もう一人が探すが見つからない
(捜索)S1漁師A:S1漁師A-S2漁師B
・村中総出で探して消えた漁師の着物だけが見つかる
(発見)S3村人:S3村人+O3着物
・アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいるという
(存在)S4影ワニ:S4影ワニ+O2洞窟

◆行為項モデル

送り手(漁師A)→ 漁師Bの発見(客体)→受け手(漁師B)
           ↑
補助者(村人)→  漁師A(主体)  ← 反対者(影ワニ)

 一緒に漁をしていた漁師Bが突然姿を消したので漁師Aは必死に捜索します。村人の協力を得ますが着物しか見つけられませんでした。結局、漁師Bは洞窟に住む影ワニに食べられたのだろうという解釈を導き出します。

 漁師が一人突然行方不明になるという展開に聴き手は困惑するでしょう。それがどうやら影ワニの仕業らしいという結論になって聴き手は納得するのでしょう。

 発想の飛躍は「漁師―着物―影ワニ」という概念の組み合わせによるでしょうか。着物を残して行方不明となったことで影ワニに捕食されたという推論が浮かんだ訳です。

 なお、伝説の舞台となる大田市の漁港ではサメが水揚げされ、中国山地に出荷、その地の食文化を彩っているという背景もあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.37-38.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年2月23日 (金)

行為項分析――うしおに

◆あらすじ1

 波路浦に一人の漁師がいた。ある日の漁は大量であった。喜んで帰りかけると、海の中から大きな牛の様な怪物が大きな声で「魚をくれ」と叫ぶので、恐ろしくなって投げてやった。ところが怪物はまたしても「魚をくれ」と叫ぶので、その度に少しずつ投げてやった。ようやく港へ着くと急いで家へ帰った。しばらくすると怪物がやってきて、どんどん戸を叩きながら「魚をくれ」と言った。漁師が「家の中へ入れ。魚をやろう」というと「お前はお仏飯を食べているから、家の中へは入られない」といって逃げていった。あくる朝戸をあけて庭へ出てみると大きな足跡が残っていた。足跡は牛の様でもあるし、牛とは違う様にもあるし、村人は不思議に思った。これは昔から言われている牛鬼だろうということになった。

◆モチーフ分析

・波路浦に漁師がいた。ある日の漁は大漁だった
・帰りかけると海の中から怪物が「魚をくれ」と叫ぶので魚をやる
・「魚をくれ」と叫び続けるので、その都度魚をやる
・港へつくと急いで家へ帰る
・家まで怪物が来て「魚をくれ」と言う
・「家の中へ入れ」と言うと「お前はお仏飯を食べているから中に入れない」と怪物が答え逃げていく
・あくる朝、戸をあけると足跡が残っていた
・これは牛鬼だろうということになった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:漁師
S2:怪物

O(オブジェクト:対象)
O1:波路浦
O2:魚
O3:港
O4:家
O5:お仏飯
O6:足跡
O7:牛鬼

+:接
-:離

・波路浦に漁師がいた
(存在)O1波路浦:O1波路浦+S1漁師
・ある日の漁は大漁だった
(大漁)S1漁師:S1漁師+O2魚
・帰りかけると海の中から怪物が「魚をくれ」と叫ぶので魚をやる
(投与)S1漁師:S2怪物+O2魚
・「魚をくれ」と叫び続けるので、その都度魚をやる
(投与)S1漁師:S2怪物+O2魚
・港へつくと急いで家へ帰る
(帰宅)S1漁師:S1漁師+O4家
・家まで怪物が来て「魚をくれ」と言う
(要求)S2怪物:S2怪物+S1漁師
・「家の中へ入れ」と言うと「お前はお仏飯を食べているから中に入れない」と怪物が答え逃げていく
(逃亡)S2怪物:S2怪物-O5お仏飯
・あくる朝、戸をあけると足跡が残っていた
(発見)S1漁師:S1漁師+O6足跡
・これは牛鬼だろうということになった
(推測)S1漁師:S1漁師+O7牛鬼

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築する。

送り手(漁師)→ 魚(客体)→ 受け手(怪物)
          ↑
補助者(お仏飯)→ 漁師(主体)← 反対者(怪物)

 漁師は怪物から逃れるためせっかく獲った魚を与え続けます。そしてお仏飯を食べていたため、かろうじて怪物の追跡から逃れます。

 ここでは補助者が主体ではなく客体(お仏飯)となっています。

 牛鬼の追跡から逃れることができるか聴き手ははらはらしながら耳を傾けるでしょう。とうとう家の中に逃げ込みますが牛鬼はまだ追ってきます。しかし、お仏飯を食べているという理由で牛鬼は退散します。これで聴き手は安心するでしょう。

 発想の飛躍は「漁師―お仏飯―牛鬼」という概念の組み合わせによるでしょうか。お仏飯を食べていたことで牛鬼の襲撃から免れます。

◆あらすじ2

 波路浦の大下(おおしも)という家の何代も前の主人が三人の仲間と一緒に四月のある晩釣りに出た。他の舟は沖へ出ていたが、この舟は温泉津の港と福光海岸の中程のシューキの岸近くで糸を下ろした。ここは秘密の釣り場で、その日もよく釣れた。夜が更けて岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがあった。この辺りは断崖絶壁で人のゆける所ではない。狐が悪戯をするのだと思って「おう、来たけりゃ、来い」とからかい半分に言った。ところが「おう」と返事と共に何か大きなものが海にどぶんと飛び込んだ。舟に向かって牛鬼が泳いできた。真っ青になった四人は一生懸命波路浦に向けてこぎ出した。牛鬼も舟を追って来る。ようやく一里ばかり離れた波路浦の浜に着くと、一番近い大下の家へ飛び込んで戸を閉めた。牛鬼は戸をどんどん叩きながら「開けろ、開けろ」とどなる。四人は土間にへばりこんでさっぱり動こうともしない。家の者が火箸を囲炉裏で真っ赤に焼いて、大戸の鍵穴に口を寄せて「今戸を開けてやるから静かにせい」と怒鳴った。牛鬼は声のした鍵穴から中をのぞき込んだ。その時、焼き火箸を鍵穴へ突っ込んだ。目を焼き火箸で突き刺された牛鬼はたけり狂ったが、柱の上に張ってある出雲大社のお札に気づくと身震いしてもの凄い声をあげて逃げていった。この辺りの漁師はそれから必ず出雲大社のお札を戸口に貼るようになった。

◆モチーフ分析

・波路浦の大下の家の主人が仲間と共にある晩釣りにでかけた
・温泉津と福光の間のシューキの秘密の釣り場で釣りをする
・よく釣れた
・岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがいる
・狐だと思い、「おう」と返すと牛鬼が海に飛び込み舟めがけて追いかけてきた
・焦った主人たちは波路浦に向けてこぎ出す。牛鬼も舟を追ってくる
・ようやく波路浦の浜につくと大下の家に逃げ込む
・牛鬼が「開けろ」と怒鳴る
・牛鬼が鍵穴をのぞき込んだところ、家のものが焼いた火箸を鍵穴に突っ込む
・目を突かれた牛鬼はたけり狂うが、出雲大社のお札に気づくと逃げていった
・それからこの辺りの家は出雲大社のお札を戸口に貼るようになった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1;主人
S2:仲間
S3:牛鬼
S4:家の者
S5:住民

O(オブジェクト:対象)
O1:舟
O2:家
O3:鍵穴
O4:火箸
O5:お札

+:接
-:離

・波路浦の大下の家の主人が仲間と共にある晩釣りにでかけた
(出発)S1主人:S1主人+S2仲間
・温泉津と福光の間のシューキの秘密の釣り場で釣りをする
(釣り)S1主人:S1主人+S2仲間
・岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがいる
(呼びかけ)S3牛鬼:S3牛鬼+S1主人
・狐だと思い、「おう」と返すと牛鬼が海に飛び込み舟めがけて追いかけてきた
(追跡)S1主人:S3牛鬼+O1舟
・焦った主人たちは波路浦に向けてこぎ出す。牛鬼も舟を追ってくる
(逃走)S1主人:S3牛鬼-S1主人
・ようやく波路浦の浜につくと大下の家に逃げ込む
(逃入)S1主人:S1主人+O2家
・牛鬼が「開けろ」と怒鳴る
(威嚇)S3牛鬼:S3牛鬼+S1主人
・牛鬼が鍵穴をのぞき込んだところ、家のものが焼いた火箸を鍵穴に突っ込む
(奇襲)S4家の者:S3牛鬼+O4火箸
・目を突かれた牛鬼はたけり狂うが、出雲大社のお札に気づくと逃げていった
(逃散)S3牛鬼:S3牛鬼-O5お札
・それからこの辺りの家は出雲大社のお札を戸口に貼るようになった
(魔除け)S5住民:S5住民+O5お札

◆行為項モデル

送り手(主人)→ 牛鬼からの逃走(客体)→ 受け手(牛鬼)
           ↑
補助者(家の者)→ 主人(主体)← 反対者(牛鬼)

 牛鬼に追われた大下の主人は仲間と共に家に逃げ込みますが牛鬼が威嚇してきます。機転を利かせた家の者が火箸で牛鬼の目を潰します。家の者の知恵が示されます。牛鬼は出雲大社のお札でそれ以上近づけず逃亡します。出雲大社の効験を示す伝説でもあります。

 これも牛鬼の追跡劇です。牛鬼の目を火箸で潰すというのは残酷な表現ですが聴き手は納得するのでしょう。出雲大社のお札も聴き手を安心させるに違いありません。

 発想の飛躍は「火箸―突く―目」の概念の組み合わせによるでしょうか。あるいは「主人―お札―牛鬼」かもしれません。火箸で目を突くことで牛鬼を撃退しようとしますが、却って牛鬼を怒らせてしまいます。ですが、出雲大社のお札の効験で危機を免れるのです。

◆あらすじ3

 日祖(にそ)の漁師に友村清市という人がいた。ある晩一人で小舟に乗って沖へ出た。すると牛鬼が一匹、追いかけてきた。力が強く胆のすわった清市は舟中の綱をまとめて牛鬼が近づくのを待った。間もなく牛鬼は船べりにきて舟に上がろうとした。清市はこれに組み付き、舟へ引き上げて、がんじがらめに縛り上げた。清市は小二町(こふたまち)まで舟で帰り、そこから山越しに日祖まで牛鬼を担いで帰った。浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、日祖中の人がぞろぞろ見にきた。わいわい言っていると、一人の若者が櫂を持って牛鬼の頭を力任せに殴りつけた。すると変な音がして櫂は二つに折れた。近寄ってよく見ると、椿の木の古い根ががんじがらめに縛ってあった。昔から椿は化けるということで、椿の花は仏さまには絶対に供えない。

◆モチーフ分析

・日祖に漁師がいた
・ある晩、小舟に乗って沖へ出た
・牛鬼が一匹追いかけてきた。牛鬼は船べりまでやって来た
・漁師は組み付き、舟へ引き上げてがんじがらめに縛り上げた
・漁師は小二町まで舟で帰り、日祖まで牛鬼を担いで帰った
・浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、村中の人が見物にきた
・一人の若者が櫂で牛鬼の頭を殴りつけた。すると櫂は二つに折れた
・近寄ってよく見ると、椿の古い根ががんじがらめに縛ってあった
・昔から椿は化けるので、椿の花は仏さまには絶対に供えない

◆行為項分析

S(サブジェクト:主体)
S1:漁師
S2:牛鬼
S3:村人
S4:若者

O(オブジェクト:対象)
O1:舟
O2:日祖
O3:櫂
O4:椿
O5:仏さま

+:接
-:離

・日祖に漁師がいた
(存在)S1漁師:S1漁師+O2日祖
・ある晩、小舟に乗って沖へ出た
(出漁)S1漁師:S1漁師+O1舟
・牛鬼が一匹追いかけてきた
(遭遇)S1漁師:S1漁師+S2牛鬼
・牛鬼は船べりまでやって来た
(接近)S2牛鬼:S2牛鬼+O1舟
・漁師は組み付き、舟へ引き上げてがんじがらめに縛り上げた
(格闘)S1漁師:S1漁師+S2牛鬼
・漁師は小二町まで舟で帰り、日祖まで牛鬼を担いで帰った
(帰還)S1漁師:S1漁師+S2牛鬼
・浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、村中の人が見物にきた
(見物)S1漁師:S3村人+S2牛鬼
・一人の若者が櫂で牛鬼の頭を殴りつけた。すると櫂は二つに折れた
(殴打)S4若者:S4若者+S2牛鬼
・近寄ってよく見ると、椿の古い根ががんじがらめに縛ってあった
(変化の解除)S4若者」S2牛鬼-O4椿
・昔から椿は化けるので、椿の花は仏さまには絶対に供えない
(習慣)O4椿:O4椿-O5仏さま

◆行為項モデル

送り手(漁師)→ 牛鬼を見世物にする(客体)→受け手(牛鬼)
           ↑
補助者(若者)→ 漁師(主体)    ← 反対者(牛鬼)

 牛鬼を生け捕りにした漁師は村へ牛鬼を連れ帰り見世物にします。ここでは漁師の強さが強調されます。ですが、若者が殴打したところ椿の根が変化したものだったことが明らかとなります。椿は変化する不吉な樹だとの説明ともなっています。

 牛鬼が逆に捕獲されてしまうという意外な展開となります。聴き手は村に連れ帰られた牛鬼はどうなるのだろうと想像することでしょう。結局牛鬼は椿の根の変化だったと明らかにされ聴き手は一応の納得はするでしょう。

 発想の飛躍は「漁師―縛る―牛鬼/椿」という概念の組み合わせによるでしょうか。せっかく捕獲した牛鬼が実は椿の根の変化したものだったという結末です。

◆あらすじ4

 日祖である晩いわしの地引き網を入れた。ところがどうしたことか一尾もかからない。気をくさらせて皆は酒を飲んでさっさと引き上げた。そのとき小舟にいた一人の老人が家に帰ってから煙草入れを忘れたのに気がついて取りにいこうとした。家内は不吉な予感がすると言って行くのを止めたが、老人は振り切って行こうとする。そこで家内は仏壇に供えてあったお仏飯を食べさせて出した。煙草入れを探すのに夢中になっていた老人が騒がしい波の音に気がついてふとその方を見ると一匹の牛鬼が側まで来ていた。舟の中であり、もう逃げられないと思ったが、思わず櫂で殴ってやろうと身構えた。すると牛鬼は「お前はお仏飯を食っているから近づけない」と言って逃げていった。昔から子供が海や山へ行くときには怪我の無いようにといってお仏飯を食べさせる。

◆モチーフ分析

・日祖である晩いわしの地引き網を入れた。が、一匹もかからない
・漁師たちは酒を飲んでさっさと引き上げた
・小舟にいた老人が煙草入れを忘れて取りに行こうとした
・家内が不吉だと止めたが、老人は振り切ったので、お仏飯を食べさせる
・老人が煙草入れを探していると牛鬼が側までやって来た
・老人は櫂で殴ろうとする
・牛鬼は「お前はお仏飯を食べているから近づけない」と言って逃げた
・昔から子供が海や山に行くときは怪我の無いようにお仏飯を食べさせる

◆行為項分析

S(サブジェクト:主体)
S1:漁師
S2:老人
S3:家内
S4:牛鬼
S5:住民
S6:子供

O(オブジェクト:対象)
O1:日祖
O2:いわし
O3:煙草入れ
O4:お仏飯

+:接
-:離

・日祖である晩いわしの地引き網を入れた。が、一匹もかからない
(不漁)S1漁師:S1漁師-O2いわし
・漁師たちは酒を飲んでさっさと引き上げた
(引揚げ)S1漁師:S1漁師-O1日祖
・小舟にいた老人が煙草入れを忘れて取りに行こうとした
(引き返す)S2老人:S2老人+O3煙草入れ
・家内が不吉だと止めたが、老人は振り切ったので、お仏飯を食べさせる
(食餌)S3家内:S2老人+O4お仏飯
・老人が煙草入れを探していると牛鬼が側までやって来た
(接近)S4牛鬼:S2老人+O3煙草入れ
・老人は櫂で殴ろうとする
(殴打)S2老人:S2老人+S4牛鬼
・牛鬼は「お前はお仏飯を食べているから近づけない」と言って逃げた
(逃亡)S4牛鬼:S4牛鬼-S2老人
・昔から子供が海や山に行くときは怪我の無いようにお仏飯を食べさせる
(習慣)S5住民:S6子供+O4お仏飯

◆行為項モデル

送り手(牛鬼)→ 老人を襲う(客体)→ 受け手(老人)
           ↑
補助者 なし  牛鬼(主体)   ← 反対者(家内)

 牛鬼は老人を襲おうとしたものの老人がお仏飯を食べていたため断念します。老人の家内の危惧が当たったことになりますが、間一髪悲劇は食い止められます。仏力で怪物や危難を避けるという信仰があったことを示しています。

 老人は制止を振り切って煙草入れを取りに行こうとします。禁止の侵犯に聴き手ははらはらするはずです。案の定牛鬼が登場しますが、老人がお仏飯を食べていたため無事だったという結末に終わり、聴き手は安堵するのです。

 この行為項モデルでは老人が制止を振り切る、つまり禁止の侵犯を行っているという重要なモチーフが表現できていません。

 発想の飛躍は「漁師―お仏飯―牛鬼」という概念の組み合わせによるでしょうか。ここでもやはりお仏飯を食べていたことで危機を免れるのです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.32-36.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年2月22日 (木)

行為項分析――ごうろ坂の一ツ目小僧

◆あらすじ

 ごうろ坂は矢滝城山の中腹にある胸つき十八町といわれる急な坂道で、大森(銀山)へ行く難所だった。いつの頃からか、ここに一ツ目の化物が出て旅人をとって食うという噂が広がった。夕方になると道を歩く人もなくなってしまった。大森の代官所でも強い武士に化物を退治させようとしたが、その度に失敗した。

 ある夕方、温泉津から清水を通って西田に来た一人の武士がいた。その武士が西田の茶店で休んで出発しようとすると、もう夕方なので化物が出る。今夜は泊まって明日出立した方がよいと茶店の婆さんに言われる。化物が出ると知った武士は退治してやろうと考える。武士は制止を振り切って出立した。

 坂の頂上辺りまで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた。明日の朝温泉津を出る北前船に乗らなければならないのだが、急に腹が痛くなって動けないと女は答えた。闇に女の顔が白く浮かぶ。

 人間ではないと気づいた武士だったが、女を背負うと西田へと下っていく。歩く内に背中の女は次第に重くなり、とうとう歩けなくなった。武士は決心して女を道ばたの石に投げ下ろした。ぎゃっという悲鳴とともに女の姿は消えてしまった。

 あくる朝、矢滝の人々がいってみると、大石は血で染まり、側に狸の毛が一杯落ちていた。人々はそこに地蔵さまを祀った。それからはそういうことはなくなった。

◆モチーフ分析

・ごうろ坂は急な坂道で大森へ行く難所だった
・いつの頃からか坂に一ツ目の化物が出ると噂が立った
・夕方になると人気が絶えた
・代官所も武士に化物退治をさせたが、その度に失敗した
・ある夕方、温泉津から西田へ来た武士がいた
・武士が西田の茶店で休んでいると、茶店の婆さんにもう夕方だから今夜はここに泊まっていけといわれる
・化物がでると知った武士は制止を振り切って出立する
・坂の頂上まで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた
・明日の朝までに温泉津に行かねばならない
・闇に女の顔が白く浮かぶ。人でないと武士は見破る
・女を背負った武士、西田へと下っていく
・背中の女は次第に重くなり、歩けなくなってしまった
・思い切って女を道ばたの大石に投げ下ろした
・悲鳴とともに女の姿は消えた
・人々が行ってみると、大石は血で染まり、狸の毛がいっぱい落ちていた
・人々はそこに地蔵を祀った
・それから化物が出ることはなくなった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:代官所
S2:武士
S3:茶店の婆さん
S4:若い女
S5:人々

O(オブジェクト:対象)
O1:ごうろ坂
O2:大森
O3:化物
O4:茶店
O5:大石
O6:地蔵

+:接
-:離

・いつの頃からかごうろ坂に一ツ目の化物が出ると噂が立った
(噂)O1ごうろ坂:O1ごうろ坂+O3化物
・代官所も武士に化物退治をさせたが、その度に失敗した
(失敗)S1代官所:S1代官所-O3化物
・ある夕方、温泉津から西田へ来た武士が茶店で休んでいると、茶店の婆さんにもう夕方だから今夜はここに泊まっていけといわれる
(制止)S3婆さん:S3婆さん+S2武士
・化物がでると知った武士は制止を振り切って出立する
(出立)S2武士:S2武士-S3婆さん
・坂の頂上まで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた
(遭遇)S2武士:S2武士+S4若い女
・闇に女の顔が白く浮かぶ。人でないと武士は見破る
(看破)S2武士:S2武士+S4若い女
・女を背負った武士、西田へと下っていく
(出発)S2武士:S2武士+S4若い女
・背中の女は次第に重くなり、歩けなくなってしまった
(歩行困難)S2武士:S2武士-S4若い女
・思い切って女を道ばたの大石に投げ下ろした
(投下)S2武士:S2武士+S4若い女
・悲鳴とともに女の姿は消えた
(消失)S2武士:S2武士-S4若い女
・人々が行ってみると、大石は血で染まり、狸の毛がいっぱい落ちていた
(発見)S5人々:S5人々+O5大石
・人々はそこに地蔵を祀った
(祭祀)S5人々:S5人々+O6地蔵
・それから化物が出ることはなくなった
(解放)S5人々:S5人々-O3化物

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築する。

送り手(武士)→ 若い女の正体を暴く(客体)→ 受け手(化物)
            ↑
補助者(婆さん)→  武士(主体)    ← 若い女(反対者)

送り手(若い女)→ 武士を化かしてやろう(客体)→ 受け手(武士)
             ↑
補助者 なし      化物      ← 武士(反対者)


 武士が若い女を化物が変化した姿と直感しつつ背負う行動に武士の勇敢さが表現されています。結局、武士は重さに耐えかねて女を大石に投げ捨てますが、それが結果的に化物を退治することになります。

 逆に化物の立場からすると、若い女に化けて武士に背負われる、つまり背後をとることに成功したのですが、結局のところ大石に投げつけられて大怪我を負ってしまい姿を消すことになります。

 また、地蔵を祀ることでその後の化物の復活を封じたと解釈することもできます。

 武士が敢えて女を背負ったことで聴き手ははらはらするでしょう。そして結局女を大石に投げつけることで問題が解決することに安心するのではないでしょうか。

 この伝説における発想の飛躍は「武士―背負う―女/狸」という概念の組み合わせによるでしょうか。あるいは「投げ下ろす―女/狸―大石」かもしれません。危険を悟りつつ敢えて女を背負うのです。その行為が事件の解決を招きます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.29-31.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年2月20日 (火)

行為項分析――足半踊り

◆あらすじ

 馬路(仁摩町)の乙見神社は大国主命をまつっている。昔、大国主命が志賀美(しかみ)山(高山)を見て、あそこはとてもよいところだ。永くこの地にとどまって国造りをしようと言って船をこぎよせられた。神子路(みこじ)の浜は大国主命の子神が通ったと言われている。後に志賀見山に社を建てた。

 ある夏のはじめ、志賀見山に火事が起きた。火は社の近くまで迫った。願城寺に住んでいた婆さんがこれは一大事と神さまをお助けすることを近所の人たちに呼びかけたが、火事の中であり、うっかり神さまに触っては祟りがあるかもしれないと思って助けようとする者がいなかった。

 三年前に夫をなくした婆さんは自分ひとりでもと決心して足半(あしなこ)をもって山の上へ駆け上った。山は険しく、つまづいたりぶつかったり、こけたりまるげたりしながら煙の中に見える社にようやく駆けつけた。

 幸い社は無事だった。婆さんはお参りすると、どうして神さまをお連れしようか考えた。女は穢れのあるものとされているので直に身体に触ってはいけない。そこで履いてきた足半の表の土のつかない方を背中にあて、裏の土のついた方を神さまの方へ向け、ご神体を背負って急な坂を下りはじめた。

 火は路へは回っていなかったので、何度も滑って尻もちをつきながら、ようやく麓の乙見の里についた。

 村人たちは婆さんの勇敢な行いに感心し、さっそく新しい社をどこに作るか相談した。山火事でも危険の無いところにしようと東西に川のある今の所を選んで社を建て、乙見と名づけた。

 ある晩、婆さんが寝ていると、して欲しいことがあれば祈願せよと神さまのお告げがあった。婆さんは社にお参りして田畑の作物が枯れそうだ、雨を降らせて欲しいとお祈りした。すると、その願いを叶えようとお告げがあって、黒い雲が空を覆い、大粒の雨が降ってきた。田畑の作物は生気を取り戻した。これを見た村人たちは大喜びで仕事着に足半を履いたまま、婆さんを先頭に社へ参って踊りを踊って神さまにお礼を言った。

 それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると、必ず雨が降るようになり、足半踊りを踊ってお礼まいりするようになった。有名な馬路の盆踊りの足半踊りはこれが始まりである。

◆モチーフ分析

・ある夏、志賀見山に火事が起きて、火は社の近くまで迫った。
・願城寺に住んでいた婆さんがご神体を避難させようと提案したが、村人たちは祟りを怖れ消極的だった
・婆さんは自分ひとりで足半を持って山へ登った。山は険しく苦労したが社に辿り着いた
・社は無事だった。女は穢れのあるものとされているので婆さんは足半を間に挟んでご神体を持ち出した
・何とか麓まで辿り着いた
・村人たちは婆さんの行いに感心、新しい社を乙見に建てることにする
・婆さんが寝ていると、夢のお告げがあった。婆さんは日照りなので雨を降らせて欲しいと祈った
・お告げがあって雨が降ってきた。田畑の作物は生気を取り戻した
・村人たちは足半を履いたまま踊り、神さまに礼を言った
・それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると必ず雨が降った
・村人たちは足半踊りを神さまに奉納するようになった
・馬路の盆踊りの足半踊りの起源はこれである

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:婆さん
S2:村人
S3:神さま

O(オブジェクト:対象)
O1:志賀見山
O2:火
O3:社
O4:ご神体
O5:足半
O6:乙見の里
O7:雨
O8:作物

+:接
-:離

・ある夏、志賀見山に火事が起きて、火は社の近くまで迫った。
(出火)O2火:O2火+O3社
・願城寺に住んでいた婆さんがご神体を避難させようと提案したが、村人たちは祟りを怖れ消極的だった
(提案)S1婆さん:S1婆さん-S2村人
・婆さんは自分ひとりで足半を持って山へ登った
(単独行動)S1婆さん:S1婆さん+O1志賀見山
・山は険しく苦労したが社に辿り着いた
(到着)S1婆さん:S1婆さん+O3社
・社は無事だった。女は穢れのあるものとされているので婆さんは足半を間に挟んでご神体を持ち出した
(救出)S1婆さん:S1婆さん+O4ご神体
・何とか麓まで辿り着いた
(到着)S1婆さん:S1婆さん+O6乙見の里
・村人たちは婆さんの行いに感心、新しい社を乙見に建てることにする
(移築)S2村人:S2村人+O3社
・婆さんが寝ていると、夢のお告げがあった
(夢告)S3神さま:S3神さま+S1婆さん
・婆さんは日照りなので雨を降らせて欲しいと祈った
(祈願)S1婆さん:S1婆さん+S3神さま
・お告げがあって雨が降ってきた
(降雨)S3神さま:S3神さま+O7雨
・田畑の作物は生気を取り戻した
(回復)O7雨:O7雨+O8作物
・村人たちは足半を履いたまま踊り、神さまに礼を言った
(感謝)S2村人:S2村人+S3神さま
・それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると必ず雨が降った
(雨ごい)S1婆さん:S1婆さん+O7雨
・村人たちは足半踊りを神さまに奉納するようになった
(奉納)S2村人:S2村人+S3神さま

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築する。

送り手(神さま)→ 雨(客体)→ 受け手(婆さん)
          ↑
補助者  なし  婆さん(主体) なし 反対者

送り手(村人)→ 足半踊り(客体)→ 受け手(神さま)
          ↑
補助者(婆さん)→ 村人(主体) なし 反対者

 山火事からご神体を救出した婆さんの願いを神さまが叶えます。願いは雨を降らせることでした。婆さんはあくまで村のためになることを願ったため、神の恩恵を得られたのです。婆さんの献身的な行いを称えるため足半踊りが奉納されているという由来譚でもあります。

 婆さんはご神体を背負って無事脱出できるか聴き手は関心を持って耳を傾けるでしょう。また、婆さんの願いは何なのかにも興味を示すことでしょう。

 これも行為項モデルが二つ見出せます。

 この伝説における発想の飛躍は「婆さん―足半―ご神体」という概念の組み合わせによるでしょうか。婆さんの命がけの行動が神さまの報恩を招きます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.26-28.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年2月18日 (日)

行為項分析――姫野の池

◆あらすじ

 三瓶山の麓に姫野の池という小さな池がある。ほとりにはカキツバタが生えている。池の近くに長者がいて、お雪という娘がいた。薪を牛に載せて長者の家の前を通る若者がいた。娘と若者は互いに恋をした。その頃、野伏原に山賊がいたが長者の屋敷は襲わなかった。山賊の頭はお雪に目をつけていたのである。山賊の頭はある日屋敷を訪れてお雪を嫁に所望した。相手は山賊の頭で、お雪は若者と恋をしていたので長者は苦しんだ。長者はしばらく待って欲しいと答える。返事がないのに苛立った頭は手下を引き連れてお雪を奪いに長者の屋敷を襲った。そのことを知った若者は山刀をふるって山賊の群れに飛び込んだ。多勢に無勢で追われた若者は姫野の池のほとりまで来て斬り合ったが遂に斬り殺されてしまった。それを見たお雪は若者一人だけ死なせまいと池に身を投げた。池の底は深い泥で埋もれていたので娘が浮かび上がってくることはなかった。雨が降って昼と夜の気温の差の激しい夜には霧が池の辺りに下りてくる。そのときはお雪のすすり泣く声が聞こえるという。六月になると咲くカキツバタはお雪の生まれ変わりという。

◆モチーフ分析

・三瓶山の麓に姫野の池がある。池のほとりにはカキツバタが生えている
・池の近くに長者の屋敷があり、娘がいた
・牛に薪を積んで長者の家の前を通る若者がいた
・若者と娘は互いに恋をした
・野伏原に山賊がいた。山賊の頭は娘に目をつけていた
・山賊の頭は長者を訪ね、娘を嫁に所望した
・長者は事情を知っていたので、しばらく待ってもらう
・返事がないのに苛立った山賊の頭は長者の屋敷を襲った
・若者が加勢にかけつけるが、多勢に無勢で池のほとりに逃げる
・若者は斬り殺されてしまう
・跡を追って娘も入水してしまう
・池のほとりのカキツバタは娘の生まれ変わりという

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:長者
S2:娘
S3:若者
S4:山賊の頭

O(オブジェクト:対象)
O1:三瓶山
O2:姫野の池
O3:長者の屋敷
O4:牛
O5:山賊
O6:カキツバタ

+:接
-:離

・三瓶山の麓に姫野の池がある
(存在)O1三瓶山:O1三瓶山+O2姫野の池
・池のほとりにはカキツバタが生えている
(存在)O2姫野の池:O2姫野の池+O6カキツバタ
・池の近くに長者の屋敷があり、娘がいた
(存在)S1長者:S1長者+S2娘
・牛に薪を積んで長者の家の前を通る若者がいた
(商い)S3若者:S3若者+O3長者の屋敷
・若者と娘は互いに恋をした
(恋愛)S3若者:S3若者+S2娘
・野伏原の山賊の頭は娘に目をつけていた
(横恋慕)S4山賊の頭:S4山賊の頭+S2娘
・山賊の頭は長者を訪ね、娘を嫁に所望した
(所望)S4山賊の頭:S4山賊の頭+S1長者
・長者は事情を知っていたので、しばらく待ってもらう
(猶予)S1長者:S1長者-S4山賊の頭
・返事がないのに苛立った山賊の頭は長者の屋敷を襲った
(襲撃)S4山賊の頭:S4山賊の頭+O3長者の屋敷
・若者が加勢にかけつける
(加勢)S3若者:S3若者+O3長者の屋敷
・多勢に無勢で池のほとりに逃げる
(逃走)S3若者:S3若者+O2姫野の池
・若者は斬り殺されてしまう
(斬殺)S3若者:S3若者-O5山賊
・跡を追って娘も入水してしまう
(入水)S2娘:S2娘-O2姫野の池
・池のほとりのカキツバタは娘の生まれ変わりという
(転生)S2娘:S2娘+O6カキツバタ

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築する。

送り手(若者)→娘の救出(客体)→受け手(山賊)
          ↑
補助者(長者)→若者(主体)←反対者(山賊の頭)

 山賊の頭に狙われた娘を救出すべく若者は山賊と戦いますが、多勢に無勢で斬殺されてしまいます。

 また、以下のようにも解釈可能です。

送り手(山賊の頭)→娘を嫁にする(客体)→受け手(長者)
            ↑
補助者(山賊) → 山賊の頭(主体) ←  反対者(若者)

 山賊の頭が長者の娘を嫁に望みますが娘に恋していた若者が妨害します。しかし、若者は山賊に殺され、娘も跡を追って入水するという悲劇的な結末となります。娘の救出劇は成るのか聴き手は関心をもって耳を傾けるでしょう。結末は悲劇に終わりますがカキツバタが娘の転生したものであると暗示され、聴き手は一応の納得はするでしょう。

送り手(若者)→恋の成就(客体)→受け手(娘)
          ↑
補助者(長者)→若者(主体)←反対者(山賊の頭)

 若者は長者の娘との恋の成就を願いますが山賊の頭の横やりによって事件が発生し悲劇的な結末となってしまいます。

 伝説のような比較的短い話でも行為項モデルは複数成立し得るという事例と言っていいでしょうか。まあ、物語であれば主人公のドラマとは別に対立者のドラマも普通に成立し得ます。長編になればなるほど登場人物は詳細に描写されていき、各々の行為項モデルが成立することになるでしょう。

 重層的とも言えるでしょう。重層的な構造を持つことは作品の魅力に繋がります。しかし、物語の構造をシンプルなものと捉える観点からは意外な分析結果と言えるかもしれません。

 行為項モデルを娘の救出劇とした場合ですが、このモデルからは結末は明らかになりません。また、この伝説の発想の飛躍は「姫―入水―カキツバタ」といった概念の組み合わせから生じていると考えます。カキツバタが姫の象徴となるのです。発想の飛躍はモデルの枠外で生じているということになります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.24-25.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年2月17日 (土)

行為項分析――浮布の池

◆あらすじ

 三瓶山の麓にある浮布の池はもとは浮沼池という。昔、池の原の長者の子ににえ姫という美しい姫がいた。古くから池に住む池の主がいつしか姫に思いを寄せるようになった。姫は池のほとりで美しい若者と出会った。姫は若者に心を惹かれた。姫は若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう。そして空を飛ぶ夢を見る。気づくと一人で池のほとりに座っていた。着物は濡れていなかった。このようなことが度重なって、姫の顔に生気が無くなってきた。人々の心配を他所に姫は池のほとりを歩く。ある日、通りかかった武士が大蛇に巻き付かれた姫を見た。武士は弓で大蛇を射る。浮布の池はざわめいたが、池の主の姿はなかった。意識を取り戻した姫だったが、池に身を投げて死んでしまった。姫が着ていた衣の裾が白く帯のように池の中央に浮かんでいた。この日は六月一日で、それから毎年六月一日にはこの白い波の道が光って池の表に現れるところからこの池を浮布の池と呼ぶようになった。にえ姫を祀るにえ姫神社は池の東側の中ノ島にある。

◆モチーフ分析

・三瓶山のほとりに浮布の池がある
・昔、池の原の長者の子ににえ姫がいた
・池の主が姫に思いを寄せるようになった
・姫、若者と出会う
・姫、若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう。空を飛ぶ夢を見る
・このような事が度重なって姫から生気が失われていく
・ある日、武士が大蛇に巻き付かれた姫を見つける
・武士は大蛇を射る。大蛇は姿を消してしまう
・気がついた姫は池に入水してしまう
・姫の着物の裾が池の真ん中に浮かんでくる
・それで浮き布の池と呼ぶようになった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:にえ姫
S2:若者(蛇)
S3:武士
S4:長者

O(オブジェクト:対象)
O1:池
O2:着物
O3:浮き布の池

m(修飾語)
m1:憔悴

+:接
-:離

・三瓶山のほとりに浮布の池がある
(存在)X1三瓶山:X1三瓶山+O1池
・昔、池の原の長者の子ににえ姫がいた
(存在)S4長者:S4長者+S1にえ姫
・池の主が姫に思いを寄せるようになった
(恋慕)S2若者(蛇):S2若者(蛇)+S1にえ姫
・姫、若者と出会う
(邂逅)S1にえ姫:S1にえ姫+S2若者(蛇)
・姫、若者の誘いで池に行くと気を失ってしまう
(気絶)S1にえ姫:S1にえ姫-O1池
・このような事が度重なって姫から生気が失われていく
(消耗)S1にえ姫:S1にえ姫-m1(憔悴)
・ある日、武士が大蛇に巻き付かれた姫を見つける
(発見)S3武士:S2若者+S1にえ姫
・武士は大蛇を射る
(攻撃)S3武士:S3武士+S2若者(蛇)
・大蛇は姿を消してしまう
(消失)S2若者(蛇):S2若者(蛇)-O1池
・気がついた姫は池に入水してしまう
(入水)S1にえ姫:S1にえ姫+O1池
・姫の着物の裾が池の真ん中に浮かんでくる
(浮上)O2着物:O2着物+O1池
・それで浮き布の池と呼ぶようになった
(命名)O1池:O1池+O3浮き布の池

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築する。

送り手(若者)→ 姫への求愛(客体) →受け手(にえ姫)
            ↑
補助者  なし   若者(主体) ← 反対者(武士)

 池の主の蛇は若者に扮してにえ姫に接近、求愛するが武士に逢瀬の最中を見られてしまい射られてしまう。にえ姫はそのまま主を追って入水してしまったという内容です。蛇に魅入られた姫は正気を失い主の許へと去ってしまいます。つまり、蛇への本能的な恐怖心を語ったものと解釈できます。また、恋愛の成就は破滅的な結果をもたらします。

 姫の呪縛は解けるのか聴き手は関心をもって耳を傾けるでしょう。結局呪縛は解けることなく姫は入水してしまいます。衣が浮かんできて池の名の由来となったということで一応の納得はするでしょう。

 行為項分析ですが、背景を説明する際に当たっては必ずしも行為者が主体となるとは限らないようです。背景の説明は大抵の場合、冒頭と結末で語られるのですが、これらを土台として登場人物の物語が繰り広げられる訳です。そういう意味では捨象してしまっていいのかなとは思います。

 この伝説における発想の飛躍は「入水―着物―浮かぶ」といった概念の組み合わせによるでしょうか。池の名の由来を説明するものとなります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.21-23.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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