昔話

2024年7月 8日 (月)

行為項分析――蛙壺

◆あらすじ

 昔あるところに大変仲の悪い姑と嫁がいた。ある日、姑はおはぎをこしらえて「おはぎや、嫁がきた時には蛙になって、わしが来た時にはおはぎになってくれ」と言った。嫁はそれを聞いて、お母さんはあんなことを言ってるから、自分が食ってやろうと姑が出るのを待っていた。姑がやがてお寺参りにいった。嫁は戸棚からおはぎを出して皆食べて、おはぎのあった壺へ田からとった蛙を二三匹入れておいた。姑が帰ってきておはぎを食べようと思って壺の蓋をとると蛙がピョンピョン飛び出した。そこで姑が「蛙や。嫁じゃない。婆さんだ」と言っても蛙はやはりピョンピョン飛ぶので、「わしがあんまり嫁をいびったので、おはぎが蛙になったのであろう」と後悔した。それからは心を入れ替えて嫁を可愛がり仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・仲の悪い姑と嫁がいた
・姑はおはぎをこしらえて、嫁が来たときには蛙になれとまじないをかける
・それを聞いた嫁は姑の外出を見計らっておはぎを食べてしまう
・嫁、おはぎを入れてあった壺に蛙を二三匹入れておく
・姑が帰ってきておはぎを食べようとすると壺から蛙が出てきた
・姑、蛙に自分は婆さんだと言うが、蛙のままである
・姑、自分が嫁をいびるからおはぎが蛙になったのだと後悔する
・姑、心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:姑
S2:嫁

O(オブジェクト:対象)
O1:おはぎ
O2:まじない
O3:家
O4:壺
O5:蛙

m(修飾語)
m1:不仲な

+:接
-:離


・仲の悪い姑と嫁がいた
(存在)X:S1姑+S2嫁
(不仲)S1姑:S2嫁+m1不仲な
・姑はおはぎをこしらえて、嫁が来たときには蛙になれとまじないをかける
(調理)S1姑:S1姑+O1おはぎ
(まじない)S1姑:O1おはぎ+O2まじない
・それを聞いた嫁は姑の外出を見計らっておはぎを食べてしまう
(盗み聞き)S2嫁:S1姑+O2まじない
(外出)S1姑:S1姑-O3家
(盗み食い)S2嫁:S2嫁+O1おはぎ
・嫁、おはぎを入れてあった壺に蛙を二三匹入れておく
(仕掛け)S2嫁:O4壺+O5蛙
・姑が帰ってきておはぎを食べようとすると壺から蛙が出てきた
(帰宅)S1姑:S1姑+O3家
(予想外の結果)S1姑:S1姑+O5蛙
・姑、蛙に自分は婆さんだと言うが、蛙のままである
(まじない無効)S1姑:O2まじない-S1姑
・姑、自分が嫁をいびるからおはぎが蛙になったのだと後悔する
(いびり)S1姑:S1姑-S2嫁
(後悔)S1姑:O1おはぎ+O5蛙
・姑、心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした
(改心)S1姑:S1姑+S2嫁

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(おはぎはどうなるか)
           ↓
送り手(姑)→ おはぎにまじない(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)

  聴き手(嫁の行為の結果はどうなるか)
           ↓
送り手(嫁)→ おはぎを一人で食べてしまう(客体)→ 受け手(姑)
           ↑
補助者(なし)→ 嫁(主体)←反対者(姑)

  聴き手(嫁と姑の関係はどうなるか)
           ↓
送り手(姑)→ 和解(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし) → 姑(主体)←反対者(嫁)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。仲の悪い嫁と姑です。姑はあるとき、おはぎを作りますが、嫁が食べられないようまじないをかけます。それを盗み見た嫁はおはぎを一人で食べてしまい、おはぎを蛙とすり替えます。果たしておはぎを食べようとした姑はまじないが自分に返ってきたと誤解し、そのことがきっかけで嫁姑は和解するという筋立てです。

 嫁―姑、おはぎ―蛙、といった対立軸が見受けられます。おはぎ/壺/蛙の図式におはぎを独り占めしようとする姑の意地悪さが暗喩されています。また、おはぎ/蛙の図式には食べられるもの/食べられないものの対比があり、食べられるものを食べられないものに変えてしまうまじないの効力が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

嫁♌♁―姑♂♌(-1)♎♁

 といった風に表記できるでしょうか。嫁と姑、両者が和解することを価値と置くと、嫁と姑とも享受者♁となります。どちらを主体と置くか迷うところですが、ここでは嫁を主体♌、姑を対立者♂と置きました。姑はマイナスの主体♌(-1)とも置けるかもしれません。ここでは姑を対立者♂でありかつ自身のまじないが良くない行いであったと反省しますので審判者♎と判断しました。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「嫁と姑は果たして和解できるのか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「おはぎに嫁が見たら蛙になれとまじないをかける」ところでしょうか。実際には嫁がおはぎと蛙をすり替えてしまうのですが、姑は自分のまじないが予想しない形で実現したと勘違いします。その結果、和解がもたらされますので、姑のまじないは思わぬ形で別の結果をもたらしたとみることも可能でしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.212.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年7月 6日 (土)

行為項分析――化け猫

◆あらすじ

 昔ある所で若者たちが大勢集まって踊っていると、そこへ見たこともない姉さんが来て皆と一緒に踊った。踊りが済んでそれぞれ家へ帰るとき、姉さんに興味を抱いた一人の若者があとから姉さんの跡をついていった。すると、姉さんは近所のお寺へ入り、ニャンと啼いた。若者はそれを聞くと真っ青になって帰った。明くる日若者はお寺へ行って和尚さんにそのことを話した。お寺には和尚さんが可愛がっている古い猫がいた。和尚さんは若者が帰ると猫を呼んで出ていってくれと言った。猫は出ていけというなら出ていく。自分がいると参詣人も少ないだろうから、これまで長いこと可愛がっていただいた恩返しに参詣人が沢山来るようにしてあげると言った。そして何時何日(いついつか)にどこどこの婆さんが死ぬから葬式の時に自分が火車になって死人を棺から出して空へ吊り上げる。よその坊さんが来てお経をあげると死人は上へあがるが、和尚さんが経をあげると死人は下がって棺へ収まるようにすると言った。猫が言ったその日になるとその婆さんは死んだ。そして葬式をしていると結縁の時に空が曇って火車が来て死人を掴んで空に吊り上げた。葬式に来ていた坊さんは一生懸命お経を読んだが、死人は空に吊されたままだんだん上へ上がっていく。それで近所の寺の和尚さんを呼んでお経をあげてもらうと死人はだんだん下りて来て棺へ収まり、無事に葬式が済んだ。それから和尚さんの評判が高くなって参詣人がどんどん来るようになった。そして猫はいつの間にかいなくなった。

◆モチーフ分析

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
・和尚さんの評判が高くなる
・猫はいつの間にか消える

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:若者
S2:姉さん(猫、火車)
S3:和尚

O(オブジェクト:対象)
O1:踊り
O2:猫の鳴き声
O3:寺
O4:恩返し
O5:葬式
O6:読経
O7:死体

m(修飾語)
m1:評判の


+:接
-:離

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
(踊り)S1若者:S1若者+O1踊り
(参入)S2姉さん:S2姉さん+O1踊り
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
(追跡)S1若者:S1若者+S2姉さん
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
(鳴く)S2姉さん:S2姉さん+O2猫の鳴き声
(帰宅)S2姉さん:S2姉さん+O3寺
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
(打ち明ける)S1若者:S1若者+S3和尚
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
(追放)S3和尚:S2猫-O3寺
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
(宣言)S2猫:S3和尚+O4恩返し
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
(出現)S2火車:S2火車+O5葬式
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
(読経)S3和尚:S2火車+O6読経
(奪取失敗)S2火車:S2火車-O7死体
・和尚さんの評判が高くなる
(声望上昇)X:S3和尚+m1評判の
・猫はいつの間にか消える
(退去)S2猫:S2猫-O3寺

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(姉さんはどこの人か)
           ↓
送り手(若者)→ 追跡(客体)→ 受け手(姉さん)
           ↑
補助者(なし)→ 若者(主体)←反対者(なし)

  聴き手(古猫と化した猫を和尚はどう扱うか)
           ↓
送り手(和尚)→ 追放(客体)→ 受け手(猫)
           ↑
補助者(なし)→ 和尚(主体)←反対者(猫)

  聴き手(火車に和尚はどう対応するか)
           ↓
送り手(和尚)→ 死体の奪取の阻止(客体)→ 受け手(火車)
           ↑
補助者(猫) → 火車(主体)←反対者(火車)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。年を経た古猫は化け猫と化すと言われていますが、この寺の猫は姉さんに化けて踊ったところを若者に目撃されてしまいます。若者からそのことを知らされた和尚は猫を寺から追放することに決めますが、猫は今まで飼ってもらった恩返しをしようと言います。果たして、ある婆さんの葬式に火車が現れ死体を奪取しようとしますが、和尚の読経で阻止されます。そのことで和尚の評判は高くなりましたが、それは猫が仕掛けたものだったという筋立てです。

 若者―姉さん、和尚―猫、和尚―火車、他の坊さん―火車、といった対立軸が見受けられます。姉さん/踊りに化け猫となり意識を得た猫の寺の外で遊びたいという気持ちが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

和尚♌♁―猫(姉さん、火車)♂♎―若者☾(♌)―他の坊さん♂☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。猫の計らいで和尚の評判が高まりますので、それを価値☉と置くと、猫は対立者♂であり審判者♎でもあります。若者は猫が化けたことを和尚に知らせますので和尚の援助者☾としていいでしょう。葬式における他の坊さんたちは和尚の引き立て役ですが、これをどう置いたらいいでしょうか。対立者♂とも置けますし、知らず知らずの内に和尚に協力している援助者☾とも見ることができます。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「猫はどのような形で恩返しするのか」ということでしょうか。それに対する発想の飛躍は「猫が火車となって死体を奪取するふりをする」でしょうか。「和尚―死体―火車/猫」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.210-211.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年7月 1日 (月)

行為項分析――狼と牛鬼

◆あらすじ

 狼は人間が牛鬼や狐に危害を加えられようとするときは、その人間の眉毛を一本抜いて目に当ててその人が良い人が悪い人かをみる。その人が悪い人であったら体は人間であっても頭は畜生の類いになって見えるが、良い人であったら頭も人間に見えるということである。狼は悪い人だったら決して助けないが、良い人は助けてくれて、その人の家まで送り届けてくれる。これを送り狼といって、送り狼に送ってもらったときは足を洗ったたらいの水を捨ててたらいを逆さにして伏せ「ご苦労だったのう」と礼をいうと狼は安心して帰る。もしそうしないと狼は立ち去らないでいつまでもそこにいるそうだ。

 昔、川戸の小田の桜屋の爺さんが田野へズク(銑鉄)を負って行っての帰りに日が暮れて七日渕の向こうまで行ったとき、狼が袖をくわえて竹藪の中へ連れ込んだ。狼に喰われるのかとビクビクしていると、狼は爺さんをそこへ座らせて腰を下ろした。すると人臭いと言って牛鬼が出てきた。川向こうの住郷の平からも牛鬼が「よい肴(さかな)があるではないか」と言った。こっちの牛鬼は「肴はあっても守りがついていてつまらんから、これから波子(はし)の浜へ出よう」と言った。両方の牛鬼は江川を挟んで話し合っていたが、そのまま行ってしまった。しばらくして狼は爺さんの袖をくわえて道へ連れ出した。「ようこそ助けてくれたのう」と礼を言うと、狼はなおも袖をくわえて小田の家まで送ってきた。爺さんは足を洗ってその水を移して「ご苦労だったのう」と言ってたらいを伏せると、狼は安心したように山へ帰っていった。

◆モチーフ分析

・狼は人間が牛鬼や狐に襲われたときには、その人間の眉毛を一本抜いて良い人か悪い人かみる
・悪い人だったら頭が畜生の類いに見える
・良い人だったら頭も人間に見える
・狼は悪い人だったら決して助けない
・狼は良い人だったら助けてその人の家まで送り届けてくれる
・送り狼に送ってもらったときは、足を洗ったたらいの水を捨てて、たらいを逆さにして伏せて、ご苦労だったと礼を言うと狼は安心して帰る
・そうしないと狼は立ち去らないで、いつまでもそこにいる
・川戸の爺さんが銑鉄を背負って行っての帰り道で狼に遭遇した
・狼は爺さんの袖をくわえて竹藪の中へ入った
・中に入ると狼は腰をおろした
・すると牛鬼の声が聞こえてきた
・人がいるが狼がいるから獲られないと牛鬼たち会話する
・牛鬼たち去って行く
・狼、爺さんの袖をくわえて道に出る
・爺さんの家まで送り狼する
・爺さん、狼に礼を言ってたらいを伏せる
・安心した狼、去っていく

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:狼
S2:牛鬼
S3:人間
S4:悪人
S5:善人
S6:爺さん

O(オブジェクト:対象)
O1:眉毛
O2:畜生
O3:自宅
O4:たらい
O5:銑鉄
O6:竹藪
O7:会話
O8:道

m(修飾語)
m1:腰を下ろした
m2:安心した

+:接
-:離

・狼は人間が牛鬼や狐に襲われたときには、その人間の眉毛を一本抜いて良い人か悪い人かみる
(条件)S1狼:S2牛鬼+S3人間
(判別)S1狼:S3人間-O1眉毛
・悪い人だったら頭が畜生の類いに見える
(見分け)S1狼:S4悪人+O2畜生
・良い人だったら頭も人間に見える
(見分け)S1狼:S5善人+S3人間
・狼は悪い人だったら決して助けない
(救助せず)S1狼:S1狼-S4悪人
・狼は良い人だったら助けてその人の家まで送り届けてくれる
(救助)S1狼:S1狼+S5善人
(送迎)S1狼:S5善人+O3自宅
・送り狼に送ってもらったときは、足を洗ったたらいの水を捨てて、たらいを逆さにして伏せて、ご苦労だったと礼を言うと狼は安心して帰る
(慣習)S3人間:S3人間+O4たらい
(慣習)S1狼:S3人間-S1狼
・そうしないと狼は立ち去らないで、いつまでもそこにいる
(去らず)S1狼:S1狼+O3自宅
・川戸の爺さんが銑鉄を背負って行っての帰り道で狼に遭遇した
(仕事)S6爺さん:S6爺さん+O5銑鉄
(遭遇)S6爺さん:S6爺さん+S1狼
・狼は爺さんの袖をくわえて竹藪の中へ入った
(誘導)S1狼:S6爺さん+O6竹藪
・中に入ると狼は腰をおろした
(着座)S1狼:S1狼+m1腰を下ろした
・すると牛鬼の声が聞こえてきた
(聴聞)S6爺さん:S6爺さん+O7会話
・人がいるが狼がいるから獲られないと牛鬼たち会話する
(会話)S2牛鬼:S2牛鬼-S1狼
・牛鬼たち去って行く
(退却)S2牛鬼:S2牛鬼-S6爺さん
・狼、爺さんの袖をくわえて道に出る
(誘導)S1狼:S6爺さん+O8道
・爺さんの家まで送り狼する
(送迎)S1狼:S6爺さん+O3自宅
・爺さん、狼に礼を言ってたらいを伏せる
(感謝)S6爺さん:S1狼+O4たらい
・安心した狼、去っていく
(安心)S1狼:S1狼+m2安心した
(退却)S1狼:S1狼-S6爺さん

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(狼はどんな人間を助けるか)
           ↓
送り手(狼)→ 助ける(客体)→ 受け手(人間)
           ↑
補助者(眉毛)→ 狼(主体)←反対者(牛鬼、狐)

  聴き手(狼と遭遇した爺さんはどうなるか)
           ↓
送り手(狼)→ 正体を知る(客体)→ 受け手(爺さん)
           ↑
補助者(なし)→ 狼(主体)←反対者(牛鬼)

  聴き手(爺さんはどう狼に返礼するか)
           ↓
送り手(爺さん)→ 足を洗ってたらいを伏せる(客体)→ 受け手(狼)
           ↑
補助者(なし) → 爺さん(主体)←反対者(なし)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。善人しか助けないと言われる狼ですが、ある日川戸の爺さんは狼と遭遇してしまいます。狼が袖を引っ張るのでなすがままに竹藪の中に入ると、牛鬼の会話が聞こえてきて、爺さんは牛鬼に狙われていたところを狼に救われたことが分かります。爺さんは送り狼に礼をして安心した狼は去るという筋立てです。

 狼―人間、狼―牛鬼、狼―狐、狼―爺さん、といった対立軸が見受けられます。足を洗う/たらいを伏せるに送り狼の一連の様式が暗喩されているとみることができるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

爺さん♌♁―牛鬼♂―狼♎☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。ここでは川戸の爺さんの命を価値☉と置くことができるでしょうか。それを狙う牛鬼たちが対立者♂となり、阻止する狼が援助者☾となります。審判者♎はお話の前段から狼と置くことができるでしょうか。狼は爺さんを善人と判断して命を救っている訳です。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「狼と遭遇した川戸の爺さんはどうなるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「爺さんを襲うかに見えた狼が実は牛鬼から守っていた」というところでしょうか。「狼―牛鬼―爺さん」の図式です。狼は眉毛は抜きませんが爺さんを善人と判断する訳です。送り狼に対する返礼の様式も発想の飛躍といえるでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.208-209.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月26日 (水)

行為項分析――一本草

◆あらすじ

 夫婦の狐がいた。ところが雄狐が猟師にとられてしまった。これを悲しんだ雌狐は何とかして夫の仇をとろうと思って、女に化けて猟師のところへ訪ねていった。そして妻にして欲しいと頼んだ。猟師は独り者だったから妻にした。そのうちに子供ができた。子供はすくすくと大きくなった。ある日いつものように男は猟に出た。そして夕方になって帰って家へあがると何か大きな尻尾のようなものを踏んだ。すると女房がキャッといって急いで尻尾を隠した。男はびっくりしてお前は獣だろうと言った。女房は自分は男に殺された狐の妻である。何とかして夫の仇を討ちたいと思って人間に化けて男の妻にしてもらった。そして隙を狙って殺そうと思ううちに可愛い子供が生まれて、それもできず今日までこうして暮らしていた。しかしこうなってが仕方がない。男を騙したことはお詫びする。子供はどうか立派に育てて欲しい。きっと恩返しすると言ってコンコンと啼いて逃げていった。そのうち田植え時期になった。妻がいなくなった男は小さい子供を連れて一人で田植えをしなければならない。代(しろ)をかいて苗を配って昼飯を食べて来て見ると、田にはいつの間にかきれいに苗が植えてあった。次の日もその次の日も同じことが続いた。不思議に思って誰が植えてくれるのか見ようと思って、山へ登って弁当を食べながら見ていると狐がたくさん出てきて箒柴をかついでまたたく間に植えてしまった。女房になった狐が仲間をつれて来て植えてくれるのかと男は喜んだ。秋になると余所の稲は皆穂が出たがこの男の稲には穂が出ない。そこで地頭がお前の田は穂が出ないから年貢はいらぬと言った。男はその稲を刈ってこいでみると穂がないのに籾(もみ)がどんどん出て大変な収穫であった。それが一本草という稲で、一本草の稲の穂は袴(はかま)より上には出ないのだそうだ。

◆モチーフ分析

・夫婦の狐がいたが、雄の狐が猟師にとられてしまった
・雌の狐、仇をとるため女に化けて猟師の嫁になる
・子供ができ、すくすくと成長した
・男が猟から戻ると大きな尻尾を踏んだ
・男、女房にお前は獣だろうと言う
・女房は訳を話して騙したことを詫びる
・狐、逃げていく
・男、独りで田植えをしなければならなくなる
・代をかいて苗を配って昼飯を食べるといつの間にか苗が植えてある
・山へ登ってみると、狐が苗を植えていた
・秋になったが男の稲には穂がでなかった
・地頭が年貢を免除する
・男、稲をこぐと籾がどんどん出て大収穫だった
・それが一本草である

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:雌の狐
S2:雄の狐
S3:猟師
S4:狐
S5:地頭

O(オブジェクト:対象)
O1:子供
O2:尻尾
O3:経緯
O4:田植え
O5:代掻き
O6:山
O7:稲
O8:年貢
O9:一本草

m(修飾語)
m1:狩った
m2:化けた
m3:健やかな
m4:人外の
m5:詫びた
m6:完了した
m7:穂が出ない
m8:籾が沢山

+:接
-:離

・夫婦の狐がいたが、雄の狐が猟師にとられてしまった
(存在)X:S1雌の狐+S2雄の狐
(狩り)S3猟師:S2雄の狐+m1狩った
・雌の狐、仇をとるため女に化けて猟師の嫁になる
(変身)S1雌の狐:S1雌の狐+m2化けた
(結婚)S1雌の狐:S1雌の狐+S3猟師
・子供ができ、すくすくと成長した
(出産)S1雌の狐:S1雌の狐+O1子供
(成長)S1雌の狐:O1子供+m3健やかな
・男が猟から戻ると大きな尻尾を踏んだ
(発覚)S3猟師:S3猟師+O2猟師
・男、女房にお前は獣だろうと言う
(指摘)S3猟師:S1雌の狐+m4人外の
・女房は訳を話して騙したことを詫びる
(説明)S1雌の狐:S3猟師+O3経緯
(謝罪)S1雌の狐:S1雌の狐+m5詫びた
・狐、逃げていく
(逃走)S1雌の狐:S3猟師-S1雌の狐
・男、独りで田植えをしなければならなくなる
(孤独)S3猟師:S3猟師+O4田植え
・代をかいて苗を配って昼飯を食べるといつの間にか苗が植えてある
(代搔き)S3猟師:S3猟師+O5代掻き
(田植え完了)X:O4田植え+m6完了した
・山へ登ってみると、狐が苗を植えていた
(登山)S3猟師:S3猟師+O6山
(田植え)S3猟師:S4狐+O4田植え
・秋になったが男の稲には穂がでなかった
(実らず)S3猟師:O7稲+m7穂が出ない
・地頭が年貢を免除する
(免税)S5地頭:S3猟師-O8年貢
・男、稲をこぐと籾がどんどん出て大収穫だった
(大収穫)S3猟師:O7稲+m8籾が沢山
・それが一本草である
(命名)X:O7稲+O9一本草

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(雌の狐は仇を討てるか)
           ↓
送り手(雌の狐)→ 嫁になる(客体)→ 受け手(猟師)
           ↑
補助者(なし)→ 雌の狐(主体)←反対者(猟師)

  聴き手(正体を知られた雌の狐はどうするか)
           ↓
送り手(猟師)→ 正体を知る(客体)→ 受け手(雌の狐)
           ↑
補助者(なし)→ 雌の狐(主体)←反対者(なし)

  聴き手(離縁された猟師はどうなるか)
           ↓
送り手(狐)→ 田植えを手伝う(客体)→ 受け手(猟師)
           ↑
補助者(狐)→ 猟師(主体)←反対者(なし)

  聴き手(収穫を終えた稲はどうなるか)
           ↓
送り手(地頭)→ 免税(客体)→ 受け手(猟師)
           ↑
補助者(狐)→ 猟師(主体)←反対者(なし)


といった四つの行為項モデルが作成できるでしょうか。猟師に撃たれた雄の狐の仇をとるため女に化けて猟師の嫁になった雌の狐ですが、子供が生まれて決心が鈍ってしまいます。その内に正体が知られて猟師の許を去ることになります。ですが、子供という絆ができていますので、狐たちの一族は本来は仇であるはずの猟師を援助することとなるという筋立てです。

 猟師―雄の狐、猟師―雌の狐、猟師―嫁、猟師―狐、猟師―地頭、といった対立軸が見受けられます。一本草/豊作の図式に背が低く荒天に強い稲という暗喩が見て取れるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

猟師♌♁―子供☉―雌の狐♂/♂(-1)―雄の狐☉―狐♎☾(♌)―地頭♎

 といった風に表記できるでしょうか。ここでは猟師と雌狐の間に生まれた子供を価値☉と置きました。雄の狐も狩られる対象ですので価値☉と置けるでしょうか。雌の狐は当初猟師の命を狙いますので対立者♂と置きました。子供が生まれることで心境が変化しますのでマイナスの対立者♂(-1)とも置けるかもしれません。仲間の狐たちは猟師を自分たちの親族と認めて援助しますので審判者♎かつ援助者☾としました。地頭は猟師に収穫はないと判断して免税しますのでこれも審判者♎としました。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 このお話の焦点は「子供が生まれた猟師と雌の狐との関係はどうなるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「仇をとるため猟師の嫁になるも、子供が生まれて情が移ってしまう」でしょうか。「雌の狐/嫁―子供―猟師」の図式です。狐の植えた一本草も発想の飛躍でしょうか。一見不作に見えるものの豊作をもたらします。「一本草―不作/免税―豊作」の図式です。

 このお話は異類婚姻譚の一種ですが、見るなの禁止を破ることで結婚生活が破綻する訳ではありません。ですが、やはり正体を悟られることで雌狐は異界に帰還してしまうのです。ただ、絆となる子供の存在があって交流は続くという筋立てとなっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.206-207.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月24日 (月)

行為項分析――きまった運

◆あらすじ

 浜田の方ではずっと奥の山手の地方を奥方と言う。昔、奥方の者は西へ出て浜田まで戻ってくると日が暮れた。そこで三宮(さんくう)さんの宮で宿を借りて寝ていると、夜が更けてから外を馬に乗ってくる人があった。三宮さんの前まで来ると行ってきましょうじゃないかと声をかけた。三宮さんはどこへ行きなさると言った。奥方の何兵衛のもとにお産があると答えた。三宮さんは今晩はお客があるから行くことができない。あんた頼むと言った。すると馬に乗った人は奥方の方へ行った。それは人が産まれるときには必ず立ち会う杓子の神さまだった。しばらくすると、また馬の足音がして、外から同じように声をかけた。それは産(うぶ)の神さまだった。しばらくするとまた馬の足音がして運勢の神さまが声をかけた。しかし三宮さんは今晩はお客があるから行けないからよろしく頼むというので奥方の方へ行った、明け方になって奥方へ行った神さまたちが戻ってきて今戻ったと三宮さんに挨拶をした。お産はどのようだったと訊くと、お産は主の方にも家来の方にも何れも安産で、主の方は息子、家来の方は娘と外から言った。運勢はと訊くと、主の方は運勢がない。家来の方は西東の蔵の主と答えた。それを聞いていた男は自分の女房が子を産んだのに違いないと思って、急いで家へ帰ってみると、自分のところに男が、下作のところに女の子が生まれていた。男はこれは二人を夫婦にさせるより他はないと思って、どちらも同じ晩に安産であったのはめでたい。三日の名つけもこっちでしてやる。十五になったら嫁にとろうと言って何から何まで世話をした。下作の方でも親方の言うことではあるし、いいことなので何でも親方の言う通りにした。そして十五になると二人は夫婦になったが、親が死ぬとだんだん身上が悪くなり、とうとう何もなくなってしまった。そこで夫婦別れをして女は旅に出た。一軒の家で泊めてやるというので泊めてもらった。ご飯の仕度をしようとすると、亭主が米びつの中に米はあるからそれを三升炊いてくれと言った。女が米びつをみると四斗くらい入る米びつに白米がいっぱい入れてあった。それを食べると亭主はうたた寝してしまった。それから寝る時になると亭主が奥の戸棚に布団があるから自分に一枚かけてくれ。お前も一枚かけて寝なさいと言った。女が戸棚をあけてみると大層な布団があった。それで一枚を亭主にかけ一枚を自分が着て寝た。明くる朝亭主は米を二升ほど炊いてくれというので、それを炊いて食べると女は暇乞いをして出たが、途中で後戻りした。そして、昨晩泊まった家の亭主と夫婦になれば長者になるという夢を見たから夫婦になってくれと言った。すると亭主も自分もそんな夢をみたが、自分から言い出すのもおかしいから黙っていた。ここにおれと言うので二人は夫婦になった。そうして暮らしている内にめきめき身上が良くなって間もなく長者になり西東に蔵を建てた。はじめの男は夫婦別れをしてからも暮らしはだんだん悪くなって、箕(みの)売りになって長者の家へ来た。女中が箕などは余るほどあるからいらぬと言った。先の亭主の声なので女房が出ていって、裾の長者の家に箕の五枚や十枚はないと不自由だから買ってやりなさいと言って箕を五枚買わせた。また四五日経つと先の亭主が箕を売りにきた。女中が断ると、女房が出て長者の館には箕の五枚や十枚は新しいのがなければいけないと言って今度は十枚買ってやった。男はそれを買ってもらって喜んで門の外まで出ると倒れて死んでしまった。女房は旦那に頼んで丁寧に葬式をしてやったが、家はますます栄えた。

◆モチーフ分析

・奥方の者が浜田の三宮神社に泊まったところ、杓子の神、産の神、運勢の神がやってくる
・三宮の神は来客があるから行かれないと答える
・奥方に行って戻ってきた神々、主人に男、家来に女が生まれたと言う
・男は衰運、女は盛運と奥方の者は聞く
・奥方の者、自分のところに違いないと思う
・奥方の者、帰って自分の息子と下作の娘の縁組みをする
・十五になって息子と娘、結婚する
・ところが親が死ぬと衰運になる
・夫婦別れして女は旅に出る
・女、一夜の宿を求める
・女、亭主にここの亭主と結婚すると盛運となるという夢を見たと打ち明ける
・亭主も同じ夢をみたといい、二人は夫婦になる
・二人は盛運で蔵が建つ
・そこに前の夫が箕を売りに来る
・女、理由をつけて箕を五枚買ってやる
・次に女、理由をつけて箕を十枚買ってやる
・男、屋敷を出ると急死してしまう
・女、男を丁寧に弔う
・家はその後も繁盛した

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:奥方の者
S2:神々
S3:三宮の神
S4:家来
S5:息子
S6:娘
S7:亭主

O(オブジェクト:対象)
O1:三宮神社
O2:お産
O3:奥方
O4:男児
O5:女児
O6:一夜の宿
O7:夢
O8:箕

m(修飾語)
m1:衰運
m2:盛運
m3:死んだ

+:接
-:離

・奥方の者が浜田の三宮神社に泊まったところ、杓子の神、産の神、運勢の神がやってくる
(宿泊)S1奥方の者:S1奥方の者+O1三宮神社
(来訪)S2神々:S2神々+O1三宮神社
・三宮の神は来客があるから行かれないと答える
(回答)S3三宮の神:S3三宮の神-O2お産
・奥方に行って戻ってきた神々、主人に男、家来に女が生まれたと言う
(帰還)S2神々:S2神々-O3奥方
(報告)S2神々:S2神々+S3三宮の神
(誕生)S2神々:S1奥方の者(主人)+O4男児
(誕生)S2神々:S4家来+O5女児
・男は衰運、女は盛運と奥方の者は聞く
(聴聞)S1奥方の者:O4男児+m1衰運
(聴聞)S1奥方の者:O5女児+m2盛運
・奥方の者、自分のところに違いないと思う
(自覚)S1奥方の者:S1奥方の者+m1衰運
・奥方の者、帰って自分の息子と下作の娘の縁組みをする
(縁組)S1奥方の者:O4男児+O5女児
・十五になって息子と娘、結婚する
(結婚)S1奥方の者:S5息子+S6娘
・ところが親が死ぬと衰運になる
(死去)X:S1奥方の者+m3死んだ
(衰亡)S5息子:S5息子+m1衰運
・夫婦別れして女は旅に出る
(離縁)S5息子:S5息子-S6娘
(出立)S6娘:S6娘-X
・女、一夜の宿を求める
(依頼)S6娘:S6娘+O6一夜の宿
・女、亭主にここの亭主と結婚すると盛運となるという夢を見たと打ち明ける
(告白)S6娘:S7亭主+O7夢
・亭主も同じ夢をみたといい、二人は夫婦になる
(告白)S7亭主:S6娘+O7夢
(結婚)S7亭主:S7亭主+S6娘
・二人は盛運で蔵が建つ
(盛運)S7亭主+S6娘:S7亭主+S6娘+m2盛運
・そこに前の夫が箕を売りに来る
(来訪)S5息子:S6娘+O8箕
・女、理由をつけて箕を五枚買ってやる
(購入)S6娘:S6娘+O8箕
・次に女、理由をつけて箕を十枚買ってやる
(購入)S6娘:S6娘+O8箕
・男、屋敷を出ると急死してしまう
(急死)S5息子:S5息子+m3死んだ
・女、男を丁寧に弔う
(弔問)S6娘:S6娘+S5息子
・家はその後も繁盛した
(繁栄)S6娘+S7亭主:S6娘+S7亭主+m2盛運

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(奥方の者が聴く話はなにか)
           ↓
送り手(神々)→ 予言(客体)→ 受け手(奥方の者)
           ↑
補助者(三宮の神)→ 奥方の者(主体)←反対者(なし)

  聴き手(奥方の者は息子の衰運を避けられるか)
           ↓
送り手(奥方の者)→ 縁組(客体)→ 受け手(家来)
           ↑
補助者(神々)→ 奥方の者(主体)←反対者(なし)

  聴き手(離縁された娘はどうなるか)
           ↓
送り手(息子)→ 離縁(客体)→ 受け手(娘)
           ↑
補助者(なし)→ 息子(主体)←反対者(なし)

  聴き手(娘と亭主の関係はどうなるか)
           ↓
送り手(娘)→ 盛運の夢(客体)→ 受け手(亭主)
           ↑
補助者(亭主)→ 娘(主体)←反対者(なし)

  聴き手(落ちぶれた元夫に娘はどう振る舞うか)
           ↓
送り手(娘)→ 箕を買う(客体)→ 受け手(息子)
           ↑
補助者(亭主)→ 娘(主体)←反対者(なし)

  聴き手(死んだ元夫に対してどう振る舞うか)
           ↓
送り手(娘)→ 弔い(客体)→ 受け手(息子)
           ↑
補助者(亭主)→ 娘(主体)←反対者(なし)


といった七つの行為項モデルが作成できるでしょうか。神社に泊まって夢に神々の声を聞いた奥方の者は息子が衰運だと知り、その運命を回避するため下作の盛運の娘を嫁に迎えます。しかし、奥方の者が亡くなると果たして息子は衰運となり娘と離縁してしまいます。旅に出た娘は一夜の宿を求めた先で盛運の夢を見て、そこの亭主と結婚します。果たして盛運となった娘ですが、あるとき落ちぶれた衰運の息子が箕を売りにやって来ます。娘は理由をつけて箕を買ってやる優しさを示します。結局、衰運の息子はそこで死んでしまいます。盛運の娘は衰運の息子を弔ったという筋立てです。

 奥方の者―三宮の神、奥方の者―杓子の神さま、奥方の者―産の神さま、奥方の者―運勢の神さま、衰運の息子―盛運の娘、盛運の娘―亭主、といった対立軸が見受けられます。衰運/盛運の図式ですが、息子の衰運の方が強いようです。娘の盛運は息子と離縁してから発揮されます。悪縁から解放されることで運命が開けることが暗喩されているでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

1. 奥方の者♌♁―神々♎―三宮の神☾(♌)―家来☉
2. 娘♌☉♁―亭主♁―息子☉(-1)―女中☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。奥方の者にとって息子の衰運を回避することが価値☉となります。そのため神々の予言に従って家来の盛運の娘と結婚させます。奥方の者が泊まった三宮神社の神は奥方の者に神々の声を聞かせますので援助者☾と置けるでしょうか。対してお産に立ち会った神々はこれから先の運命を予言する審判者♎と置けます。対立者♂は存在しません。息子の衰運こそが回避すべき対立軸となる訳です。

 そして成長した衰運の息子と盛運の娘は結婚しますが、親が死ぬと次第に衰退し離縁してしまいます。娘は旅に出て亭主と出会います。ここでは盛運をもたらす娘こそが価値☉となります。亭主はその享受者♁となります。娘自身も享受者♁となります。女中は単なる援助者☾です。衰運となった息子をどうとるかですが、対立者♂と置くよりもマイナスの価値☉(-1)とした方が適切かもしれません。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 このお話の焦点は「いかに予言された衰運を回避して盛運を手に入れるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「神社に泊まったところ、偶然お産に立ち会った神々の声を聴く」ことでしょうか。「奥方の者―声―神々」という図式です。

 運定めの話では息子と娘が結婚するものの離縁してしまうパターンが多いようです。盛運より衰運の方が強い傾向にあると言えるでしょうか。予言された運命を回避するために前もって行動するものの、結局運命からは逃れられない。別の人生を歩みはじめたところ、盛運のきっかけを掴むという内容となっています。

 三宮神社は島根県浜田市に実在する神社です。毎週土曜の夜神楽定期公演で知られています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.202-205.
・前田久子「運定めの昔話『男女の福分』―『立ち聞き』モチーフをめぐって―」『鼓:伝承児童文学・近代以前日本児童文学研究と資料』(1)(2005)pp.101-138
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月23日 (日)

行為項分析――ひとつおぼえ

◆あらすじ

 昔あるところにお母さんと馬鹿な息子がいた。魚売りが来たのでお母さんが魚を買ってあぶって息子に猫の番をしていろと言って出かけていった。すると、猫が来たので見ていると、猫は魚をくわえて逃げた。お母さんが帰ってみると魚が無いので訊くと、息子は魚は猫がくわえて逃げたと言った。お母さんはそんな時には追うものだと言って聞かせた。それから芋虫を見に行けと言われたので息子は畑へ行って芋虫としい、しいと追ったが逃げないので帰ってきてお母さんに話した。お母さんはそんな時には叩いて落とすものだと言って聞かせた。ある日息子がお宮へ参ってみると爺さんの頭に蠅(はえ)がとまっていたので叩き落とした。すると爺さんは怒って叩き返した。息子は泣いて帰ってお母さんに話した。お母さんはそんな時には団扇(うちわ)であおぐものだと言って聞かせた。息子はある日町へ出てみると火事があったので団扇で扇いだ。すると火はだんだん激しく燃えだしたので町の人に叱られた。泣く泣く家へ帰ってお母さんに話すと、そんなときには水をかけるものだと言って聞かせた。息子はまたある日町へ出てみると鍛冶屋がふいごで火をおこしていたので水をかけた。鍛冶屋は腹をたててゲンコツを喰らわせた。息子は帰ってそのことを話すとお母さんはそんな時にはてご(手伝い)をしてあげるものだと言って聞かせた。次の日息子が町へ出てみると、おっちゃんたちが二人で喧嘩しているので、息子は片方のおっちゃんを殴った。するとおっちゃんが腹をたててゲンコツを喰らわしたので、また泣いて帰って話すと、お母さんはそんな時には仲裁するものだと言って聞かせた。またある日息子が町へ出ると犬が喧嘩しているので中へ入って仲裁すると犬は食らいついてきたので息子はわんわん泣きながら帰った。馬鹿は幾ら言って聞かせても仕方がない。

◆モチーフ分析

・母と馬鹿な息子がいた
・母が魚がとられないように猫の番をしろと言い付ける
・息子、猫が魚をとるのを見ているのみ
・母、そういうときは追うものだと言い聞かせる
・母、畑で芋虫を見てこいと息子にいう
・息子、芋虫をしっしと追うが逃げない
・母、そういうときは叩き落とすものだと言い聞かせる
・息子、爺さんの頭にとまっていた蠅を叩き落とす
・爺さん、怒って叩き返す
・母、そういうときは団扇であおぐものだと言い聞かせる
・息子、町で火事に遭遇、団扇であおぐ
・火の勢いが強くなったので町の人に怒られる
・母、そういうときには水をかけるものだと言い聞かせる
・息子、鍛冶屋がふいごで火を起こしているところに水をかける
・母、そういうときには手伝いをするものだと言い聞かせる
・息子が町にでると大人が喧嘩していたので、片方に加勢する
・母、そういうときには仲裁するものだと言い聞かせる
・息子、犬が喧嘩していたので割って入って仲裁する
・犬が食らいついてくる
・馬鹿は幾ら言い聞かせても仕方がない

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:母
S2:息子
S3:爺さん
S4:町の人
S5:鍛冶屋
S6:大人
S7:馬鹿

O(オブジェクト:対象)
O1:魚
O2:猫
O3:畑
O4:野菜
O5:芋虫
O6:蠅
O7:鉄拳制裁
O8:団扇
O9:火事
O10:水
O11:火
O12:手伝い
O13:喧嘩
O14:仲裁
O15:犬
O16:教示

m(修飾語)
m1:馬鹿な
m2:怒った
m3:勢いが増した

+:接
-:離

・母と馬鹿な息子がいた
(存在)X:S1母+S2息子
(状態)X:S2息子+m1馬鹿な
・母が魚がとられないように猫の番をしろと言い付ける
(命令)S1母:S1母+S2息子
(監視)S2息子:O1魚-O2猫
・息子、猫が魚をとるのを見ているのみ
(黙認)S2息子:O2猫+O1魚
・母、そういうときは追うものだと言い聞かせる
(教示)S1母:S2息子-O2猫
・母、畑で芋虫を見てこいと息子にいう
(命令)S1母:S1母+S2息子
(監視)S2息子:O4野菜-O5芋虫
・息子、芋虫をしっしと追うが逃げない
(不発)S2息子:O4野菜+O5芋虫
・母、そういうときは叩き落とすものだと言い聞かせる
(教示)S1母:S2息子-O5芋虫
・息子、爺さんの頭にとまっていた蠅を叩き落とす
(殴打)S2息子:S3爺さん-O6蠅
・爺さん、怒って叩き返す
(激怒)S3爺さん:S3爺さん+m2怒った
(反撃)S3爺さん:S2息子+O7鉄拳制裁
・母、そういうときは団扇であおぐものだと言い聞かせる
(教示)S1母:S2息子+O8内輪
・息子、町で火事に遭遇、団扇であおぐ
(遭遇)S2息子:S2息子+O9火事
(扇ぐ)S2息子:O9火事+O8団扇
・火の勢いが強くなったので町の人に怒られる
(強化)S2息子:O9火事+m3勢いが増した
(叱責)S4町の人:S4町の人+S2息子
・母、そういうときには水をかけるものだと言い聞かせる
(教示)S1母:S2息子+O10水
・息子、鍛冶屋がふいごで火を起こしているところに水をかける
(遭遇)S2息子:S5鍛冶屋+O11火
(消火)S2息子:O11火+O10水
(制裁)S5鍛冶屋:O7鉄拳制裁+S2息子
・母、そういうときには手伝いをするものだと言い聞かせる
(教示)S1母:S2息子+O12手伝い
・息子が町にでると大人が喧嘩していたので、片方に加勢する
(遭遇)S2息子:S2息子+O13喧嘩
(加勢)S2息子:S2息子+S6大人
(反撃)S6大人:O7鉄拳制裁+S2息子
・母、そういうときには仲裁するものだと言い聞かせる
(教示)S1母:S2息子+O14仲裁
・息子、犬が喧嘩していたので割って入って仲裁する
(遭遇)S2息子:O15犬+O15犬
(仲裁)S2息子:O15犬-O15犬
・犬が食らいついてくる
(反撃)O15犬:O15犬+S2息子
・馬鹿は幾ら言い聞かせても仕方がない
(教訓)X:S7馬鹿-O16教示

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(息子は魚の番ができるか)
           ↓
送り手(息子)→ 魚(客体)→ 受け手(猫)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(猫)

  聴き手(息子は畑の番ができるか)
           ↓
送り手(息子)→ 畑の番(客体)→ 受け手(芋虫)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(芋虫)

  聴き手(息子は蠅を追い払えるか)
           ↓
送り手(息子)→ 蠅(客体)→ 受け手(爺さん)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(爺さん)

  聴き手(息子は火事を食い止められるか)
           ↓
送り手(息子)→ 火事(客体)→ 受け手(町の人)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(町の人)

  聴き手(息子は鍛冶屋でどう振る舞うか)
           ↓
送り手(息子)→ 水(客体)→ 受け手(鍛冶屋)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(鍛冶屋)

  聴き手(息子は喧嘩の仲裁ができるか)
           ↓
送り手(息子)→ 手伝い(客体)→ 受け手(大人)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(大人)

  聴き手(息子は犬の喧嘩を止められるか)
           ↓
送り手(息子)→ 仲裁(客体)→ 受け手(犬)
           ↑
補助者(母)→ 息子(主体)←反対者(犬)


といった七つの行為項モデルが作成できるでしょうか。ぼんやりした息子は買ってきた魚を猫に奪われるままとなってしまいます。そこで母が助言しますが、今度は何を言いつけてもその助言通りに行動してしまい、状況に応じた適切な行動がとれずに失敗を繰り返します。そこがおかしみとなっています。毎回泣いて帰る姿が見方によっては可愛い馬鹿息子です。

 息子―母、息子―猫、息子―芋虫、息子―爺さん、息子―町の人、息子―鍛冶屋、息子―大人、息子―犬、といった対立軸が見受けられます。馬鹿/助言の図式に、何を言っても母の意図とずれた行動を起こしてしまう息子の愚かさが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

1. 息子♌―猫♂―母♎☾(♌)
2. 息子♌―芋虫♂―母♎☾(♌)
3. 息子♌―蠅♂―爺さん♎♁―母☾(♌)
4. 息子♌―町の人♎♁―母☾(♌)
5. 息子♌―鍛冶屋♎♁―母☾(♌)
6. 息子♌―大人♎♁―母☾(♌)
7. 息子♌―犬♁

 といった風に表記できるでしょうか。まずは魚を奪われないことが価値☉となります。ここでは猫が対立者♂となります。母は常に息子の援助者☾となります。また、息子の行為の是非を判断する審判者♎ともなります。次に畑の野菜が芋虫に食われないようにすることが価値☉となります。芋虫は対立者♂となります。母親は審判者♎ともなります。次は爺さんの頭にとまった蠅を追い払うことが価値☉となります。蠅が対立者♂となり、爺さんは享受者♁かつ審判者♎となります。次は町の火事を消し止めることが価値☉となります。町の人たちが享受者♁かつ審判者♎となります。その次は鍛冶屋の仕事を邪魔しないことが価値☉となります。鍛冶屋は享受者♁かつ審判者♎となります。次に大人同士の喧嘩を仲裁することが価値☉となります。大人たちは享受者♁かつ審判者♎となります。最後に犬の喧嘩を止めることが価値☉となります。犬は享受者♁となります。犬は審判者♎たり得るか難しいところです。ここでは外しました。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 このお話の焦点は「馬鹿息子は状況に応じた適切な行動がとれるのか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「馬鹿息子は母の助言を全く異なる状況下でその言葉の額面通りに実行してしまう」ことでしょうか。「母―助言/曲解―息子」の図式です。

 結局、息子の間抜けさは解消されないままに話は終わります。毎回泣いて帰る姿は可愛らしくもあります。何度失敗しても諦めないお母さん像も魅力です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.199-201.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月22日 (土)

行為項分析――馬ほめと仏壇ほめ

◆あらすじ

 昔、馬鹿な聟がいた。嫁の里に泊まりに行くことになったので、家を出るときに嫁が「行ったらお爺さんは馬を買ったから見てくれと言うから、その時には、どっこもさすってみて、これは良い馬だ。どっこも不足はないが、ちとぎり(つむじ)が高いから噛みつかねばよいが」と言いなさいと教えた。聟は嫁の里に行くと嫁が教えた通りにお爺さんが「馬を買ったから見てくれ」と言った。聟はあちこちさすって「これは良い馬だ。どっこも不足がないが、ちとぎりが高いから、噛みつかねばいいが」と言った。お爺さんはそれを聞いて、この聟は馬鹿だと聞いていたが、まんざら馬鹿でもないと喜んで、今度は家の中へ入って「聟どの、良い仏壇を買ったから見てくれ」と言った。そこで聟は仏壇の前へ行って、あちこち撫でていたが「これは良い仏壇だ。どこも不足はないが、ちとぎりが高いから噛みつかねばいいが」と答えた。

◆モチーフ分析

・馬鹿な聟が嫁の里に泊まりにいくことになった
・嫁が聟に爺さんが馬を買ったから尋ねられたかかくかくしかじかとこたえろと教える
・嫁の里に行った聟、爺さんに馬を見て欲しいと言われる
・聟、嫁に教わった通りに答える
・爺さん、聟をまんざら馬鹿でもないと喜ぶ
・爺さん、今度は仏壇を見せる
・聟、馬にするのと同じように答える

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:聟
S2:嫁
S3:爺さん

O(オブジェクト:対象)
O1:嫁の里
O2:入れ知恵
O3:馬
O4:仏壇

m(修飾語)
m1:馬鹿な
m2:馬鹿でない

+:接
-:離

・馬鹿な聟が嫁の里に泊まりにいくことになった
(存在)X:S1聟+m1馬鹿な
(宿泊)S1聟:S1聟+O1嫁の里
・嫁が聟に爺さんが馬を買ったから尋ねられたかかくかくしかじかとこたえろと教える
(入れ知恵)S2嫁:S1聟+O2入れ知恵
・嫁の里に行った聟、爺さんに馬を見て欲しいと言われる
(評価)S3爺さん:S1聟+O3馬
・聟、嫁に教わった通りに答える
(解答)S1聟:S3爺さん+O2入れ知恵
・爺さん、聟をまんざら馬鹿でもないと喜ぶ
(喜ぶ)S3爺さん:S1聟+m2馬鹿でない
・爺さん、今度は仏壇を見せる
(閲覧)S3爺さん:S1聟+O4仏壇
・聟、馬にするのと同じように答える
(繰り返し)S1聟:S3爺さん+O2入れ知恵

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

 聴き手(聟は爺さんに馬鹿とばれずに済むか)
           ↓
送り手(聟)→ 回答(客体)→ 受け手(爺さん)
           ↑
補助者(嫁)→ 聟(主体)←反対者(なし)


といった行為項モデルが作成できるでしょうか。嫁は父である爺さんが馬を買ったことは知っていましたから、どう答えればよいか予め聟に言い含めることには成功しますが、爺さんが仏壇を買ったことまでは知りませんでした。聟は嫁に入れ知恵された通りに馬に対するのと全く同じに答え、爺さんに馬鹿であることがばれてしまうという筋立てです。ここでは繰り返しによるおかしみを表現しています。嫁は夫が馬鹿であることを身内である家族にすら知られたくないと思っていますが、情報の非対称性(※仏壇購入の不知)によってその狙いは外れてしまう訳です。

 聟―嫁、聟―爺さん、聟―馬、聟―仏壇、といった対立軸が見受けられます。馬/仏壇という図式に対象が全く異なるのに同じ受け答えをしてしまう間抜けさが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

聟♌♁―爺さん♎―嫁☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。馬鹿と悟られないことを価値☉と置くと、聟は享受者♁となります。が、自分自身の愚かさでばらしてしまいますのでマイナスの享受者♁(-1)とも置けるでしょうか。爺さんは聟が馬鹿か否か見極める立場ですので審判者♎となります。嫁は婿の援助者☾となります。対立者♂は存在しないパターンのお話となります。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 このお話の焦点は「聟は馬鹿であることを爺さんに悟られずに済むか」といったところでしょうか。それに対する発想の飛躍は「馬でも仏壇でも全く同じに答えてしまう聟の足りなさ」でしょうか。「嫁―聟―馬/仏壇―爺さん」の図式です。

 馬鹿婿の話は昔話ではよくあります。それは結婚が親の意向によって決められていた時代性を反映したものでもあります。自由恋愛の現代なら馬鹿婿はおそらく結婚相手を見つけられないでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.197-198.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月18日 (火)

行為項分析――化物退治

◆あらすじ

 昔あるところに一人暮らしの猟師がいた。度胸のすわった男で近くの山に化物が出るというので退治に出かけた。猟師は日が暮れるのを待って山に入り、たき火を焚いていた。夜が更けて丑三つ時になった頃、大きな牛のようで目がぎょろぎょろと鋭く光っている怪物が現れた。猟師は度肝を抜かれたが、ここで度胸をすえねば自分の命がないと思って、ここにきてたき火に当たれと言った。怪物は少し当たらしてくれと言ってたき火の側へ来た。猟師は何もご馳走はないが団子があるから食わないかと言うと、一つよばれるとしようとなった。猟師はじゃあ口を開けておれ、団子を放り込んでやると言って鉄砲の筒口を怪物の口に突っ込んで引き金を引いた。ズドンと大きな音がして、この一発で怪物は倒れると思ったところが、怪物は平気で団子を皆出せと言った。そこで猟師は持っているだけの玉を皆怪物の口の中に撃ち込んだ。が、怪物はけろりとして皆食ってしまった。そして今度はわしがお前に団子を食わせてやろうと言ったので猟師は震えだした。怪物に食い殺されると思って八幡大菩薩に祈った。すると猟師はまだ守り玉があったのに気がついた。それを込めてドンと一発撃つと、怪物はきゃーと血を吹きながら山奥へ逃げ込んだ。その内に夜が明けたので、血の跡を追って山奥へ行ってみると、大きな岩穴があって中でウンウンうめく声が聞こえた。そこで岩穴をそっと覗いて様子を見ると大きな男の狒々(ひひ)が女の狒々の傷口を一生懸命手当をしている。そして自分が仇をとってやる。あの猟師は独り者で女房がいないから自分が女に化けて食い殺してやると言っていた。猟師はこれを聞いて油断ならないと度胸を決めて狒々のやって来るのを待った。すると間もなく、ある夕方にきれいな女がやってきて一晩泊めてくれないか、そして自分を嫁にしてくれないかと頼んだ。猟師は承知した。そこで隣近所や親類を呼んで宴会となった。しかし猟師は油断せず、こっそり鉄砲に玉をこめ外に出て障子の穴から女を撃った。すると嫁が血だらけになって倒れたので大騒ぎになった。人殺しだというので役人が来て取り調べ、猟師は人殺しの罪で連行されることになった。猟師は訳を話して、三日もすれば化けの皮がはげて元の狒々になるからと言って三日間の日延べを願った。そこで四日目に来たときにこのままであったらお前を人殺しとして打ち首にするぞと言って役人は帰った。四日目に役人が来て見ると、女は狒々になって牙をむいて死んでいたので、役人は猟師の勇気を褒めた。

◆モチーフ分析

・一人暮らしの猟師が化物退治に出かけた
・猟師が山の中でたき火を焚いていると怪物が現れた
・猟師、怪物にたき火に当たらせる
・猟師、怪物に団子を食わせると言って怪物の口に銃口を突っ込み発砲する
・が、怪物、死なない
・猟師、玉を打ちつくしてしまう
・怪物、今度は自分が猟師に団子を食わせると言う
・驚愕した猟師だったが、八幡に祈ると守り玉が残っていることに気づく
・猟師、守り玉で怪物を撃つ
・怪物、手傷を負って逃げ出す
・跡を追った猟師、岩穴に辿り着く
・中で雄の狒々と雌の狒々が話していた
・狒々の会話を聞いた猟師、家に戻る
・女が訪ねてきて嫁にしてくれと頼む
・結婚式で猟師は女を撃ち殺す
・殺人となり役人に取り調べられる
・猟師は事情を説明し、三日後には正体が明かされると言う
・それで猟師は一時的に解放される
・四日目に役人がやってくる
・果たして狒々の正体が明かされる
・役人、猟師の勇気を褒める

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:猟師
S2:怪物
S3:雄の狒々
S4:女
S5:役人

O(オブジェクト:対象)
O1:たき火
O2:団子
O3:鉄砲玉
O4:八幡
O5:守り玉
O6:岩穴
O7:自宅
O8:事情

m(修飾語)
m1:死んでいない
m2:驚愕した
m3:負傷した
m4:有罪の
m5:正体が明かされた
m6:賞賛された

+:接
-:離

・一人暮らしの猟師が化物退治に出かけた
(出発)S1猟師:S1猟師+S2怪物
・猟師が山の中でたき火を焚いていると怪物が現れた
(たき火)S1猟師:S1猟師+O1たき火
(出現)S2怪物:S1猟師+S2怪物
・猟師、怪物にたき火に当たらせる
(もてなし)S1猟師:S2怪物+O1たき火
・猟師、怪物に団子を食わせると言って怪物の口に銃口を突っ込み発砲する
(嘘)S1猟師:S2怪物+O2団子
(射撃)S1猟師:S2怪物+O3鉄砲玉
・が、怪物、死なない
(不発)S2怪物:S2怪物+m1死んでいない
・猟師、玉を打ちつくしてしまう
(玉切れ)S1猟師:S1猟師-O3鉄砲玉
・怪物、今度は自分が猟師に団子を食わせると言う
(報復の予告)S2怪物:S1猟師+O2団子
・驚愕した猟師だったが、八幡に祈ると守り玉が残っていることに気づく
(驚愕)S1猟師:S1猟師+m2驚愕した
(祈願)S1猟師:S1猟師+O4八幡
(気づき)S1猟師:S1猟師+O5守り玉
・猟師、守り玉で怪物を撃つ
(射撃)S1猟師:S2怪物+O5守り玉
・怪物、手傷を負って逃げ出す
(負傷)S2怪物:S2怪物+m3負傷した
(逃走)S2怪物:S2怪物-S1猟師
・跡を追った猟師、岩穴に辿り着く
(追跡)S1猟師:S1猟師+S2怪物
(発見)S1猟師:S1猟師+O6岩穴
・中で雄の狒々と雌の狒々が話していた
(盗聴)S1猟師:S3雄の狒々+S2怪物(雌の狒々)
・狒々の会話を聞いた猟師、家に戻る
(帰宅)S1猟師:S1猟師+O7自宅
・女が訪ねてきて嫁にしてくれと頼む
(求婚)S4女:S1猟師+S4女
・結婚式で猟師は女を撃ち殺す
(結婚)S1猟師:S1猟師+S4女
(射殺)S1猟師:S4女+O3鉄砲玉
・殺人となり役人に取り調べられる
(罪を負う)S1猟師:S1猟師+m4有罪の
(取り調べ)S5役人:S5役人+S1猟師
・猟師は事情を説明し、三日後には正体が明かされると言う
(説明)S1猟師:S5役人+O8事情
(予告)X:S4女+m5正体が明かされた
・それで猟師は一時的に解放される
(解放)S5役人:S5役人-S1猟師
・四日目に役人がやってくる
(再訪)S5役人:S5役人+S1猟師
・果たして狒々の正体が明かされる
(判明)S5役人:S3雄の狒々+m5正体が明かされた
・役人、猟師の勇気を褒める
(賞賛)S5役人:S1猟師+m6賞賛された

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

 聴き手(鉄砲玉の通じない怪物を猟師は倒せるか)
           ↓
送り手(猟師)→ 鉄砲玉(客体)→ 受け手(怪物)
           ↑
補助者(八幡)→ 猟師(主体)←反対者(怪物)

   聴き手(狒々の復讐を猟師は逃れられるか)
           ↓
送り手(猟師)→ 鉄砲玉(客体)→ 受け手(女)
           ↑
補助者(なし)→ 猟師(主体)←反対者(女)


といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。怪物退治に出かけた猟師ですが、鉄砲玉は通じず、却って報復されそうになります。とっさに守り玉が残されていることを思い出し、それで怪物を撃退します。その後、怪物を追跡、怪物の正体は狒々であることが判明します。その後、猟師の許を訪れた女を嫁としますが、猟師は嫁を狒々と疑い結婚式で射殺します。殺人事件となり役人に捕らえられますが、数日後に正体が判明すると主張し、その通りとなり無罪放免となるという筋立てです。この話では八幡の功徳と猟師の勇気が称えられていると言えるでしょう。

 猟師―怪物、団子―鉄砲玉、鉄砲玉―守り玉、怪物―守り玉、猟師―女/嫁、猟師―役人といった対立軸が見受けられます。団子/鉄砲玉という図式に油断させて確実に撃ち殺そうという意図が暗喩されています。また、守り玉/怪物という図式には鉄砲玉も通じない怪物をも倒す守り玉の霊的な力が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

猟師♌♁―怪物(雌の狒々)♂―女/嫁/雄の狒々♂―役人♎―八幡☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。怪物を倒すことを価値☉と置くと、猟師は怪物を倒した勇気を役人から賞賛されますので享受者♁と置けるでしょう。一方、役人は審判者♎の機能を果たします。雄雌の狒々は対立者♂となります。八幡自身は物語に登場しませんが、八幡に祈ることで守り玉の存在を思い出しますので援助者☾と置くことも可能でしょう。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「鉄砲玉が通じない怪物を猟師は倒せるか」あるいは「狒々の復讐を猟師は逃れることができるか」でしょうか。発想の飛躍は「鉄砲玉が通じない怪物を守り玉で倒す」でしょうか。「猟師―守り玉―怪物」の図式です。団子を食わせると言って銃口を口に入れ発砲するのも発想の飛躍と言えるでしょう。「猟師―団子/鉄砲玉―怪物」の図式です。

 守り玉は一度使うと猟師を辞めなければならないという制約がある場合が多いですが、この話ではそうではありません。見知らぬ女が嫁にしてくれと訪ねてくるのは異類婚姻譚的です。女に化けてやってくるのは雄の狒々ですが。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.193-196.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月17日 (月)

行為項分析――粟の飯

◆あらすじ

 昔、鴻池に聟がいることになった。大金持ちだから聟にしてくれという人は沢山あった。そこで鴻池では「粟(あわ)ばかりのご飯を茶碗いっぱい盛り付けて何杯でも出しておいて一粒もこぼさぬ様に食べた者を聟にする」と立札を立てた。そこで我こそはという者がどんどん出かけて食べかけるが、ご飯があまりにこわい(かたい)ので、ぽろぽろこぼれて皆失敗した。ここに息子をもった父親がいた。この話を聞いて何とかして自分の息子を聟にやりたいと思って「中、食うちゃあへりをいれ 中、食うちゃあへりをいれ」という歌を作って、その歌を歌いながら歌の通りに中を食べてはほとりを中へ入れて食べる様にしつけた。そうして長いことやっている内に粟を一粒もこぼさずに食べられるようになった。そこで息子は鴻池へ行って粟飯を食べることになった。そしてこれまで教えられた通りに口の中で歌いながら食べたところ、見事一粒もこぼさずに食べることができた。それでめでたく鴻池の聟になった。我が子を出世させるためには、親はこうまで苦心をし、一粒のご飯もこぼさぬようなものでなければ出世はできない。

◆モチーフ分析

・鴻池で聟をとることになった
・粟ばかりで茶碗一杯に盛り付けて一粒もこぼさない者を聟とするとした
・我こそはと挑戦するが皆失敗する
・父親が息子に歌に合わせて飯を食べるようにしつける
・息子は教えられた通りにして一粒も残さず食べてみせ、聟になる
・子を出世させるにはこうまで苦心しなければならない

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:鴻池
S2:挑戦者
S3:父親
S4:息子

O(オブジェクト:対象)
O1:聟
O2:課題
O3:歌

m(修飾語)
m1:躾けられた
m2:苦心した

+:接
-:離

・鴻池で聟をとることになった
(婿取り)S1鴻池:S1鴻池+O1聟
・粟ばかりで茶碗一杯に盛り付けて一粒もこぼさない者を聟とするとした
(条件提示)S1鴻池:X+O2課題
・我こそはと挑戦するが皆失敗する
(失敗)S2挑戦者:O2課題-S2失敗
・父親が息子に歌に合わせて飯を食べるようにしつける
(教示)S3父親:S4息子+O3歌
(躾け)S3父親:S4息子+m1躾けられた
・息子は教えられた通りにして一粒も残さず食べてみせ、聟になる
(達成)S4息子:S4息子+O2課題
(婿入り)S1鴻池:S4息子+O1聟
・子を出世させるにはこうまで苦心しなければならない
(教訓)S3父親:S3父親+m2苦心した

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(息子は果たして聟となることができるか)
           ↓
送り手(息子)→ 粟粒を漏らさず食べる(客体)→ 受け手(鴻池)
           ↑
補助者(なし)→ 父親(主体)←反対者(なし)


といった行為項モデルが作成できるでしょうか。大阪の豪商である鴻池が婿取りすることになったが、難題が提示され、それをクリアできる者は誰もいなかった。そこにある父親が息子に知恵を授けて難題を克服させ、立身出世の道を開くという筋立てです。

 鴻池―人々、鴻池―息子、父親―息子、といった対立軸が見出せます。粟/歌の図式に難題を感覚的に克服する知恵が暗喩されています。

 本来であれば、鴻池が望んでいるのは知恵者の聟でしょう。ですが、この話では父親が知恵を働かせることで息子を躾けるという展開となっています。息子自身が知恵者かどうかは明らかにされていません。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

父親♌☾(♁)―息子♁―鴻池☉♎―挑戦者♂

 といった風に表記できるでしょうか。価値を鴻池に婿入りすることと置くと、息子が享受者♁であり、父親はその援助者☾となります。鴻池はまた難題を課す審判者♎でもあります。他の挑戦者たちは対立者♂ではありませんが、直接親子に対峙する訳ではありません。鴻池が課す難題が関係分析では上手く記述できないことは指摘できるでしょうか。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「息子は果たして鴻池へ婿入りできるか」でしょうか。発想の飛躍は一粒もこぼさずに粟飯を完食すること、またその際に歌われる歌でしょうか。「鴻池―粟/歌―息子―父親」の図式です。粟飯に限りませんが、茶碗に盛られた飯を一粒もこぼさずに完食するという難題は昔話でよく見受けられます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.191-192.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年6月16日 (日)

行為項分析――山椒九右衛門

◆あらすじ

 昔、この辺り(石見町)に山椒(さんしょう)九右衛門という者がいた。非常に強欲な男だった。たたらの親方になって沢山の人を使っていたが、一日に一升の飯を三回に分けるところを一回二合七勺ずつに減らして、三勺ずつ三回、一日九合の米を浮かせていた。そういうことで極めて評判が悪く本当の名を呼ぶ者はなく山椒というあだ名をつけていた。ある年の大晦日の夕方にある貧しい家へ借金の催促に立ち寄った。いつもの調子で厳しく返済するように言ったが、もちろん返す金は無いので、明年は必ず辛抱してお返しするから今宵一夜をあかさせてくださいと家内一同頭を地にすりつけて頼んだが、九右衛門は承知しない。ちょうどそのとき竈(かまど)の上に年越しのご飯が煮えていたが、九右衛門はいきなりその鍋を取り上げると庭先の藁を叩く石の上にぶちまけ、鍋だけを片手にこれを貰って行くと言って得意げに帰っていった。夫婦子供は年越しの夜にようやく手に入れた年に一度か二度しか食べることにできない米のご飯の煮えかけを土の上にぶちまけられては食べることができない。泣きながら天を仰いで、もしこの山に主があるなら何とかしてこの仇をとってください。このご飯は山の主に差し上げると祈った。ところが不思議なことに山椒は昨日までの繁盛は夢のように消えて、その夜からひどい熱病にかかって苦しんだ。医者を呼んだり祈祷してもらったりしたが一向によくならない。とうとう骨と皮ばかりになって息を引き取った。葬式の日に市木の浄泉寺の院家(いんげ)が坂の峠の上まで来た時、怪しい風が吹いて胴は猫に似て頭は鷲のような怪物が空を舞っているのが見えた。院家は供の者に光西寺にある火車品(かしゃぼん)(傘にお経を書いたもの)を借りてくるよう言い付けた。院家は供の者が帰ってくるのを待っていたが、山椒の家ではもう皆が待っているのでお経をはじめた。お経が済んで焼香になると坂の上でみた怪物が羽音凄まじく舞い降りてきて棺の蓋をとると屍体を抱えて空へ上がった。後から見ると、屍体は喰い裂かれて足だけは丸原の三本松の枝に掛かっていた。昔から棺の蓋は外に出す前に釘づけにしなければいけないと言われるのは、こうしたことがあるからだということである。また光西寺の火車品は火事で焼けて今は無いということである。

◆モチーフ分析

・山椒九右衛門という強欲な男がいた
・使用人の食べ物の米を減らして金を浮かせていた
・評判が悪く山椒というあだ名をつけられていた
・大晦日に借金の取り立てに赴く
・借り手はすぐには返せないので来年まで待ってもらうよう懇願する
・山椒、煮え掛けの米を土にぶちまける
・山椒、鍋だけを持って帰る
・借り手、山の主に天罰を祈念する
・山椒、激しい病に冒され死亡する
・葬式に火車が現れる
・院家、火車品を借りに供の者を走らせる
・葬式は始まってしまった
・火車が現れて棺の中の山椒の屍体を取ってしまう
・山椒の屍体は食い荒らされていた
・こういうことがあるので、棺の蓋は釘で打つのである
・火車品は火事で焼けてしまった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:山椒
S2:使用人
S3:人々
S4:借り手
S5:山の主
S6:火車
S7:院家
S8:供の者

O(オブジェクト:対象)
O1:米
O2:儲け
O3:あだ名
O4:返済
O5:鍋
O6:天罰
O7:葬儀
O8:火車品
O9:山椒の屍体
O10:棺
O11:釘
O12:火事

m(修飾語)
m1:強欲な
m2:悪評の
m3:激しく病んだ
m4:死んだ
m5:開始した
m6:食い荒らされた
m7:焼失した

+:接
-:離

・山椒九右衛門という強欲な男がいた
(存在)X:S1山椒+m1強欲な
・使用人の食べ物の米を減らして金を浮かせていた
(不正)S1山椒:S2使用人-O1米
(蓄財)S1山椒:S1山椒+O2儲け
・評判が悪く山椒というあだ名をつけられていた
(不評)S3人々:S1山椒+m2悪評の
(命名)S3人々:S1山椒+O3あだ名
・大晦日に借金の取り立てに赴く
(取り立て)S1山椒:S1山椒+S4借り手
・借り手はすぐには返せないので来年まで待ってもらうよう懇願する
(懇願)S4借り手:S1山椒-O4返済
・山椒、煮え掛けの米を土にぶちまける
(廃棄)S1山椒:S4借り手-O1米
・山椒、鍋だけを持って帰る
(帰宅)S1山椒:S4借り手-O5鍋
・借り手、山の主に天罰を祈念する
(祈念)S4借り手:S1山椒+O6天罰
・山椒、激しい病に冒され死亡する
(り患)S1山椒:S1山椒+m3激しく病んだ
(死亡)S1山椒:S1山椒+m4死んだ
・葬式に火車が現れる
(葬儀)S3人々:S1山椒+O7葬儀
(来訪)S6火車:S6火車+S1山椒
・院家、火車品を借りに供の者を走らせる
(使い)S7院家:S8供の者+O8火車品
・葬式は始まってしまった
(葬儀)S3人々:O7葬儀+m5開始した
・火車が現れて棺の中の山椒の屍体を取ってしまう
(奪取)S6火車:S6火車+O9山椒の屍体
・山椒の屍体は食い荒らされていた
(確認)S3人々:O9山椒の屍体+m6食い荒らされた
・こういうことがあるので、棺の蓋は釘で打つのである
(慣例)S3人々:O10棺+O11釘
・火車品は火事で焼けてしまった
(焼失)O12火事:O8火車品+m7焼失した

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(山椒のケチぶりはどんなものか)
           ↓
送り手(山椒)→ 米を減らす(客体)→ 受け手(使用人)
           ↑
補助者(なし)→ 山椒(主体)←反対者(なし)

   聴き手(山椒の容赦なさはどんなものか)
           ↓
送り手(山椒)→ 借金の督促(客体)→ 受け手(借り手)
           ↑
補助者(なし)→ 山椒(主体)←反対者(借り手)

   聴き手(山椒の行為の帰結は何か)
           ↓
送り手(借り手)→ 強い恨み(客体)→ 受け手(山椒)
           ↑
補助者(山の主)→ 借り手(主体)←反対者(なし)

   聴き手(山椒の生前の報いはどうなるか)
           ↓
送り手(火車)→ 死体の奪取(客体)→ 受け手(山椒)
           ↑
補助者(なし)→ 火車(主体)←反対者(院家)

   聴き手(火車の狙いを院家は阻止できるか)
           ↓
送り手(火車)→ 奪取の阻止(客体)→ 受け手(山椒)
           ↑
補助者(供の者)→ 院家(主体)←反対者(火車)


といった五つの行為項モデルが作成できるでしょうか。山椒は途中で死んでしまいますので、主体が途中から入れ替わります。使用人の食事の量を減らして蓄財し、借金の借り手からは容赦なく取り立てる山椒の苛烈さが描かれます。借り手の憤りが山の主に通じたのか山椒は急病で急死してしまいます。そして、葬式に火車という妖怪が現れて山椒の死体を奪取してしまうという筋立てです。

 山椒―使用人、山椒―借り手、山椒―山の主、山椒―火車、院家―火車、といった対立軸が見受けられます。米/恨みといった図式に食べ物を粗末に扱った山椒への天罰が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

山椒♌―火車♂♎―院家☾(♌)―借り手♂―山の主♎―使用人☾(♌)―人々♁

 といった風に表記できるでしょうか。このお話における価値☉を何と置くか考えどころです。山椒自身が因果応報で死んでしまいますので、マイナスの享受者♁(-1)と置くこともできます。ここでは「苛烈な山椒がいなくなること」を価値☉とし、人々を享受者♁と置いてみました。山椒の死体を奪取に現れる火車は対立者♂であり、生前の行いがよくなかった者を狙う妖怪ですから審判者♎の性格も有しています。火車の奪取を阻止しようとする院家は山椒の援助者☾と置けるでしょう。借金の借り手は対立者♂、借り手の願いが山の主に通じたのか明言されていませんが、山の主も審判者♎と置くことができるでしょう。使用者は山椒の援助者ですが、搾取されていますので、マイナスの援助者☾(-1)と置くこともできます。

 この話では明確な価値☉は存在しません。別当は本来であれば享受者♁ですが、数々の間抜けな行為を繰り返しますのでマイナスの享受者♁(-1)と置けるでしょうか。檀家と医者は別当の勘違いを見抜きますので審判者♎とおけるでしょう。援助者☾でもあります。坂本の知人と馬子は勘違いして別当をもてないしてしまいますので、マイナスの援助者☾(-1)とおけるでしょうか。近所の人は医者を呼んでくる役割を果たしますので審判者の援助者☾(♎)と置けます。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「山椒の行いはどんな因果応報と帰結するか」でしょうか。これに対する発想の飛躍は「借り手の鍋の煮えた米を土間にぶちまける」でしょうか。「借り手―米/恨み―山椒」の図式です。食べ物を粗末にすると罰が当たるという因果応報を説いています。また、妖怪火車の登場の発想の飛躍でしょう。「火車―死体/奪取―山椒」の図式です。

 昔話の機能として「Aという行いをしたらBという帰結となる」という因果を含めることが挙げられるでしょうか。一種の条件文ですが、こういった因果応報を学ぶことで子供たちは社会のルールを学んでいると考えられます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.189-190.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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