未来社の民話シリーズ、電子書籍化されていた
未来社の民話シリーズ、電子書籍化されていたことに気づく。固定レイアウトなので、大きめでFHDのタブレットでないと読みづらいと想像されるが。一部の本しか読んでいないけれど、文字コード的には問題はなさそうだから、リフロー型にして欲しいところではある。全部で何冊あるのか把握していないけれど、結構な冊数があるので紙の本だと収集が難しい面があったが、電子書籍なら……とは感じた。
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未来社の民話シリーズ、電子書籍化されていたことに気づく。固定レイアウトなので、大きめでFHDのタブレットでないと読みづらいと想像されるが。一部の本しか読んでいないけれど、文字コード的には問題はなさそうだから、リフロー型にして欲しいところではある。全部で何冊あるのか把握していないけれど、結構な冊数があるので紙の本だと収集が難しい面があったが、電子書籍なら……とは感じた。
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未来社『石見の民話』分析二周目のロールバック作業、邑智編まで終わる。74/163といった進捗状況。ようやく半分まで来た。残り、那賀編でひと月、石西編で二か月といったところ。ノートラブルで進行しても八月末くらいまでかかる見通し。
石東編では行為項分析がやり直しに近いケースもあったのだけど、邑智編では少々の手直しで済むケースがほとんどだった。その点ではだいぶ楽にはなった。
三周目の下準備もKH Corderのコーディングルールについてはコツがつかめてきて、それっぽい図を出力するところまでは持ち込めるようにはなった。図を分析にどう活かすかは現時点ではノーアイデアだけど、最悪、コーディングルールの事例集という形でもいいのではないかと考えている。
KH Corderを使いこなすには先ずコーディングルールの要点を掴むことが肝要となるが、僕自身、短い話を大量にこなすことで何となく分かってきた側面がある。一度分かってしまえば後はそれらを一つのノウハウとして公開してしまえばいい。
これまで確認した分では、分析に用いたテキストのボリュームが小さいためか、Jaccard係数が高く出る傾向にあるようだが、分析自体は正常に処理されていると考えられる。
民俗学だと統計的に有意なボリュームのデータを取ることが困難と思われるけれど、分析の対象をテキストにまで拡大すれば、これまでに膨大な量の蓄積があるはず。また、アンケートの自由記述欄の分析にも活用できる。ここで試行錯誤した結果を引き継いでもらえれば……というところ。
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「連想」というキーワードで国会図書館に所蔵された雑誌を検索し、とりあえず下記の論文の遠隔複写サービスを申し込む。
1. 山愛美「連続連想にみられる反応パターンの特徴」『心理学研究』57(5)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 1986)pp.287-292.
2. 深尾誠, 大河内茂美「言語連想における刺激語と反応語の線形変換モデルの検証」『心理学研究』64(2)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 1993)pp.91-98.
3. 鍋田智広, 目久田純一, 神垣彬子, 松井剛太, 朴信永, 山崎晃「幼児の連想的記憶における意味的知識の発達」『心理学研究』78(6)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2008)pp.591-598.
4. 松田崇志, 松川順子「連想構造を持つリストにおける検索誘導性忘却への加齢の影響」『心理学研究』81(5)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2010)pp.517-522.
5. 月元敬, 橋本剛明, 唐沢かおり「間接的連想関係による虚記憶」『心理学研究』82(1)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2011)pp.49-55.
・西田勇樹, 服部雅史, 織田涼「遠隔連想テストは何を測るか」『心理学研究』94(5)(日本心理学会編集委員会/編, 日本心理学会, 2003)pp.392-401.
……これらの論文はタイトルにあるような実験の結果に統計処理を施して分析したもので、統計学は未履修なので内容まで理解した訳ではない。
心理学というか認知科学で連想がどのような模式図で描かれているのかと考えたのだけど、基本的には語句と語句とを線分で結ぶ形式でよさそうだった。
連想とは一つの言葉や観念が別の言葉や観念を呼び起こすことと定義できる。そのため、刺激語とそれに対する反応語とに区別されている。心理学の実験では連想の反応時間に着目したり制限時間を設けたりするケースが多いようだ。
1の論文では連想を
・分離的自由連想
・継続的自由連想
・分離的制限連想
・継続的制限連想
と分類している。
・継続的方法はある一つの刺激語に対して連鎖的に反応語を求める
・分離的方法は反応語を一語だけに制限する
・制限的方法は反応語をたとえば「動物の中から選びなさい」等と制限する
また、反応語については、ポジティブ/ニュートラル/ネガティブと三分類している。
2の論文では、
・間接連続連想:刺激語に対する反応語が次の反応語を出すための刺激語となりその語に対する反応語が次の反応語を引き出すための刺激語となるような連想法
・直接連続連想:最初に与えた刺激語に対して思い浮かぶ限り反応語を出してもらうような連想法
の二つを挙げている。ざっくりとだが、2論文では連想を行列と捉える。線形代数の世界である。ただし、2論文では連想構造の線形性を仮定しているが、非線形性のモデルがあり得ることも想定している。
また、因子として、
・明暗の因子……“暗い―明るい”“ねっとりとした―さっぱりした”
・情緒的評価の因子……“嫌な―好ましい”“親しみにくい―親しみやすい”
・緊張・弛緩の因子……“硬い―柔らかい”“力強い―弱々しい”
・興奮・沈静の因子……“重々しい―軽やかな”“落ちついた―にぎやかな”
・一般的評価の因子……“醜い―美しい”“冷たい―暖かい”
といった風に五つに分類した因子分析を行っている。
3の論文では虚偽記憶を取り上げている。虚偽記憶とは、実際には生じていない出来事を誤って想起することとしている。要するに勘違いである。虚偽記憶を調べる手法としてDRM法と呼ばれる実験手法がある。ちなみにDRMとは三人の人名の頭文字からとられている。
DRM法においては、学習時に呈示されたリスト内の単語(学習語)と共に呈示されていないクリティカル・ルアーと呼ばれる単語までも誤って再生、再認してしまうことが発生するとのことである。
3論文では、DRM法における虚偽記憶が意味的知識の構造を反映する点で注目が集まっているとしている。
4の論文では、虚記憶と呼称しているが、DRM法を用いた検索誘導性忘却について実験/検証が行われている。
検索誘導性忘却とは、記憶からある項目(ターゲット項目)を検索すると、その検索行為により、後のターゲット自身の検索可能性は増加するが、一方で、ターゲット項目と関連した項目は抑制され、検索可能性が低下することとしている。
4論文では、連想的な関係性を持つ項目は連想関係によって結びついており、連想ネットワーク構造を持っている。そのような連想ネットワーク構造の中から特定のターゲット項目を検索するとき、ターゲット項目と連想的な関係性にある項目も同時に活性化され、活性化資源を奪い合うこととなる。ターゲット項目を適切かつ迅速に検索するため、この競合状態を解消するよう抑制機能が働くとの仮説を立てている。
5の論文では、たとえば「消防士は男性的職業」といったステレオタイプが媒介する間接的連想関係について実験/検証している。
連想関係を、
・直接的連想関係
・間接的連想関係
とに分類している。たとえば、「りんご」と「赤い」、「赤い」と「ポスト」は直接的連想関係にある一方、「りんご」と「ポスト」は直接的連想関係ではなく「赤い」が媒介した間接的連想関係となる。
5論文ではDRM法をDRMパラダイムと呼称し、ルア語の他、学習語と意味的関連のない新奇語も取り上げている。
6の論文は、洞察問題について実験/検証を行った論文である。洞察問題とは、解決するために特別な知識を必要としないが、すぐに思いつくような方法では解決できないことが多い問題としている。
洞察問題解決を研究するため遠隔連想テスト(RAT)がよく用いられているとのこと。日本語版RATだと、たとえば「住」「在」「汚」といった三つの問題語がある。正解語は「職」である。固着語(三つのうち二つだけと単語を構成する語)は「宅」である。
実験はクラウドソーシングサイトで被験者を募り、WEB上で回答させる形式となっている。
……といった内容だった。6論文だけ少し離れた内容となっている。
「連想」に関して、認知科学でどのような定義づけがされているか調べたもの。NDL-OPACで検索してヒットしたものの上位から選んだもので、『心理学研究』に絞って取り寄せた。他にも掲載論文はあったのだけど、他との兼ね合いでこの程度の数字に留めた。右も左も分からない状態だったので万全とは言えないが、とりあえずのとっかかりとはなったのではないか。
こうしてみると、数学を避けていたツケがのしかかってくる。僕の母校の学部では一般教養の理系科目に心理学があったのでそれを履修したのだけど、それは基礎的な内容で、こういった統計学を駆使したような内容では当然なかった。
ちなみに、若き日の西垣通氏も講師としていらした。そちらは教職課程とバッティングしたため履修できなかった。
僕が漠然と考えているのは昔話における話の展開を何か連想的なものと捉えられないかというもの。それらに対する何らかの手がかりが得られないかと思った次第。たとえば、レヴィ=ストロースの神話分析などはかなり飛躍した連想がされているように感じる。間接的、継続的な連想と言えるかもしれない。
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KH Corder、and条件とシングルクォーテーション「'」の使い方が分かってきた。
とりあえず、
・[前処理]→[テキストのチェック]
・[前処理]→[前処理の実行]
を済ませたら、[ツール]→[抽出語]→[抽出語リスト]で確認する。頻度順におよそ上位100くらいのキーワードが表示される。固有名詞の場合は適切に分節されていない場合がままあるので、事前にこの画面でチェックするといいだろう。
or条件については特に難しくないと思うが、
*神社
神社 or お社
といった風に記述すればいいだろう。ひょっとすると「お社」は後述するシングルクォートでくくった方がいいかもしれない。
たとえば「浮布の池」を形態素解析すると「/浮/布/の/池/」と分節されてしまうのだけど、シングルクォーテーションで「'浮布の池'」とくくればいいようだ。無償版の場合、これで固有名詞の問題はクリアできそうだ。
*浮布池
'浮布の池' or 池
and条件は
*いない
いる and ない
といった使い方になるか。動詞の否定形や形容詞の否定形などを指定したい場合に使えるか。これまで使いどころが分からなかった。
かっこ()は
*触れない
( 触る or つく ) and ない
といった使い方をすればいいか。( )の後に半角の空白を入れるのは盲点であった。
共起ネットワーク図を出力して思ったような結果になっていないと感じたら、[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか確認するのが手っ取り早い。
たとえば、禁忌を意味する「~してはいけない」の「いけない」は「/いけ/ない」と分節される。「いけ」は活用形だけど基本形は何だったかな、といった場合、抽出された行をクリックして選択し、左下の[詳細表示]ボタンをクリックする。[詳細表示]→[語の抽出結果:詳細]画面が表示されるので確認すると、「いけ」の基本形は「いける」であることが分かる。
*いけない
いける and ない
と記述すればいい。
対象としているのが昔話/伝説のあらすじで、およそ500~2000字といった少量のボリュームである。
・とりあえず冒頭から読み進め、
・これはというキーワードをピックアップ
*語句A
語句A
*語句B
語句B
といった形で記述していく。
・進むにつれて、or条件などで統合できる語句が出てくるので、それらをまとめていく
・これらを終わりまで進める
・終了したら、or条件、and条件など何らかの条件を付した箇所をカット&ペースで上位にまとめる
……といった形で進めている。このやり方にも問題はあって、少量のボリュームでも後半はピックアップすることに疲れておざなりになってしまいがちである。
・一通り完了したら共起ネットワークでどのように描画されるか確認して、随時修正を加えていく
……といった感じである。このケースだとテキストのボリュームが少ないのでピックアップされる語句の数はさほど多くはならないのだけど、テキストが長文となってくるとピックアップされる語句が多くなり過ぎて、描画した際に文字が重なって読みづらくなってしまう場合がある。
・そこで間引くことも考えなければならないが、
・むしろ、それは原データとして残しておいて、
・何らかの意図/狙いを定めたコーディングルールとなるよう、そこから語句をセレクトしていって別ファイルとして保存していくといった方向性で運用してみてもいいかもしれない(※これはまだ試していない)。
※筆者の場合、貰い物ではあるが、約7000字と13000字のインタビュー記事が手持ちの資料としてある。
KH Corderのフォルダには夏目漱石『こころ』がチュートリアルとして用意されている。
*人の死
死後 or 死病 or 死期 or 死因 or 死骸 or 生死 or 自殺 or 殉死 or 頓死 or 変死 or 亡 or 死ぬ or 亡くなる or 殺す or 亡くす or 死*恋愛
愛 or 恋 or 愛す or 愛情 or 恋人 or 愛人 or 恋愛 or 失恋 or 恋しい*友情
友達 or 友人 or 旧友 or 親友 or 朋友 or 友 or 級友*信用・不信
信用 or 信じる or 信ずる
or 不信 or 疑い or 疑惑 or 疑念 or 猜疑 or 狐疑 or 疑問 or 疑い深い or 疑う or 疑る or 警戒*病気
医者 or 病人 or 病室 or 病院 or 病症 or 病状 or 持病 or 死病 or 主治医 or 精神病 or 仮病 or 病気 or 看病 or 大病 or 病む or 病
といったコーディングルールとなっている。死/愛/友情/不信/病気といった語句に着目して分析を行おうという意図が見て取れる。
ちなみに、対応分析で出てくる「H5」とは何かなと思っていたが、これはヘッダーの見出しレベル5ということであった。つまりHTMLの<H5>タグのことで、本文に相当するようだ。
……手探り状態で進めたので、30話くらい作業を進めてようやく分かってきたかなというところでマニュアルを読み返して、やっと応用事例が思いついた。結局、30話ほどロールバックする羽目となった。
ただ、それらしい図を出力できるようにはなったが、テキストのボリュームが根本的に足りないので、どうしても「恣意的」なものとなってしまう。恣意的と言ってもこれまでの経験と勘で必要そうな単語をピックアップしているだけだが、全体を通してみると僕自身の色が出ている可能性はなきにしもあらず。
まだ下準備の途中なので記事の執筆はだいぶ先だけど、記事をどういう風に書くかはその場にならないと分からない。
量的分析のスキルがないので、基本的には頻出するキーワードがどういう文脈で用いられているか、KWICコンコーダンスなどを活用して読み進めていくという形に落ち着きそうだ。
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現在、未来社『石見の民話』分析二周目のロールバック作業を行っております。ブログには反映させていません。現時点では水面下での作業となります。とりあえず石東編が終わりました。
二周目自体は去年の12月初旬には終わっていたのですが、疲れがたまっていたりなんやかんやあったり作業環境を整え直す必要があったりで再び手をつけたのは二月末になってでした。疲れは抜けてきたのか、それからはコンスタントに少しずつこなしています。
次が邑智編ですが、これが50話くらいあり、山場となります。那賀編以降は手順や内容が固まっていきましたので手間が減ると見込んでいます。
平行して三周目の下準備をしています。KH Corderというテキストマイニングのツールを使用して共起ネットワーク図を作成するところまで進めています。テキストマイニングは口コミサイトやSNSのポストなど膨大なボリュームでとても読み切れないといった場合に傾向を把握するため実施するのが本来的な使い方でしょう。私が行っている事例ですと、各話のあらすじが500~2000字ほどで、テキストマイニングにかけるまでもなく目視で済むような話ではあります。まあ、少量のボリュームでもしてはいけないということもないだろうということで、とりあえず図を暫定的に出力するところまで行っています。
分析にはコーディングルールを記した設定ファイルを記述する必要があるのですが(※これ自体はプレーンなテキストファイルでよい)、これはケースバイケースといった要領で各話毎に結果を確認しながら調整していく必要があります。なので、確定させる前に一旦寝るなどして頭をリセットさせた方が望ましいのです。で、記事の執筆に先行して下ごしらえだけやっている次第です。
思ったように出力されない場合、形態素解析した際に固有名詞が適切に文節されていないケースが多いようです。そこに気づいてからはだいぶはかどるようになりました。
三周目にとりかかれるのは早くても秋になってからでしょう。まだ、本当に記事を書けるか未知数だったりします。このシリーズはいつもそんな楽観的なスタンスでやってますが。。。
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アラン・ダンダス『民話の構造 アメリカ・インディアンの民話の形態論』(池上嘉彦他/訳)を読む。
ダンダス(ダンデス)はアメリカ民俗学会の重鎮だそうだが、言語学にも通じていて、言語学の概念を民俗学に援用して解釈している。僕は言語学の知識はほとんど無いのでピンとこない箇所も多かった。イーミックとエティックといった区分の持つニュアンスは特にピンと来ない。
プロップが『昔話の形態学』で機能と名づけた概念をモチーフ素として、その連鎖で北米先住民の神話/民話の構造を分析している。レヴィ=ストロースに対しては批判的なスタンスだ。
モチーフ素の連鎖の事例としては、
・欠乏/欠乏の解消
・禁止/違反
・欺瞞/成功
これらが中核となる。そして、
・禁止/違反―結果―脱出の試み
・欠乏―欺瞞/成功―欠乏の解消
・欠乏/欠乏の解消―禁止/違反―結果―脱出の試み
といった組み合わせが挙げられている。
北米先住民の神話/民話は西欧の民話と比較して深み(depth)がないと分析されているとのこと。深みと訳すと誤読される怖れがなきにもしもあらずな気がする。深度とした方がいいような気もする。
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未来社『石見の民話』分析二周目、石西編がようやく終わった。これで全163話の分析が一巡した。今年の二月に思い立って始めたので、およそ十か月かかったことになる。石西編は収録話数が他地域に比べて若干多く大変だった。
特に石西編は横浜から浜田への引っ越し作業のピークと重なったので非常に苦しい思いをした。渦中にいたときは心身共に疲弊して「いつになったら終わるのだろう。一刻も早く解放されたい」とばかり願っていた。
書いている最中にかなり考えが変わったので、二巡目というかロールバックして最初から加筆修正を施していかなければならない。まあ、二周目で一番負荷がかかったのが行為項分析だったので(※慣れても毎回これは上手く記述できるだろうか? と疑問に思いながら作業していた)、その点では多少はマシかもしれないが。
大きく変化して方向性を決定づけたのが128話目の「女と蛇」なので、それ以前の127話分についてはかなりの加筆修正をしなければならない。やはり一日一話が限界だろう。順調にいっておよそ半年といったところだろうか。
加えて既に三周目も考えている。三周目ではKH Corderを用いたテキストマイニングを行いたいと考えている。テキストマイニングというのは本来はSNSの書き込みや口コミサイトのレビューといったビッグデータを解析する目的のツールである。要するにとても人力では読み切れないから、統計処理で大雑把な傾向を掴みたいという目的で用いられるのが第一義だろう。
日本の昔話はほとんどが掌編レベルのボリュームで、僕が起こしたあらすじも大体500~2000字くらいに収まるはずなので、目視で十分ではある。敢えてテキストマイニングにかける必要もないのだけど、裏で統計処理を施した結果が図解されるので、そういった意味ではこれまで行ってきた解釈の裏付けにはなるのではないかと考えている。おそらくこの程度のボリュームだと統計処理によって意外な結果が判明するということはないものと予想される。
で、分析の実施に当たってはコーディング・ルールを固めることが肝要となる。これは内容によってケースバイケースでこれといった解決策はないので、個別に試行錯誤するしかない。なので、当初は下準備を進めていき、それが全話終了してから改めてどういう方向性にするか考えたいといった次第である。
……という訳で、これ以降は水面下の作業となる。更新頻度は以前のようにひと月に数記事といったペースに戻るだろう。
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◆あらすじ
天からへこ(ふんどし)が下がった。
◆モチーフ分析
・天からふんどしが下がった
『石見の民話』はこの163話目の「長い話」で終わります。今日はもう終わり。これ以上話しないよというニュアンスが込められたお話です。
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
O(オブジェクト:対象)
O1:天
O2:ふんどし
m(修飾語:Modifier)
m1:下がった
+:接
-:離
・天からふんどしが下がった
(降臨)02ふんどし:O1天-O2ふんどし
(垂下)O2ふんどし:O2ふんどし+m1下がった
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(垂れ下がったふんどしをどう感じるか)
↓
送り手(ふんどし)→長く垂れ下がった(客体)→ 受け手(天)
↑
補助者(なし)→ ふんどし(主体)←反対者(なし)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。天もへこ(ふんどし)もオブジェクトです。つまり、その点で意思は介在しませんので行為項モデルは成立しないことになります。無理くり描くとこんな感じでしょうか。ふんどしは長い布ですので、タイトルの「長い話」へと繋がっていきます。それはこれまで続けられてきた長い昔話がこれで今日はおしまいという意味を告げています。
天―ふんどし、といった対立軸が見受けられます。天上/天下という図式に聖なるものが暗喩されているようにも思えますが、垂れ下がるのはふんどしであるという点で尾籠さがおかしみとして暗喩されています。
「長い話」は短い話ですが、それ故にテキストのみでの解釈は困難で、昔話を語る行為の終わりを意味するという文脈を汲まないと上手く解釈できないタイプの昔話となります。
「長い話」をテキストのみで解釈するとナンセンスな話となりますが、お終いの昔話という文脈を考慮すると、「もうおしまい」という名残惜しさを笑いで閉めるというニュアンスが込められていることが理解できます。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
ふんどし♌♂☉(-1)―天☉
といった風に表記できるでしょうか。これらはいずれもオブジェクトですので、意思は持ちません。そういう意味では分析不能と言えるでしょうか。無理くり解釈すると、天上の世界を意味する天そのものが価値☉とおけるでしょう。それに対して天下に垂れ下がるのがふんどしです。聖なる天上に対し、天下に垂れ下がるのは尾籠なふんどしです。マイナスの価値☉(-1)と置けるでしょう。ふんどしは主体♌であると同時に天の権威を下げている時点で対立者♂でもある訳です。それに対して天は何の判断も下していませんから審判者♎とはなり得ない訳です。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点はメタ視点的なもので「今日の昔話はこれで終わり」でしょうか。昔話の終盤を暗示する話です。それに対する発想の飛躍は「天とふんどしを結びつけること」でしょうか。「天上/天下―聖/尾籠―ふんどし」といった図式です。
◆昔話の創発モデル
下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。
物語の焦点:今日の昔話はこれで終わり
↑
発想の飛躍:天とふんどしを結びつけること
・昔話/語り―終わり/暗示
↑
・天上/天下―聖/尾籠―ふんどし
◆発想の飛躍と概念の操作
発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。
呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。
「長い話」では、このお話が始まることで今日の昔話は終わりということが暗示されます。「もう終わり」という名残惜しさに対してふんどしが天から垂れ下がるという尾籠さで笑いを誘う仕掛けとなっています。
図式では「天上/天下―聖/尾籠―ふんどし」と表記しています。これを自由連想で細分化して展開すると「天―聖―世界―垂れる―ふんどし―下着―長い―尾籠―笑い―昔話―今日―終わり」となります。
「ふんどし:天上/天下→聖/尾籠→笑い」と図式化すればいいでしょうか。聖なる天上から天下に垂れ下がるのが尾籠なふんどしという図式で聖なるものが尾籠なものとして転倒される、そして笑いに転換される、そういった概念の操作が行われています。これらの連想を一瞬で行っていることになります。
以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。可視化されていない文脈を読む、つまりできるだけ可視化するためには連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。
転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、予想外の驚きをもたらす効果を発揮しますので、昔話では好んで用いられるようです。
シェーマ分析は物語構造分析や評論において多用されますが、昔話ではこの二項対立で把握される図式の各項の属性を動的に転倒させていく(※必ずしも転倒に成功する訳ではない)ことで物語を転がしていくという技法が多用されると考えられます。むしろ転倒させることで二項対立の図式に持ち込むと見た方がいいでしょうか。静態から動態への認識の転換が求められるとでも言えるでしょうか。
呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。
◆ログライン≒モチーフ
ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。
「長い話」ですと「天からふんどしが垂れ下がった」くらいでしょうか。
◆余談
天使の梯子(はしご)の様なものでしょうか。ここでは、ふんどしという下着を描写することで尾籠(びろう)さを表現して笑いを誘う意図が見えます。ひとしきり笑ったところで今日の昔話は終わりという図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.469.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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◆あらすじ
とんとん昔もあった。大きな渕があって、その縁(へり)に大きな栃(とち)の木があった。秋になってその実が落ちはじめた。「からから どんぶり からから どんぶり」
◆モチーフ分析
・大きな渕があって、その縁に大きな栃の木があった
・秋になってその実が落ちはじめた
・からから どんぶり からから どんぶり
「果てなしばなし」は『石見の民話』に収録された全163話の内、162話目に当たります。つまり、「昔話はそろそろ終わりだよ」と告げるニュアンスが言外に込められているのです。そういった点ではテキストのみでの分析では足りず、文脈を読むことが求められるお話となります。
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
O(オブジェクト:対象)
O1:渕
O2:栃の木
O3:栃の実
m(修飾語:Modifier)
m1:大きな
m2:秋
m3:からから
m4:どんぶり
X:どこか
T:時
+:接
-:離
・大きな渕があって、その縁に大きな栃の木があった
(存在)X:X+O1渕
(程度)O1渕:O1渕+m1大きな
(隣接)O2栃の木:O2栃の木+O1渕
・秋になってその実が落ちはじめた
(季節)T:T+m2秋
(落下)O3栃の実:O3栃の実-O2栃の木
・からから どんぶり からから どんぶり
(オノマトペ)O3栃の実:O3栃の実+(m3からから+m4どんぶり)
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(オノマトペをどう感じるか)
↓
送り手(栃の実)→(客体)→ 受け手(聴き手)
↑
補助者(なし)→ 栃の実(主体)←反対者(なし)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。このお話に登場する渕も栃の木も栃の実もいずれもオブジェクトです。つまり、そこにヒトの意思は働いていません。その点で行為項モデルは成立しないことになりますが、無理くり描くとこんな感じでしょうか。栃の実はどんぐりと置き換えられるでしょう。「からから」はどんぐりが風に揺られる様でしょうか。「どんぶり」はよく分かりませんが、地面か渕に落ちる様でしょうか。
渕―栃の木、栃の木―栃の実、といった対立軸が見受けられます。からから/どんぶりといったオノマトペの対比の図式に静寂さとそこからもたらされる永遠性が暗喩されているでしょうか。そうしてタイトルの「果てなしばなし」へと繋がっていきます。
「果てなしばなし」は短い話ですが、それ故にテキストのみでの解釈は困難で、昔話を語る行為の終わりを意味するという文脈を汲まないと上手く解釈できないタイプの昔話となります。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
栃の実♌☉―栃の木☾(☉)―渕☾(☾(☉))
といった風に表記できるでしょうか。これらはいずれもオブジェクトですので、意思は持ちません。そういう意味では分析不能と言えるでしょうか。無理くり解釈すると、秋の実りを価値☉と置けるでしょうか。その点では栃の実は価値☉とおけるでしょう。栃の木はその援助者☾(☉)、渕は更にその援助者☾(☾(☉))とでもおけるでしょうか。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点はメタ視点的なもので「昔話はもう終わってしまうのか」でしょうか。昔話の終盤を暗示する話です。それに対する発想の飛躍は「実が落ちる様を『からから どんぶり』と形容すること」でしょうか。「栃の実―落ちる―どんぶり/からから―静寂/永続」といった図式です。「もう終わり」という感情に対してオノマトペで永続性を表現しています。
◆昔話の創発モデル
下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。
物語の焦点:昔話はもう終わってしまうのか
↑
発想の飛躍:実が落ちる様を『からから どんぶり』と形容すること
・昔話/語り―終盤/暗示
↑
・栃の実―落ちる―どんぶり/からから―静寂/永続
◆発想の飛躍と概念の操作
発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。
呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。
「果てなしばなし」では、このお話が始まることで昔話はそろそろ終わりということが暗示されます。「もう終わり」という名残惜しさに対して「からから どんぶり」と昔話の永続性がオノマトペで表現されます。
図式では「栃の実―落ちる―どんぶり/からから―静寂/永続」と表記しています。これを自由連想で細分化して展開すると「栃の木―秋―栃の実―実る―落ちる―からから―どんぶり―オノマトペ―無意味―静寂―連想―永続―連想―昔話―終盤―またいずれ」となります。
「栃の実:オノマトペ→無意味→静寂/永続←語り/終わり」と図式化すればいいでしょうか。オノマトペ自体には意味がありません。受け手によって解釈は異なるでしょう。ここでは静寂と解釈しました。それは永続性へと転換されます。それは語りの終わりに際して提示されることで「またいずれ」と告げるニュアンスを持つことになるでしょう。終わりだから永続性を語る訳です。これらの連想を一瞬で行っていることになります。
以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。可視化されていない文脈を読む、つまりできるだけ可視化するためには連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。
転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、予想外の驚きをもたらす効果を発揮しますので、昔話では好んで用いられるようです。
シェーマ分析は物語構造分析や評論において多用されますが、昔話ではこの二項対立で把握される図式の各項の属性を動的に転倒させていく(※必ずしも転倒に成功する訳ではない)ことで物語を転がしていくという技法が多用されると考えられます。むしろ転倒させることで二項対立の図式に持ち込むと見た方がいいでしょうか。静態から動態への認識の転換が求められるとでも言えるでしょうか。
呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。
◆ログライン≒モチーフ
ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。
「果てなしばなし」ですと「秋になって実った栃の実が静かに落ちた」くらいでしょうか。
◆余談
栃の木ですので、どんぐりでしょう。秋になって実がなった様を描いています。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.469.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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◆あらすじ
昔、お爺さんとお婆さんがいた。お婆さんは菜を買いに行った。お爺さんは酒を買いに行った。どちらもなかったので、なさけないと言った。
◆モチーフ分析
・お爺さんとお婆さんがいた
・お婆さんは菜を買いに行った
・お爺さんは酒を買いに行った
・どちらもなかったので、なさけないと言った
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:婆さん
O(オブジェクト:対象)
O1:菜
O2:酒
m(修飾語:Modifier)
m1:なさけない
X:どこか
+:接
-:離
・お爺さんとお婆さんがいた
(存在)X:X+(S1爺さん+S2婆さん)
・お婆さんは菜を買いに行った
(買う)S2婆さん:S2婆さん+O1菜
・お爺さんは酒を買いに行った
(買う)S1爺さん:S1爺さん+O2酒
・どちらもなかったので、なさけないと言った
(買えず)S2婆さん:S2婆さん-O1菜
(買えず)S1爺さん:S1爺さん-O2酒
(嘆息)(S1爺さん+S2婆さん):(S1爺さん+S2婆さん)+m1なさけない
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(買えなかった結果どうなるか)
↓
送り手(婆さん)→買いに行くが無い(客体)→ 受け手(菜)
↑
補助者(なし)→ 婆さん(主体)←反対者(なし)
聴き手(買えなかった結果どうなるか)
↓
送り手(爺さん)→買いに行くが無い(客体)→ 受け手(酒)
↑
補助者(なし)→ 爺さん(主体)←反対者(なし)
聴き手(洒落を含んだ嘆息をどう感じるか)
↓
送り手(爺さん、婆さん)→買いに行くが無い(客体)→ 受け手(爺さん、婆さん)
↑
補助者(なし)→ 爺さん、婆さん(主体)←反対者(なし)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。お婆さんが菜を買いに、お爺さんが酒を買いに行ったところ、いずれもありませんでした。菜と酒がなかったので「なさけない」と嘆息したという筋立てです。
爺さん―婆さん、婆さん―菜、爺さん―酒、といった対立軸が見受けられます。菜/酒/なさけないの図式に落胆を洒落のめす爺さんと婆さんのユーモアが暗喩されています。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
爺さん♌♁(-1)♎―婆さん♌♁(-1)♎
といった風に表記できるでしょうか。望みのものを入手することを価値☉と置くと、爺さんと婆さんはいずれも享受者♁となりますが、ここではいずれも入手できませんので
マイナスの享受者♁(-1)としてもいいでしょうか。それぞれ別行動のようですので、相互に援助者ではありません。最後に「なさけない」と洒落含みの嘆息をしますので、両者とも審判者♎と置けるでしょう。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点は「爺さんと婆さんは望むものを入手できるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「なさけないと洒落のめした嘆息をすること」でしょうか。「爺さん/婆さん―入手できず/嘆息―菜/酒」といった図式です。
◆昔話の創発モデル
下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。
物語の焦点:爺さんと婆さんは望むものを入手できるか
↑
発想の飛躍:なさけないと洒落のめした嘆息をすること
・婆さん―入手できず―菜
・爺さん―入手できず―酒
↑
・爺さん/婆さん―入手できず/嘆息―菜/酒
◆発想の飛躍と概念の操作
発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。
呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。
「なさけない」では、婆さんは菜を、爺さんは酒を入手できなかったため、合わせて「なさけない」と嘆息しています。
図式では「爺さん/婆さん―入手できず/嘆息―菜/酒」と表記しています。これを自由連想で細分化して展開すると「婆さん―菜―入手―行動―入手できず―爺さん―酒―入手―行動―入手できず―な―さけ―欠乏―嘆息―洒落―なさけない―情けない」となります。「爺さん/婆さん:菜/酒→入手できず→嘆息/洒落」と図式化すればいいでしょうか。「菜」と「酒」から意味が剥奪されて「な」と「さけ」となります。それらが結合され、欠乏を表す「ない」とも結合され「な+さけ+ない」から「なさけない」「情けない」となります。つまり、何もない状況を洒落のめして「情けない」と表現する訳です。ここでは欠乏による嘆息を洒落に転倒するといった概念の操作がここでは行われています。これらの連想を一瞬で行っていることになります。
シニフィアンとシニフィエでしたか、どちらがどちらか失念しましたが、記号や言語は「意味するもの」と「意味されるもの」とに分かれます。信号の「赤」が「止まれ」なら「止まれ:意味するもの」と「赤:意味されるもの」といった具合です。ここでは「意味されるもの」は固定でありつつも、それらが結合されることで「意味するもの」の入れ替えが行われている訳です。
以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。可視化されていない文脈を読む、つまりできるだけ可視化するためには連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。
転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、予想外の驚きをもたらす効果を発揮しますので、昔話では好んで用いられるようです。
シェーマ分析は物語構造分析や評論において多用されますが、昔話ではこの二項対立で把握される図式の各項の属性を動的に転倒させていく(※必ずしも転倒に成功する訳ではない)ことで物語を転がしていくという技法が多用されると考えられます。むしろ転倒させることで二項対立の図式に持ち込むと見た方がいいでしょうか。静態から動態への認識の転換が求められるとでも言えるでしょうか。
呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。
◆ログライン≒モチーフ
ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。
「なさけない」ですと「菜も酒もなかったのを洒落のめして『なさけない』と言った」くらいでしょうか。
◆余談
年末のお話でしょうか。爺さんと婆さんには自分の思い通りにならなくても、その状況を洒落のめす程度の心の余裕はあるということでしょう。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.468.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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