昔話

2023年3月 1日 (水)

Amazon Kindleストアで電子書籍の販売を開始しました。

昔話はなぜ面白いか(上)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX5JWSG5
昔話はなぜ面白いか(下)
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BX5KC15V

がAmazon Kindleストアで販売開始されました。昔話の分析を試行した作業ノートのような内容です。キンドル・アンリミテッドに登録してありますので、会員の方は無料で読めます。

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2023年2月26日 (日)

専門家でも難しい問題だと思うが

ChatGPTで異類婚姻譚について質問してみる。そつのない答えが返ってきたので驚く。もちろん、もう少し突っ込んで欲しいという感はあるが、ネットに散らばっている知識を学習したであろうAIとしては驚くべき水準である。

ChatGPT 異類婚姻譚について

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2023年2月14日 (火)

積むと天井まで届くか――『日本昔話通観 第28巻 昔話タイプ・インデックス』

『日本昔話通観 第28巻 昔話タイプ・インデックス』を読む。通読ではなく解説のある186ページまで。この本1000ページくらいある。日本昔話通観の全巻を積むと天井に届くのではないだろうかという膨大な内容がある。ゆえに通読する本ではなく辞書的に参照する本だと言えるだろうか。

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2022年12月15日 (木)

ロールバック完了

「石見の民話」のモチーフ分析、ロールバック作業が終わる。また、一太郎での校正も終わった。

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2022年12月 8日 (木)

昔話の時空――近藤良樹「子供の昔話を哲学する(論文集)」

近藤良樹「子供の昔話を哲学する(論文集)」(※PDF)を読む。著者は国会図書館で検索したところ、広島大学の先生のようだ(※現時点では不明)。主に倫理学を専攻しているものと思われる。

https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/ja/00049765

これは著者の昔話に関する論文をまとめたもので236Pもある大ボリュームの論文集だ。PDFで236ページ読むのは大変で(PDFにはしおり機能がない)、EPUB形式に変換できないか調べてみたが、上手い解決方法が得られなかった。できれば書籍にして欲しいものである。

内容的には昔話の時空についての哲学的考察が主だろうか。自分だと数行しか書けないところをこの先生は何ページにも渡って記している。筆力の差を痛感する。

途中、身近なリサーチ対象として著者の子供(小5・小4・小2)が登場する。一方でマッカーサーを見たことがある、といってもマッカーサーとあだ名された精神を病んだ旧日本国軍人のことであるが、そう言及されているのを読んで、一体いつの話だろうと思った。僕が子供だった頃、昭和40年代には、そんな軍人の姿を見かけることはなくなっていた。……と思っていたら、各論文は平成の初め頃に執筆されたものだった。それなら僕より年上ということになり、つじつまが合う。

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2022年11月29日 (火)

記号じゃ分からん

バルトの著作にあったグレマスの「行為項」という用語をググってみた。なるほど、こういう風に分析するのかと思ったが、式に変換してしまうと、書いている本人には分かっても読者にとっては途端に分かりにくいものになってしまうと思う。

まだネットで得た知識だけなのだけど、プロップやグレマスの提示した枠組みは冒険譚には非常によく適合するけれど、それらの枠組みに収まらないお話も多々あるのだ。

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2022年11月23日 (水)

『石見の民話』モチーフ分析を終えて

以上のような形で未来社『石見の民話』に収録された163話のモチーフ分析を行いました。モチーフとは話の筋の核となる部分です。

要するに抽象化する訳ですが、こういう処理をすると語りの魅力は捨象されてしまいます。そういう面では十全な分析ではありません。また、精神分析的な分析も行いません。

桃太郎の場合ですと、

・お爺さんとお婆さんがいた。お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川に洗濯にいった
・お婆さんが川で洗濯していると上流から大きな桃が流れてきたので、それを家へ持ち帰った
・桃を割ろうとすると、中から元気な男の子が出てきたので桃太郎と名づけた
・成長した桃太郎はきび団子をこしらえて貰って旅に出る
・きび団子を犬・猿・キジにやって家来にする
・犬、猿、キジを伴って鬼ヶ島に攻め入り、鬼を征伐する
・鬼の宝物を村に持ち帰って凱旋する

のようになります。

通常は異類婚姻譚(鶴女房とか雪女とか)だったら異類婚姻譚同士でモチーフ分析して比較検討するのですが、ここでは『石見の民話』に収録された163話とばらばらのお話の分析を行いました。

これはこれくらいのボリュームを分析すれば何か見えてくるものがあるかもしれないという極めて楽観的な思いつきによって実行したものです。

以前、大塚英志の『ストーリーメーカー 創作のための物語論』を読んでいて、ウラジミール・プロップの『昔話の形態学』を紹介してロシアの魔法昔話を分析すると、およそ31の機能(ファンクション)が抽出できると解説されていました。

留守/禁止/違反/探り出し/情報漏洩/謀略/幇助/加害/欠如/仲介/対抗開始/出立/贈与者/呪具の贈与・獲得/二つの国の間の空間移動/闘い/標づけ/勝利/不幸・欠如の解消/帰還/追跡/救助/気付かれざる到着/不当な要求/難題/解決・発見・認知/正体露見/変身/処罰/結婚

といったものです。流れとしては、

1. 家族の成員のひとりが家を留守にする(留守)
2. 主人公に禁を課す(禁止)
3. 禁が破られる(違反)
4. 敵対者が探り出そうとする(探り出し)
5. 犠牲者に関する情報が敵対者に伝わる(情報漏洩)
6. 敵対者は犠牲となる者なりその持ち物なりを手に入れようとして、犠牲となる者をだまそうとする(謀略)
7. 犠牲となる者は欺かれ、そのことによって心ならずも敵対者を助ける(幇助)
8. 敵対者が、家族の成員のひとりに害を加えるなり損傷を与えるなりする(加害)
9. 被害なり欠如なりが[主人公に]知らされ、主人公に頼むなり命令するなりして主人公を派遣したり出立を許したりする(仲介、つなぎの段階)
10. 探索者型の主人公が、対抗する行動に出ることに同意するか、対抗する行動に出ることを決意する(対抗開始)
11. 主人公が家を後にする(出立)
12. 主人公が[贈与者によって]試され・訊ねられ、攻撃されたりする。そのことによって、主人公が呪具なり助手なりを手に入れる下準備がなされる。(贈与者の第一機能)
13. 主人公が、贈与者となるはずの者の働きかけに反応する(主人公の反応)
14. 呪具[あるいは助手]が主人公の手に入る(呪具の贈与・獲得)
15. 主人公は、探し求める対象のある場所へ連れて行かれる・送りとどけられる・案内される(二つの国の間の空間移動)
16. 主人公と敵対者とが、直接に闘う(闘い)
17. 主人公に標(しるし)がつけられる(標づけ)
18. 敵対者が敗北する(勝利)
19. 発端の不幸・災いか発端の欠如が解消される(不幸・欠如の解消)
20. 主人公が帰路につく(帰還)
21. 主人公が追跡される(追跡)
22. 主人公は追跡から救われる(救助)
23. 主人公はそれと気付かれずに、家郷か、他国かに、到着する(気付かれざる到着)
24. ニセ主人公が不当な要求をする(不当な要求)
25. 主人公に難題が課される(難題)
26. 難題を解決する(解決)
27. 主人公が発見・認知される(発見・認知)
28. ニセ主人公あるいは敵対者(加害者)の正体が露見する(正体露見)
29. 主人公に新たな姿形が与えられる(変身)
30. 敵対者が罰せられる(処罰)
31. 主人公は結婚し、即位する(結婚)
※プロップ『昔話の形態学』より抜粋。

といったものです。また、登場人物を

・主人公(探索者)
・敵対者
・家族の成員
・犠牲者
・贈与者
・助手
・ニセ主人公

と類型化(抽象化)しています。

昔話には法則があったのか、面白いと思いました。プロップのそれはあくまで「ロシアの」「魔法昔話」に限った話だったのですけれど、私は誤読して全ての昔話に適用されると思い込んでしまったのです。

プロップの昔話の機能は動詞を基礎とします。たとえば、

・キツネが人を化かした
・タヌキが人を化かした

というのは別のモチーフになります。プロップの形態論では動詞(ここでは化かす)を主として考え、主語、目的語は入れ替え可能なものと考えるのです。

これには意訳に意訳を重ねているという批判もあるようです。

プロップの機能は冒険譚にはよく当てはまると思うのですが、昔話はそういう話ばかりという訳ではないのです。

そんな訳で昔話から何か法則の様なものが見いだせないか調べるのが私の野望となったのです。

その後、昔話の理論書を読んでいって、アラン・ダンデスの本に行き当たりました。ダンデスはプロップの機能をモチーフ素と呼び変えることを提唱していました。それは音と音素から着想したもので、モチーフとモチーフ素に分解するのです。これは実質的にプロップの機能を全昔話に適用できるように拡張するという狙いが見てとれます。

今回の分析では、民話を読んであらすじに要約(※これは未来社『石見の民話』を底本としているからでして、それをそのまま転載する訳にいきませんので、一旦あらすじに起こすという作業をしているものです。自分で収集した昔話がある場合には不要の過程です)、あらすじをモチーフに分解するという手順を踏んでいます。一文単位で要約していますのでモチーフというよりその一段下のツーク(Zug)とした方がいいかもしれません。

それから、このモチーフを形態素解析にかけて品詞を抽出する作業を行いました。これはネット上に形態素解析のツールが公開されていますので、それを利用しました。

もちろん、あらすじを形態素解析にかけてもいいのですが、抽出したいのは話の骨子ですので、モチーフで十分だろうと考えました。

これで名詞、動詞などの品詞に分解したものから、幾つか主要なものを選んで概念と概念の繋がりを線で結び。名詞―名詞―名詞、名詞―(動詞)―名詞といった形で昔話の図式を抽出しました。

中には、これは名詞ではなく副詞に分類した方がいいのではないかという事例もありますが、サーバーが返した結果をそのまま残しています。

これは、掟想視『思考と発想 ノート術』という電子書籍を読んでの発想です。この本はノート術と発想法について書かれた本で、ノートに思いついた要素を書いていきます。その中で繋がりのある要素同士を線分で結びます。すると、意外なところに繋がりが見つかるという形で着想を得るという手法を解説したものです。

これは発想法であるKJ法を連想させる手法です。

つまり、昔話のどこに着想部分、いいかえれば閃き、ないしは発想の飛躍があるか抽出してみようという試みです。昔話の研究者は基幹プロット、核心モチーフとしていますが、これとほぼ同じであるとしていいでしょう。

これは昔話の誕生がどのように着想されたかを推定するものです。昔話は語りを通じて洗練されていきますが、着想、発想の飛躍というのは一回限りのものです。そこに昔話の源流に遡る鍵があるのではないかと考えたのです。

発想の飛躍とは脳内で神経回路が新たに繋がることでしょう。暗黙知で言えば創発というプロセスに該当します。脳は何もしていない状態では、デフォルト・モード・ネットワークという状態になっており、このとき脳の複数の領域が神経活動を同調させながら活動しており、この際に閃きが起きやすいとされています。入浴や散歩といったリラックスした状態がそれです。私の場合は散歩中は特に浮かんできませんが、考えがいい意味で煮詰まっていると、入浴中にアイデアが湧いてきます。

なお、序盤の昔話では記号論的解釈を行っていますが、以降は行っていません。ここら辺の解釈の問題は将来の課題としたいと思っています。

グリム兄弟以降、昔話の研究が進展していきました。19世紀はまた比較言語学や神話学が発達した時代でもあります。インド-ヨーロッパ語族という枠組みが認知されました。サンスクリット語が高く評価されています。昔話のインド起源説があるそうですが、これは明らかにインド-ヨーロッパ語族の枠組みの中で構想されたものでしょう。『ジャータカ』『パンチャタントラ』といった古い説話集の存在も背景にあります。

19世紀に登場した昔話の起源に関する解釈は、他に自然説話説などがあるようですが、現在では否定されてしまっているようです。

20世紀に入るとフィンランドで叙事詩『カレワラ』の起源を探る研究の中から歴史地理的手法が発達します。フィンランド学派と呼ばれていますが、その歴史地理的手法は昔話を広く収集して、昔話の類話を収集、更に文献に収載された説話からその年代を特定、それらをプロットして相互の比較を行うものです。そういった過程を経て昔話の起源・伝播の様態を考察する手法となっています。

例えば、「帝王と僧院長」というバラッドについては、

(1)登場人物
a. 登場人物の数
b. 謎の提出者
c. 被質問者
d. 解答者

(2)謎
a. 謎
b. 実際の謎とその答え
 A:天の高さは?
 B:海の深さは?
 C:海の水の量は?
 …………
 Q:私は何を考えているか

(3)他の項目
a. 謎を出した理由
b. 解答の期限
c. 解答不能の場合の罰
d. 被質問者と解答者の肉体的類似点
e. 解答者すり替えの方法
f. 行為の結果

トンプソン『民間説話 世界の昔話とその分類【普及版】』411P

……といった分析が行われます。

 歴史地理的手法は水面の波紋が同心円状に拡がるように、説話も自動的に広がると考えるのですが、フォン=シドウという学者は説話を持ち運ぶのはトラディターと呼ばれる一部の語りに長けた人たちであるとし、トラディターによって持ち運ばれた説話がその地域に根付いたのをオイコタイプと呼ぶのです。

この歴史地理的手法からアールネの昔話の話型(タイプ)インデックスが成立します。これらは昔話の研究に決定的な影響を及ぼしました。また、米国のスティス・トンプソンは話型インデックスの補完とモチーフ・インデックスの編纂を行いました。ATで表記される記号がそれです。

トンプソンの研究は第二次大戦前後に行われたものです。1920年代には既にロシアのプロップの昔話の形態論があったのですが、これが欧州に紹介されるのは1950年代後半になります。その点でモチーフ・インデックスと昔話の機能とは別々に存在する形となっています。

プロップの昔話の形態学はロシア・フォルマリズムという潮流に乗ったものでしたが、プロップの研究が欧米に紹介されることで、構造主義的諸学問に影響を与えたのです。

つまりダンデスのモチーフ素は歴史地理的手法と昔話の形態論を繋げる試みとも見ることができます。

当ブログでは三~四行程度に要約したモチーフの末尾に括弧でくくって[モチーフ素]を追記することで、これがモチーフ素ではないかと提示しています。

当初はモチーフ素間の繋がりに何か意味がないかと思ったのですが、ノートに書き出して線で繋いでみたところ、リニアなのです。プロップ自身、機能の継起順序は常に一定であるとしています。

モチーフ素を抽出する作業は意訳に意訳を重ねるという点で恣意的であり、その点では形態素解析の方が原型を損なうことなく物語の骨子を抽出できるかもしれません。ただ、要するに類話を比較するために抽出するのですから、意訳しても構わないでしょう。

これらの研究が出そろったのは1990年代のようです。平成とほぼ重なりますが、その後の進展は調べた限りでは見られないようです。日本の研究者たちはアジアのインデックス作成に従事しているようです。

昔話より視野を広げればナラトロジーなどがありますが、ここでは昔話の分析に限定しますので取り入れません。ナラトロジーは入門書を読みましたが、誰でも何となくは知っていることで、現状そのレベルで十分かなと考えました。

自力で何か新しいものを付け加えられないかと考えたのが形態素解析です。形態素解析による分析は日本ですと『源氏物語』の各帖の分析が行われたりしています。それには複雑な数式が用いられており、昔話研究というより情報学、計量文献学のジャンルになります。本来は大量のデータを解析するためのツールですが、小文に用いてはいけないという制約はないでしょう。

私は文系かつ事務系ですので統計学的な量的分析の手法は知りません。それで、形態素解析で抽出した品詞から概念同士の繋がりを見て、発想の飛躍を抽出するという試みを行いました。これは文脈の読めないコンピューターでは行えない作業です。

私大文系の限界で、これ以上の分析は出来ないのですが、この分析スタイルについて他の方の意見を聞きたいところです。英語で検索してもヒットするのはプロップの形態論だけですから、海外でもやっている人はいない可能性があります。

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石西編が終わる

未来社「石見の民話」のモチーフ分析、石西編が終わった。これで163話全部終了。6月から始めたので半年かかった。実はこれで終わりではない。初期と現在では分析手法が変わっているので、はじめからロールバックして100話ほど修正しなければならない。負荷のかかるのは粗筋を起こすところなので、山場は過ぎたのだけど、まだ長い作業が待っている。

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長い話――モチーフ分析

◆あらすじ

天からへこ(ふんどし)が下がった。

◆モチーフ分析

・天からふんどしが下がった

 形態素解析すると、
名詞:ふんどし
動詞:下がる
副詞:天から

 天/ふんどしの構図です。天―(下がる)―ふんどしの図式です。

 天からふんどしが下がった[下垂]。

 天からふんどしが下がった……という内容です。

 発想の飛躍は天とふんどしを結びつけることでしょうか。天―(下がる)―ふんどしの図式です。

 天使の梯子(はしご)の様なものでしょうか。ここでは、ふんどしという下着を描写することで尾籠(びろう)さを表現して笑いを誘う意図が見えます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.469.

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果てなしばなし――モチーフ分析

◆あらすじ

 とんとん昔もあった。大きな渕があって、その縁(へり)に大きな栃(とち)の木があった。秋になってその実が落ちはじめた。「からから どんぶり からから どんぶり」

◆モチーフ分析

・大きな渕があって、その縁に大きな栃の木があった
・秋になってその実が落ちはじめた
・からから どんぶり からから どんぶり

 形態素解析すると、
名詞:どんぶり 実 栃の木 渕 秋 縁
動詞:ある なる 落ちはじめる
副詞:からから
連体詞:その 大きな

 栃の木/実の構図です。抽象化すると、植物/実です。栃の木―落ちはじめる―実の図式です。

 大きな渕の縁に大きな栃の木があった[存在]。秋になってその実が落ちはじめた[結実]。

 大きな渕の縁にある栃の木から実が落ちはじめた……という内容です。

 発想の飛躍は実が落ちる様を「からから どんぶり」と形容することでしょうか。実―落ちはじめる―どんぶり/からからの図式です。

 栃の木ですので、どんぐりでしょう。秋になって実がなった様を描いています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.469.

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