文化・芸術

2025年10月22日 (水)

小ホールは例えば同人誌の即売会向きか――石央文化ホール

石央文化ホール、小ホールが実質的に大会議室だなと思っていたのだけど、例えば同人誌の即売会なんかはああいったフラットなスペースで催されたりもするのだった。デパートの催事場的な利用法もあるだろう。美術展はやらないだろうけど。グラントワにはないメリットがあった。

文学フリマという小説の同人誌を対象とした即売会がある。広島での開催実績はある。僕自身、同人誌のノウハウは持ち合わせていないし、現状、限られたリソースをそういった方向に割けないのであるが。

……本来の自分はインドア派で、バイタリティの無さは哀しくなるくらいだ。

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2025年9月20日 (土)

グラントワに行く 2025.09その2

午前10時過ぎに出て11時過ぎにグラントワに入る。森英恵展初日ということもあり駐車場の心配をしていたのだけど、無事確保できた。まず喫茶店で昼食を摂ってから森英恵展を見学する。

若くして頭角を現した人は違うなと感じさせられる。東京女子大卒業後、結婚したが洋裁を学んだとある。配偶者が繊維関係の仕事をしていたとのことで理解もあったのだろう。デザイン力だけでなく自己プロデュース力にも優れていたと思われる。新宿に開いた店で注目を集め映画の仕事を得て人脈を拡げていっている。渡欧、渡米してからの着眼点も優れていた。蝶のモチーフは出身地である吉賀町での記憶がベースにあるとのこと。

津和野藩所縁の絵画、主題は繊細、緻密に描き、背景の松の枝等は省略の意味合いもあるのか荒々しいタッチで描いている。写実一辺倒の西洋美術とは異なる魅力がある。

2時間ほど鑑賞してしばらく中庭で休憩する。水を張っているのだけど、トンボが産卵していた。あそこはビオトープではないのだけど、卵が孵化してヤゴになったとして生きていけるのだろうか。

グラントワ・中庭

夕方から小ホールで地元劇団による二本立ての演劇を鑑賞する。収容人数は462人。小ホールとはあるけど、実質的には中ホールである。客入りはよかった。どちらも一幕もので約一時間の上演時間。背景はプロジェクターで投影されているのだろうか。デジタルサイネージだとかなり大きなものになってしまうが。美術のコスト削減には繋がる。

まず益田の市民演劇集団ドリームカンパニーの「今宵、自販機コーナーで…」が上演される。調理師のおばちゃん的な登場人物が二名いるので道の駅的な施設だろうか、自販機コーナーに集まる常連客たちを描いた劇。口裂け女が出るという噂を聞きつけてやってきたルポライターの前で常連たちのドラマが繰り広げられる。

浜田の創作てんからっとは「LIFE goes on, bra!!」。物忘れが激しくなった舞台女優が浜田にUターンしてきて……といった形で始まる。僕は舞台はアリバイ程度にしか見ていないけど、NHK FMシアターは長年聴いていて、これがオーディオドラマならAIと人との交流に重点が置かれるかなと思った。

グラントワ小ホール・上演終了後

僕は演技力の類はよく分からない性質だけど、下北沢でみた劇団とさほど変わらないように思った。ある水準に達するとそこからは大きくは変化しないのかもしれない。

脚本は書式を憶えれば割と書けるようにはなると思う。それがドラマとなっているかは別として。だが、戯曲は脚本のように場面転換ができず、固定された舞台に人物の出入りでストーリーを展開していく形となるので途端に難易度があがる。経験者でないと書けないかもしれない。少なくとも僕には無理だ。

……地方小都市に必要なのはむしろ小ホール、中ホールなのかもしれない。政令指定都市だと区民ホールが中ホールくらいの規模である。

終わると外は大雨となっていた。雨の夜道は見づらく対向車がいない場面ではハイビームにして注意して走る。

<追記>
今回、メールで予約したのだけど、担当氏から返信が来る。公演ペースは団員の家庭の事情(仕事、子育て、介護etc)で年一回くらいが限界らしい。これはこれで書籍では得られない市民劇団特有の事情に関する貴重な情報ではある。

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2025年8月25日 (月)

グラントワに行く 2025.08

午前10時前に出て益田に向かう。山陰道は西村以西で工事のため終日通行止めだった。11時過ぎにグラントワにつく。

グラントワで加藤泉展をみる。安来出身でほぼ同世代の人。「人がた」というモチーフを主軸に据えているため、現代美術としては分かりやすいか。赤子のような胎児のような宇宙人のような仏像のような、といった感じ。

瞳と瞳の間がリアルより離れているのが異形感を醸し出している。性器はデフォルメされて描かれているので性別はあるらしい。乳房を持つものもあり年齢とは無関係のようだ。髪の流し方でこれは大人の男性なんだなというものもあり。

ソフビで造った、子供が遊んでいたら壊れてそのままになってしまったという感じの造形物がよかった。透明なソフビに内臓のような何かを入れて展示する、あれは僕らの世代だとミクロマンを連想させる。

外国のプラモデルは動物が題材だったりするのだなと知る。日本だとメカニカルなものがほとんどだろう。僕も海洋堂のチョコエッグは結構買ったけど、あれはプラモではないし。

高校生のときに描いた写実的な油絵がまず目に入るのだけど、美大に入るにはこれくらいの才能がないとダメなんだなと感じる。他のアーティストたちと組んでバンド活動も行っているらしい。即興演奏かどうかは分からないけど、バンドの演奏するインストゥルメンタルに合わせて詩を朗読するのは面白いと思った。

人がたに仮面を被せた絵があったのだけど、ジブリというか宮崎アニメを連想してしまった。宮崎作品にも元ネタがあるはずで、ある意味先祖返りしているのだろうかと思ったりもした。

……セルフ出版されたとある電子書籍で村上隆氏の発言が引用されていたのを思い出す。現代美術にはあるコンテクストがあって、それに沿った作品でないと欧米では評価されないのだと。本来なら自由に解釈していいはずなのだが、お金が絡むとそうなってしまうのだろう。見る人が見れば一発で分かる世界というのは確かにあって(※身近なところで言えば神社の狛犬。見る人が見れば産地が分かるそうだ)、そういう審美眼の上に現代美術の市場は成り立っているということだろうか。

石州和紙の展示も行われていた。津和野藩では二代目藩主が九州から楮(こうぞ)だったか、苗を数万本も購入して植え、後の特産品となったとのこと。三隅の石州和紙は浜田藩の系譜で、江津市桜江町の和紙が津和野藩の系譜とのこと。那賀郡と美濃郡は旧浜田藩領と旧津和野藩領とが混在していてよく分からない。紙で作られた下着が展示されていた。防寒具として用いられたらしい。そういえば、今でも新聞紙を緊急時にそういった使い方をしたりするんだったと思い出す。

浜田藩領は沿岸部だったこともあり、たたら製鉄など他の特産品もあり、和紙が特産品となったのはかなり後のこととあった。

映像を見ていた時間が長かったのだけど、展示を見終えたら午後2時を過ぎていた。喫茶店で休憩して帰る。

グラントワ・中庭
グラントワ・中庭の水面
パナソニックTX1で撮影。

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2025年5月30日 (金)

グラントワに行く 2025.05

益田市のグラントワ(石見美術館)に行き、企画展「石見の祈りと美―未来へつなぐ中世の宝―」を鑑賞する。石見に所縁の中世の仏像、戦国武将の肖像画、雪舟派の画人たち、益田家の家宝といった順で展示されていた。

駐車場から見たグラントワ
駐車場から見たグラントワ
グラントワ裏口

最後の益田家の家宝で刀剣が二本展示されていた。その内の一本は曽我兄弟の仇討ちに所縁の名刀であった。正確には仇討ちされた方だが、その子息(犬坊丸)に頼朝が下賜したものらしい。なので、この刀は弟の処刑の際に用いられた可能性も高い。そういった逸話を背負った名刀を実見することができるとは、と驚かされる。おそらく今回が最初で最後だろう。

刀文が美しいといった類のものではなかったが、鎌倉時代の刀が錆び一つない状態で現存していた。

益田氏はおそらく石見国に赴任した藤原氏の傍流がそのまま浜田市の下府川流域(伊甘郷)に定着して御神本(みかもと)氏を名乗り、その後、益田氏、周布氏、三隅氏、福屋氏と分派していった。三隅氏と福屋氏は滅んだが、益田氏と周布氏は毛利の重臣として存続している。石見は平野が少ない土地柄なのだけど、都に戻っても出世の見込みがないから地方に活路を見出したというところか。

雪舟の新筆とされる屏風も展示されていた。遠近法は用いられていないが、手前の松や岩は太い描線で大胆に描き、後方のものは描線が細く淡くなっている。全体にモノトーンに近い色合いで構成されていて、ワンポイント的に赤が配色されている。鳥は羽毛が細かに描画されておりしっかり観察された上で描かれていることが分かる。

高弟の描いた屏風も展示されていて、こちらは金箔も使っているのか鮮やかだけど、桜だろうか、花が咲いた樹木の描写はまるでノイズリダクションが強くかかった画像のようなタッチだった。それは画像を拡大して分かるもので「塗り絵みたい」と言われたりするのだけど、結果的に似たような効果となっている。

毛利元就の肖像画は画像では見たことがあるはずだけど、実物をみるのは初めて。

奉納された馬の絵画も展示されていた。白馬と黒馬か。日照りの際と長雨の際とで奉納される馬の種類が異なるのだそうだけど、どちらがどちらなのかは忘れた。

大麻山の絵巻も展示されていた。かつてあった尊勝寺の模様が描かれている。現在日本庭園が設けられているのはどの辺りだったのかは判別できなかった。

一旦、トイレ休憩で外に出る。チケットを提示すれば再入場可能とのこと。

それからコレクション展に回る。「石見人 森林太郎、美術ヲ好ム」では森鴎外と親交のあった画家たちの作品が展示されていた。当時はまだ洋画の地位が低く、鴎外は洋画の地位を向上させるべく活発な評論活動を行ったとのこと。

洋の東西の異なる画風を今回同時に鑑賞することができた。

年表をみて気づいたのだが、三十代前半で要職についている。明治の人は若くして出世したというが、鴎外はその典型例であった。

次に「技と美 石見根付の世界」を鑑賞する。素材としては猪の牙が多かった。猪の牙はこんなに大きいのか、これに刺されたら確かに動脈まで傷つけられてしまうと感じた。他にも素材はあって、鯨歯が用いられているものもあった。

細かい細工が施されている。昔、チョコエッグという食玩が流行ったことがあって、チョコレートでコーティングされた卵型のカプセルの中に海洋堂の動物のフィギュアが入っているというものだった。僕も何種類か集めたのだけれど、小さいことに価値を見出すというのか、それに近い趣味性を感じた。

現代根付で蛙の交尾の様を彫った作品の着眼点が面白いなと思った。

最後は「コレクションにみる女性」。石見美術館に収蔵されている女性作家の作品を集めたもの。入口付近に展示されていた作品、メモをとることができず名前は失念したが、デンマークの女性美術家だった。年頃の娘を描いた絵が展示されているのだけど、その顔立ちが少女漫画のそれと似ていると感じた。1914年の作品だけど、およそ50~60年くらい先行していたといった感じだろうか。アールヌーボーか、そういった画風も漫画のルーツの一つなのかもしれない。

この絵はポストカードにして土産物売り場で売ってもいいのではないかと思った。そう思うのは僕くらいかもしれないが。僕は姉がいるので子供の頃から少女漫画は読んでいて抵抗感がないのはある。

見終えて、レストランで休憩する。ランチは11時から14時まで。およそ2500円くらい。地方の小都市のレストランとしては本格的なメニューだった。和牛ステーキは予約が必要とあった。食欲がなかったのでケーキセットを注文する。

グラントワのレストランから見た外側

休憩を含めて三時間ほどの滞在時間であった。平日だったので来場客は少なくじっくり鑑賞できた。雪舟の屏風はちょうど手前に長椅子が置かれていたので、そこに座ってずっと見ていたくもあった(尿意で退場したが)。

益田までは往復80㎞ほど。去年の12月に安彦良和展で訪れた際は引っ越しの疲労感が抜けておらず、翌日以降も数日間何も手につかなかった。今回も帰宅後、ドッと疲れが出た。前回に比べたら回復傾向にはあるけれど、体力がかなり落ちていることは否めない。どこまで戻すことができるか分からないが、ロングドライブが厳しくなっている。

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