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2026年5月23日 (土)

昔話の計量テキスト分析――えんこう(獲物)

◆はじめに

以下はKH Coder(無償版:version 3.Beta.08e)を用いた昔話の計量テキスト分析である。昔話の類話の比較にツールを利用できないか試行してみた。

手持ちの資料が限られるため、分析の対象となる元データの文字数が少ないものの(※本来であれば5000字以上は欲しい)、分析自体は正常に処理されていると判断した。

KH Coderの操作に慣れる目的も兼ねて行った作業で、コーディングルールの記述の事例集、あるいは速習用のチュートリアルとしてでも読んで頂ければ……といったところである。

なお、KH Coderでよく用いられるのは共起ネットワークと対応分析とのことで、それ以外はおまけパートと思って頂いて構わない。操作に習熟するにはコーディングルールの記述に慣れるのが第一である。

◆ファイル

各ファイルをダウンロードしてKH Coderに読み込ませれば同様の分析が再現可能である。

ダウンロード - ca_017_enkoemono.xlsx

ダウンロード - ca_017_codingrules.txt

ダウンロード - ca_017_codingrules_b.txt (※否定詞の比較検討用)

ダウンロード - kh_coder_startingedition_sagyotejunsho.txt (※作業手順書)

※「H5」とはHTMLでいうところのヘッダー(見出し)・レベル5で本文に相当すると考えればよい。
※[コーディング単位]は「文/段落/H5」から選べるが、状況に応じて適切と思われるものを選択する必要がある。処理が上手くいかないと感じた場合、コーディング単位を切り替えると上手く処理されるケースがままある。

※公式マニュアルでは「集計単位」という用語が使われている。共起関係について、

・「文」では一文単位での分析
・「段落」では段落単位の分析
・「H5」では表計算ソフトのセル単位とされ、改行を含めた一セルの中身全体が分析単位となる

※レファレンスでも索引で「コーディング単位」の項目は設けられていない。操作性に関わる重要項目であるものの、その仕様について不明瞭な感はある。
※当ブログの場合、表計算ソフトのフォーマットで読み込ませているからH5固定でいいだろうと思い込んでいたら、さにあらずだった。

◆あらすじ

・「えんこうの手紙」(未来社『石見の民話』)
明治の中頃、大田市の鳥居村に喜三郎という魚商人がいた。ある日出雲の国との境の邑智郡の奥へ行って、帰りに小原村の江川のほとりを通ると、手ぬぐいを深く被った女がなれなれしく声をかけてきた。静間を通って大田へ帰るのかと訊くので、その通りと答えると、手紙を渡して、それを静間の神田の渕へ投げ込むように頼まれた。魚商人は手紙を受け取った。魚商人は川合の町まで帰ると、岩谷屋という店で酒を一杯飲んだ。そして主人に先ほどのことを話すと、静間川の神田の渕はえんこう(河童)の住処だと言って、その手紙を見せろとなった。そこで手紙を開くと、人間の文字ではなくみみずののたくった痕のようなものが書いてあった。これは江川のえんこうが化けたもので、魚商人をとるようにと神田の渕のえんこうに合図したのに違いないとなった。震え上がった魚商人は店主に相談して手紙を焼いてしまった。魚商人は川合から道をかえて長久を通って家へ帰った。それからは用事があっても静間川の方へは決して行かなかった。


・「隅の庄九郎」(未来社『石見の民話』)
昔、隅の庄九郎という男が上方へ行った帰りに三隅の辺りで日が暮れた。どこか宿を借りる様な所はないかと思って探したが、家が一軒もない。これは困ったものだと思って仕方なしに歩いていると、川のほとりに一軒の家があった。これはいいことだと思って、日が暮れて泊まるところがないので困っているが、ひとつ泊めてくれないかと言うと、泊めてあげようと言うので泊めてもらった。上へあがって食事を済ませて休んでいると、しばらく経ってから、前の川の中から、今夜も漁に行こうと言うものがある。今夜はどこへ行くかと宿の主人が言うと、今夜は寺の土井の又三郎を取りに行こうと川の中から言った。庄九郎はこれを聞くとびっくりした。どうもこの様子を見ると、この家の主人は人間ではなくえんこうらしいのである。庄九郎は恐ろしくなってぶるぶる震えだした。主人はそれを見ると、お前はそんなに恐れなくてもいい。何、お前は隅の庄九郎といって人のよい男だから取ったりしない。安心して寝るがよい。寺の土井の又三郎という男は川のほとりをびっしり歩き回って川を荒らすから、それで取ってくるというのだと言った。寺の土井の又三郎は津和野の殿さまの言いつけで、いつも堤防を直したり、井堰を作って水を上げたりしていたので、えんこうのいる所が壊されて住みにくくなるので、えんこうたちが取りにいこうとしたのであった。男はそう言って出ていった。しかし、取ることはできなかった模様で、又三郎が川で死んだという話はなく、長生きして沢山の仕事をした。


◆コーディングルール

※コーディングルールのキーワードは重要と判断したものを人力でピックアップしている。そのため、恣意性を伴う分析となる。

※活用形でなく基本形で入力する。

※[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか検索すると結果の一覧[語の抽出結果]が表示される。

※[Result]から確認したい行をクリックして選択、画面下の[詳細表示]ボタンをクリックするとサブ画面が表示され、活用形や基本形が確認できる。

※昔話では「否定/肯定」「肯定/否定」と属性が変化することが多いと考え、否定詞「ない」「まい」「ぬ」「ん」、また禁止を意味する「な」を共通のコードとして設定している。

※「できる」「やる」「られる」「せる」といった動詞も共通のコードとして追加してみた。

※[関連語検索]で否定詞の共起語の一覧を表示させたところ、日本の昔話のように掌編レベルのボリュームだと、物語の動因となる箇所に関する語句が上位に表示される傾向が強いのではないか……といった印象があり、検証作業中である。

※無償版では強制抽出語の指定が機能制限で事実上使用できないため以下のような手法をとっている。


*鳥居村
'鳥居村'
*喜三郎
'喜三郎' or '魚商人'
*静間
静間 or '静間川'
*えんこう
'えんこう'
*とる
とる or 取る
*庄九郎
'庄九郎'
*又三郎
'又三郎'
*泊まる
泊まる or 泊める
*荒らす
荒らす or 壊す
*仕事
仕事 or ( 堤防 and 直す ) or ( '井堰' and 作る )

*ない
ない
*ぬ

*ん

*るな
'るな'
*るまい
'るまい'

*できる
できる
*やる
やる
*られる
られる
*せる
せる

*江川
江川
*女

*手紙
手紙
*渕

*頼む
頼む
*店

*主人
主人
*痕

*焼く
焼く
*三隅
三隅
*宿
宿
*家

*川

*ほとり
ほとり
*漁

*男

*殿さま
殿さま
*死ぬ
死ぬ
*長生き
長生き


◆共起ネットワーク

・[ツール]→[コーディング]→[共起ネットワーク]でオプション画面が表示される。
・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[描画する共起関係(edge)の選択]で「係数」を「0.2」から「0.3」に修正する。
※[強い共起関係ほど濃い線に]にチェックを入れる。

Jaccard係数が0.3以上はかなり強い共起関係にあることを示しているが、分析対象となる元データの文字数が少ないため係数が高めに出てしまう傾向にあるため、こうしている。

※Jaccard係数は共起関係(※ある言葉に続いて出てくる関係)の強さを表し 0≦係数≦1 の範囲の値をとる。

【Jaccard係数】
・0.1 →関連あり
・0.2 →強い関連あり
・0.3以上 →とても強い関連あり
※ただし、あくまで目安であって絶対ではない。

共起ネットワーク

ざっと確認したところ、共通するキーワードが中央のサブグラフ(バブルが島状に集まった一塊)に表示され、類話毎に異なるキーワードが上下のサブグラフに表示される形となっている。

※なお、各バブル間の距離や配置に意味はない。

◆対応分析

・[ツール]→[コーディング]→[対応分析]でオプション画面が表示される。
・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[外部変数]は[タイトル]のまま続行。
※[差異が顕著なコードを分析に使用]で上位「40」とした。また[バブルプロット]にチェックを入れている。これらは文字の重なりを極力避けるためである。
※文字が重なって読みづらい場合、オプション画面の[コード選択]で不要なコードのチェックを外してもよい。

対応分析

x、y軸上の原点(0.0)から点線が伸び交差した箇所が原点となる。原点から離れるほど特徴的なキーワードだと分析される。

原点付近には「えんこう」「主人」「とる」といったキーワードがプロットされている。離れた位置にプロットされているのは「えんこうの手紙」では「渕」「焼く」「手紙」、「隅の庄九郎」では「泊まる」「又三郎」「荒らす」といった辺りである。

◆解釈

えんこうが人間を獲物として狙うお話である。手紙は立ち寄った店の主人に見破られて事なきを得る。三隅の又三郎はいかなる理由か明かされていないが、命を狙われはするものの寿命を全うしている。

◆階層的クラスター分析

・[ツール]→[コーディング]→[階層的クラスター分析]でオプション画面が表示される。
・[コーディング単位]を[文]に変更、実行するとデンドログラム(樹状図)で可視化される。

※キーワード指定しても可。

階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)
階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)

概ねストーリー展開に沿った形でクラスター化されている。

◆クロス集計

・[コーディング単位]を[文]に変更、[タイトル]で[集計]する。

クロス集計

クロス集計をかけたところ、「喜三郎」「手紙」といったキーワードでカイ(χ)2乗値で相関関係を示す結果(※マーク)が得られた。

クロス集計・バブルマップ

マップとして描画したところ、「喜三郎」「静間」「手紙」「渕」といったキーワードの残差が大きく(濃く)表示される結果となった。バブルとしては「喜三郎」「手紙」が大きく描画された。

◆KWICコンコーダンス

現状ではテキストマイニングのツールに文脈を読む性能はないため実際に該当箇所を読んで人力で判断する他ない。KWICコンコーダンスでキーワード指定すれば指定したキーワードがどのような文脈で用いられているか一覧で抽出される。

KWICコンコーダンス
KWICコンコーダンス・文書表示

◆関連語検索

・[集計単位]を[文]に変更、[集計]する。
・[Search Entry:]の一覧からキーワードを選択してダブルクリックすると[Result]に指定したキーワードの品詞や共起関係が表示される。

関連語検索

※[Result:]から行指定してダブルクリックするとKWICコンコーダンスに遷移する。
※[Result:]の一覧から範囲指定して[コピー]したものを表計算ソフトやテキストファイルにペーストすることも可能である。

[#直接入力]を指定して「しごく」といったキーワードで検索すると関連語が一覧で表示される。

関連語検索

◆属性の転倒

・「ない」の結果上位一覧

N 抽出語 品詞 全体 共起 Jaccard
1 思う 動詞  3 (0.111)  3 (0.300) 0.3
2 名詞C  4 (0.148)  3 (0.300) 0.2727
3 一軒 名詞  2 (0.074)  2 (0.200) 0.2
4 見る 動詞  2 (0.074)  2 (0.200) 0.2
5 困る 動詞  2 (0.074)  2 (0.200) 0.2
6 人間 名詞  2 (0.074)  2 (0.200) 0.2
7 主人 名詞  4 (0.148)  2 (0.200) 0.1667
8 取る 動詞  5 (0.185)  2 (0.200) 0.1538
9 名詞C  5 (0.185)  2 (0.200) 0.1538
10 ひとつ 副詞可能  1 (0.037)  1 (0.100) 0.1

・「ぬ」の結果上位一覧

N 抽出語 品詞 全体 共起 Jaccard
1 開く 動詞  1 (0.037)  1 (1.000) 1
2 名詞C  1 (0.037)  1 (1.000) 1
3 書く 動詞  1 (0.037)  1 (1.000) 1
4 文字 名詞  1 (0.037)  1 (1.000) 1
5 人間 名詞  2 (0.074)  1 (1.000) 0.5
6 手紙 名詞  5 (0.185)  1 (1.000) 0.2

えんこうに命を狙われた男が事なきを得る……といった粗筋となっている。

短いお話の中で属性の転倒を多用するのが昔話の特徴の一つと考えられる。

ここで「/」(スラッシュ)を「転倒」を意味する記号として用いる。スラッシュは様々な場面で用いられていて文脈依存的な記号という欠点もあるが、視覚的にはイメージしやすいと判断した。

・[主人|手紙:開く/焼く]
・[手紙|開く:人間/えんこう]
・[主人|声:人間/えんこう]

こういった風にお話を転がしていると分析できる。庄九郎が迷い込んだ家の主人は川から聞こえてきた声によって「人間/えんこう」と転倒し、正体が明らかとなる。

※なお、図式化には分析対象のテキストに含まれない語句も用いているので要注意。

※関連語検索、強制抽出語を設定しないと狙い通りに処理されないケースが見られる。

◆類似度行列

・[コーディング単位]を[文]に変更して[集計]。Jaccard係数がマトリクス形式で確認できる。

類似度行列

・ある列を選択して画面右下の[コピー(選択列)]をクリックすると、当該のキーワードに関するJaccard係数がコピーされるので、それを表計算ソフトにペーストするといった利用が可能となる。

※当ブログでは[コーディング単位]が[段落][H5]の場合、Jacccard係数が1.0~0.5といった結果がほとんどで、意味のない結果となった。

◆多次元尺度構成法

・[ツール]→[コーディング]→[多次元尺度構成法]でオプション画面が表示される。
・[コーディング単位]を[H5]から[文]に変更。
・[クリア]ボタンをクリックしてコード選択を一旦リセット、共起関係を確認したいキーワードを指定。
・次元を「2」から「3」に変更して実行、三次元のマップとした。

多次元尺度構成法

えんこうが獲物を狙うくだりに関するキーワードを指定したところ、「庄九郎」が離れた位置にプロットされた。

※選択するキーワードによって相対的な位置関係は変わり得る。

※実行すると指定したキーワードの幾つかが除外されるとメッセージが表示される。テキストのボリューム不足のためか無償版の仕様によるものか判断がつかない。
※当ブログの事例では「文」以外、「段落」「H5」では除外されるキーワードが増える傾向となった。

◆自己組織化マップ

・[ツール]→[コーディング]→[自己組織化マップ]でオプション画面が表示される。
・[コーディング単位]は[文]で固定。

自己組織化マップ

記述内容が視覚的に整理され、類似性の高い内容が近くに配置される。概ねストーリーに沿った形で各クラスターが表示される。

※クラスター化の計算を繰り返すため処理に時間がかかるので要注意。
※クラスターの配置、距離に意味はない。

◆トピックの推定

・[ツール]→[文書]→[トピックモデル]→[トピックの推定]を選択。
・[集計単位]は[文]で固定。
・[OK]ボタンをクリックすると、[トピックの推定結果]画面が表示される。

トピックの推定

・各トピックで高い確率で出現する語句がリストアップされる。
・[#1]といった欄をクリックすると、文書検索画面が表示される。

トピックの推定・文書検索

◆ベイズ学習による分類

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[外部変数から学習]を選択。
・[分類の単位]を[文]に変更。
・[学習する外部変数]は「利用不可」。
・[OK]ボタンをクリックすると、ファイルの保存画面が表示されるので、任意のファイル名を記述して保存する。

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[学習結果ファイルの内容を確認]を選択。ファイル選択画面が開くので、先ほど保存したファイルを指定して開く。すると[学習結果ファイル]画面が開くので内容の確認を行う。

ベイズ学習による分類

※[学習結果を用いた自動分類]については割愛する。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]は固有名詞などを強制抽出語としてあらかじめ指定しておかないと正確に分析されないケースが生じる。正式に利用したい際は有償版の購入をお勧めする。当ブログのはあくまでテストケースとしてのものである。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]はコーディング・ルールに依らない分析手法となるが、筆者の能力的に追及はしない。

◆参考文献

・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.44-45, 394-395.
・『動かして学ぶ!はじめてのテキストマイニング』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2022)
・『社会調査のための計量テキスト分析 【第2版】 内容分析の継承と発展を目指して』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2020)

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