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2026年4月 2日 (木)

昔話の計量テキスト分析――母の面と鬼の面

◆はじめに

以下はKH Coder(無償版:version 3.Beta.08e)を用いた昔話の計量テキスト分析である。昔話の類話の比較にツールを利用できないか試行してみた。

手持ちの資料が限られるため、分析の対象となる元データの文字数が少ないものの(※本来であれば5000字以上は欲しい)、分析自体は正常に処理されていると判断した。

KH Coderの操作に慣れる目的も兼ねて行った作業で、コーディングルールの記述の事例集、あるいは速習用のチュートリアルとしてでも読んで頂ければ……といったところである。

なお、KH Coderでよく用いられるのは共起ネットワークと対応分析とのことで、それ以外はおまけパートと思って頂いて構わない。操作に習熟するにはコーディングルールの記述に慣れるのが第一である。

◆ファイル

各ファイルをダウンロードしてKH Coderに読み込ませれば同様の分析が再現可能である。

ダウンロード - ca_pb_024_hahanomen.xlsx

ダウンロード - ca_pb_024_codingrules.txt

ダウンロード - kh_coder_startingedition_sagyotejunsho.txt (※作業手順書)

※「H5」とはHTMLでいうところのヘッダー(見出し)・レベル5で本文に相当すると考えればよい。
※[コーディング単位]は「文/段落/H5」から選べるが、状況に応じて適切と思われるものを選択する必要がある。処理が上手くいかないと感じた場合、コーディング単位を切り替えると上手く処理されるケースがままある。

※公式マニュアルでは「集計単位」という用語が使われている。共起関係について、

・「文」では一文単位での分析
・「段落」では段落単位の分析
・「H5」では表計算ソフトのセル単位とされ、改行を含めた一セルの中身全体が分析単位となる

※レファレンスでも索引で「コーディング単位」の項目は設けられていない。操作性に関わる重要項目であるものの、その仕様について不明瞭な感はある。
※当ブログの場合、表計算ソフトのフォーマットで読み込ませているからH5固定でいいだろうと思い込んでいたら、さにあらずだった。

◆あらすじ

・「母の面と鬼の面」(未来社『石見の民話』)
親孝行な娘がいた。隣の村の財産家に子守り奉公していた。あるときお祭りがあったので、子供を背負ってお宮へ行った。すると、お母さんによく似た面を売っていたので買って帰った。それからは毎晩寝るときに、その面を箱から出して「お母さん、おやすみなさい」と言い、朝起きたときには「お母さん、お早うございます」と挨拶をした。それを下男が見つけて、ある日鬼の面とすり替えておいた。娘はそんなことは知らず、いつもの様に寝る前に取り出してみると、大変恐ろしい顔になっているので、びっくりした。どうしてこんなに機嫌が悪いのだろうか、それともどこか具合が悪いのだろうかと思うと、どうしても眠ることができない。そこで夜が明けるのを待ちきれないので主人に訳を話して親元へ泊まりに行かしてもらうよう頼むと、主人は泊まりに行ってもよいが、明日の朝にしてはどうかと言ったが、娘は心配でたまらないからすぐ行かせてくれと頼んだ。主人はそれなら行きなさいと言ったので、娘は喜んで早速出発した。隣村との境に峠があった。そこへ差し掛かると山賊が五六人出て娘を捕まえてしまった。山賊は自分たちは男ばかりで女がいないので困っている。お前はこれから飯炊きをせよと言うので、娘は仕方なく火を焚きはじめたが、中々うまく燃えない。煙たくてたまらないので、娘は箱の中から鬼の面を取りだして、それを被って火を焚いていると、ようやく火がボーッと燃え上がった。その灯りで山賊たちが娘の顔を見ると、いつの間にか鬼になっているので、びっくり仰天して「鬼が来た」と言って一目散に逃げ出した。娘は山賊たちが置いていったお金を持って家へ帰ってみるとお母さんは何のこともなく、元気で迎えてくれた。


・「おにの面」(日本標準『島根のむかし話』)
昔、仁多の奥の娘が町に奉公することになった。娘は母親思いだったから、町で母によく似た面を買って行李に入れて奉公先に行った。そうして毎日毎日、夜になると「お母さん、今日も無事で暮らしました。お母さんも無事で暮らしてください」と話しかけていた。そうしたらある日、そこの親方がこっそりそれを見て「何を見て毎日ぶつぶつ言っているのか」と行李をそっと開けてみた。すると、行李の中に女の面が入っていたから「それならこうしてやれ」と代わりに鬼の面を入れておいた。明くる晩、「里のお母さんはどうしているか」と思って行李の蓋をとってみたら、母親の面が鬼の面になっていた。これはどうしたことか。なにか変わったことがあったに違いない。急いで帰らなければと親方に暇をもらって里へ帰らせてもらうことにした。あくる朝、早く出たが峠まで来たら日が暮れてしまった。それでも歩いていってたら、向こうに灯りが見えてきた。やれ嬉しやとどんどん急いでいった。行ってみたら、恐ろし気な顔をした男たちが焚火をして酒を飲んでいた。その中の男が娘を見つけてお前はこんな晩にどこへ行くのか。ここで火焚きの手伝いでもせよと捕まえてしまった。許してください。自分は帰らないといけないからと言ったけれども、こらえてくれない。夜が明けるまでは仕方ないと思って火を焚いてやった。が、生の木もあったので煙が出て煙たくていけない。仕方がないので荷物の中から鬼の面を取り出して被った。そうしたら、男の中の一人がこれを見て、あの娘が鬼になってしまった。あれは鬼だったと皆、飛んで逃げてしまった。後には沢山の銭が残っていたので風呂敷に包んで持って帰った。帰ってみると、母親は病気でなかったし、家も変わりなかった。二人はそれから仲良く暮らした。


◆コーディングルール

※コーディングルールのキーワードは重要と判断したものを人力でピックアップしている。そのため、恣意性を伴う分析となる。

※活用形でなく基本形で入力する。

※[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか検索すると結果の一覧[語の抽出結果]が表示される。

※[Result]から確認したい行をクリックして選択、画面下の[詳細表示]ボタンをクリックするとサブ画面が表示され、活用形や基本形が確認できる。

※昔話では「否定/肯定」「肯定/否定」と属性が変化することが多いと考え、否定詞「ない」「まい」「ぬ」「ん」、また禁止を意味する「な」を共通のコードとして設定している。

※[関連語検索]で否定詞の共起語の一覧を表示させたところ、日本の昔話のように掌編レベルのボリュームだと、物語の動因となる箇所に関する語句が上位に表示される傾向が強いのではないか……といった印象があり、検証作業中である。

※無償版では強制抽出語の指定が機能制限で事実上使用できないため以下のような手法をとっている。


*隣村
隣村 or ( 隣 and 村 )
*財産家
'財産家'
*母
お母さん or 母親 or 母
*箱
箱 or 行李
*火
火 or 焚火
*金
金 or 銭
*親元
親元 or 里
*元気
元気 or ( 病気 and ない )

*ない
ない
*ぬ

*ん

*るな
'るな'
*るまい
'るまい'

*孝行
孝行
*娘

*家

*奉公
奉公
*祭り
祭り
*面

*挨拶
挨拶
*下男
下男
*鬼

*すり替える
すり替える
*機嫌
機嫌
*具合
具合
*夜

*峠

*山賊
山賊
*男

*女

*飯炊き
飯炊き
*焚く
焚く
*煙たい
煙たい
*仁多
仁多
*町

*暇

*捕まえる
捕まえる
*逃げる
逃げる
*変わる
変わる
*主人
主人
*親方
親方


◆共起ネットワーク

・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[描画する共起関係(edge)の選択]で「係数」を「0.2」から「0.3」に修正する。
※[強い共起関係ほど濃い線に]にチェックを入れる。

Jaccard係数が0.3以上はかなり強い共起関係にあることを示しているが、分析対象となる元データの文字数が少ないため係数が高めに出てしまう傾向にあるため、こうしている。

※Jaccard係数は共起関係(※ある言葉に続いて出てくる関係)の強さを表し 0≦係数≦1 の範囲の値をとる。

【Jaccard係数】
・0.1 →関連あり
・0.2 →強い関連あり
・0.3以上 →とても強い関連あり
※ただし、あくまで目安であって絶対ではない。

共起ネットワーク

ざっと確認したところ、共通するキーワードが中央のサブグラフ(バブルが島状に集まった一塊)に表示され、類話によって異なるキーワードがそれぞれのサブグラフとして周辺に表示される形となっている。

※なお、各バブル間の距離や配置に意味はない。

◆対応分析

・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[外部変数]は[タイトル]のまま続行。
※[差異が顕著なコードを分析に使用]で上位「40」とした。また[バブルプロット]にチェックを入れている。これらは文字の重なりを極力避けるためである。
※文字が重なって読みづらい場合、オプション画面の[コード選択]で不要なコードのチェックを外してもよい。

対応分析

x、y軸上の原点(0.0)から点線が伸び交差した箇所が原点となる。原点から離れるほど特徴的なキーワードだと分析される。

原点付近に「娘」「母」「面」「鬼」といったキーワードが多数プロットされている。未来社版では「山賊」「下男」「主人」といったキーワードが原点から離れてプロットされている。日本標準版では「仁多」「親方」「暇」といったキーワードが特徴的なキーワードとされている。

◆解釈

どちらもほぼ同じ内容である。山中で娘を捕まえるのが未来社版では山賊、日本標準版では恐ろし気な男たちといった程度の差である。

◆階層的クラスター分析

・[コーディング単位]を[文]に変更、実行するとデンドログラム(樹状図)で可視化される。

※キーワード指定しても可。

階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)
階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)

概ねストーリーに沿った内容でクラスター化されている。

※当ブログの場合、[コーディング単位]が[段落][H5]だと、コードを全て選択するとエラーが返される結果となった。

◆クロス集計

・[コーディング単位]を[文]に変更、[集計]する。

※「タイトル」で集計をかけた。

クロス集計

クロス集計をかけたところ、「娘」といったキーワードでカイ(χ)2乗値で相関関係を示す結果(※マーク)が得られた。

クロス集計・バブルマップ

マップとして描画したところ、「娘」「隣村」「山賊」といったキーワードの残差が大きく(濃く)表示される結果となった。バブルとしては「娘」が大きく描画された。

◆KWICコンコーダンス

現状ではテキストマイニングのツールに文脈を読む性能はないため実際に該当箇所を読んで人力で判断する他ない。KWICコンコーダンスでキーワード指定すれば指定したキーワードがどのような文脈で用いられているか一覧で抽出される。

KWICコンコーダンス
KWICコンコーダンス・文書表示

◆関連語検索

・[集計単位]を[文]に変更、[集計]する。
・[Search Entry:]の一覧からキーワードを選択してダブルクリックすると[Result]に指定したキーワードの品詞や共起関係が表示される。

関連語検索

※[Result:]から行指定してダブルクリックするとKWICコンコーダンスに遷移する。
※[Result:]の一覧から範囲指定して[コピー]したものを表計算ソフトやテキストファイルにペーストすることも可能である。

[#直接入力]を指定して「煙たい」といったキーワードで検索すると関連語が一覧で表示される。

関連語検索

◆属性の転倒

・「ない」の結果上位一覧

N 抽出語 品詞 全体 共起 Jaccard
1 帰る 動詞  6 (0.140)  4 (0.333) 0.2857
2 仕方 ナイ形容  3 (0.070)  3 (0.250) 0.25
3 言う 動詞  7 (0.163)  3 (0.250) 0.1875
4 名詞C  2 (0.047)  2 (0.167) 0.1667
5 自分 名詞  2 (0.047)  2 (0.167) 0.1667
6 変わる 動詞  2 (0.047)  2 (0.167) 0.1667
7 明ける 動詞  2 (0.047)  2 (0.167) 0.1667
8 思う 動詞  3 (0.070)  2 (0.167) 0.1538
9 副詞可能  3 (0.070)  2 (0.167) 0.1538
10 名詞C  4 (0.093)  2 (0.167) 0.1429
11 山賊 名詞  4 (0.093)  2 (0.167) 0.1429
12 焚く 動詞  4 (0.093)  2 (0.167) 0.1429

大事にしていた母の面が鬼の面に変わっていたので、もしや母の身に何か異変が起きたのではないかと娘は村へ戻ろうとするが、途中で山賊に捕まってしまい……といった粗筋となっている。

短いお話の中で属性の転倒を多用するのが昔話の特徴の一つと考えられる。

ここで「/」(スラッシュ)を「転倒」を意味する記号として用いる。スラッシュは様々な場面で用いられていて文脈依存的な記号という欠点もあるが、視覚的にはイメージしやすいと判断した。

・[娘|面:母/鬼]
・[山賊|娘:娘/鬼]
・[娘|母:案じる/安心]

こういった風にお話を転がしていると分析できる。娘は母を「案じる/安心」へと転倒する。

◆類似度行列

・[コーディング単位]を[文]に変更して[集計]。Jaccard係数がマトリクス形式で確認できる。

類似度行列

・ある列を選択して画面右下の[コピー(選択列)]をクリックすると、当該のキーワードに関するJaccard係数がコピーされるので、それを表計算ソフトにペーストするといった利用が可能となる。

※当ブログでは[コーディング単位]が[段落][H5]の場合、Jacccard係数が1.0~0.5といった結果がほとんどで、意味のない結果となった。

◆多次元尺度構成法

・[コーディング単位]を[文]に変更して実行。
・共起関係を確認したいキーワードを指定。
・次元を「2」から「3」に変更して実行、三次元のマップとした。

多次元尺度構成法

母の面が鬼の面にすり替えられる粗筋に関連したキーワードを指定したところ、「母」「親方」が離れた位置にプロットされた。

※選択するキーワードによって相対的な位置関係は変わり得る。

※実行すると指定したキーワードの幾つかが除外されるとメッセージが表示される。テキストのボリューム不足のためか無償版の仕様によるものか判断がつかない。
※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」では除外されるキーワードが増える傾向となった。

◆自己組織化マップ

[コーディング単位]を[文]に変更して実行。

自己組織化マップ

記述内容が視覚的に整理され、類似性の高い内容が近くに配置される。概ねストーリーに沿った形で各クラスターが表示される。

※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」ではエラーが返される結果となった。
※クラスター化の計算を繰り返すため処理に時間がかかるので要注意。
※クラスターの配置、距離に意味はない。

◆トピックの推定

・[ツール]→[文書]→[トピックモデル]→[トピックの推定]を選択。
・[集計単位]を[文]に変更。
・[OK]ボタンをクリックすると、[トピックの推定結果]画面が表示される。

トピックの推定

・各トピックで高い確率で出現する語句がリストアップされる。
・[#1]といった欄をクリックすると、文書検索画面が表示される。

トピックの推定・文書検索

◆ベイズ学習による分類

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[外部変数から学習]を選択。
・[分類の単位]を[文]に変更。
・[学習する外部変数]は[書名]に変更する。
 ※「タイトル」のままでもよし。
・[OK]ボタンをクリックすると、ファイルの保存画面が表示されるので、任意のファイル名を記述して保存する。

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[学習結果ファイルの内容を確認]を選択。ファイル選択画面が開くので、先ほど保存したファイルを指定して開く。すると[学習結果ファイル]画面が開くので内容の確認を行う。

ベイズ学習による分類

※[学習結果を用いた自動分類]については割愛する。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]は固有名詞などを強制抽出語としてあらかじめ指定しておかないと正確に分析されないケースが生じる。正式に利用したい際は有償版の購入をお勧めする。当ブログのはあくまでテストケースとしてのものである。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]はコーディング・ルールに依らない分析手法となるが、筆者の能力的に追及はしない。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.215-216.
・『島根のむかし話』(島根県小・中学校国語教育研究会/編著, 日本標準, 1976)pp.71-74.
・『動かして学ぶ!はじめてのテキストマイニング』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2022)
・『社会調査のための計量テキスト分析 【第2版】 内容分析の継承と発展を目指して』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2020)

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