昔話の計量テキスト分析――大きな話(単話分析)
◆はじめに
以下はKH Coder(無償版:version 3.Beta.08e)を用いた昔話の計量テキスト分析である。昔話の類話の比較にツールを利用できないか試行してみた。
手持ちの資料が限られるため、分析の対象となる元データの文字数が少ないものの(※本来であれば5000字以上は欲しい)、分析自体は正常に処理されていると判断した。
KH Coderの操作に慣れる目的も兼ねて行った作業で、コーディングルールの記述の事例集、あるいは速習用のチュートリアルとしてでも読んで頂ければ……といったところである。
なお、KH Coderでよく用いられるのは共起ネットワークと対応分析とのことで、それ以外はおまけパートと思って頂いて構わない。操作に習熟するにはコーディングルールの記述に慣れるのが第一である。
◆ファイル
各ファイルをダウンロードしてKH Coderに読み込ませれば同様の分析が再現可能である。
ダウンロード - kh_coder_startingedition_sagyotejunsho.txt (※作業手順書)
※「H5」とはHTMLでいうところのヘッダー(見出し)・レベル5で本文に相当すると考えればよい。
※[コーディング単位]は「文/段落/H5」から選べるが、状況に応じて適切と思われるものを選択する必要がある。処理が上手くいかないと感じた場合、コーディング単位を切り替えると上手く処理されるケースがままある。
※公式マニュアルでは「集計単位」という用語が使われている。共起関係について、
・「文」では一文単位での分析
・「段落」では段落単位の分析
・「H5」では表計算ソフトのセル単位とされ、改行を含めた一セルの中身全体が分析単位となる
※レファレンスでも索引で「コーディング単位」の項目は設けられていない。操作性に関わる重要項目であるものの、その仕様について不明瞭な感はある。
※当ブログの場合、表計算ソフトのフォーマットで読み込ませているからH5固定でいいだろうと思い込んでいたら、さにあらずだった。
◆あらすじ
・「大きな話」(未来社『石見の民話』)
昔、ある若者が大阪へ出て、初めて宿に泊まった。女中が来てガラガラと雨戸を閉めた。若者はそれを見て、この家の雨戸は簡単でいい。自分のところでは、朝から昼まで中かかって雨戸を開け、夕方には昼から中かかって雨戸を閉めると言った。夕食の時給仕に出たさっきの女中が、明日この後ろの畠を見ろ。随分広い畠に粟が沢山播いてあると言うと、若者は自分のところには粟三斗蒔きの畠があると言った。女中がこの上へ行ってみましょう。向こうにとても長い橋ができたと言うと、若者は自分のところの前の川には十日渡りの橋があると言った。女中が何を言っても若者は大きなことを言うので、これは大した家らしいと思った。若者は女中に自分のところに来ないか。うちへ来てくれたら、米を搗くこともいらない。水を担ぐこともいらないと言った。すると、それでは明日一緒に行きましょうということになって、女中は若者について来た。行ってみると。粟三斗蒔きという畠は小さい、草のいっぱい生えた畠で、三斗蒔きというのは一度蒔いたが生えない。二度蒔いたが生えない。三度蒔いたらようやく生えた。それで三度蒔きで、昼までかかって雨戸を開け、昼から中かかって閉める雨戸というのはたった一枚で、上に引っかかり下に引っかかりガッタンピッシと中々動かない。長い橋というのはどこにあるかと訊くと、この下の谷川にかかった赤い橋で、毎月十日になると金比羅さんの祭りに皆が渡るから十日渡りの橋と言うのだ。米は搗かせないというのは、袋を下げてあっちこっちで貰って歩くから搗く必要がない。水は担がせないというのは、水はたごが一つしかないから担がれない。片手で下げてくるのだと言った。
◆コーディングルール
※コーディングルールのキーワードは重要と判断したものを人力でピックアップしている。そのため、恣意性を伴う分析となる。
※活用形でなく基本形で入力する。
※[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか検索すると結果の一覧[語の抽出結果]が表示される。
※[Result]から確認したい行をクリックして選択、画面下の[詳細表示]ボタンをクリックするとサブ画面が表示され、活用形や基本形が確認できる。
※昔話では「否定/肯定」「肯定/否定」と属性が変化することが多いと考え、否定詞「ない」「まい」「ぬ」「ん」、また禁止を意味する「な」を共通のコードとして設定している。
※[関連語検索]で否定詞の共起語の一覧を表示させたところ、日本の昔話のように掌編レベルのボリュームだと、物語の動因となる箇所に関する語句が上位に表示される傾向が強いのではないか……といった印象があり、検証作業中である。
※無償版では強制抽出語の指定が機能制限で事実上使用できないため以下のような手法をとっている。
*若者
若者 or 自分
*播く
播く or 蒔く
*三斗
'三斗'
*十日
'十日'
*大きな
大きな or 大した
*同行
つく and 来る
*たご
'たご'
*三度
'三度'
*ない
ない
*ぬ
ぬ
*ん
ん
*るな
'るな'
*るまい
'るまい'
*かかる
かかる
*大阪
大阪
*出る
出る
*初めて
初めて
*宿
宿
*泊まる
泊まる
*女中
女中
*雨戸
雨戸
*閉める
閉める
*開ける
開ける
*朝
朝
*晩
晩
*給仕
給仕
*畠
畠
*粟
粟
*橋
橋
*長い
長い
*何
何
*言う
言う
*家
家
*来る
来る
*米
米
*搗く
憑く
*水
水
*担ぐ
担ぐ
*いる
いる
*小さい
小さい
*生える
生える
*ようやく
ようやく
*引っかかる
引っかかる
*動く
動く
*祭り
祭り
*渡る
渡る
*袋
袋
*貰う
貰う
*歩く
歩く
*必要
必要
*一つ
一つ
*片手
片手
*下げる
下げる
*一度
一度
*毎月
毎月
◆共起ネットワーク
・[コーディング単位]は[文]で固定となる。
※[強い共起関係ほど濃い線に]にチェックを入れる。
Jaccard係数が0.3以上はかなり強い共起関係にあることを示しているが、分析対象となる元データの文字数が少ないため係数が高めに出てしまう傾向にあるため、こうしている。
※Jaccard係数は共起関係(※ある言葉に続いて出てくる関係)の強さを表し 0≦係数≦1 の範囲の値をとる。
【Jaccard係数】
・0.1 →関連あり
・0.2 →強い関連あり
・0.3以上 →とても強い関連あり
※ただし、あくまで目安であって絶対ではない。
ざっと確認したところ、頻出するキーワードが中央のサブグラフ(バブルが島状に集まった一塊)に表示されている。概ねストーリーの展開に沿った形となっている。
※なお、各バブル間の距離や配置に意味はない。
◆対応分析
・[コーディング単位]を[文]に設定する。
・[コード×文書 集計単位:]を[文]に設定する。
※[バブルプロット]にチェックを入れている。これらは文字の重なりを極力避けるためである。
※文字が重なって読みづらい場合、オプション画面の[コード選択]で不要なコードのチェックを外してもよい。
x、y軸上の原点(0.0)から点線が伸び交差した箇所が原点となる。原点から離れるほど特徴的なキーワードだと分析される。
原点付近には「ない」「若者」「女中」といったキーワードがプロットされている。単話分析の場合、原点に近い方が頻度が高くむしろ重視すべきかもしれない。
◆解釈
共起ネットワークで「ない」のバブルが大きくプロットされている。これで昔話の分析においては否定詞に着目すべきではないかとの気づきを得ることとなった。
◆階層的クラスター分析
・[コーディング単位]は[文]で固定。実行するとデンドログラム(樹状図)で可視化される。
※キーワード指定しても可。
概ねストーリーに沿った内容でクラスター化されている。
◆クロス集計
・単話分析ではクロス集計は「利用不可」となる。
◆KWICコンコーダンス
現状ではテキストマイニングのツールに文脈を読む性能はないため実際に該当箇所を読んで人力で判断する他ない。KWICコンコーダンスでキーワード指定すれば指定したキーワードがどのような文脈で用いられているか一覧で抽出される。
◆関連語検索
・[集計単位]を[文]に変更、[集計]する。
・[Search Entry:]の一覧からキーワードを選択してダブルクリックすると[Result]に指定したキーワードの品詞や共起関係が表示される。
※[Result:]から行指定してダブルクリックするとKWICコンコーダンスに遷移する。
※[Result:]の一覧から範囲指定して[コピー]したものを表計算ソフトやテキストファイルにペーストすることも可能である。
[#直接入力]を指定して「大阪」といったキーワードで検索すると関連語が一覧で表示される。
◆属性の転倒
・「ない」の結果上位一覧
| N | 抽出語 | 品詞 | 全体 | 共起 | Jaccard |
| 1 | 蒔く | 動詞 | 5 (0.227) | 3 (0.375) | 0.3 |
| 2 | 水 | 名詞C | 2 (0.091) | 2 (0.250) | 0.25 |
| 3 | 担ぐ | 動詞 | 2 (0.091) | 2 (0.250) | 0.25 |
| 4 | 米 | 地名 | 2 (0.091) | 2 (0.250) | 0.25 |
| 5 | 搗く | 動詞 | 2 (0.091) | 2 (0.250) | 0.25 |
| 6 | 生える | 動詞 | 3 (0.136) | 2 (0.250) | 0.2222 |
| 7 | 来る | 動詞 | 3 (0.136) | 2 (0.250) | 0.2222 |
| 8 | ガッタンピッシ | 未知語 | 1 (0.045) | 1 (0.125) | 0.125 |
| 9 | 粟 | 地名 | 1 (0.045) | 1 (0.125) | 0.125 |
| 10 | 一つ | 名詞 | 1 (0.045) | 1 (0.125) | 0.125 |
| 11 | 一度 | 副詞 | 1 (0.045) | 1 (0.125) | 0.125 |
| 12 | 引っかかる | 動詞 | 1 (0.045) | 1 (0.125) | 0.125 |
若者の話を信じてついていったところ大きいどころか実に粗末な話だった……といった粗筋となっている。
短いお話の中で属性の転倒を多用するのが昔話の特徴の一つと考えられる。
ここで「/」(スラッシュ)を「転倒」を意味する記号として用いる。スラッシュは様々な場面で用いられていて文脈依存的な記号という欠点もあるが、視覚的にはイメージしやすいと判断した。
・[若者|自慢:大きな/粗末な]
こういった風にお話を転がしていると分析できる。
若者の自慢が「大きな/粗末な」と転倒することでおかしみを誘っている。
◆類似度行列
・[コーディング単位]は[文]は固定。[集計]をクリックするとJaccard係数がマトリクス形式で確認できる。
・ある列を選択して画面右下の[コピー(選択列)]をクリックすると、当該のキーワードに関するJaccard係数がコピーされるので、それを表計算ソフトにペーストするといった利用が可能となる。
◆多次元尺度構成法
・[コーディング単位]は[文]で固定。
・共起関係を確認したいキーワードを指定。
・次元を「2」から「3」に変更して実行、三次元のマップとした。
若者と女中の関係に関連したキーワードを指定したところ、「かかる」が離れた位置にプロットされた。
※選択するキーワードによって相対的な位置関係は変わり得る。
※実行すると指定したキーワードの幾つかが除外されるとメッセージが表示される。テキストのボリューム不足のためか無償版の仕様によるものか判断がつかない。
◆自己組織化マップ
[コーディング単位]は[文]で固定。
記述内容が視覚的に整理され、類似性の高い内容が近くに配置される。概ねストーリーに沿った形で各クラスターが表示される。
※クラスター化の計算を繰り返すため処理に時間がかかるので要注意。
※クラスターの配置、距離に意味はない。
◆トピックの推定
・[ツール]→[文書]→[トピックモデル]→[トピックの推定]を選択。
・[集計単位]は[文]で固定。
・[OK]ボタンをクリックすると、[トピックの推定結果]画面が表示される。
・各トピックで高い確率で出現する語句がリストアップされる。
・[#1]といった欄をクリックすると、文書検索画面が表示される。
◆ベイズ学習による分類
・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[外部変数から学習]を選択。
・[分類の単位]を[文]に変更。
・[学習する外部変数]は「利用不可」。
・[OK]ボタンをクリックすると、ファイルの保存画面が表示されるので、任意のファイル名を記述して保存する。
・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[学習結果ファイルの内容を確認]を選択。ファイル選択画面が開くので、先ほど保存したファイルを指定して開く。すると[学習結果ファイル]画面が開くので内容の確認を行う。
※[学習結果を用いた自動分類]については割愛する。
※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]は固有名詞などを強制抽出語としてあらかじめ指定しておかないと正確に分析されないケースが生じる。正式に利用したい際は有償版の購入をお勧めする。当ブログのはあくまでテストケースとしてのものである。
※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]はコーディング・ルールに依らない分析手法となるが、筆者の能力的に追及はしない。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.317-318.
・『動かして学ぶ!はじめてのテキストマイニング』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2022)
・『社会調査のための計量テキスト分析 【第2版】 内容分析の継承と発展を目指して』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2020)
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