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2026年4月 8日 (水)

昔話の計量テキスト分析――姥捨て山

◆はじめに

以下はKH Coder(無償版:version 3.Beta.08e)を用いた昔話の計量テキスト分析である。昔話の類話の比較にツールを利用できないか試行してみた。

手持ちの資料が限られるため、分析の対象となる元データの文字数が少ないものの(※本来であれば5000字以上は欲しい)、分析自体は正常に処理されていると判断した。

KH Coderの操作に慣れる目的も兼ねて行った作業で、コーディングルールの記述の事例集、あるいは速習用のチュートリアルとしてでも読んで頂ければ……といったところである。

なお、KH Coderでよく用いられるのは共起ネットワークと対応分析とのことで、それ以外はおまけパートと思って頂いて構わない。操作に習熟するにはコーディングルールの記述に慣れるのが第一である。

◆ファイル

各ファイルをダウンロードしてKH Coderに読み込ませれば同様の分析が再現可能である。

ダウンロード - ca_pb_030_ubasuteyama.xlsx

ダウンロード - ca_pb_030_codingrules.txt

ダウンロード - kh_coder_startingedition_sagyotejunsho.txt (※作業手順書)

※「H5」とはHTMLでいうところのヘッダー(見出し)・レベル5で本文に相当すると考えればよい。
※[コーディング単位]は「文/段落/H5」から選べるが、状況に応じて適切と思われるものを選択する必要がある。処理が上手くいかないと感じた場合、コーディング単位を切り替えると上手く処理されるケースがままある。

※公式マニュアルでは「集計単位」という用語が使われている。共起関係について、

・「文」では一文単位での分析
・「段落」では段落単位の分析
・「H5」では表計算ソフトのセル単位とされ、改行を含めた一セルの中身全体が分析単位となる

※レファレンスでも索引で「コーディング単位」の項目は設けられていない。操作性に関わる重要項目であるものの、その仕様について不明瞭な感はある。
※当ブログの場合、表計算ソフトのフォーマットで読み込ませているからH5固定でいいだろうと思い込んでいたら、さにあらずだった。

◆あらすじ

・「子より孫はかわいい」(未来社『石見の民話』)
昔は年がよっても死ぬことがなかった。それで、年がよると山へ捨てることにしていた。あるとき親が年をとったので山へ捨てようと思って息子と孫と二人で担いでいった。そしていよいよ山へ連れていって帰る時、息子は担いできた天秤棒をそこにおいたまま帰りかけた。すると孫がこれは持って帰ろうと言った。息子はこれはいらないから持って帰らなくてもいいと言った。すると孫は、それでも今度はお前を担いでくるのに要るから持って帰ろうと言った。息子はそれを聞いて、やがて自分もこうして捨てられるのだと思うと、そのまま帰ることができなくなった。そこで捨てた親をまた担いで帰って、床の下に隠して養った。それで子より孫は可愛いと言うのだそうだ。


・「往生の滝」(ハーベスト出版『夕陽を招く長者』)
昔、村には親が六十歳になると、息子が親を背負って往生の滝がある山へ捨てなければならないというむごい掟があった。上小川の奥の弥僧ヶ浴を登りつめると、杉木立の谷間の右前方に村人が往生の滝と呼ぶ滝が見えてくる。じん助は大きな背負い籠に母親を入れ、担いで滝の真ん中に差しかかった。難儀なことと重い足取りのじん助だった。やがて一人で帰っていく息子を案じ、背負い籠の母親は道に迷わないよう目印として枝を折りながら来ていた。それに気づいたじん助は幾ら村の掟といっても何で母親を捨てられようかと考えあぐね、くるりと向きを変え、もと来た弥僧ヶ浴を引き返し、遂に家に帰りついた。それから密かに母親を匿った。それから村ではもめごとや難儀なことが色々とあったが、その度に母親の体験や知恵で解決することができた。そのことが村人に発覚してから、村人は年寄りを大事にするようになった。そして、とうとうむごい掟は廃止され、いつしかこの滝を往生の滝と呼ぶようになった。田畑の少ない百姓は米の飯を食べるのは盆と正月、あとは粟・稗・黍を食べていた。家族が増えると皆が食べるのは難しくなるので年寄りを捨てる風習があった。今は往生の滝の面影はないが、じん助の話を語るように谷間の麓には今でもチロチロと清水が湧き出ている。


◆コーディングルール

※コーディングルールのキーワードは重要と判断したものを人力でピックアップしている。そのため、恣意性を伴う分析となる。

※活用形でなく基本形で入力する。

※[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか検索すると結果の一覧[語の抽出結果]が表示される。

※[Result]から確認したい行をクリックして選択、画面下の[詳細表示]ボタンをクリックするとサブ画面が表示され、活用形や基本形が確認できる。

※昔話では「否定/肯定」「肯定/否定」と属性が変化することが多いと考え、否定詞「ない」「まい」「ぬ」「ん」、また禁止を意味する「な」を共通のコードとして設定している。

※[関連語検索]で否定詞の共起語の一覧を表示させたところ、日本の昔話のように掌編レベルのボリュームだと、物語の動因となる箇所に関する語句が上位に表示される傾向が強いのではないか……といった印象があり、検証作業中である。

※無償版では強制抽出語の指定が機能制限で事実上使用できないため以下のような手法をとっている。


*年寄り
年寄り or ( 年 and よる ) or ( 年 and とる )
*息子
息子 or お前 or 自分 or 子
*天秤棒
天秤棒 or これ
*床下
床 and 下
*匿う
匿う or ( 隠す and 養う )
*六十歳
'六十歳'
*掟
掟 or 風習
*じん助
'じん助'
*もめごと
もめごと or 難儀
*知恵
知恵 or 体験

*ない
ない
*ぬ

*ん

*るな
'るな'
*るまい
'るまい'

*昔

*死ぬ
死ぬ
*山

*捨てる
捨てる
*親

*孫

*持つ
持つ
*帰る
帰る
*いる
いる
*可愛い
可愛い
*滝

*村人
村人
*母親
母親
*籠

*枝

*解決
解決
*発覚
発覚
*百姓
百姓
*食べる
食べる


◆共起ネットワーク

・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[描画する共起関係(edge)の選択]で「係数」を「0.2」から「0.3」に修正する。
※[強い共起関係ほど濃い線に]にチェックを入れる。

Jaccard係数が0.3以上はかなり強い共起関係にあることを示しているが、分析対象となる元データの文字数が少ないため係数が高めに出てしまう傾向にあるため、こうしている。

※Jaccard係数は共起関係(※ある言葉に続いて出てくる関係)の強さを表し 0≦係数≦1 の範囲の値をとる。

【Jaccard係数】
・0.1 →関連あり
・0.2 →強い関連あり
・0.3以上 →とても強い関連あり
※ただし、あくまで目安であって絶対ではない。

共起ネットワーク

ざっと確認したところ、共通するキーワードが中央のサブグラフ(バブルが島状に集まった一塊)に表示され、類話によって異なるキーワードがそれぞれのサブグラフとして周辺に表示される形となっている。

※なお、各バブル間の距離や配置に意味はない。

◆対応分析

・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[外部変数]は[タイトル]のまま続行。
※[差異が顕著なコードを分析に使用]で上位「40」とした。また[バブルプロット]にチェックを入れている。これらは文字の重なりを極力避けるためである。
※文字が重なって読みづらい場合、オプション画面の[コード選択]で不要なコードのチェックを外してもよい。

対応分析

x、y軸上の原点(0.0)から点線が伸び交差した箇所が原点となる。原点から離れるほど特徴的なキーワードだと分析される。

原点付近には「捨てる」「息子」「親」といったキーワードがプロットされている。未来社版では「天秤棒」「死ぬ」「孫」といったキーワードが原点から離れてプロットされている。ハーベスト出版版では「母親」「解決」「知恵」といったキーワードが特徴的とされている。

◆解釈

いずれも姥捨て山モチーフのお話である。未来社版では孫が登場することによって因習の連鎖が示唆されている。ハーベスト出版版の方が一般に流布している話型に近い。

◆階層的クラスター分析

・[コーディング単位]を[文]に変更、実行するとデンドログラム(樹状図)で可視化される。

※キーワード指定しても可。

階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)
階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)

概ねストーリーに沿った内容でクラスター化されている。

※当ブログの場合、[コーディング単位]が[段落][H5]だと、コードを全て選択するとエラーが返される結果となった。

◆クロス集計

・[コーディング単位]を[文]に変更、[集計]する。

※「タイトル」で集計をかけた。

クロス集計

クロス集計をかけたところ、カイ(χ)2乗値で相関関係を示す結果(※マーク)は得られなかった。

クロス集計・バブルマップ

マップとして描画したところ、「孫」「持つ」といったキーワードの残差が大きく(濃く)表示される結果となった。バブルとしては「息子」「帰る」が大きく描画された。

◆KWICコンコーダンス

現状ではテキストマイニングのツールに文脈を読む性能はないため実際に該当箇所を読んで人力で判断する他ない。KWICコンコーダンスでキーワード指定すれば指定したキーワードがどのような文脈で用いられているか一覧で抽出される。

KWICコンコーダンス
KWICコンコーダンス・文書表示

◆関連語検索

・[集計単位]を[文]に変更、[集計]する。
・[Search Entry:]の一覧からキーワードを選択してダブルクリックすると[Result]に指定したキーワードの品詞や共起関係が表示される。

関連語検索

※[Result:]から行指定してダブルクリックするとKWICコンコーダンスに遷移する。
※[Result:]の一覧から範囲指定して[コピー]したものを表計算ソフトやテキストファイルにペーストすることも可能である。

[#直接入力]を指定して「死ぬ」といったキーワードで検索すると関連語が一覧で表示される。

関連語検索

◆属性の転倒

・「ない」の結果上位一覧

N 抽出語 品詞 全体 共起 Jaccard
1 息子 名詞  6 (0.261)  4 (0.667) 0.5
2 副詞可能  2 (0.087)  2 (0.333) 0.3333
3 背負う 動詞  3 (0.130)  2 (0.333) 0.2857
4 帰る 動詞  8 (0.348)  3 (0.500) 0.2727
5 往生 サ変名詞  4 (0.174)  2 (0.333) 0.25
6 名詞C  5 (0.217)  2 (0.333) 0.2222
7 捨てる 動詞  7 (0.304)  2 (0.333) 0.1818
8 チロチロ 未知語  1 (0.043)  1 (0.167) 0.1667
9 案じる 動詞  1 (0.043)  1 (0.167) 0.1667
10 語る 動詞  1 (0.043)  1 (0.167) 0.1667

天秤棒の要/不要を巡るやりとりで息子は因習がいずれ自身にも降りかかると自覚する……といった粗筋となっている。

短いお話の中で属性の転倒を多用するのが昔話の特徴の一つと考えられる。

ここで「/」(スラッシュ)を「転倒」を意味する記号として用いる。スラッシュは様々な場面で用いられていて文脈依存的な記号という欠点もあるが、視覚的にはイメージしやすいと判断した。

・[息子|自身:要/不要]
・[親|子:捨てる/匿う]

こういった風にお話を転がしていると分析できる。天秤棒や折った枝によって己の置かれた状況を転倒させている。

◆類似度行列

・[コーディング単位]を[文]に変更して[集計]。Jaccard係数がマトリクス形式で確認できる。

類似度行列

・ある列を選択して画面右下の[コピー(選択列)]をクリックすると、当該のキーワードに関するJaccard係数がコピーされるので、それを表計算ソフトにペーストするといった利用が可能となる。

※当ブログでは[コーディング単位]が[段落][H5]の場合、Jacccard係数が1.0~0.5といった結果がほとんどで、意味のない結果となった。

◆多次元尺度構成法

・[コーディング単位]を[文]に変更して実行。
・共起関係を確認したいキーワードを指定。
・次元を「2」から「3」に変更して実行、三次元のマップとした。

多次元尺度構成法

姥捨て山の掟に関連したキーワードを指定したところ、「母親」が離れた位置にプロットされた。

※選択するキーワードによって相対的な位置関係は変わり得る。

※実行すると指定したキーワードの幾つかが除外されるとメッセージが表示される。テキストのボリューム不足のためか無償版の仕様によるものか判断がつかない。
※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」では除外されるキーワードが増える傾向となった。

◆自己組織化マップ

[コーディング単位]を[文]に変更して実行。

自己組織化マップ

記述内容が視覚的に整理され、類似性の高い内容が近くに配置される。概ねストーリーに沿った形で各クラスターが表示される。

※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」ではエラーが返される結果となった。
※クラスター化の計算を繰り返すため処理に時間がかかるので要注意。
※クラスターの配置、距離に意味はない。

◆トピックの推定

・[ツール]→[文書]→[トピックモデル]→[トピックの推定]を選択。
・[集計単位]を[文]に変更。
・[OK]ボタンをクリックすると、[トピックの推定結果]画面が表示される。

トピックの推定

・各トピックで高い確率で出現する語句がリストアップされる。
・[#1]といった欄をクリックすると、文書検索画面が表示される。

トピックの推定

◆ベイズ学習による分類

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[外部変数から学習]を選択。
・[分類の単位]を[文]に変更。
・[学習する外部変数]は[書名]に変更する。
 ※「タイトル」のままでもよし。
・[OK]ボタンをクリックすると、ファイルの保存画面が表示されるので、任意のファイル名を記述して保存する。

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[学習結果ファイルの内容を確認]を選択。ファイル選択画面が開くので、先ほど保存したファイルを指定して開く。すると[学習結果ファイル]画面が開くので内容の確認を行う。

ベイズ学習による分類

※[学習結果を用いた自動分類]については割愛する。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]は固有名詞などを強制抽出語としてあらかじめ指定しておかないと正確に分析されないケースが生じる。正式に利用したい際は有償版の購入をお勧めする。当ブログのはあくまでテストケースとしてのものである。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]はコーディング・ルールに依らない分析手法となるが、筆者の能力的に追及はしない。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.407.
・「夕陽を招く長者 山陰民話語り部シリーズ1」(民話の会「石見」/編, ハーベスト出版, 2013)pp.175-176.
・『動かして学ぶ!はじめてのテキストマイニング』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2022)
・『社会調査のための計量テキスト分析 【第2版】 内容分析の継承と発展を目指して』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2020)

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