昔話の計量テキスト分析――粟の飯
◆はじめに
以下はKH Coder(無償版:version 3.Beta.08e)を用いた昔話の計量テキスト分析である。昔話の類話の比較にツールを利用できないか試行してみた。
手持ちの資料が限られるため、分析の対象となる元データの文字数が少ないものの(※本来であれば5000字以上は欲しい)、分析自体は正常に処理されていると判断した。
KH Coderの操作に慣れる目的も兼ねて行った作業で、コーディングルールの記述の事例集、あるいは速習用のチュートリアルとしてでも読んで頂ければ……といったところである。
なお、KH Coderでよく用いられるのは共起ネットワークと対応分析とのことで、それ以外はおまけパートと思って頂いて構わない。操作に習熟するにはコーディングルールの記述に慣れるのが第一である。
◆ファイル
各ファイルをダウンロードしてKH Coderに読み込ませれば同様の分析が再現可能である。
ダウンロード - ca_pb_025_awanomeshi.xlsx
ダウンロード - ca_pb_025_codingrules.txt
ダウンロード - kh_coder_startingedition_sagyotejunsho.txt (※作業手順書)
※「H5」とはHTMLでいうところのヘッダー(見出し)・レベル5で本文に相当すると考えればよい。
※[コーディング単位]は「文/段落/H5」から選べるが、状況に応じて適切と思われるものを選択する必要がある。処理が上手くいかないと感じた場合、コーディング単位を切り替えると上手く処理されるケースがままある。
※公式マニュアルでは「集計単位」という用語が使われている。共起関係について、
・「文」では一文単位での分析
・「段落」では段落単位の分析
・「H5」では表計算ソフトのセル単位とされ、改行を含めた一セルの中身全体が分析単位となる
※レファレンスでも索引で「コーディング単位」の項目は設けられていない。操作性に関わる重要項目であるものの、その仕様について不明瞭な感はある。
※当ブログの場合、表計算ソフトのフォーマットで読み込ませているからH5固定でいいだろうと思い込んでいたら、さにあらずだった。
◆あらすじ
・「粟の飯」(未来社『石見の民話』)
昔、鴻池に聟がいることになった。大金持ちだから聟にしてくれという人は沢山あった。そこで鴻池では「粟ばかりのご飯を茶碗いっぱい盛り付けて何杯でも出しておいて一粒もこぼさぬ様に食べた者を聟にする」と立札を立てた。そこで我こそはという者がどんどん出かけて食べかけるが、ご飯があまりにこわい(かたい)ので、ぽろぽろこぼれて皆失敗した。ここに息子をもった父親がいた。この話を聞いて何とかして自分の息子を聟にやりたいと思って「中、食うちゃあへりをいれ 中、食うちゃあへりをいれ」という歌を作って、その歌を歌いながら歌の通りに中を食べてはほとりを中へ入れて食べる様にしつけた。そうして長いことやっている内に粟を一粒もこぼさずに食べられるようになった。そこで息子は鴻池へ行って粟飯を食べることになった。そしてこれまで教えられた通りに口の中で歌いながら食べたところ、見事一粒もこぼさずに食べることができた。それでめでたく鴻池の聟になった。我が子を出世させるためには、親はこうまで苦心をし、一粒のご飯もこぼさぬようなものでなければ出世はできない。
・「難題むこ」(日本標準『島根のむかし話』)
昔々、山奥の里に庄屋さんがあった。それはそれは大きな身上の庄屋だった。金持ち、家持ち、倉持ちで、米倉、粟倉、麦倉、ヒエ倉、豆倉、はぜ倉、酒倉、しょうゆ倉。こたつやぐらに枕が六つ。それは家にもあるが。その庄屋に一人娘がいた。器量よしで働き者で気立てが良くて年は十六、花ならつぼみ。しっかり者だった。そろそろ娘に婿を取って跡を継がせようと言ったところ、まあ来るわ来るわ。若い者が次から次へと来た。さて、あまりにも来手が多くて誰がいいのか迷ってしまった。何かいい決め方はないものか。ああか、こうかと庄屋さんとおかみさんは考えた。その内庄屋さんがおかみさんの耳に口をつけ何やら内緒話をした。それでいよいよ婿選びの日になった。皆、めかしこんで集まってきた。庄屋さんは皆を表へ上げて待たせておいて、一人ずつ座敷へ呼びこんで、何のご馳走もできないが、粟飯なら沢山ある。腹いっぱい食べなさい。この粟飯を一粒もこぼさずに食べたら娘の婿にもらおうと言って粟飯を茶碗にこてこて盛りつけて山のように高くよそって出した。ご馳走になりますと箸をつけたところ、粟のままだからぽろぽろ、ぽろぽろこぼれる。慌てて拾おうと思っても庄屋さんは見ているし箸をつければ粟飯の山がばらばら崩れ周りじゅう粟だらけ。食べるどころではない。粟飯もろくに食べられないような者は婿にはできないと言われて真っ赤な顔をして飛び出て去った。その次もその次も皆ぽろぽろばらばら周りじゅう粟だらけにしていた。しまいに一人、仕事着のままの男がちょこんと座っていた。他の者は皆めかしこんで来たのに、この男はぼろぼろのつぎはぎだらけの仕事着のまま座敷に上がり込んだ。どっかと座るとどこやらで糸を繰る車の音がしていい声がしてきた。「粟のまんまを食うにゃあ 箸の先を 濡らして なかくぼ くぼり なかくぼ くぼり」。男は湯のみの中へ箸の先をつけて濡らして真ん中がくぼむようにして食べると、濡れた箸に粟飯がひっついて一粒もこぼれなかった。それで箸の先を濡らしては食い、濡らしては食いで、とうとう一粒もこぼさずに残さず食べてしまった。しまいにお茶も飲み干してご馳走様と言った。庄屋さんもおかみさんもびっくりして、これは見事だ。お前こそ家の婿どのだ。一粒も粗末にしなかった。見事だと言って婿にした。それからそこの娘と仲良く精出していい庄屋になった。めでたしめでたし。
◆コーディングルール
※コーディングルールのキーワードは重要と判断したものを人力でピックアップしている。そのため、恣意性を伴う分析となる。
※活用形でなく基本形で入力する。
※[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか検索すると結果の一覧[語の抽出結果]が表示される。
※[Result]から確認したい行をクリックして選択、画面下の[詳細表示]ボタンをクリックするとサブ画面が表示され、活用形や基本形が確認できる。
※昔話では「否定/肯定」「肯定/否定」と属性が変化することが多いと考え、否定詞「ない」「まい」「ぬ」「ん」、また禁止を意味する「な」を共通のコードとして設定している。
※[関連語検索]で否定詞の共起語の一覧を表示させたところ、日本の昔話のように掌編レベルのボリュームだと、物語の動因となる箇所に関する語句が上位に表示される傾向が強いのではないか……といった印象があり、検証作業中である。
※無償版では強制抽出語の指定が機能制限で事実上使用できないため以下のような手法をとっている。
*聟
聟 or 婿
*人
人 or 者
*粟飯
( 粟 and ご飯 ) or '粟飯' or ご飯
*中
中 or なか or 真ん中
*へり
へり or ほとり
*くぼ
'くぼ' or 'くぼり'
*食べる
食べる or 食う
*おかみさん
'おかみさん'
*一粒
'一粒'
*娘
娘 or 一人娘
*ない
ない
*ぬ
ぬ
*ん
ん
*るな
'るな'
*るまい
'るまい'
*鴻池
鴻池
*金持ち
金持ち
*こぼす
こぼす
*失敗
失敗
*息子
息子
*父親
父親
*歌
歌
*しつける
しつける
*出世
出世
*苦心
苦心
*庄屋
庄屋
*皆
皆
*茶碗
茶碗
*箸
箸
*仕事着
仕事着
*声
声
*濡らす
濡らす
*粗末
粗末
*くぼむ
くぼむ
◆共起ネットワーク
・[コーディング単位]を[H5]に設定する。
※[描画する共起関係(edge)の選択]で「係数」を「0.2」から「0.3」に修正する。
※[強い共起関係ほど濃い線に]にチェックを入れる。
Jaccard係数が0.3以上はかなり強い共起関係にあることを示しているが、分析対象となる元データの文字数が少ないため係数が高めに出てしまう傾向にあるため、こうしている。
※Jaccard係数は共起関係(※ある言葉に続いて出てくる関係)の強さを表し 0≦係数≦1 の範囲の値をとる。
【Jaccard係数】
・0.1 →関連あり
・0.2 →強い関連あり
・0.3以上 →とても強い関連あり
※ただし、あくまで目安であって絶対ではない。
ざっと確認したところ、共通するキーワードが中央のサブグラフ(バブルが島状に集まった一塊)に表示され、類話によって異なるキーワードがそれぞれのサブグラフとして周辺に表示される形となっている。
※なお、各バブル間の距離や配置に意味はない。
◆対応分析
・[コーディング単位]を[H5]に設定する。
※[外部変数]は[タイトル]のまま続行。
※[差異が顕著なコードを分析に使用]で上位「40」とした。また[バブルプロット]にチェックを入れている。これらは文字の重なりを極力避けるためである。
※文字が重なって読みづらい場合、オプション画面の[コード選択]で不要なコードのチェックを外してもよい。
x、y軸上の原点(0.0)から点線が伸び交差した箇所が原点となる。原点から離れるほど特徴的なキーワードだと分析される。
原点付近に「こぼす」「聟」「粟飯」「茶碗」といったキーワードが多数プロットされている。未来社版では「鴻池」「父親」「歌」といったキーワードが原点から離れてプロットされている。日本標準版では「娘」「声」「濡らす」といったキーワードが特徴的なキーワードとされている。
◆解釈
冒頭の状況は異なるものの、その後の展開は似たような内容である。未来社版では父親が息子を出世させるための苦心が、日本標準版では婿となる男を気に入ったと思しき娘の歌が特徴となるか。庄屋のおかみさんの発案となるが母と娘の間で暗黙の了解があったのだろうか。
◆階層的クラスター分析
・[コーディング単位]を[文]に変更、実行するとデンドログラム(樹状図)で可視化される。
※キーワード指定しても可。
概ねストーリーに沿った内容でクラスター化されている。
※当ブログの場合、[コーディング単位]が[段落][H5]だと、コードを全て選択するとエラーが返される結果となった。
◆クロス集計
・[コーディング単位]を[文]に変更、[集計]する。
※「タイトル」で集計をかけた。
クロス集計をかけたところ、「鴻池」「こぼす」「息子」といったキーワードでカイ(χ)2乗値で相関関係を示す結果(※マーク)が得られた。
マップとして描画したところ、「鴻池」「息子」「父親」といったキーワードの残差が大きく(濃く)表示される結果となった。バブルとしては「食べる」が大きく描画された。
◆KWICコンコーダンス
現状ではテキストマイニングのツールに文脈を読む性能はないため実際に該当箇所を読んで人力で判断する他ない。KWICコンコーダンスでキーワード指定すれば指定したキーワードがどのような文脈で用いられているか一覧で抽出される。
◆関連語検索
・[集計単位]を[文]に変更、[集計]する。
・[Search Entry:]の一覧からキーワードを選択してダブルクリックすると[Result]に指定したキーワードの品詞や共起関係が表示される。
※[Result:]から行指定してダブルクリックするとKWICコンコーダンスに遷移する。
※[Result:]の一覧から範囲指定して[コピー]したものを表計算ソフトやテキストファイルにペーストすることも可能である。
[#直接入力]を指定して「ぽろぽろ」といったキーワードで検索すると関連語が一覧で表示される。
◆属性の転倒
・「ない」の結果上位一覧
| N | 抽出語 | 品詞 | 全体 | 共起 | Jaccard |
| 1 | 飯 | 名詞C | 6 (0.125) | 3 (0.429) | 0.3 |
| 2 | 食べる | 動詞 | 12 (0.250) | 3 (0.429) | 0.1875 |
| 3 | 粟 | 地名 | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 4 | 顔 | 名詞C | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 5 | 去る | 動詞 | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 6 | 苦心 | サ変名詞 | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 7 | 決め方 | 名詞 | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 8 | 呼ぶ | 動詞 | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 9 | 子 | 名詞C | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
| 10 | 出世 | サ変名詞 | 1 (0.021) | 1 (0.143) | 0.1429 |
・「ぬ」の結果上位一覧
| N | 抽出語 | 品詞 | 全体 | 共起 | Jaccard |
| 1 | 食べる | 動詞 | 12 (0.250) | 5 (0.833) | 0.3846 |
| 2 | 出す | 動詞 | 2 (0.042) | 2 (0.333) | 0.3333 |
| 3 | 茶碗 | 名詞 | 2 (0.042) | 2 (0.333) | 0.3333 |
| 4 | ご飯 | 名詞 | 3 (0.063) | 2 (0.333) | 0.2857 |
| 5 | 粟 | 名詞C | 10 (0.208) | 3 (0.500) | 0.2308 |
| 6 | 教える | 動詞 | 1 (0.021) | 1 (0.167) | 0.1667 |
| 7 | 苦心 | サ変名詞 | 1 (0.021) | 1 (0.167) | 0.1667 |
| 8 | 高い | 形容詞 | 1 (0.021) | 1 (0.167) | 0.1667 |
| 9 | 残す | 動詞 | 1 (0.021) | 1 (0.167) | 0.1667 |
| 10 | 子 | 名詞C | 1 (0.021) | 1 (0.167) | 0.1667 |
茶碗一杯に盛られた粟の飯を一粒もこぼさずに食べるという難題を父親のしつけや相手の娘の歌によって解決する……といった粗筋となっている。
短いお話の中で属性の転倒を多用するのが昔話の特徴の一つと考えられる。
ここで「/」(スラッシュ)を「転倒」を意味する記号として用いる。スラッシュは様々な場面で用いられていて文脈依存的な記号という欠点もあるが、視覚的にはイメージしやすいと判断した。
・[父親|息子:難題/解決]
・[娘|男:難題/解決]
・[箸|濡らす:こぼれる/こぼれない]
こういった風にお話を転がしていると分析できる。難題を解決することで「みすぼらしい/出世」へと転倒する。
◆類似度行列
・[コーディング単位]を[文]に変更して[集計]。Jaccard係数がマトリクス形式で確認できる。
・ある列を選択して画面右下の[コピー(選択列)]をクリックすると、当該のキーワードに関するJaccard係数がコピーされるので、それを表計算ソフトにペーストするといった利用が可能となる。
※当ブログでは[コーディング単位]が[段落][H5]の場合、Jacccard係数が1.0~0.5といった結果がほとんどで、意味のない結果となった。
◆多次元尺度構成法
・[コーディング単位]を[文]に変更して実行。
・共起関係を確認したいキーワードを指定。
・次元を「2」から「3」に変更して実行、三次元のマップとした。
粟飯をこぼさず食べる粗筋に関連したキーワードを指定したところ、「へり」「くぼ」が離れた位置にプロットされた。
※選択するキーワードによって相対的な位置関係は変わり得る。
※実行すると指定したキーワードの幾つかが除外されるとメッセージが表示される。テキストのボリューム不足のためか無償版の仕様によるものか判断がつかない。
※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」では除外されるキーワードが増える傾向となった。
◆自己組織化マップ
[コーディング単位]を[文]に変更して実行。
記述内容が視覚的に整理され、類似性の高い内容が近くに配置される。概ねストーリーに沿った形で各クラスターが表示される。
※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」ではエラーが返される結果となった。
※クラスター化の計算を繰り返すため処理に時間がかかるので要注意。
※クラスターの配置、距離に意味はない。
◆トピックの推定
・[ツール]→[文書]→[トピックモデル]→[トピックの推定]を選択。
・[集計単位]を[文]に変更。
・[OK]ボタンをクリックすると、[トピックの推定結果]画面が表示される。
・各トピックで高い確率で出現する語句がリストアップされる。
・[#1]といった欄をクリックすると、文書検索画面が表示される。
◆ベイズ学習による分類
・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[外部変数から学習]を選択。
・[分類の単位]を[文]に変更。
・[学習する外部変数]は[書名]に変更する。
※「タイトル」のままでもよし。
・[OK]ボタンをクリックすると、ファイルの保存画面が表示されるので、任意のファイル名を記述して保存する。
・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[学習結果ファイルの内容を確認]を選択。ファイル選択画面が開くので、先ほど保存したファイルを指定して開く。すると[学習結果ファイル]画面が開くので内容の確認を行う。
※[学習結果を用いた自動分類]については割愛する。
※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]は固有名詞などを強制抽出語としてあらかじめ指定しておかないと正確に分析されないケースが生じる。正式に利用したい際は有償版の購入をお勧めする。当ブログのはあくまでテストケースとしてのものである。
※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]はコーディング・ルールに依らない分析手法となるが、筆者の能力的に追及はしない。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.191-192.
・『島根のむかし話』(島根県小・中学校国語教育研究会/編著, 日本標準, 1976)pp.44-48.
・『動かして学ぶ!はじめてのテキストマイニング』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2022)
・『社会調査のための計量テキスト分析 【第2版】 内容分析の継承と発展を目指して』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2020)
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