« 昔話の計量テキスト分析――田部 | トップページ | 昔話の計量テキスト分析――姥捨て山 »

2026年4月 7日 (火)

昔話の計量テキスト分析――皿皿山

◆はじめに

以下はKH Coder(無償版:version 3.Beta.08e)を用いた昔話の計量テキスト分析である。昔話の類話の比較にツールを利用できないか試行してみた。

手持ちの資料が限られるため、分析の対象となる元データの文字数が少ないものの(※本来であれば5000字以上は欲しい)、分析自体は正常に処理されていると判断した。

KH Coderの操作に慣れる目的も兼ねて行った作業で、コーディングルールの記述の事例集、あるいは速習用のチュートリアルとしてでも読んで頂ければ……といったところである。

なお、KH Coderでよく用いられるのは共起ネットワークと対応分析とのことで、それ以外はおまけパートと思って頂いて構わない。操作に習熟するにはコーディングルールの記述に慣れるのが第一である。

◆ファイル

各ファイルをダウンロードしてKH Coderに読み込ませれば同様の分析が再現可能である。

ダウンロード - ca_pb_029_sarasarayama.xlsx

ダウンロード - ca_pb_029_codingrules.txt

ダウンロード - kh_coder_startingedition_sagyotejunsho.txt (※作業手順書)

※「H5」とはHTMLでいうところのヘッダー(見出し)・レベル5で本文に相当すると考えればよい。
※[コーディング単位]は「文/段落/H5」から選べるが、状況に応じて適切と思われるものを選択する必要がある。処理が上手くいかないと感じた場合、コーディング単位を切り替えると上手く処理されるケースがままある。

※公式マニュアルでは「集計単位」という用語が使われている。共起関係について、

・「文」では一文単位での分析
・「段落」では段落単位の分析
・「H5」では表計算ソフトのセル単位とされ、改行を含めた一セルの中身全体が分析単位となる

※レファレンスでも索引で「コーディング単位」の項目は設けられていない。操作性に関わる重要項目であるものの、その仕様について不明瞭な感はある。
※当ブログの場合、表計算ソフトのフォーマットで読み込ませているからH5固定でいいだろうと思い込んでいたら、さにあらずだった。

◆あらすじ

・「皿皿山」(未来社『石見の民話』)
昔、姉妹がいた。姉は継子で妹は自分の子だった。ある日姉が磯端で青菜を洗っていた。そこへ伯耆の殿さまがお国巡りをして「磯端で青菜を洗う小女子や 打ちくる波の数を知りたまえ」と歌を詠んだ。娘は黙っていた。どこの国の殿さまかは知らないが、きっと帰りがけにここをお通りになるに違いない。その時に仇を打ってあげようと思って待っていた。しばらくして殿さまがお帰りになったので「いかなる国の大名かは知らねども 歩く駒の足の数を知りたまえ」と詠んだ。殿さまは次の宿でお休みになって磯端で青菜を洗っていた娘を呼んでこいと言った。家来が呼びに行くと継母は自分の子がやりたくなって、妹に立派な着物を着せて出した。妹は姉には差し支えがあるので自分が代わって参ったと述べた。殿さまは皿の中に塩を盛って塩の中に松を植えて出した。これを歌に詠めと言った。妹は「皿の中に塩を盛り 塩の中に松を植え」と詠んだ。殿さまは妹ではつまらない。姉と代われと言って追い返した。継母は悔しがったが仕方ない、姉はぼろ着を着せられて殿さまのところに言った。姉は妹を使わしたことを詫びた。殿さまは同じ題を出した。姉は「ぼん盆や、さらさらという山に雪降りて 雪を根にして育つ松かな」と詠んだ。殿さまは感心して、偉い娘だ。連れて帰って部屋住まいをさせると言って風呂をたてて入らせ、立派な衣装を着せた。継母は悔しくてそこにあった鍬や箒を投げた。姉はそこで「親とても 重ね重ねのはなむけに 箒の殿の知行取り」と詠んだ。


・「歌よみこぞう」(日本標準『島根のむかし話』)
昔々、殿さまが有馬の国の湯に行った。すると、ぼろぼろの着物を着た小僧が後からついてきた。どんどん歩いていくと、大きな杉の木が生えている森に来た。殿さまはこれは大きな杉の木だ。だが、不思議なことに三つの鳥が巣をかけている。一番下は鶴。その上は鷺。一番上は鷹だ。珍しいことだと言って見とれていた。歌の好きな殿さまは誰かこの杉を歌にしてみよと言ったが、誰も歌が作れなかった。ところが、そのぼろぼろの着物を着た小僧が私が詠んでみましょうと言って「元ヅルに 中白サギに 上ダカに 祝いこめたる杉の森かな」と詠んだ。これはいい歌だということで、ご褒美にむすびを分けてやった。それから殿さまはまた歩いていくと、今度は大きな大きな岩のある所にやって来た。そこに蜂が丸い巣をかけていた。誰かこの蜂の巣で歌を詠んでみよと言ったが、誰もできなかった。するとあの小僧が私が詠んでみましょうと言って「外は見る 内はまだ見ぬ極楽の 弥陀の浄土は ハチスなるらん」と「蜂の巣」と「蓮の花」をかけて詠んだ。殿さまは気に入ったから、そちの着物は汚れている。これを着よと着物を渡した。小僧は体を拭いてその着物を着てまた後をついていった。ずっと歩いていくと、梨の木が一杯あって花盛りだった。誰かこの花で歌を詠めと殿さまが言ったので、どの家来も小僧に負けまいと一生懸命に考えたが詠めなかった。そうしたら、またあの小僧が私が詠んでみましょうと言って「我が殿は 有馬の国の湯にござる 病はナシの花となるらん」と詠んだので殿さまはますます気に入って、とうとう有馬の国へ連れていって湯に入らせ、綺麗に洗って刀を与えた。そして、とうとう殿さまの家来にしてもらった。


◆コーディングルール

※コーディングルールのキーワードは重要と判断したものを人力でピックアップしている。そのため、恣意性を伴う分析となる。

※活用形でなく基本形で入力する。

※[前処理]→[語の抽出結果を確認]でキーワードがどのように分節されているか検索すると結果の一覧[語の抽出結果]が表示される。

※[Result]から確認したい行をクリックして選択、画面下の[詳細表示]ボタンをクリックするとサブ画面が表示され、活用形や基本形が確認できる。

※昔話では「否定/肯定」「肯定/否定」と属性が変化することが多いと考え、否定詞「ない」「まい」「ぬ」「ん」、また禁止を意味する「な」を共通のコードとして設定している。

※[関連語検索]で否定詞の共起語の一覧を表示させたところ、日本の昔話のように掌編レベルのボリュームだと、物語の動因となる箇所に関する語句が上位に表示される傾向が強いのではないか……といった印象があり、検証作業中である。

※無償版では強制抽出語の指定が機能制限で事実上使用できないため以下のような手法をとっている。


*殿さま
殿さま or 大名 or 殿
*娘
娘 or '小女子'
*継母
継母 or 自分 or 親
*着物
着物 or 衣装
*ぼろ着
'ぼろ着' or ( ぼろぼろ and 着物 )
*部屋住まい
'部屋住まい'
*鶴
鶴 or 'ヅル'
*鷺
鷺 or 'サギ'
*鷹
鷹 or 'ダカ'
*蓮
'ハチス' or 蓮

*ない
ない
*ぬ

*ん

*るな
'るな'
*るまい
'るまい'

*姉

*継子
継子
*妹

*磯

*青菜
青菜
*伯耆
伯耆
*仇

*家来
家来
*皿

*塩

*松

*雪

*盆

*箒

*有馬
有馬
*湯

*小僧
小僧
*杉

*歌

*褒美
褒美
*岩

*蜂

*巣

*かける
かける
*梨

*花

*国

*刀

*詠む
詠む


◆共起ネットワーク

・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[描画する共起関係(edge)の選択]で「係数」を「0.2」から「0.3」に修正する。
※[強い共起関係ほど濃い線に]にチェックを入れる。

Jaccard係数が0.3以上はかなり強い共起関係にあることを示しているが、分析対象となる元データの文字数が少ないため係数が高めに出てしまう傾向にあるため、こうしている。

※Jaccard係数は共起関係(※ある言葉に続いて出てくる関係)の強さを表し 0≦係数≦1 の範囲の値をとる。

【Jaccard係数】
・0.1 →関連あり
・0.2 →強い関連あり
・0.3以上 →とても強い関連あり
※ただし、あくまで目安であって絶対ではない。

共起ネットワーク

ざっと確認したところ、共通するキーワードが中央のサブグラフ(バブルが島状に集まった一塊)に表示され、類話によって異なるキーワードがそれぞれのサブグラフとして周辺に表示される形となっている。

※なお、各バブル間の距離や配置に意味はない。

◆対応分析

・[コーディング単位]を[H5]に設定する。

※[外部変数]は[タイトル]のまま続行。
※[差異が顕著なコードを分析に使用]で上位「40」とした。また[バブルプロット]にチェックを入れている。これらは文字の重なりを極力避けるためである。
※文字が重なって読みづらい場合、オプション画面の[コード選択]で不要なコードのチェックを外してもよい。

対応分析

x、y軸上の原点(0.0)から点線が伸び交差した箇所が原点となる。原点から離れるほど特徴的なキーワードだと分析される。

原点付近には「殿さま」「着物」「ぼろ着」といったキーワードがプロットされている。未来社版では「姉」「継母」「塩」といったキーワードが原点から離れてプロットされている。日本標準版では「小僧」「刀」「蓮」といったキーワードが特徴的とされている。

◆解釈

男女の違いはあるが、いずれも歌詠みの才覚によって運命を切り開くお話である。歌のモチーフとなるものは「雪」だったり「蓮」だったりと異なる。

◆階層的クラスター分析

・[コーディング単位]を[文]に変更、実行するとデンドログラム(樹状図)で可視化される。

※キーワード指定しても可。

階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)
階層的クラスター分析・デンドログラム(樹状図)

概ねストーリーに沿った内容でクラスター化されている。

※当ブログの場合、[コーディング単位]が[段落][H5]だと、コードを全て選択するとエラーが返される結果となった。

◆クロス集計

・[コーディング単位]を[文]に変更、[集計]する。

※「タイトル」で集計をかけた。

クロス集計

クロス集計をかけたところ、「継母」「姉」「妹」といったキーワードでカイ(χ)2乗値で相関関係を示す結果(※マーク)が得られた。

クロス集計・バブルマップ

マップとして描画したところ、「継母」「小僧」といったキーワードの残差が大きく(濃く)表示される結果となった。バブルとしては「殿さま」が大きく描画された。

◆KWICコンコーダンス

現状ではテキストマイニングのツールに文脈を読む性能はないため実際に該当箇所を読んで人力で判断する他ない。KWICコンコーダンスでキーワード指定すれば指定したキーワードがどのような文脈で用いられているか一覧で抽出される。

KWICコンコーダンス
KWICコンコーダンス・文書表示

◆関連語検索

・[集計単位]を[文]に変更、[集計]する。
・[Search Entry:]の一覧からキーワードを選択してダブルクリックすると[Result]に指定したキーワードの品詞や共起関係が表示される。

関連語検索

※[Result:]から行指定してダブルクリックするとKWICコンコーダンスに遷移する。
※[Result:]の一覧から範囲指定して[コピー]したものを表計算ソフトやテキストファイルにペーストすることも可能である。

[#直接入力]を指定して「さらさら」といったキーワードで検索すると関連語が一覧で表示される。

関連語検索

◆属性の転倒

・「ない」の結果上位一覧

N 抽出語 品詞 全体 共起 Jaccard
1 名詞C  6 (0.128)  3 (0.600) 0.375
2 言う 動詞  12 (0.255)  4 (0.800) 0.3077
3 殿さま 名詞  17 (0.362)  4 (0.800) 0.2222
4 みよ 人名  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2
5 違い ナイ形容  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2
6 一生懸命 副詞可能  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2
7 詠める 動詞  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2
8 帰りがけ 副詞可能  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2
9 好き 形容動詞  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2
10 考える 動詞  1 (0.021)  1 (0.200) 0.2

歌の才覚によって殿さまの目に留まり取り立てられる……といった粗筋となっている。

短いお話の中で属性の転倒を多用するのが昔話の特徴の一つと考えられる。

ここで「/」(スラッシュ)を「転倒」を意味する記号として用いる。スラッシュは様々な場面で用いられていて文脈依存的な記号という欠点もあるが、視覚的にはイメージしやすいと判断した。

・[姉|歌:継子/部屋住み]
・[小僧|歌:孤独/家来]
・[継母|妹:派遣/返される]

こういった風にお話を転がしていると分析できる。歌の才覚によって己の置かれた状況を転倒させている。

◆類似度行列

・[コーディング単位]を[文]に変更して[集計]。Jaccard係数がマトリクス形式で確認できる。

類似度行列

・ある列を選択して画面右下の[コピー(選択列)]をクリックすると、当該のキーワードに関するJaccard係数がコピーされるので、それを表計算ソフトにペーストするといった利用が可能となる。

※当ブログでは[コーディング単位]が[段落][H5]の場合、Jacccard係数が1.0~0.5といった結果がほとんどで、意味のない結果となった。

◆多次元尺度構成法

・[コーディング単位]を[文]に変更して実行。
・共起関係を確認したいキーワードを指定。
・次元を「2」から「3」に変更して実行、三次元のマップとした。

多次元尺度構成法

継母が姉の代わりに妹を殿さまの許にやるくだりに関連したキーワードを指定したところ、「殿さま」が離れた位置にプロットされた。

※選択するキーワードによって相対的な位置関係は変わり得る。

※実行すると指定したキーワードの幾つかが除外されるとメッセージが表示される。テキストのボリューム不足のためか無償版の仕様によるものか判断がつかない。
※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」では除外されるキーワードが増える傾向となった。

◆自己組織化マップ

[コーディング単位]を[文]に変更して実行。

自己組織化マップ

記述内容が視覚的に整理され、類似性の高い内容が近くに配置される。概ねストーリーに沿った形で各クラスターが表示される。

※当ブログの事例では「文」以外、「段落」と「H5」ではエラーが返される結果となった。
※クラスター化の計算を繰り返すため処理に時間がかかるので要注意。
※クラスターの配置、距離に意味はない。

◆トピックの推定

・[ツール]→[文書]→[トピックモデル]→[トピックの推定]を選択。
・[集計単位]を[文]に変更。
・[OK]ボタンをクリックすると、[トピックの推定結果]画面が表示される。

トピックの推定

・各トピックで高い確率で出現する語句がリストアップされる。
・[#1]といった欄をクリックすると、文書検索画面が表示される。

トピックの推定・文書検索

◆ベイズ学習による分類

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[外部変数から学習]を選択。
・[分類の単位]を[文]に変更。
・[学習する外部変数]は[書名]に変更する。
 ※「タイトル」のままでもよし。
・[OK]ボタンをクリックすると、ファイルの保存画面が表示されるので、任意のファイル名を記述して保存する。

・[ツール]→[文書]→[ベイズ学習による分類]→[学習結果ファイルの内容を確認]を選択。ファイル選択画面が開くので、先ほど保存したファイルを指定して開く。すると[学習結果ファイル]画面が開くので内容の確認を行う。

ベイズ学習による分類

※[学習結果を用いた自動分類]については割愛する。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]は固有名詞などを強制抽出語としてあらかじめ指定しておかないと正確に分析されないケースが生じる。正式に利用したい際は有償版の購入をお勧めする。当ブログのはあくまでテストケースとしてのものである。

※[トピックの推定]と[ベイズ学習による分類]はコーディング・ルールに依らない分析手法となるが、筆者の能力的に追及はしない。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.180-182.
・『島根のむかし話』(島根県小・中学校国語教育研究会/編著, 日本標準, 1976)pp.208-211.
・『動かして学ぶ!はじめてのテキストマイニング』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2022)
・『社会調査のための計量テキスト分析 【第2版】 内容分析の継承と発展を目指して』(樋口耕一, ナカニシヤ出版, 2020)

|

« 昔話の計量テキスト分析――田部 | トップページ | 昔話の計量テキスト分析――姥捨て山 »

昔話」カテゴリの記事