広島県民の精神史――水原史雄『安芸門徒』(中国新聞社/編)
水原史雄『安芸門徒』(中国新聞社/編)を読む。帯に復刻版とある。前半は南北朝の争乱の頃、備後の沼隈半島(※現在の福山市。鞆の浦辺りか)に上陸した真宗の僧たちが教線を延ばしていったその後の歴史。後半は江戸時代に花開いた芸轍(げいてつ)と呼ばれる安芸出身の学僧たちの列伝といった構成となっている。巻末には歴史年表、歴代住職一覧、参考文献などが置かれている。
布教は親鸞の直系ではなく下野国の弟子筋の僧侶によるとしている。絵系図といった親鸞の教えに背くような手段もとられたそうだ。現在は三次市内に立地しているが(※高田郡にあった時期もある)昭林坊という真宗の寺院から出雲、石見、山口などへ教線を延ばしていき末寺を増やしていったとのこと。
芸轍と呼ばれる一派は基本的には教義を巡る解釈で活発に論争したそうだが、中には吉田松陰に影響を与えた人物もいたとのこと。
……この本を手にとったきっかけは、芸北神楽を見ていてどうも土俗/土着的なものに関心が薄いような気がしてのこと。浄土真宗が神社の神宮寺だったことは教義上なく、明治初期の神仏分離令の際も混乱は生じなかったそうだ。その点、石見ではたとえば浜田市の大麻山にあった尊勝寺という大きな寺院は明治期の地震で倒壊したのだけど、廃仏毀釈の時勢下にあって遂に再建されなかったとされていることと対照的だ。
なので、真宗と神楽との間に直接的関連はなさそうだ。が、芸北神楽の独特さはおそらく複合的な要因だろうけど、地域の気風も大きく影響しているように思える。「神棚おろし」と称された学僧もいたとのこと。巻末のアンケートによると1970年代頃は仏壇と神棚の両方がある家が半数近くを占めていた。家単位での宗派をみると真宗が五割を超えている。その他の仏教諸派は合わせると三割近くあるが、勢力としては圧倒的である。
ちなみに横山光輝は日本の戦国武将も漫画化しているのだけど、毛利氏はしていなかったと記憶している。大河ドラマは見ていなかった。そんな訳でそこら辺の歴史が分かっていなかったのだけど、当時安芸国の守護だった安芸武田氏を高田の地頭だった毛利氏と宍戸氏が政略結婚で手を結び若狭へ追い出す。そこから毛利氏の中国地方における勢力伸長が始まったことが分かった。安国寺恵瓊は武田氏の出だそうだ。
毛利氏は安芸国の一向宗と手を結ぶことで石山本願寺に海運で物資を供給し、織田信長に対抗しようとしたようだ。
真宗の場合、僧侶として得度するためには天台宗(※元は天台宗の一派だった)など一旦自力の教えを修めなければならず、そこから他力へと転換していく。また、絶対他力の立場をとると人間の主体性が問われることになる。自力←→他力の間で揺らぐことになるか。
安芸門徒は北陸や東海のように一向一揆といった反抗的な態度はとらなかった。本書では「従順」としているが、領主の支配に苛烈さがなかったということかもしれないし、そこら辺はよく分からない。
<追記>
藤井昭「書評 水原史雄『安芸門徒』」を読む。本書を宗教史と郷土史を結びつける成果と評価している。一方で、
著者が、安芸門徒は芸備門徒といいかえた方がよい(はしがき)とされ、本文でも安芸の真宗と備後の真宗とを区別して扱われていない点である。安芸では一村が真宗にぬりつぶされ、他宗派の入るを許さない厳しさがあったが、備後の真宗は村内で他宗派と共存し、数多くの小神の鎮座を許している。備後の真宗の在地のあり方は安芸よりも他国の真宗に共通した性格を多分に有していたのではあるまいか。むしろ安芸の真宗は備後の真宗との対比においてその本質が明確になると思うのである。(28P)
ともしている。備後では荒神信仰がみられるが、安芸ではおそらく見られないのではないか。
◆参考文献
・『安芸門徒 復刻版』(水原史雄, 中国新聞社, 1996)
・藤井昭「書評 水原史雄『安芸門徒』」『芸備地方史研究』128(芸備地方史研究会/編, 1980)pp.26-28.
・市川訓敏「安芸門徒と「神棚降ろし」」『比較法史研究』3(比較法史学会/編, 1994)pp.85-112.
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