文字ものは電子へのシフトが案外進んでいない――鷹野凌『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』
鷹野凌『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』を読む。ラノベの話は本来は別館でやっているのだけど、幾つか参考になるデータもあったので。
ライトノベルは何でもありの世界で定義づけが困難で(※その人がラノベだと思ったものがラノベだとしか言いようがない)電子書籍に関しては業界としての統計データがない状況である。ラノベの電子書籍の市場は推測では20~60億円と三倍もの幅がある。本書は60億円説を主張し、その算定の根拠を説明する本である。ちなみに20億円説はおそらく飯田一史氏だと思うが、氏は元ライトノベルの編集者であり、その後大学院にも通った経歴の持ち主ではあるので、その算定が無根拠という訳でもなさそうなのだが。
日本の電子書籍市場は現在およそ5000億円規模だったか。ただ、漫画が圧倒的に多く、文字主体の本の電子へのシフトは意外と進んでいない印象もある。その中でライトノベルは電子への移行が進んでいる方である。
本文中で提示された数字によると、出版科学研究所の推計で2023年の電子書籍(文字もの)の占有率は8.2%とある。一方、KADOKAWAの決算資料によると文字ものが23%を占めるとのこと。これはKADOKAWAはライトノベルのレーベルを複数持つラノベに強みを持つ(メディアミックスに長けた)出版社であるからだろう。また独自の電子書籍販売のプラットフォームを所有していることも大きいだろう。
ちなみに電子雑誌の市場は減少傾向にあり、178億円(2017年)→81億円(2023年)と半減以下である。これは雑誌という媒体がその役割を終えつつあるということだろう。老舗のカメラ雑誌でも廃刊してしまったところが多い。
……僕自身、電子書籍で購入できるものは極力そちらを選ぶようにしている。保管場所の問題と引っ越しに伴う断捨離で疲弊したから。移動の手間がかからないのも大きい。僕自身は液晶ディスプレイで閲覧しても特に何も感じないのだけど、文字ものの電子書籍へのシフトが案外進んでいないということは、モニターでの読書を嫌う層は少なくないということかもしれない。タブレットも10インチになると紙の本より重たかったりするし。
とはいえ、書店は何らかの業態転換を余儀なくされるだろうと予想はつく。文房具はとっくの昔に置いているし、カフェなどの飲食は汚損の怖れがあるので難しいだろう。町の書店の経営を支えていたのは雑誌だったそうだが、雑誌そのものが役割を終えつつある状況である。子供向けの絵本なんかは電子に移行させる訳にはいかないが、そういう性質の本ばかり置く訳にもいかないだろうし。
……ちなみに、ラノベはラノベでアタリショック的な読者離れを起こしかけているようだ。ティーンエイジャーの読書ランキングに児童書に分類される本が多数ランクインしていて驚かされたことがある。
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