おーちようこ『2・5次元舞台へようこそ ミュージカル『テニスの王子様』から『刀剣乱舞』へ』を読む。漫画・アニメを題材とした舞台劇は宝塚歌劇団の「ベルサイユのばら」を嚆矢として90年代には既に活発に上演されていたようだ。近年、演出技法がアップデートされミュージカル「テニスの王子様」辺りから2.5次元という風に表現されるようになっていったようだ。
取り上げられているタイトルから推察するに、女性の観客をターゲットとした舞台が多いようだ。僕自身は少年漫画の世界から離れて久しいけど、女性の読者も多いらしい。
かつて小劇場演劇ブームは若い女性層が支えたそうだが、小劇場をはるかに上回る動員力を誇るものと思われる。オリジナル台本の小劇場演劇と違い既に知名度の高いコンテンツの舞台化であり、若手俳優にとっては特定のキャラのイメージがつくリスクはあるものの、知名度を飛躍的に向上させるまたとないチャンスのはずだ。今の60代以下は漫画・アニメで育った世代で昔みたく「ジャリ番」といった偏見もないだろう。
僕自身の観劇経験はアリバイ程度にしかないけど、「リコリス・リコイル」後編を東京ドームシティで観劇したことならある。普段は戦隊ショーが催される会場だけど、立体的なステージングで目まぐるしく登場人物が出入りして楽しい舞台だった。
残念なのはIHIステージアラウンド東京という劇場。おそらく背景が全面的にデジタルサイネージ的な仕組みで構成されていたのではないか。「推しの子」で登場した会場のモデルらしいのだけど既に取り壊されてしまったのだとか。
発行年月日は2020年12月でタイミング的にコロナ禍には触れられていない。コロナ禍で首都圏のとある神楽社中は三年間神楽が奉納できなかったそうである。楽屋は密な環境となるそうで、観劇している観客だけでなく演者にも多大な影響を及ぼした。
本書の他『大衆演劇へようこそ』を読んだ。いずれも初心者向けの構成となっている。初心者向けだから「こんなのでいいんだよ」なのだけど、強いて言えば、ミクロ的な視点で書かれており、その熱量はともかくとして、記述がマクロ的な観点からは整理されていないのでは……といったところ。おそらくジャンルとしての統計がないのだろうけど、たとえば「テニスの王子様」の年ごとの上演回数や動員数、何代目の主役かといったことをグラフ化して図示すれば、2.5次元舞台の躍進ぶりが一目瞭然なのではないか。
時代を先取りした舞台は女性が支えてきたと言っても過言ではないかもしれない。