『危険な関係』を読んだ方がいいか――トドロフ『小説の記号学 文学と意味作用』
T.トドロフ『小説の記号学 文学と意味作用』(菅野昭正/保苅瑞穂 訳注)を読む。トドロフは東欧から西欧に亡命した人で、東欧と西欧の人文知を結びつける役割を果たしたとのこと。解説によると、この本はトドロフがバルトの指導を受けて執筆した博士論文に相当するらしい。
読んでみると、西洋には修辞学の厚い蓄積があって、これらの研究が成り立っているようだ。
本書は小説『危険な関係』を題材としている。巻末に登場人物表と粗筋が掲載されているが、書簡形式で描写された作品で複雑な筋らしく、一読では理解できない。実際に小説を読んだ方がいいかもしれない。岩波文庫であるとのこと。登場人物自体、既婚女性は夫人と記載されているので判別できるが、名前によっては男女いずれか判別できない登場人物もいる。
しかしそうした関係は、欲する、伝達する、協力するという三つの関係に簡単に還元されるものであることに直ちに気がつく。(84P)
……といったところがとりあえずメモした箇所である。
人称との関連で、本書では話者と作中の登場人物とは区別されている。もちろん、話者=登場人物のこともある。話者が物語の背景全てを見通している場合もあれば、逆に登場人物よりも知らない場合もある。話者>作中の登場人物、話者<作中の登場人物、いずれも成り立つ。
トドロフは日本語訳された著書も多く、とりあえずどれから読んだらよいのか分からず『小説の記号学』を選んだ。高田本ではトドロフも物語構造分析の事例として取り上げられているのだけど、具体的な書名は挙げられていなかった。
読んだ限りではトドロフのテキスト分析は長編小説を射程に入れており、昔話の分析にダイレクトに導入できるツール的な手法ではなさそうだ。
現在、バルトの『S/Z』を読んでいるが、師弟とも、修辞学の技法をベースに分析を進めているように見える。『小説の記号学』の177~178ページに修辞学の技法が一覧表として掲載されている。
ラクロ『危険な関係』は現在では角川書店から刊行されている。電子書籍版もあり。
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