行為項分析――三人兄弟
◆あらすじ
あるところに子供が三人いた。一番末の子が十になったとき、父親は子供を集めて、お前たちも兄の方は十三になる。弟の方は十二になる。末の方は十になった。ひとつこれから他所へ出て修行してこいと言った。そして三人が出かけるとき、来年の三月には帰ってこいと言った。明くる年の三月になって、子供たちが帰ってきた。何を習ってきたと父親が訊くと、兄は大工を習ったと言った。弟は左官を習ったと言った。中の方は何を習ったとも言わない。そこで父親がお前は何を習った。大方一年も出ていたのに何も習わなくて戻ったということはあるまいと叱った。すると、中の子が言っていいやら悪いやら知らないが、自分は盗人を習ったと言った。ちょうどこの時、父親の兄が家の子供が戻ったから話を聞きに来てくれということで来ていた。この伯父は金持ちであった。父親は盗人を習ってきたと言うのを聞くと、盗人を習ってとんでもない奴だと言って大くじをくった(大変叱った)。まあ待て。盗人と言ってもいい盗人もいれば悪い盗人もいる。どういう盗人か、話を聞いてみなければ分からないと伯父が言った。どういう盗人を習ってきたと訊くと、それは言えないと答えたので、そうか、そうすれば自分が今夜帰るから、うちの駄屋の中で馬に乗って千両箱を下げている。それを持って戻れば偉いものだと伯父が言ったので、それはやろうと息子は言った。そんなことができるもんか。なんぼ金が欲しくても馬へ乗って千両箱を持っているのが盗られる訳がないと父親が言った。伯父は、やってみなければ分からない。子供のすることをむやみにくじをくったり(叱ったり)話を潰したりしてはいけない、自分が一つやらせてみようと言って、駄屋の中で馬に乗って、千両箱を持って、盗りに来るのを待っていた。夜は段々ふけてきたが、息子はなかなかやって来ない。あの小僧、大きなことを言って自分を誤魔化しやがって。これが盗人の種だろうかと思っていた。その内に幾ら経っても来ないので、ついうとうとと眠ってしまった。はっとして目が覚めてみると、乗っていた馬がいない。あらっと思ってみると、駄屋に馬が出られないように丸い木のかんぬきが二本差してある上に鞍を据えて、伯父はその上に乗っていた。たまげたのたまげないのと言って、馬がいつ逃げたのやら、かんぬきの上へいつ乗せられたのか分からない。そこへ父親がやって来た。おい、兄よ。どうした、と父親が問うと、まあ見てくれ。不思議なことに、いつの間にやら、ここへ上がっているのだと伯父は言った。自分は確かにここで馬に乗っていたのだが千両箱はいつの間にか無くなってしまったと。それから父親は伯父と一緒に家へ帰った。息子はいつの間にかちゃんと帰っていた。お前どうだったと伯父が訊くと、伯父さんの持っていた千両箱はもらって帰ったと言った。馬はどうしたと訊くと、ここの駄屋へ入れてあると答えた。行ってみると馬はちゃんと駄屋へ入れてある。まあ、大変な大盗人だ。よくやったと伯父は手を叩いて感心した。そして父親も、お前は偉かったと言って頭を撫でた。
◆モチーフ分析
・あるところに子供が三人いた。兄は十三歳、弟は十二歳、末の子は十歳である
・末の子が十歳になったとき父親が子供に対してこれから他所へ出て修行してこいと言った。
・三人が出かけるとき、来年の三月には帰ってこいと言った
・明くる年の三月になって子供たちが帰ってきた
・何を習ってきたか父親が訊くと、兄は大工を習ったといい、末の弟は左官を習ったと言った
・中の子は何を習ったとも言わない
・父親が一年も出ていたのに何も習わなくて戻ったということはあるまいと叱った
・中の子は言って良いのか分からないが、自分は盗人を習ったと言った
・このとき伯父が子供が戻ったから話を聞きに来てくれというので来ていた
・伯父は金持ちであった
・父親は盗人を習ってきたと聞くと、盗人を習ってとんでもない奴だと叱った
・伯父が良い盗人か悪い盗人か話を聞いてみなければ分からないと言った
・どういう盗人を習ってきたかと訊くと、それは言えないと中の子は答えた
・伯父は自分は今夜帰るから、うちの駄屋の中で馬に乗って千両箱を下げている、それを持ってこいと言った
・中の子はそれはやろうと言った
・そんなことができるものかと父親が言った
・伯父はやってみなければ分からない、ひとつやらせてみようと言った
・伯父は駄屋の中で馬に乗って千両箱を持って盗りに来るのを待った
・夜は段々ふけてきたが息子はやって来ない
・大きなことを言って誤魔化しやがってと伯父は思った
・その内に幾ら経っても来ないので、うとうとと眠ってしまった
・はっと目覚めてみると乗っていた馬がいない。木のかんぬきの上に鞍を据えて、伯父はその上に乗っていた
・馬がいつ逃げたのか、かんぬきの上へいつ乗せられたのか分からない
・そこへ父親がやって来た
・伯父は自分は確かにここで馬に乗っていたのだが、いつの間にかに千両箱が無くなったと語った
・父親と伯父は一緒に家に帰った
・息子はいつの間にかちゃんと帰っていた
・伯父が訊くと、中の子は伯父の持っていた千両箱はもらって帰ったと言った
・馬はどうしたと訊くと、駄屋に入れてあった
・大変な盗人だ、よくやったと伯父は手を叩いて感心した
・父親もお前は偉かったと頭を撫でた
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:兄
S2:中の子
S3:末の子
S4:父
S5:伯父
O(オブジェクト:対象)
O1:家
O2:修行
O3:大工
O4:左官
O5:盗人
O6:伯父の家
O7:駄屋
O8:馬
O9:千両箱
O10:試行
O11:ほら
O12:誤魔化し
O13:かんぬき
O14:鞍
O15:仕掛け
m(修飾語:Modifier)
m1:十三歳
m2:十二歳
m3:十歳
m4:来年の三月(明くる年の三月)
m5:無言の
m6:何もしてない
m7:一年間
m8:金持ちの
m9:とんでもない
m10:良し悪し
m11:今夜
m12:応じた
m13:本人次第
m14:夜更け
m15:うとうとと
m16:目覚めた
m17:大変な(偉い)
X:どこか
T:時
+:接
-:離
・あるところに子供が三人いた。兄は十三歳、弟は十二歳、末の子は十歳である
(存在)X:X+(S1兄+S2中の子+S3末の子)
(年齢)S1兄:S1兄+m1十三歳
(年齢)S2中の子:S2中の子+m2十二歳
(年齢)S3末の子:S3末の子+m3十歳
・末の子が十歳になったとき父親が子供に対してこれから他所へ出て修行してこいと言った。
(時期到来)T:S3末の子+m3十歳
(命令)S4父:S4父+(S1兄+S2中の子+S3末の子)
(命令)S4父:(S1兄+S2中の子+S3末の子)-O1家
(命令)S4父:(S1兄+S2中の子+S3末の子)+O2修行
・三人が出かけるとき、来年の三月には帰ってこいと言った
(時)T:(S1兄+S2中の子+S3末の子)-O1家
(命令)S4父:S4父+(S1兄+S2中の子+S3末の子)
(命令)S4父:(S1兄+S2中の子+S3末の子)+O1家
(帰宅命令)(S1兄+S2中の子+S3末の子):O1家+m4来年の三月
・明くる年の三月になって子供たちが帰ってきた
(時節到来)T:T+m4明くる年の三月
(帰省)(S1兄+S2中の子+S3末の子):(S1兄+S2中の子+S3末の子)+O1家
・何を習ってきたか父親が訊くと、兄は大工を習ったといい、末の弟は左官を習ったと言った
(質問)S4父:S4父+(S1兄+S2中の子+S3末の子)
(回答)S1兄:S1兄+O3大工
(回答)S3末の子:S3末の子+O4左官
・中の子は何を習ったとも言わない
(未回答)S2中の子:S2中の子+m5無言の
・父親が一年も出ていたのに何も習わなくて戻ったということはあるまいと叱った
(叱責)S4父:S4父+S2中の子
(叱責)S4父:S2中の子-(m6何もしてない+m7一年間)
・中の子は言って良いのか分からないが、自分は盗人を習ったと言った
(回答)S2中の子:S2中の子+O5盗人
・このとき伯父が子供が戻ったから話を聞きに来てくれというので来ていた
(来訪)S5伯父:S5伯父+O1家
(招く)S4父:S4父+S5伯父
・伯父は金持ちであった
(状態)S5伯父:S5伯父+m8金持ちの
・父親は盗人を習ってきたと聞くと、盗人を習ってとんでもない奴だと叱った
(知る)S4父:S2中の子+O5盗人
(叱責)S4父:S2中の子+m9とんでもない
・伯父が良い盗人か悪い盗人か話を聞いてみなければ分からないと言った
(反論)S5伯父:S5伯父+S2中の子
(判断)S2中の子:O5盗人+(m10良し悪し)
・どういう盗人を習ってきたかと訊くと、それは言えないと中の子は答えた
(質問)S5伯父:S5伯父+S2中の子
(拒否)S2中の子:S2中の子-S5伯父
・伯父は自分は今夜帰るから、うちの駄屋の中で馬に乗って千両箱を下げている、それを持ってこいと言った
(帰宅予定)S5伯父:S5伯父+O6伯父の家
(条件)T:T+m11今夜
(提案)S5伯父:S5伯父+O7駄屋
(提案)S5伯父:S5伯父+O8馬
(提案)S5伯父:S5伯父+O9千両箱
(提案)S5伯父:S2中の子+O9千両箱
・中の子はそれはやろうと言った
(応諾)S2中の子:S2中の子+m12応じた
・そんなことができるものかと父親が言った
(否定)S4父:S2中の子-O9千両箱
・伯父はやってみなければ分からない、ひとつやらせてみようと言った
(提案)S5伯父:S2中の子+O10試行
(提案)O10試行:O10試行+m13本人次第
・伯父は駄屋の中で馬に乗って千両箱を持って盗りに来るのを待った
(待つ)S5伯父:S5伯父+S2中の子
(準備)S5伯父:S5伯父+(O7駄屋+O8馬+O9千両箱)
・夜は段々ふけてきたが息子はやって来ない
(時間経過)T:T+m14夜更け
(未到来)S2中の子:S2中の子-O7駄屋
・大きなことを言って誤魔化しやがってと伯父は思った
(評価)S5伯父:S2中の子+(O11ほら+O12誤魔化し)
・その内に幾ら経っても来ないので、うとうとと眠ってしまった
(まどろむ)S5伯父:S5伯父+m15うとうとと
・はっと目覚めてみると乗っていた馬がいない。木のかんぬきの上に鞍を据えて、伯父はその上に乗っていた
(覚醒)S5伯父:S5伯父+m16目覚めた
(気づく)S5伯父:O8馬-O7駄屋
(工作)S2中の子:O13かんぬき+O14鞍
(工作)S2中の子:S5伯父+O14鞍
・馬がいつ逃げたのか、かんぬきの上へいつ乗せられたのか分からない
(不覚)S5伯父:S5伯父-O15仕掛け
・そこへ父親がやって来た
(到来)S4父:S4父+O7駄屋
・伯父は自分は確かにここで馬に乗っていたのだが、いつの間にかに千両箱が無くなったと語った
(告白)S5伯父:S5伯父+S4父
(喪失)S5伯父:S5伯父-O9千両箱
・父親と伯父は一緒に家に帰った
(帰宅)(S4父+S5伯父):(S4父+S5伯父)+O1家
・息子はいつの間にかちゃんと帰っていた
(帰宅)S2中の子:S2中の子+O1家
・伯父が訊くと、中の子は伯父の持っていた千両箱はもらって帰ったと言った
(質問)S5伯父:S5伯父+S2中の子
(達成)S2中の子:S2中の子+O9千両箱
・馬はどうしたと訊くと、駄屋に入れてあった
(回収)S2中の子:O8馬+O7駄屋
・大変な盗人だ、よくやったと伯父は手を叩いて感心した
(賞賛)S5伯父:S5伯父+S2中の子
(賞賛)S2中の子:O5盗人+m17大変な
・父親もお前は偉かったと頭を撫でた
(賞賛)S4父:S4父+S2中の子
(賞賛)S2中の子:O5盗人+m17偉い
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(修行に出た兄弟たちはどうなるか)
↓
送り手(父)→修行に出す(客体)→ 受け手(三人兄弟)
↑
補助者(なし)→ 父(主体)←反対者(なし)
聴き手(戻ってきた兄弟をどう思うか)
↓
送り手(兄と末子)→修行の成果を話す(客体)→ 受け手(父)
↑
補助者(なし)→ 兄と末子(主体)←反対者(なし)
聴き手(盗人となった中の子をどう思うか)
↓
送り手(中の子)→盗人の修行をしたと話す(客体)→ 受け手(父)
↑
補助者(なし)→ 中の子(主体)←反対者(父)
聴き手(仲裁に入って伯父はどうなるか)
↓
送り手(伯父)→仲裁をする(客体)→ 受け手(父)
↑
補助者(なし)→ 伯父(主体)←反対者(父)
聴き手(中の子の盗人の技をどう思うか)
↓
送り手(中の子)→伯父から千両箱を盗る(客体)→ 受け手(伯父)
↑
補助者(なし)→ 中の子(主体)←反対者(伯父)
聴き手(盗人も認めた伯父と父をどう思うか)
↓
送り手(伯父と父)→賞賛する(客体)→ 受け手(中の子)
↑
補助者(なし)→ 伯父と父(主体)←反対者(なし)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。三人の息子が年頃になったので父親は息子たちを修行に出します。一年経って戻ってくると、兄は大工、末の子は左官となっていましたが、中の子は盗人の修行をしていたと答えたので父親は怒ります。伯父が仲裁に入り、盗人の技がどんなものか伯父に披露することになります。見事、伯父から全く気づかれずに千両箱を奪った中の子は伯父から賞賛され、父も認めたという筋立てです。
父―兄、父―末の子、父―中の子、父―伯父、伯父―中の子、といった対立軸が見受けられます。馬/かんぬきと鞍の図式に全く気配を悟られることなくすり替えてしまう中の子の盗人の技の巧みさが暗喩されています。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
中の子♌♁―父♂―伯父♎☾(♂)―兄♁―末の子♁
といった風に表記できるでしょうか。修行の成果を価値☉と置くと、三兄弟はそれぞれ修行の成果を身につけていますので享受者♁と置けます。兄弟たちを修行に送り出す父は盗人となった中の子に立腹しますので対立者♂と置けます。それを仲裁し、中の子の技を試す伯父は審判者♎であり、父の援助者☾(♂)と置けるでしょうか。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点は「中の子の盗人の技はどんなものか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「中の子が盗人の修行をしてしまう」「中の子が実際に伯父の千両箱を盗んでしまう」でしょうか。「父―修行/盗人―中の子」「中の子―千両箱―馬/(かんぬき+鞍)―伯父」といった図式です。
◆昔話の創発モデル
下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。
物語の焦点:中の子の盗人の技はどんなものか
↑
発想の飛躍:中の子が盗人の修行をしてしまう
中の子が実際に伯父の千両箱を盗んでしまう
・中の子―技/千両箱―伯父
↑
・父―修行/盗人―中の子
・中の子―千両箱―馬/(かんぬき+鞍)―伯父
◆発想の飛躍と概念の操作
発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。
呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。
「三人兄弟」では、伯父の家の駄屋で馬に乗って待ち構えていた伯父ですが、まどろんだ隙に馬から降ろされ、かんぬきに鞍を掛けてその上に座らされて千両箱を奪われてしまったという展開となっています。
図式では「中の子―千両箱―馬/かんぬき+鞍―伯父」と表記しています。これを自由連想で細分化して展開すると「中の子―盗人―技―発揮―馬/かんぬき+鞍―伯父―移す―まどろむ―隙―奪う―千両箱―喪失」となります。「伯父:まどろむ→馬/(かんぬき+鞍)→千両箱→手中/喪失」と図式化すればいいでしょうか。馬に乗っていたのが鞍に移し替えられることに転倒され、更に手中にあった千両箱が奪われる、つまり、手中/喪失と転倒される概念の操作が行われています。これらの連想を一瞬で行っていることになります。
「中の子:修行→子供/盗人」という風に解釈することも可能でしょう。修行するとは通常は堅気の技術を身につけることですが、ここでは普通の子供に過ぎなかった中の子が盗人の技を習得するといった「転倒」が行われているとも解釈することができるでしょう。
以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。可視化されていない文脈を読む、つまりできるだけ可視化するためには連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。
転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、予想外の驚きをもたらす効果を発揮しますので、昔話では好んで用いられるようです。
シェーマ分析は物語構造分析や評論において多用されますが、昔話ではこの二項対立で把握される図式の各項の属性を動的に転倒させていく(※必ずしも転倒に成功する訳ではない)ことで物語を転がしていくという技法が多用されると考えられます。むしろ転倒させることで二項対立の図式に持ち込むと見た方がいいでしょうか。静態から動態への認識の転換が求められるとでも言えるでしょうか。
呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。
◆ログライン≒モチーフ
ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。
「三人兄弟」ですと「甥が盗人の修行をしたと言うので、それでは自分の千両箱を盗んでみよと言ったところ、実際に盗んでしまったので、これは大した奴だとなった」くらいでしょうか。
◆余談
三人兄弟が登場する話では、中の子が活躍することは少ないです。語りから抜け落ちてしまうことが多いのですが、この話では中の子が活躍する話となっています。中の子が義賊となるのか、それとも大悪党となるのか、その未来は明らかとされていません。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.414-417.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
| 固定リンク
「昔話」カテゴリの記事
- 未来社『石見の民話』分析二周目、石西編が終わる。続いて三周目について(2024.11.30)
- 行為項分析――長い話(2024.11.29)
- 行為項分析――果てなしばなし(2024.11.29)
- 行為項分析――なさけない(2024.11.29)
- 行為項分析――八人の座頭(2024.11.28)