« 行為項分析――おばあさんと小僧 | トップページ | 行為項分析――なさけない »

2024年11月28日 (木)

行為項分析――八人の座頭

◆あらすじ

 昔、八人の座頭が山路を歩いていた。すると、路の上へ木の切株がにょきっとのぞいていた。真っ先を歩いていた座頭がごつんと切株で頭を打った。座頭は痛いのをこらえて黙っていた。二番目の座頭もごつんと頭を打った。その座頭も痛いのをこらえて黙っていた。三番目の座頭も頭を打った。そして皆ごつんごつんと頭を打った。そのとき一番目の座頭が今何時(なんどき)じゃと言った。すると一番後ろの座頭が八つの頭(かしら)を今打ったと言った。

◆モチーフ分析

・八人の座頭が山路を歩いていた
・すると路の上へ木の切株がにょきっとのぞいていた
・真っ先を歩いていた座頭がごつんと切株で頭を打った
・座頭は痛いのをこらえて黙っていた
・二番目の座頭もごつんと頭を打った
・その座頭も痛いのをこらえて黙っていた
・三番目の座頭も頭を打った
・そして皆ごつんごつんと頭を打った
・一番目の座頭が今何時じゃと言った
・すると一番後ろの座頭が八つの頭を今打ったと言った

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:座頭
S2:座頭
S3:座頭
S4:座頭
S5:座頭
S6:座頭
S7:座頭
S8:座頭

O(オブジェクト:対象)
O1:山路
O2:切株
O3:頭(あたま、かしら)

m(修飾語:Modifier)
m1:ごつんと
m2:無言
m3:耐えて
m4:何時か
m5:八つ
m6:打った
m7:頭

X:どこか
T:時

+:接
-:離

・八人の座頭が山路を歩いていた
(歩行)(S1座頭+S2座頭+……+S8座頭):(S1座頭+S2座頭+……+S8座頭)+O1山路
・すると路の上へ木の切株がにょきっとのぞいていた
(存在)O1山路:O1山路+O2切株
・真っ先を歩いていた座頭がごつんと切株で頭を打った
(ぶつかる)S1座頭:S1座頭+O2切株
(状態)S1座頭:O3頭+m1ごつんと
・座頭は痛いのをこらえて黙っていた
(無言で耐える)S1座頭:S1座頭+(m2無言+m3耐えて)
・二番目の座頭もごつんと頭を打った
(ぶつかる)S2座頭:S2座頭+O2切株
(状態)S2座頭:O3頭+m1ごつんと
・その座頭も痛いのをこらえて黙っていた
(無言で耐える)S2座頭:S2座頭+(m2無言+m3耐えて)
・三番目の座頭も頭を打った
(ぶつかる)S3座頭:S3座頭+O2切株
(状態)S3座頭:O3頭+m1ごつんと
・そして皆ごつんごつんと頭を打った
(ぶつかる)(S4座頭+S5座頭+……+S8座頭):(S4座頭+S5座頭+……+S8座頭)+O2切株
(状態)(S4座頭+S5座頭+……+S8座頭):O3頭+m1ごつんと
・一番目の座頭が今何時じゃと言った
(尋ねる)S1座頭:S1座頭+(S2座頭+S3座頭+……+S8座頭)
(尋ねる)S1座頭:T+m4何時か
・すると一番後ろの座頭が八つの頭を今打ったと言った
(回答)S8座頭:S8座頭+S1座頭
(回答)S8座頭:O3頭(かしら)+(m5八つ+m6打った)
(意味)S8座頭:T+(m5八つ+m7頭)

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

     聴き手(座頭が耐えた結果どうなるか)
           ↓
送り手(座頭)→切株にぶつかるが無言で耐える(客体)→ 受け手(座頭)
           ↑
補助者(なし)→ 座頭(主体)←反対者(なし)

     聴き手(座頭が皆耐えた結果どうなるか)
           ↓
送り手(座頭)→ぶつかるのが連鎖する(客体)→ 受け手(座頭)
           ↑
補助者(なし)→ 座頭(主体)←反対者(なし)

       聴き手(今は何時か)
           ↓
送り手(先頭の座頭)→何時か訊く(客体)→ 受け手(座頭)
           ↑
補助者(なし)→ 座頭(主体)←反対者(なし)

       聴き手(皮肉な回答をどう感じるか)
            ↓
送り手(後ろの座頭)→頭を八つ打ったから八つだと答える(客体)→ 受け手(先頭の座頭)
            ↑
補助者(なし) → 座頭(主体)←反対者(なし)


といった行為項モデルが作成できるでしょうか。八人の座頭が山道を歩いていたところ、切り株に頭をぶつけてしまいます。無言で耐えたため連鎖して皆ぶつけてしまいます。先頭の座頭が今何時か尋ねたところ、しんがりの座頭が頭を八つ打ったから八つだと答えたという筋立てです。

 座頭―座頭、座頭―切株、先頭の座頭―一番後ろの座頭、といった対立軸が見受けられます。あたま/かしらの図式に黙っていたから皆頭をぶつけてしまったという非難が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

S1座頭♌♁(-1)―S2座頭♁(-1)―S3座頭♁(-1)―……―S8座頭♁(-1)♎

 といった風に表記できるでしょうか。安全に歩くことを価値☉と置くと、座頭たちは皆頭をぶつけてしまいますので、マイナスの享受者♁(-1)と置けるでしょうか。一番後ろの座頭は先頭の座頭の今何時かという問いかけに皮肉で返しますので審判者♎と置けるでしょうか。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「座頭の受忍はどう帰結するか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「痛みを耐えて黙っていたら失敗が連鎖してしまう」「頭をぶつけたことを時刻に置き換えて皮肉を言う」でしょうか。「座頭―ぶつける―連鎖」「しんがりの座頭―あたま/かしら―先頭の座頭」といった図式です。

◆昔話の創発モデル

 下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。


物語の焦点:座頭の受忍はどう帰結するか
         ↑
発想の飛躍:痛みを耐えて黙っていたら失敗が連鎖してしまう
      頭をぶつけたことを時刻に置き換えて皮肉を言う

・座頭―切株/頭―耐える
     ↑
・座頭―ぶつける―連鎖
・しんがりの座頭―あたま/かしら―先頭の座頭

◆発想の飛躍と概念の操作

 発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。

 呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。

 「八人の座頭」では、先頭の座頭が痛みをこらえて黙っていたため、切株に頭をぶつける失敗が連鎖してしまいます。

 図式では「座頭―ぶつける―連鎖」と表記しています。これを自由連想で細分化して展開すると「座頭―先頭―切株―頭(あたま)―ぶつける―痛み―耐える―無言―次―座頭―ぶつける―切株―連鎖―八つ―問う―何時―頭(かしら)―八つ―打った―皮肉―返す―しんがり―座頭」となります。「座頭:頭→ぶつける→連鎖→あたま/かしら→刻」と図式化すればいいでしょうか。八人の頭(あたま)をぶつけてしまうという連鎖が起きる訳ですが、「あたま」を「かしら」と転換させることで今の時刻は八つだと表す、つまり更に「頭」が「刻」に転換されるといった概念の操作がここでは行われています。これらの連想を一瞬で行っていることになります。

 以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。可視化されていない文脈を読む、つまりできるだけ可視化するためには連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。

 転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、予想外の驚きをもたらす効果を発揮しますので、昔話では好んで用いられるようです。

 シェーマ分析は物語構造分析や評論において多用されますが、昔話ではこの二項対立で把握される図式の各項の属性を動的に転倒させていく(※必ずしも転倒に成功する訳ではない)ことで物語を転がしていくという技法が多用されると考えられます。むしろ転倒させることで二項対立の図式に持ち込むと見た方がいいでしょうか。静態から動態への認識の転換が求められるとでも言えるでしょうか。

 呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。

◆ログライン≒モチーフ

 ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。

 「八人の座頭」ですと「痛いのを我慢していたら、八人とも頭を打ったので、八つの頭を今打ったと皮肉を返した」くらいでしょうか。

◆余談

 不意に頭を打ったときはかなり痛いのですが、皆こらえていたというのも面白みがあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.467.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

|

« 行為項分析――おばあさんと小僧 | トップページ | 行為項分析――なさけない »

昔話」カテゴリの記事