行為項分析――みんみん蝉
◆あらすじ
昔、嫁と姑があった。あるとき針が無くなったので姑は嫁にお前は知らないかと言った。嫁は「見ん」と言った。それでも姑はお前が取ったのだろうといって、とうとう責め殺した。嫁は死んで蝉(せみ)になった。それで今でも、みん、みん、と言って鳴くのだそうである。
◆モチーフ分析
・嫁と姑がいた
・あるとき針が無くなったので、姑は嫁に知らないかと言った
・嫁は見んと言った
・姑は嫁が取ったのだろうと言って責め殺した
・嫁は死んで蝉になった
・それで今でも、みん、みんと言って鳴く
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:嫁(蝉)
S2:姑
O(オブジェクト:対象)
O1:針
m(修飾語)
m1:死んだ
m2:みんみんと
X:どこか
+:接
-:離
・嫁と姑がいた
(存在)X:S1嫁+S2姑
・あるとき針が無くなったので、姑は嫁に知らないかと言った
(紛失)S2姑:S2姑-O1針
(質問)S2姑:S2姑+S1嫁
・嫁は見んと言った
(不知)S1嫁:S1嫁-O1針
・姑は嫁が取ったのだろうと言って責め殺した
(決めつけ)S2姑:S1嫁+O1針
(責め殺す)S2姑:S2姑+S1嫁
・嫁は死んで蝉になった
(変身)S1嫁:S1蝉+m1死んだ
・それで今でも、みん、みんと言って鳴く
(習性)S1蝉:S1蝉+m2みんみんと
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(嫁はどう答えるか)
↓
送り手(姑)→紛失した針の在処を訊く(客体)→ 受け手(嫁)
↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)
聴き手(嫁の回答に姑はどうするか)
↓
送り手(嫁)→見ないと答える(客体)→ 受け手(姑)
↑
補助者(なし)→ 嫁(主体)←反対者(姑)
聴き手(死んだ嫁はどうなるか)
↓
送り手(姑)→針を奪ったと責め殺す(客体)→ 受け手(嫁)
↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)
聴き手(みんみん蝉の由来をどう思うか)
↓
送り手(嫁)→みんみん蝉となる(客体)→ 受け手(蝉)
↑
補助者(なし)→ 嫁(主体)←反対者(なし)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。嫁と姑がいましたが、姑は疑り深かったようです。あるとき姑が針を紛失してしまい、嫁に在処を訊きます。嫁は「見ん(見ない)」と答えますが、姑は嫁が盗ったのだろうと決めつけて責め殺してしまいます。嫁は蝉に転生し、みんみんと鳴くようになったという筋立てです。
嫁―姑、姑―針、嫁―針、嫁―蝉、といった対立軸が見受けられます。見ん/蝉の図式に死んで転生した後も己の無実を訴える嫁の姿が暗喩されています。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
嫁♌♁(-1)―姑♂♁♎
といった風に表記できるでしょうか。針を価値☉と置くと、姑は享受者♁となります。嫁を主体♌と置くと、姑は対立者となりますが♂、嫁が盗ったと決めつけて責め殺してしまいますので、審判者♎とも置けます。嫁は本来なら姑の援助者☾のポジションのはずですが、逆に責め殺されてしまいますので、マイナスの享受者♁(-1)と置くこともできるでしょう。
◆フェミニズム分析
フェミニズムで嫁姑の問題をどう扱っているか知りませんが、このお話では姑が優位に立っているものと考えられます。姑は無くした針を嫁が盗ったと決めつけますので、認知症かもしれません。対する嫁は蝉に転生して「見ん」と無実を訴えることしかできないところに置かれた立場の弱さが窺えます。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点は「姑の理不尽に嫁はどうなるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「嫁が蝉に転生する」でしょうか。「姑―責め殺す/転生―蝉/嫁」といった図式です。
◆昔話の創発モデル
下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。
物語の焦点:姑の理不尽に嫁はどうなるか
↑
発想の飛躍:嫁が蝉に転生する
・姑―針―紛失/見ん―嫁
↑
・姑―責め殺す/転生―蝉/嫁
◆発想の飛躍と概念の操作
発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。
呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。
「みんみん蝉」では、疑り深い姑は無くした針を嫁が盗ったと決めつけて責め殺してしまいます。殺された嫁は蝉に転生して「みんみん」と無実を訴え続けるという由来譚となっています。「見ん(見ない)」が「みんみん」に転化されている訳です。
図式では「姑―針―紛失/見ん―嫁」「姑―責め殺す/転生―蝉/嫁」と表記しています。これを細分化すると「姑―針―紛失―詰問―嫁―見ん―盗った―決めつけ―殺害―転生―蝉―みんみん―鳴く」となります。つまり、これらの連想を一瞬で行っていることになります。
「見ん」から「みんみん」となります。「見ん」から意味が剥奪され「みん」となり、それが繰り返されて「みん+みん」となり「みんみん」となる。つまり、意味の剥奪と繰り返しおよび結合を表す概念の操作が見出せます。
「姑―責め殺す/転生―蝉/嫁」からは「責める―殺害―人間―転生―蝉―みんみん―見ん見ん―無実―訴え」と展開されます。「殺害/転生=人間/蝉」の図式となり、「殺害:死→別の生」つまり「死/転生」と転倒する概念操作も行われています。
以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。
転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、昔話では好んで用いられるようです。
呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。
◆ログライン≒モチーフ
ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。
「みんみん蝉」ですと「疑り深い姑に針をとったと責め殺された嫁はミンミンゼミに転生して無実を訴え続けた」くらいでしょうか。
◆余談
亡くなった母方の祖母が呆けて疑り深くなりました。財布がないと言って叔母を責めたのだそうです。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.386.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
| 固定リンク
「昔話」カテゴリの記事
- 昔話の計量テキスト分析――斎藤長者(2026.03.15)
- 追加で作成(2026.03.14)
- あらすじを起こすのが一番の苦行(2026.03.12)
- 7話目でロールバック(2026.03.09)
- 昔話の計量テキスト分析――池月(2026.03.09)

