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2024年10月29日 (火)

行為項分析――隅の庄九郎

◆あらすじ

 昔、隅の庄九郎という男が上方へ行った帰りに三隅の辺りで日が暮れた。どこか宿を借りる様な所はないかと思って探したが、家が一軒もない。これは困ったものだと思って仕方なしに歩いていると、川のほとりに一軒の家があった。これはいいことだと思って、日が暮れて泊まるところがないので困っているが、ひとつ泊めてくれないかと言うと、泊めてあげようと言うので泊めてもらった。上へあがって食事を済ませて休んでいると、しばらく経ってから、前の川の中から、今夜も漁に行こうと言うものがある。今夜はどこへ行くかと宿の主人が言うと、今夜は寺の土井の又三郎を取りに行こうと川の中から言った。庄九郎はこれを聞くとびっくりした。どうもこの様子を見ると、この家の主人は人間ではなくえんこうらしいのである。庄九郎は恐ろしくなってぶるぶる震えだした。主人はそれを見ると、お前はそんなに恐れなくてもいい。何、お前は隅の庄九郎といって人のよい男だから取ったりしない。安心して寝るがよい。寺の土井の又三郎という男は川のほとりをびっしり歩き回って川を荒らすから、それで取ってくるというのだと言った。寺の土井の又三郎は津和野の殿さまの言いつけで、いつも堤防を直したり、井堰を作って水を上げたりしていたので、えんこうのいる所が壊されて住みにくくなるので、えんこうたちが取りにいこうとしたのであった。男はそう言って出ていった。しかし、取ることはできなかった模様で、又三郎が川で死んだという話はなく、長生きして沢山の仕事をした。

◆モチーフ分析

・隅の庄九郎という男が上方へ行った帰りに三隅の辺りで日が暮れた
・どこか宿を借りる所はないかと探したが、家が一軒もない
・仕方なしに歩いていると、川のほとりに一軒の家があった
・これはいいと思って、日が暮れて泊まるところがないので困っている、ひとつ泊めてくれないかと頼むと泊めてあげようと言うので泊めてもらった
・上へあがった食事を済ませて休んでいると、前の川の中から今夜も漁に行こうというものがある
・宿の主人が今夜はどこへ行くかと言うと、今夜は寺の土井の又三郎を取りに行こうと川の中から言った
・庄九郎はこれを聞いてびっくりした
・どうもこの家の主人は人間ではなくえんこうらしい
・恐ろしくなった庄九郎はぶるぶる震えだした
・宿の主人はお前は良い男だから取ったりしない、そんなに恐れなくてもいいと答えた
・宿の主人は寺の土井の又三郎は川のほとりを歩き回って川を荒らすから、それで取ってくるのだと言った
・又三郎は津和野の殿さまの言いつけで堤防を直したり井堰を作って水を上げたりしていたので、えんこうのいる所が壊されて住みにくくなって、えんこうたちが取りにいこうとしたのだと言って男は出ていった
・しかし、取ることはできなかった模様で、又三郎が川で死んだという話はなく、長生きして沢山の仕事をした

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:庄九郎
S2:主人(えんこう)
S3:えんこう
S4:又三郎
S5:殿さま

O(オブジェクト:対象)
O1:上方
O2:三隅
O3:宿
O4:家(宿)
O5:川のほとり
O6:川の中(川)
O7:目的
O8:改修

m(修飾語)
m1:日が暮れた
m2:くつろいだ
m3:驚いた
m4:震えた
m5:善良な
m6:荒れた
m7:長命の
m8:多くの

T:時

+:接
-:離

・隅の庄九郎という男が上方へ行った帰りに三隅の辺りで日が暮れた
(帰路)S1庄九郎:S1庄九郎-O1上方
(差し掛かる)S1庄九郎:S1庄九郎+O2三隅
(日没)T:T+m1日が暮れた
・どこか宿を借りる所はないかと探したが、家が一軒もない
(探す)S1庄九郎:S1庄九郎+O3宿
(見当たらず)S1庄九郎:S1庄九郎-O4家
・仕方なしに歩いていると、川のほとりに一軒の家があった
(歩く)S1庄九郎:S1庄九郎+O5川のほとり
(行き当たる)S1庄九郎:S1庄九郎+O4家
・これはいいと思って、日が暮れて泊まるところがないので困っている、ひとつ泊めてくれないかと頼むと泊めてあげようと言うので泊めてもらった
(交渉)S1庄九郎:S1庄九郎+S2主人
(要求)S1庄九郎:S1庄九郎+O4宿
(許可)S2主人:S1庄九郎+O4宿
・上へあがった食事を済ませて休んでいると、前の川の中から今夜も漁に行こうというものがある
(休憩)S1庄九郎:S1庄九郎+m2くつろいだ
(登場)S3えんこう:S3えんこう+O6川の中
・宿の主人が今夜はどこへ行くかと言うと、今夜は寺の土井の又三郎を取りに行こうと川の中から言った
(質問)S2主人:S2主人+S3えんこう
(質問)S2主人:S3えんこう+O7目的
(回答)S3えんこう:S3えんこう+S4又三郎
・庄九郎はこれを聞いてびっくりした
(驚愕)S1庄九郎:S1庄九郎+m3驚いた
・どうもこの家の主人は人間ではなくえんこうらしい
(推測)S1庄九郎:S2主人+S2えんこう
・恐ろしくなった庄九郎はぶるぶる震えだした
(恐怖)S1庄九郎:S1庄九郎+m4震えた
・宿の主人はお前は良い男だから取ったりしない、そんなに恐れなくてもいいと答えた
(評価)S2主人:S1庄九郎+m5善良な
(評価)S2主人:S3えんこう-S1庄九郎
(評価)S2主人:S1庄九郎-m4震えた
・宿の主人は寺の土井の又三郎は川のほとりを歩き回って川を荒らすから、それで取ってくるのだと言った
(評価)S2主人:S4又三郎+O5川のほとり
(評価)S4又三郎:O6川+m6荒れた
(狙う)S2主人:S3えんこう+S4又三郎
・又三郎は津和野の殿さまの言いつけで堤防を直したり井堰を作って水を上げたりしていたので、えんこうのいる所が壊されて住みにくくなって、えんこうたちが取りにいこうとしたのだと言って男は出ていった
(命令)S5殿さま:S5殿さま+S4又三郎
(行動)S4又三郎:O6川+O8改修
(結果)S4又三郎:O6川+m6荒れた
(狙う)S2主人:S3えんこう+S4又三郎
(去る)S2主人:S1庄九郎-S2主人
・しかし、取ることはできなかった模様で、又三郎が川で死んだという話はなく、長生きして沢山の仕事をした
(不発)S3えんこう:S3えんこう-S4又三郎
(長寿)S4又三郎:S4又三郎+m7長命の
(業績)S4又三郎:(O6川+O8改修)+m8多くの

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(宿をとった庄九郎はどうなるか)
           ↓
送り手(庄九郎)→日が暮れたので宿を求める(客体)→ 受け手(主人)
           ↑
補助者(なし)→ 庄九郎(主体)←反対者(なし)

   聴き手(宿をとった庄九郎はどうなるか)
           ↓
送り手(主人)→庄九郎を泊める(客体)→ 受け手(庄九郎)
           ↑
補助者(なし)→ 主人(主体)←反対者(なし)

    聴き手(えんこうの宿だったがどうなるか)
           ↓
送り手(庄九郎)→主人がえんこうと話しているのを聴く(客体)→ 受け手(主人)
           ↑
補助者(なし)→ 庄九郎(主体)←反対者(主人公)

    聴き手(狙われた又三郎ははどうなるか)
           ↓
送り手(えんこう)→又三郎をとろうと話す(客体)→ 受け手(主人)
           ↑
補助者(主人)→ えんこう(主体)←反対者(なし)

    聴き手(主人の発言をどう思うか)
           ↓
送り手(主人)→庄九郎の命はとらないと明言する(客体)→ 受け手(庄九郎)
           ↑
補助者(なし)→ 主人(主体)←反対者(庄九郎)


といった行為項モデルが作成できるでしょうか。三隅の川の話ですので三隅川ではないかと考えられますが、上方から戻ってきた庄九郎が一夜の宿を求めたところ、そこはえんこう(河童)の家でした。川の改修工事を行ってえんこうの住処を荒らす又三郎を獲りに行こうとえんこうが会話をしているのを庄九郎は聴いてしまいますが、宿の主人は庄九郎は無関係だから命はとらないと保証します。その後、えんこうが又三郎の命を獲るのは失敗したようで、又三郎は長生きして多くの改修工事を行ったという筋立てです。

 庄九郎―主人(えんこう)、主人―えんこう、えんこう―又三郎、又三郎―殿さま、といった対立軸が見受けられます。宿/えんこうの家という図式に異界に迷い込んでしまった庄九郎の恐怖が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

庄九郎♌―主人♂♎―えんこう♁☾(♂)―又三郎☉―殿さま☾(☉)

 といった風に表記できるでしょうか。川の改修工事を行ってえんこうの住処を荒らす又三郎の命を獲ることを価値☉と置くと、えんこうはその享受者♁となります。一方で、えんこうの家という異界に足を踏み入れてしまった庄九郎に対する宿の主人は対立者♂ということになりますが、庄九郎は無関係だからと命をとりません。その点で審判者♎の役割を果たしています。また、えんこうは宿の主人の援助者☾(♂)という面も持ちます。又三郎自身は津和野の殿さまの命で動いていますので、殿さまは又三郎を使役している、ここでは又三郎の援助者☾(☉)と置けます。

 異界に足を踏み入れた庄九郎が生き延びることを価値☉とも置けます。その場合、庄九郎自身が享受者♁ともなります。

 又三郎をえんこうの対立者と置くと、対立者の対立者♂(♂)とも置けるでしょう。その場合、殿さまはその援助者☾(♂(♂))となるといった入れ子構造を描くこともできるかもしれません。

◆ブレモンの複数のシークエンス

 この話は庄九郎の話の筋と又三郎の話の筋が並行的に語られます。その点ではブレモンが指摘するように、複数のシークエンスからなる物語であると指摘できるでしょう。

 日本の昔話は掌編程度のボリュームなので問題になりませんが、長編となるとメインストーリーとサブストーリーが同時並行的に進行します。メインストーリーとサブストーリーとが有機的に絡み合っていると優れた物語と評価される訳です。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「異界に足を踏み入れた庄九郎は生き延びることができるか」「えんこうに命を狙われた又三郎はどうなるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「宿をとったらそこはえんこうの家だった」「川の改修をする又三郎をえんこうが獲りに行こうとする」でしょうか。「庄九郎―宿/異界―主人/えんこう」「又三郎―改修/川―えんこう」といった図式です。

◆昔話の創発モデル

 下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。


物語の焦点:異界に足を踏み入れた庄九郎は生き延びることができるか
      えんこうに命を狙われた又三郎はどうなるか
        ↑
発想の飛躍:宿をとったらそこはえんこうの家だった
      川の改修をする又三郎をえんこうが獲りに行こうとする

・庄九郎―宿―えんこう
・又三郎―命/狙う―えんこう
      ↑
・庄九郎―宿/異界―主人/えんこう
・又三郎―改修/川―えんこう

◆発想の飛躍と概念の操作

 発想の飛躍を「常識離れした連想」と仮定しますと、上述した図式の/(スラッシュ)の箇所に特にその意図的に飛躍させた概念の操作が見出せそうです。

 呪術的思考に典型的に見られますが、ヒトは本来は繋がりのない切り離されたモノの間にも繋がりを見出すことがあります。それは情報処理におけるエラーです。ですが、科学万能の時代においてもエラーであるはずの呪術的思考が完全には消え去ることがないのは、それが人間特有の思考様式の一部であるからかもしれません。昔話では意図的にエラーを起こすとでも言えるでしょうか。

 「隅の庄九郎」では、一夜の宿をとったつもりが、えんこうの家、つまり異界に足を踏み入れてしまった庄九郎はえんこうたちの企みを聴いてしまいます。そこで庄九郎は無事異界から脱出できるかが物語の焦点となります。また、えんこうが命を狙う又三郎は津和野藩の殿さまの命で三隅の河川の改修工事を手掛けていました。この又三郎の命運も物語の焦点となります。

 図式では「庄九郎―宿/異界―主人/えんこう」と表記しています。これを細分化すると「庄九郎―日―暮れる―川―ほとり―歩く―家―宿―とる―異界―入る/脱出―主人―えんこう―異界―住人」となります。つまり、「主人=えんこう」「宿=えんこうの家」から「日常/異界」への転倒という概念の操作がなされます。これは「異界からの脱出」というテーマを生みだします。図式化すると「一夜の宿:主人/えんこう→えんこう/又三郎→生/死→異界/脱出」となります。これらの連想を一瞬で行っていることになります。

 「又三郎―改修/川―えんこう」の図式は展開すると「津和野藩―殿さま―命令―又三郎―川―堤―堰―改修―えんこう―住処―荒らす―反撃―命―狙う―失敗―長命―多大―業績」となります。又三郎の行った河川の改修工事は異界への干渉となってしまいます。そのため又三郎は命を狙われることとなってしまうのです。「河川の改修工事:異界/干渉→住処/荒れる→生/死」と図示化されるでしょうか。業務として行った工事が「異界/日常」と転倒されて「日常→異界」と異界への日常の浸食となり、又三郎の「生/死」の転倒の危険をもたらすのです。つまり、転倒の連鎖という概念操作によって物語が組み立てられていく訳です。または、「河川の改修工事:自然/人為→反撃→生/死」でもいいでしょうか。自然と人為の「対立」がカウンターとなる反撃を生み、生が死へと「転倒」される危機を生むのです。

 以上のように、本文には現れない概念も重要な要素となっています。形態素解析で抽出したキーワードだけでは解釈を十全に行うことは難しいものと考えられます。連想概念辞書も取り込んだ上で分析する方向に機能改善することが望まれると考えられます。

 転倒は一瞬で価値の逆転をもたらすことを可能とする点で濫用は慎むべき類の概念操作ですが、予想外の驚きをもたらす効果を発揮しますので、昔話では好んで用いられるようです。

 呪術的思考のような非合理的思考は人間の抱える弱点ですが、昔話においては逆に創造性の源ともなっていると考えることができます。

◆ログライン≒モチーフ

 ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。

 「隅の庄九郎」ですと「又三郎は川の改修工事でえんこうに恨まれていたが、長生きして業績を残した」くらいでしょうか。

◆余談

 人間にとっては有益な又三郎の仕事も、えんこうにとっては川を荒らす行為だったのです。ここでは又三郎が陰の主役でしょうか。三隅川が舞台の伝説と考えられますが、『石見の民話』では昔話に分類されているようです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.394-395.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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