行為項分析――大公
◆あらすじ
昔、大公という若者がいた。近所に金持ちの旦那がいた。旦那は欲張りで評判がよくなかった。大公は時々雇われて旦那のところへ働きに行った。ある日旦那の供をして山奥へ猟に行った。昼になったので昼飯を食べて休んでいる内に大公は木に登って遠方をあっちこっちと見ていたが、旦那様、大変ですと言って慌てて下りてきた。お家の方に当たって火の手が見える。火事かもしれないから自分が帰って様子を見てくると言って走って帰った。そして家へ帰ると、奥様、大変でございます。旦那さまが崖から落ちて頭に大怪我をした。それには女房の髪を黒焼きにしてつけると聞いているので自分が取りに帰った。すぐ髪を切って下さいと言った。奥様はびっくりして大急ぎで髪を根元からぷっつり切って大公に渡した。大公は山へ行くと、旦那様、大火事です。火事で奥様が大怪我をした。火事の怪我には何でも旦那の髪の黒焼きがよいということだ。早くそのまげを切るように言った。旦那は慌てて髪を根元からぷっつり切って大公に渡した。大公はそれを持って一散に駆けだした。旦那も大公について駆けだした。そして家へ帰ってみると家は何の事もなく、入って見ると奥さんが丸坊主になっていた。旦那は大公に騙されて二人とも髪を切られたことを知ると、大いに腹を立て、下男にいいつけて大公を捕らえてこさせた。そして大きな箱を作ってその中に入れ、首ほど出して大川へ流してこいと言いつけた。二人の下男は箱をかついで大川へ来た。土手におろして川へつき落とそうとすると、大公が箱の中から何も思い残すことはないが、これまで溜めた金がどこそこに瓶にいっぱい埋めてある。お前らに形見にやるから人に知られぬように早く掘れと言うと、下男たちは箱をそのままにして自分が掘ろうと思って我先に走って帰った。大公は穴から首を出してみると、目の悪い男が杖にすがって通りかかった。大公は大きな声であなたは目が悪いらしいが、この箱へ入るとじきよくなる。自分も目が悪くてこの箱へ入れてもらったらすっかりよくなった。これから出ようと思っているところだと言った。目の悪い男はそれではというので縄をといて大公を出し、代わって自分が入った。大公はそれに縄をかけて逃げた。下男たちは大公に言われたところへ走っていって掘ってみたが何も出ない。ようやく騙されたことに気がついて帰ってくると、物も言わずに箱を川へ突っ込んでしまった。三日ほど経って大公は旦那のところへ言った。旦那さま、自分はこの間川へ流してもらったが、あれから竜宮へ参った。立派な御殿で、お姫様の美しいこと、旦那様のことを話しましたら是非お連れしてこいとのことで迎えに参ったと言うと、旦那は大喜びで夫婦づれで大川のほとりへ来た。そして、一、二、三で飛び込むのですよと言って二人を川へつき落とした。それから自分が旦那のところへ帰って楽に暮らした。
◆モチーフ分析
・大公という若者がいた
・近所に金持ちの旦那がいたが欲張りで評判がよくなかった
・大公は旦那のところへ時々雇われた
・旦那の供をして山奥へ猟にいった
・旦那の家の方向に火の手が見える。火事かもしれないから帰って様子を見てくるといって走って帰った
・家へ帰ると奥さんに旦那が怪我をしたと言って髪を切らせた
・大公は山へ戻ると、旦那に火事で奥さんが怪我をしたと言ってまげを切らせた
・家へ帰ると、家は何事もなく、奥さんが丸坊主になっていた
・騙されて腹をたてた旦那は下男に大公を捕らえさせ、箱の中に入れ、川に流してこいと言った
・下男が川へ突き落とそうとすると、大公は溜めた金が埋めてあるから形見にやると言う
・下男たち、箱をそのままにして走って帰る
・目の悪い男が通りがかった
・大公はこの箱に入るとじきに良くなるといって入れ替わらせた
・騙されたと知った下男たちが箱を川へ突っ込んでしまった
・大公は三日ほど経って旦那のところへ行き、竜宮へ行ったと語った
・旦那を招いていると騙し、旦那と奥さんを川に突き落とした
・大公、自分は旦那のところへ帰って楽に暮らした
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:大公
S2:旦那
S3:奥さん
S4:下男
S5:目の悪い男
O(オブジェクト:対象)
O1:世評
O2:猟
O3:山奥
O4:旦那の家
O5:火
O6:髪(まげ)
O7:箱
O8:川
O9:金
O10:竜宮
m(修飾語)
m1:若い
m2:金持ち
m3:欲張り
m4:評判が悪い
m5:怪我をした
m6:無事
m7:丸坊主の
m8:立腹した
m9:視力の回復した
m10:安楽な
X:どこか
+:接
-:離
・大公という若者がいた
(存在)X:S1大公+m1若い
・近所に金持ちの旦那がいたが欲張りで評判がよくなかった
(存在)X:S2旦那+m2金持ち
(性質)S2旦那:S2旦那+m3欲張り
(評価)O1世評:S2旦那+m4評判が悪い
・大公は旦那のところへ時々雇われた
(雇用)S2旦那:S2旦那+S1大公
・旦那の供をして山奥へ猟にいった
(供)S1大公:S2旦那+S1大公
(猟)S2旦那:S2旦那+O2猟
(入山)S2旦那:S2旦那+O3山奥
・旦那の家の方向に火の手が見える
(嘘)S1大公:O4旦那の家+O5火
・火事かもしれないから帰って様子を見てくるといって走って帰った
(離脱)S1大公:S1大公-S2旦那
(帰宅)S1大公:S1大公+O4旦那の家
・家へ帰ると奥さんに旦那が怪我をしたと言って髪を切らせた
(報告)S1大公:S2旦那+m5怪我をした
(断髪)S1大公:S3奥さん-O6髪
・大公は山へ戻ると、旦那に火事で奥さんが怪我をしたと言ってまげを切らせた
(引き返す)S1大公:S1大公+O3山奥
(報告)S1大公:S3奥さん+m5怪我をした
(断髪)S1大公:S2旦那-O6まげ
・家へ帰ると、家は何事もなく、奥さんが丸坊主になっていた
(帰宅)S2旦那:S2旦那+O4旦那の家
(無事)S2旦那:O4旦那の家+m6無事
(視認)S2旦那:S3奥さん+m7丸坊主の
・騙されて腹をたてた旦那は下男に大公を捕らえさせ、箱の中に入れ、川に流してこいと言った
(立腹)S2旦那:S2旦那+m8立腹した
(捕縛)S2旦那:S4下男+S1大公
(命令)S2旦那:S1大公+O7箱
(命令)S2旦那:O7箱+O8川
・下男が川へ突き落とそうとすると、大公は溜めた金が埋めてあるから形見にやると言う
(落とす)S4下男:S1大公+O8川
(嘘)S1大公:S1大公+O9金
(嘘)S1大公:S4下男+O9金
・下男たち、箱をそのままにして走って帰る
(放置)S4下男:O7箱-S4下男
(欲望)S4下男:S4下男+O9金
・目の悪い男が通りがかった
(遭遇)S5目の悪い男:S5目の悪い男+S1大公
・大公はこの箱に入るとじきに良くなるといって入れ替わらせた
(嘘の効能)O7箱:S5目の悪い男+m9視力の回復した
(すり替え)S1大公:O7箱-S1大公
(すり替え)S1大公:O7箱+S5目の悪い男
・騙されたと知った下男たちが箱を川へ突っ込んでしまった
(騙される)S4下男:S4下男-O9金
(落とす)S4下男:O7箱+O8川
・大公は三日ほど経って旦那のところへ行き、竜宮へ行ったと語った
(訪問)S1大公:S1大公+S2旦那
(嘘)S1大公:S1大公+O10竜宮
・旦那を招いていると騙し、旦那と奥さんを川に突き落とした
(招待)O10竜宮:O10竜宮+(S2旦那+S3奥さん)
(落下)S1大公:(S2旦那+S3奥さん)+O8川
・大公、自分は旦那のところへ帰って楽に暮らした
(悠々自適)S1大公:S1大公+O4旦那の家
(悠々自適)S1大公:S1大公+m10安楽な
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(大公と旦那の関係はどうなるか)
↓
送り手(旦那)→雇用(客体)→ 受け手(大公)
↑
補助者(なし)→ 大公(主体)←反対者(旦那)
聴き手(騙された奥さんはどうなるか)
↓
送り手(大公)→髪を切らせる(客体)→ 受け手(奥さん)
↑
補助者(なし)→ 大公(主体)←反対者(奥さん)
聴き手(騙された旦那はどうなるか)
↓
送り手(大公)→髪を切らせる(客体)→ 受け手(旦那)
↑
補助者(なし)→ 大公(主体)←反対者(旦那)
聴き手(捕らわれた大公はどうなるか)
↓
送り手(旦那)→箱に入れて川に流す(客体)→ 受け手(大公)
↑
補助者(下男)→ 旦那(主体)←反対者(大公)
聴き手(騙された下男はどうなるか)
↓
送り手(大公)→埋めた金を譲る(客体)→ 受け手(下男)
↑
補助者(なし)→ 大公(主体)←反対者(下男)
聴き手(騙された目の悪い男はどうなるか)
↓
送り手(大公)→埋めた金を譲る(客体)→ 受け手(目の悪い男)
↑
補助者(なし)→ 大公(主体)←反対者(目の悪い男)
聴き手(危機を免れた大公はどうなるか)
↓
送り手(下男)→箱を川に流す(客体)→ 受け手(目の悪い男)
↑
補助者(なし)→ 下男(主体)←反対者(目の悪い男)
聴き手(旦那を葬った大公はどうなるか)
↓
送り手(大公)→竜宮に案内すると騙す(客体)→ 受け手(旦那、奥さん)
↑
補助者(なし)→ 大公(主体)←反対者(旦那、奥さん)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。大公という若者がいて、評判の悪い旦那に雇われていました。あるとき、旦那が山に猟に出かけたのに同行した大公は旦那の家が火事だと偽ってその場を離れ、旦那の奥さんを騙して丸坊主にし、今度は引き返して旦那を騙して丸坊主にさせます。怒った旦那は大公を箱に入れて川に流そうとしますが、大公は下男を騙してその場を離れさせ、目の悪い男とすり替わってしまいます。危機を免れた大公は再び旦那の許を訪れ、旦那と奥さんを竜宮に案内すると騙して川に流してしまうという筋立てです。
大公―旦那、大公―奥さん、大公―下男、大公―目の悪い男、といった対立軸が見受けられます。大公/旦那の図式に評判の悪い支配者を知恵者が懲らしめる姿が暗喩されています。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
大公♌♁―旦那♂♎―奥さん☾(♂)―下男☾(♂)―目の悪い男☾(♌)
といった風に表記できるでしょうか。大公は最後に旦那の富を奪ってしまいますので、旦那の富を価値☉と置くと、大公は享受者♁となります。旦那は対立者♂であり自分を騙した大公を殺そうとしますので審判者♎でもあります。奥さんや下男は旦那の援助者☾です。目の悪い男は大公に騙されて身代わりとされてしまいますので大公の援助者☾と置けるでしょうか。
◆元型分析
大公はユングの提唱した元型(アーキタイプ)だとトリックスターに分類されます。知恵者ですが物語を引っ掻き回すいたずら者の役割です。旦那という権威者を騙して顔色を失わしめ、更に報復されそうになると逆にやり返す側面を見せます。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点は「大公の嘘はどんな結果をもたらすか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「大公の悪知恵」でしょうか。「大公―火事―旦那/奥さん」「大公―箱―下男」「大公―箱―目の悪い男」「大公―竜宮―旦那/奥さん」といった図式です。
◆昔話の創発モデル
下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。
物語の焦点:大公に騙された者はどうなるか
↑
発想の飛躍:大公の悪知恵
・大公―騙す―旦那/奥さん―下男―目の悪い男
↑
・大公―火事―旦那/奥さん
・大公―箱―下男
・大公―箱―目の悪い男
・大公―竜宮―旦那/奥さん
◆ログライン≒モチーフ
ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。
「大公」ですと「大公は旦那夫婦を騙して丸坊主にさせ、川に流されそうになるも免れ、更に竜宮に行ってきたと騙し、旦那夫婦を川へ突き落とす」くらいでしょうか。
◆余談
原話はアンデルセンの「小クラウスと大クラウス」だそうですが、読み比べてみると、かなりローカライズされています。ここでは思い込みによる模倣が見られます。毒を以て毒を制す的な雰囲気のあるお話でもあります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.306-308.
・大庭良美「石見の民話―その特色と面白さ―」『郷土石見』八号(石見郷土研究懇話会、一九七九)五八―七一頁。
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)pp.248-249.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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