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2024年9月23日 (月)

行為項分析――鬼は外、福は内

◆あらすじ

 ふくという魚が死んで地獄へ行った。ふくは鬼に頼みがあると言った。自分はいつも水の中にばかりいたので冷たくてならなかった。それでいつか湯の中に入りたいものだと思っていた。幸い地獄に来たので湯の中へ入られるから嬉しくてたまらない。どうか、これからどんな勤めでもするから、一遍極楽を見せてくださいと。鬼はこれは中々面白い奴だ。ふくの言うようにしてやろう。また面白いことも聞かせるだろうと思って極楽を見せに連れていった。鬼よ、まだ見えない、もっと先が見たい。まだ見えないと言うので鬼が少しずつ先へ入れると、ふくはまだ見えないと言って先へ先へと行く。鬼はふくの尾を持っていたが、止めようとすると手がつるつる滑るので、放すまいとするのに顔が真っ赤になった。ふくはまだ見えないと言ってまだ先へ行こうとする。尾がつるつる滑って抜けそうになったので、鬼が慌てて握りかえようとすると、ふくはついと極楽へ滑り込んでしまった。ちょうどその時日が暮れたので、極楽は戸が閉まった。鬼が待って下さいというと、極楽には鬼は用事がないと言って門番は戸を閉めてしまった。そして鬼は外、福は内と言った。それがちょうど大歳の晩であったので、それから節分には鬼は外、福は内と言うようになった。

※石見地方では河豚(ふぐ)をふくと言う。

◆モチーフ分析

・ふくという魚が死んで地獄へ行った
・ふくは鬼に頼みがあると言った
・水の中にいたので冷たくて仕方がなかったが、地獄に来て湯の中へ入られるから嬉しい
・どんな勤めでもするから、一度極楽を見せてください
・鬼は面白い奴だ、ふくの言う通りにしてやろうと極楽を見せにいった
・ふくがまだ見えない、もっと先が見たいと言うので鬼が少しずつ先へ入れると、ふくは先へ先へと行く
・鬼はふくの尾を持っていたが、止めようとするとツルツル滑るので放すまいと顔が真っ赤になった
・ふくはまだ見えないと言ってまだ先へ行こうとする
・鬼は滑って抜けそうになったので、慌てて握りかえようとする
・ふくはついと極楽へ滑り込んでしまった
・日が暮れたので極楽の門の戸が閉まった
・鬼が待って下さいと言うと、極楽には鬼は用事がないと言って門番が戸を閉めてしまった
・そして鬼は外、福は内と言った
・ちょうど大歳の晩だったので、それから節分には鬼は外、福は内と言うようになった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:ふぐ
S2:鬼
S3:門番

O(オブジェクト:対象)
O1:地獄
O2:水
O3:湯
O4:勤行
O5:極楽
O6:その先
O7:尾
O8:門
O9:鬼は外、福は内
O10:節分

m(修飾語)
m1:死んだ
m2:冷たい
m3:嬉しい
m4:面白い
m5:滑る
m6:顔が赤い
m7:日が暮れた
m8:戸締りした
m9:大歳の晩

T:時刻

+:接
-:離

・ふくという魚が死んで地獄へ行った
(死亡)S1ふぐ:S1ふぐ+m1死んだ
(地獄行き)S1ふぐ:S1ふぐ+O1地獄
・ふくは鬼に頼みがあると言った
(依頼)S1ふぐ:S1ふぐ+S2鬼
・水の中にいたので冷たくて仕方がなかったが、地獄に来て湯の中へ入られるから嬉しい
(生前)S1ふぐ:O2水+m2冷たい
(死後)S1ふぐ:O3湯+m3嬉しい
・どんな勤めでもするから、一度極楽を見せてください
(厭わない)S1ふぐ:S1ふぐ+O4勤行
(要望)S1ふぐ:S2鬼+O5極楽
・鬼は面白い奴だ、ふくの言う通りにしてやろうと極楽を見せにいった
(評価)S2鬼:S1ふぐ+m4面白い
(案内)S2鬼:S1ふぐ+O5極楽
・ふくがまだ見えない、もっと先が見たいと言うので鬼が少しずつ先へ入れると、ふくは先へ先へと行く
(希望)S1ふぐ:S1ふぐ+O6その先
(許可)S2鬼:S1ふぐ+O6その先
・鬼はふくの尾を持っていたが、止めようとするとツルツル滑るので放すまいと顔が真っ赤になった
(確保)S2鬼:S2鬼+O7尾
(性質)O7尾:O7尾+m5滑る
(変化)S2鬼:S2鬼+m6顔が赤い
・ふくはまだ見えないと言ってまだ先へ行こうとする
(先行)S1ふぐ:S1ふぐ+O6その先
・鬼は滑って抜けそうになったので、慌てて握りかえようとする
(すっぽ抜ける)S2鬼:O7尾-S2鬼
(握る)S2鬼:O7尾+S2鬼
・ふくはついと極楽へ滑り込んでしまった
(脱出)S1ふぐ:S1ふぐ+O5極楽
・日が暮れたので極楽の門の戸が閉まった
(日暮れ)T:T+m7日が暮れた
(閉門)O8門:O8門+m8戸締りした
・鬼が待って下さいと言うと、極楽には鬼は用事がないと言って門番が戸を閉めてしまった
(制止)S2鬼:S2鬼+S3門番
(相手にしない)S3門番:O5極楽-S2鬼
(閉門)S3門番;O8門+m8戸締りした
・そして鬼は外、福は内と言った
(宣言)S3門番:S3門番+O9鬼は外、福は内
・ちょうど大歳の晩だったので、それから節分には鬼は外、福は内と言うようになった
(時刻)T:T+m9大歳の晩
(由来)O10節分:O10節分+O9鬼は外、福は内

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(ふくから依頼された鬼はどうするか)
           ↓
送り手(ふく)→極楽が見たい(客体)→ 受け手(鬼)
           ↑
補助者(なし)→ ふく(主体)←反対者(鬼)

  聴き手(勝手に進むふくに鬼はどうするか)
           ↓
送り手(ふく)→先へ先へと進む(客体)→ 受け手(鬼)
           ↑
補助者(なし)→ ふく(主体)←反対者(鬼)

  聴き手(極楽に逃げたふくに鬼はどうするか)
           ↓
送り手(ふく)→極楽の門内に逃げ込む(客体)→ 受け手(鬼)
           ↑
補助者(なし)→ ふく(主体)←反対者(鬼)

  聴き手(極楽に逃げたふくをどう思うか)
           ↓
送り手(門番)→門を閉ざす(客体)→ 受け手(鬼)
           ↑
補助者(なし)→ ふく(門番)←反対者(鬼)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。地獄に落ちたふくが鬼に一目極楽が見たいと要望します。応じた鬼はふくを極楽へと連れていきます。ふくはまだ先、まだ先と勝手に先へ進んでいきます。鬼は制止しようとするものの、ふくの尻尾が滑って上手く捕まえられません。そうする内にふくは極楽の門の中に逃げてしまいました。鬼は連れ帰そうとしましたが、極楽の門番が制止して門は閉ざされてしまいます。それから鬼は外、福は内と呼ばれるようになったという筋立てです。

 ふく―鬼、尾―手、鬼―門番、といった対立軸が見受けられます。滑る/尾の図式に鬼の束縛から何とか逃れようとするふぐの知恵が暗喩されています。また、鬼の顔/赤いの図式には中々ふぐを捕まえられない鬼の苛立ちが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

ふく♌♁―鬼♂☾(♌)(-1)―門番♎☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。極楽行きを価値☉と置くと、ふくはその享受者♁です。鬼はふくを当初は極楽まで案内しようとしますので、援助者☾と置くこともできますが、ふくに上手く利用されてしまいますので、マイナスの援助者☾と置けるかもしれません。鬼はふくを極楽から地獄に連れ帰そうとしますので対立者♂でもあります。極楽の門番は鬼を追い払いますので、ここでは審判者♎としていいでしょう。

◆元型分析

 ふくはユングの提唱した元型(アーキタイプ)でいうトリックスターに近い存在となったとも考えられます。知恵者で物語を引っ掻き回す役割です。自身の滑りやすい体を利用しながら先へ先へと進み、極楽の門内についと逃げ込んでしまいます。鬼のある種の親切さを利用し、自分の思い通りにことを運び、地獄での秩序を乱します。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「ふくは極楽入りできるか、また鬼はそれを阻止できるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「ふくが先へ先へと勝手に進む」「ふくの尾が滑る」でしょうか。「ふく―先へ―鬼」「ふく―尾/滑る―鬼」といった図式です。

◆昔話の創発モデル

 下記のように「物語の焦点」に「発想の飛躍」をぶつける構図をモデル化して「創発モデル」と名づけてみました。発想の飛躍は論理の飛躍であり、それは思考のショートカットでもあります。潜在意識化での(本来無関係な)概念と概念との不意の結びつきが発想の飛躍をもたらし、それが創作活動における大きなベクトルとなると考えたものです。


物語の焦点:ふくは極楽入りできるか、また鬼はそれを阻止できるか
        ↑
発想の飛躍:ふくが先へ先へと勝手に進む
      ふくの尾が滑る

・ふく―極楽/門番―鬼
     ↑
・ふく―先へ―鬼
・ふく―尾/滑る―鬼

◆ログライン≒モチーフ

 ログラインとはハリウッドの脚本術で用いられる概念で、物語を二~三行程度で要約したものです。このログラインの時点で作品の良しあしが判別できるといいます。

 「鬼は外、福は内」ですと「極楽を見たいと先へ先へと進むふぐだが尾が滑るので鬼は止められず、まんまと極楽の門の中に逃げ込まれてしまった」くらいでしょうか。

◆余談

 ここではふくは知恵者とは描かれていませんが、ちゃっかりと極楽へ滑り込んでしまいます。また、節分の由来譚、鬼の顔が赤くなった由来譚でもあるようです。

 もうちょっと先、もうちょと先というふくの言い分から、ほんの少しずつでも自分の言い分を通そうとする意図が透けて見えます。鬼もまんまとその意図に引っかかってしまいます。思い通りにならない鬼の顔は真っ赤となってしまいます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.320-321.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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