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2024年8月13日 (火)

行為項分析――和尚と小僧

◆あらすじ

 和尚と小僧がいた。和尚は餅が好きでよく焼いて食べたが小僧にはやらなかった。ある日、和尚は小僧がいない時にまた餅を焼いていた。そこへ小僧がひょっこり入って来たので慌てて餅を灰の中へ埋めた。小僧は何かいい匂いがすると言った。和尚は小僧に知れては大変だと思って、何でもない。枯葉がいぶっているのだと答えた。小僧は和尚がまた餅を焼いているなと思って、時に裏の屋根が壊れたから直そうと思うがと話しかけた。和尚がお前直せるかと訊くと、小僧は何でもない。こうやって太い柱を立てるのだと火箸を灰に突き立てた。すると餅が刺さった。和尚は苦い顔をして妙なところに餅がある。お前にやろうと言った。小僧はありがとうございますと言ってむしゃむしゃ食べた。それから和尚、柱をもう一本こういう風に立てると言って別のところへ火箸を突き刺した。また餅が出た。和尚はおかしい、お前が食べよと答えた。小僧はむしゃむしゃ食べた。ところで和尚、その横にもう一本こういう風に立てると火箸に餅を突き刺した。更にもう一本とやった。和尚はたまらなくなって、小僧、柱を立てるのはそれくらいでよかろうと言った。こうして小僧は和尚がせっかく食べようと思って焼いた餅をみんな食べてしまった。

◆モチーフ分析

・和尚と小僧がいた
・和尚は餅が好きでよく食べていたが小僧にはやらなかった
・ある日、和尚は小僧がいないときに餅を焼く
・そこへ小僧がひょっこり入ってくる
・和尚、慌てて餅を灰の中に埋める
・小僧、いい匂いがすると言う
・和尚、枯葉がいぶっているのだと答える
・和尚がまた餅を焼いていると察した小僧、裏の屋根が壊れていると話す
・和尚、小僧に直せるかと訊く
・小僧はこうやって柱を立てるといって火箸で灰の中の餅を突き刺す
・和尚、妙なところに餅がある。お前が食べよと小僧に言う
・小僧、餅をむしゃむしゃ食べる
・小僧、柱をもう一本立てると言って別のところに火箸を突き立てる
・餅が刺さったので小僧が食べることになる
・小僧、その横にもう一本柱を立てると言って火箸を突き立てる
・更にもう一本火箸に餅を突き立てる
・たまりかねた和尚、柱を立てるのはそれくらいでよかろうと言う
・小僧は和尚が食べようとした餅をみんな食べてしまった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:和尚
S2:小僧

O(オブジェクト:対象)
O1:餅
O2:灰
O3:話題
O4:解決策
O5:火箸

m(修飾語)
m1:餅好き

+:接
-:離

・和尚と小僧がいた
(存在)X:S1和尚+S2小僧
・和尚は餅が好きでよく食べていたが小僧にはやらなかった
(嗜好)S1和尚:S1和尚+m1餅好き
(独占)S1和尚:S2小僧-O1餅
・ある日、和尚は小僧がいないときに餅を焼く
(不在)X:S1和尚-S2小僧
(調理)S1和尚:S1和尚+O1餅
・そこへ小僧がひょっこり入ってくる
(闖入)S2小僧:S2小僧+S1和尚
・和尚、慌てて餅を灰の中に埋める
(隠ぺい)S1和尚:S2小僧-O1餅
・小僧、いい匂いがすると言う
(知覚)S2小僧:S2小僧+O1餅
・和尚、枯葉がいぶっているのだと答える
(誤魔化し)S1和尚:S2小僧-O1餅
・和尚がまた餅を焼いていると察した小僧、裏の屋根が壊れていると話す
(察知)S2小僧:S1和尚+O1餅
(話を向ける)S2小僧:S1和尚+O3話題
・和尚、小僧に直せるかと訊く
(質問)S1和尚:S2小僧+O4解決策
・小僧はこうやって柱を立てるといって火箸で灰の中の餅を突き刺す
(提示)S2小僧:S1和尚+O4解決策
(実行)S2小僧:O1餅+O5火箸
・和尚、妙なところに餅がある。お前が食べよと小僧に言う
(譲渡)S1和尚:S2小僧+O1餅
・小僧、餅をむしゃむしゃ食べる
(食す)S2小僧:S2小僧+O1餅
・小僧、柱をもう一本立てると言って別のところに火箸を突き立てる
(提示)S2小僧:S1和尚+O4解決策
(実行)S2小僧:O1餅+O5火箸
・餅が刺さったので小僧が食べることになる
(譲渡)S1和尚:S2小僧+O1餅
(食す)S2小僧:S2小僧+O1餅
・小僧、その横にもう一本柱を立てると言って火箸を突き立てる
(提示)S2小僧:S1和尚+O4解決策
(実行)S2小僧:O1餅+O5火箸
・更にもう一本火箸に餅を突き立てる
(実行)S2小僧:O1餅+O5火箸
・たまりかねた和尚、柱を立てるのはそれくらいでよかろうと言う
(制止)S1和尚:S2小僧-O1餅
・小僧は和尚が食べようとした餅をみんな食べてしまった
(逆独占)S2小僧:S1和尚-O1餅

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(和尚の企みは上手くいくか)
           ↓
送り手(和尚)→ 餅を隠す(客体)→ 受け手(小僧)
           ↑
補助者(なし)→ 和尚(主体)←反対者(小僧)

  聴き手(小僧はどうやり返すか)
           ↓
送り手(小僧)→ 餅を奪う(客体)→ 受け手(和尚)
           ↑
補助者(なし)→ 小僧(主体)←反対者(和尚)


といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。餅が好きな和尚は小僧に隠れて一人で餅を火鉢で焼いて食べています。それを偶然察知した小僧は偽りの話題を振って和尚の関心を誘い、解決策と見せかけて「このようにするのです」と火箸で餅を突いて奪ってしまいます。隠していたことを気まずく思った和尚はやむなく黙認しますが、小僧が何度も繰り返すのにたまりかねて、そのくらいにしておけと言います。結局、小僧は和尚の分を全部食べてしまったという筋立てです。

 和尚―小僧、餅―灰、餅―火箸、というシンプルな対立軸です。餅/灰という図式に和尚の餅を独占しようとする意地汚さが暗喩されています。一方で、餅/火箸という図式には和尚の企みを一刀両断する小僧の機知が暗喩されています。

 屋根の修理の話から小僧は和尚に頼りになる存在と見なされていると考えられますので、ある程度年齢のいった存在でしょう。信頼している相手にも餅を分け与えないところに和尚のケチさが表れています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

和尚♌♎―小僧♂♁

 といった風に表記できるでしょうか。餅を食べることを価値☉と置くと、和尚に対峙する小僧は対立者♂となります。小僧は和尚から餅を全て奪って食べてしまいますので、ここでは享受者♁となります。和尚は小僧の機知に降参してしまいますので、審判者♎と置けるでしょう。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「和尚の企みに小僧はどうやり返す」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「屋根の修理にかこつけた小僧の機知」でしょうか。「和尚―餅/灰/火箸―小僧」といった図式です。偶然火箸に餅が刺さったように振る舞うので、和尚も文句が言えない訳です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.221-222.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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