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2024年8月 8日 (木)

行為項分析――肉付きの面

◆あらすじ

 昔、嫁と姑がいた。嫁は信心深くて毎晩人目を忍んでお寺参りに行った。姑はそんなこととは知らず、別に男でもあって会うのではなかろうかと怪しんでいた。そこである日、姑がお前は毎晩出るが、一体どこへ行くのか訊くと、嫁は遊びに出ているから、どうぞ遊ばしてくださいと言った。姑はいよいよ不審でならないので、ある晩そっと後をつけると嫁はお寺へ参っていた。姑はお寺へ参ることが嫌でたまらなかったので、今夜こそ嫁をおどしてやろうと思ってある。鬼の面を被って竹藪に入って嫁が帰るのを待っていた。そこへ嫁が戻ってきたので姑が飛び出したが、嫁は「南無阿弥陀仏」と唱えてびくともしなかった。姑は嫁が案外落ち着いているので力抜けがした。そして鬼の面をはずそうとしたが、面がどうしても取れない。そのまま家へ帰って布団を被って寝ていた。夜が明けても起き上がれず布団の中にいた。そこへ嫁が来て具合を尋ねた。姑は恥ずかしくてたまらず、これまでのことを話して、どうぞ勘弁してくれと断りを言うと嫁は姑を寺に連れていった。そしてお経をあげてもらって、坊さんからご法話をきかせてもらうと、姑はいよいよ恥ずかしくてたまらず、頭を垂れていると、不思議に面がひとりでに離れて下へ落ちた。それで姑は大変喜んで心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・嫁と姑がいた
・嫁は信心深く毎晩人目を忍んでお寺参りしていた
・姑はそれを怪しんで、嫁にどこに行っているのか訊く
・嫁はどうか遊ばして欲しいと言う
・いよいよ怪しんだ姑は嫁の跡をつけると、嫁はお寺へ参っていた
・姑は嫁を驚かしてやろうと鬼の面を被って竹藪に隠れていた
・嫁が通りかかったので姑は飛び出したが、嫁はびくともしなかった
・力抜けした姑だったが、鬼の面を外そうとしたが、取れなくなった
・そのまま家へ帰って布団を被って寝てしまう
・夜が明けて嫁が具合を尋ねたので、姑は事情を話して断りを入れた
・嫁は姑を寺に連れていった
・坊さんの読経と法話を聞くと姑は恥ずかしくて頭を垂れた
・面がひとりでに離れて下へ落ちた
・姑は喜んで心を入れ替え、嫁と仲良く暮らした

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:嫁
S2:姑
S3:坊さん

O(オブジェクト:対象)
O1:お寺
O2:鬼の面
O3:竹藪
O4:布団
O5:読経

m(修飾語)
m1:信心深い
m2:拍子抜け
m3:頭を垂れた
m4:改心した

+:接
-:離


・嫁と姑がいた
(存在)X:S1嫁+S2姑
・嫁は信心深く毎晩人目を忍んでお寺参りしていた
(性質)S1嫁:S1嫁+m1信心深い
(参拝)S1嫁:S1嫁+O1お寺
・姑はそれを怪しんで、嫁にどこに行っているのか訊く
(詰問)S2姑:S2姑+S1嫁
・嫁はどうか遊ばして欲しいと言う
(回答)S1嫁:S1嫁-S2姑
・いよいよ怪しんだ姑は嫁の跡をつけると、嫁はお寺へ参っていた
(追跡)S2姑:S2姑+S1嫁
(結果)S1嫁:S1嫁+O1お寺
・姑は嫁を驚かしてやろうと鬼の面を被って竹藪に隠れていた
(着面)S2姑:S2姑+O2鬼の面
(待ち伏せ)S2姑:S2姑+O3竹藪
・嫁が通りかかったので姑は飛び出したが、嫁はびくともしなかった
(驚かし)S2姑:S2姑-S1嫁
・力抜けした姑だったが、鬼の面を外そうとしたが、取れなくなった
(拍子抜け)S2姑:S2姑+m2拍子抜け
(吸着)S2姑:S2姑+O2鬼の面
・そのまま家へ帰って布団を被って寝てしまう
(隠ぺい)S2姑:S2姑+O4布団
・夜が明けて嫁が具合を尋ねたので、姑は事情を話して断りを入れた
(調子伺い)S1嫁:S1嫁+S2姑
(告白)S2姑:S2姑+S1嫁
・嫁は姑を寺に連れていった
(同行)S1嫁:S2姑+O1お寺
・坊さんの読経と法話を聞くと姑は恥ずかしくて頭を垂れた
(説法)S3坊さん:S2姑+O5読経
(羞恥)S2姑:S2姑+m3頭を垂れた
・面がひとりでに離れて下へ落ちた
(離脱)O2鬼の面:S2姑-O2鬼の面
・姑は喜んで心を入れ替え、嫁と仲良く暮らした
(改心)S2姑:S2姑+m4改心した
(生活)S2姑:S2姑+S1嫁

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(嫁は夜どこへ出かけているのか)
           ↓
送り手(姑)→ 疑いと追跡(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)

  聴き手(姑の企みは成功するか)
           ↓
送り手(姑)→ 鬼の面で驚かす(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)

  聴き手(外れなくなった面はどうなるか)
           ↓
送り手(嫁)→ 鬼の面を外す(客体)→ 受け手(姑)
           ↑
補助者(坊さん) → 嫁(主体)←反対者(なし)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。毎晩どこへともなく出かける嫁に対し疑いの念を抱いた姑はこっそり跡をつけますが、嫁はお寺に参拝していただけでした。嫁の信心深さが明らかとなりますが、意地悪な姑は鬼の面を着けて驚かしてやろうと企みます。結局、嫁は全く動じないのですが、姑の着けた鬼の面が外れなくなってしまいます。布団にくるまってその晩をやり過ごす姑ですが、夜が明けると隠し切れなくなって嫁に一部始終を打ち明けます。嫁は姑をお寺に連れていき、坊さんの説法を聞かせます。すると、鬼の面が自然と外れました。姑は改心したという筋立てです。

 嫁―姑、姑―鬼の面、姑―坊さん、といった対立軸が見受けられます。姑/鬼の面の図式に意地悪な姑の内面が暗喩されています。鬼の面が外れることで姑の改心を表現しています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

姑♌♁―嫁♂☾(♌)♁―坊さん☾(♂)

 といった風に表記できるでしょうか。姑と嫁、両者が和解することを価値と置くと、嫁と姑とも享受者♁となります。嫁は一旦対立者♂として登場しますが、姑の理解者であり援助者☾でもあります。坊さんは嫁の援助者☾と解釈しました。審判者♎に相当する人物はこのお話では登場しないでしょうか。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「姑と嫁は果たして和解できるのか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「鬼の面が外れなくなってしまう」ことでしょうか。「姑―鬼/面―嫁」の図式です。精神的な仮面をペルソナと呼びますが、鬼の面はまさに姑の意地悪な内面を表しています。面が外れなくなってしまうということは、姑の内面が嫁に対する猜疑心で満たされていることを示しています。姑が改心すると鬼の面は自然と外れます。面が外れることによって姑が改心したことが表現されている訳です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.213-214.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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