行為項分析――大根蒔き
◆あらすじ
座頭の言うことは何でも信じる旦那がいた。ある日沢山の小作を雇って麻を蒔いていると、そこへ座頭が通りかかった。座頭はあの旦那は自分の言うことは何でも信じるから一つからかってやれと思った。すると仕事をしていた人が座頭に今日はどこへ行くのか訊いた。座頭は今はエダオの方からフシオの方へ行くと答えた。それを聞いた旦那は仕事を止めて枝のある苧(お)(麻)や節のある苧を作ったのでは金にならぬと言って麻を蒔くのを止めた。それから日を変えて大豆を蒔いているとまた座頭が通りかかった。何か長い物を風呂敷に包んで持っているので今日は長いものを持って行きなさるがと声をかけると座頭は長いことは長いが鞘ばかりでと言った。これを聞いた旦那はせっかく大豆を蒔いてもさやばかりできたのでは何にもならないと言って大豆を蒔くのを止めさせた。その内に時期が遅れたので大根しか植えるものが無くなった。それで旦那は小作を集めて大根を蒔くことにした。今日は座頭が通っても何も言うな。何か言うと色々な事を言って気をくじくからと言った。そこへまた座頭がやってきた。座頭がどなたもご苦労ですなと言ったが誰も一口もものを言わない。座頭は自分の言うことをそんなに気にかけなくてもよいではないか。わしの言うことは根も葉もないことだと言った。旦那はこれを聞いて根も葉もない大根を作ったとしても何にもならないと言ってまた大根蒔きを止めさせた。それで旦那は座頭の言葉を信じたばかりに一年中何も作らずじまいであった。
◆モチーフ分析
・座頭の言うことを何でも信じる旦那がいた
・麻を蒔いていると座頭が通りかかる
・小作人は座頭にどこへ行くのか尋ねる
・座頭、エダオからフシオの方へ行くと答える
・旦那、枝のある麻や節のある麻を作ったのでは金にならぬと麻を蒔くのを止める
・大豆を蒔いていると座頭が通りかかる
・持っている長い物は何かと訊くと、長いが鞘ばかりと座頭が答える
・大豆を蒔いてもさやばかりでは何にもならないと大豆を蒔くのを止めさせる
・時期が遅れたので大根を蒔くことにする
・座頭が通りかかっても声をかけるなと示し合わせる
・座頭が通りかかるが誰も口をきかない
・座頭、自分の言うことは根も葉もないことだと言う
・旦那、根も葉もない大根を作っても何にもならないと大根蒔きを止めさせる
・座頭の言葉を信じたばかりに旦那は一年中何も作らずじまいとなった
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:座頭
S2:旦那
S3:小作人
O(オブジェクト:対象)
O1:麻の種
O2:謎かけ
O3:大豆
O4:種まき
O5:大根
m(修飾語)
m1:座頭に盲目的に従う
m2:不作の
m3:時期外れの
m4:無為に過ごした
+:接
-:離
・座頭の言うことを何でも信じる旦那がいた
(存在)X:S2旦那+m1座頭に盲目的に従う
・麻を蒔いていると座頭が通りかかる
(種まき)S2旦那:S3小作人+O1麻の種
(遭遇)S1座頭:S1座頭+S3小作人
・小作人は座頭にどこへ行くのか尋ねる
(質問)S3小作人:S3小作人+S1座頭
・座頭、エダオからフシオの方へ行くと答える
(回答)S1座頭:S3小作人+O2謎かけ
・旦那、枝のある麻や節のある麻を作ったのでは金にならぬと麻を蒔くのを止める
(予想)S2旦那:O1麻の種+m2不作の
(中止)S2旦那:S3小作人-O1麻の種
・大豆を蒔いていると座頭が通りかかる
(種まき)S2旦那:S3小作人+O3大豆
(遭遇)S1座頭:S1座頭+S3小作人
・持っている長い物は何かと訊くと、長いが鞘ばかりと座頭が答える
(質問)S3小作人:S3小作人+S1座頭
(回答)S1座頭:S3小作人+O2謎かけ
・大豆を蒔いてもさやばかりでは何にもならないと大豆を蒔くのを止めさせる
(予想)S2旦那:O3大豆+m2不作の
(中止)S2旦那:S3小作人-O3大豆
・時期が遅れたので大根を蒔くことにする
(遅延)S2旦那:O4種まき+m3時期外れの
(種まき)S2旦那:S3小作人+O5大根
・座頭が通りかかっても声をかけるなと示し合わせる
(示しあい)S3小作人:S3小作人-S1座頭
・座頭が通りかかるが誰も口をきかない
(無視)S3小作人:S3小作人-S1座頭
・座頭、自分の言うことは根も葉もないことだと言う
(回答)S1座頭:S3小作人+O2謎かけ
・旦那、根も葉もない大根を作っても何にもならないと大根蒔きを止めさせる
(予想)S2旦那:O5大根+m2不作の
(中止)S2旦那:S3小作人-O5大根
・座頭の言葉を信じたばかりに旦那は一年中何も作らずじまいとなった
(信用)S2旦那:S2旦那+S1座頭
(無為)S2旦那:S2旦那+m4無為に過ごした
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(座頭の謎かけはどんな結末をもたらすか)
↓
送り手(座頭)→ 謎かけ(客体)→ 受け手(旦那)
↑
補助者(なし)→ 座頭(主体)←反対者(小作人)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。座頭の言葉を何でも信じてしまう旦那がいたため、座頭は意地悪をしてやろうと考えます。旦那が小作人に種まきをさせていると座頭が通りかかって謎かけめいた言葉を残していきます。それを不作の兆候と捉えた旦那は種まきを中止させます。それが何度か繰り返されて、結局何も作付けできないままに一年をふいにしてしまったという筋立てです。座頭は目が見えない分、霊感が高いとする見方がありますので、旦那が座頭を信用するのはそういった理由によるのかもしれません。
座頭―旦那、座頭―小作人、といった対立軸が見受けられます。種まき/謎かけの図式に不作の兆候の予知が暗喩されています。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
旦那♌♁♎―座頭♂☾(♌)―小作人☾(♌)♁
といった風に表記できるでしょうか。今年の収穫を得ることを価値☉と置くと、旦那と小作人はその享受者♁です。種まきに一々妨害を仕掛ける座頭は対立者♂となりますが、一面では旦那に助言を与える存在ですので援助者☾とみることもできます。ここではマイナスの援助者☾(♌)(-1)と考えるといいでしょうか。旦那は座頭の助言/謎かけに一々ネガティブな判断を下しますので審判者♎とも置けます。小作人はいい加減座頭の言うことは無視しようと動きますので、対立者の対立者♂(♂)と見なすことも可能かもしれません。
◆物語の焦点と発想の飛躍
グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。
この物語の焦点は「座頭の謎かけはどんな結末をもたらすか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「旦那が座頭の言うことを何でも真に受けてしまうこと」でしょうか。「旦那―謎かけ/助言―座頭」といった図式です。旦那は座頭の所為で一年を無駄にしてしまうのですが、それに対する感情は記されていません。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.219-220.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
| 固定リンク
「昔話」カテゴリの記事
- 行為項分析――「空」の塔婆(2024.09.14)
- 行為項分析――河野十内(2024.09.13)
- 行為項分析――猫やだけし(2024.09.12)
- 行為項分析――茗荷(2024.09.11)
- 行為項分析――鼻かけそうめん(2024.09.10)