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2024年7月 8日 (月)

行為項分析――蛙壺

◆あらすじ

 昔あるところに大変仲の悪い姑と嫁がいた。ある日、姑はおはぎをこしらえて「おはぎや、嫁がきた時には蛙になって、わしが来た時にはおはぎになってくれ」と言った。嫁はそれを聞いて、お母さんはあんなことを言ってるから、自分が食ってやろうと姑が出るのを待っていた。姑がやがてお寺参りにいった。嫁は戸棚からおはぎを出して皆食べて、おはぎのあった壺へ田からとった蛙を二三匹入れておいた。姑が帰ってきておはぎを食べようと思って壺の蓋をとると蛙がピョンピョン飛び出した。そこで姑が「蛙や。嫁じゃない。婆さんだ」と言っても蛙はやはりピョンピョン飛ぶので、「わしがあんまり嫁をいびったので、おはぎが蛙になったのであろう」と後悔した。それからは心を入れ替えて嫁を可愛がり仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・仲の悪い姑と嫁がいた
・姑はおはぎをこしらえて、嫁が来たときには蛙になれとまじないをかける
・それを聞いた嫁は姑の外出を見計らっておはぎを食べてしまう
・嫁、おはぎを入れてあった壺に蛙を二三匹入れておく
・姑が帰ってきておはぎを食べようとすると壺から蛙が出てきた
・姑、蛙に自分は婆さんだと言うが、蛙のままである
・姑、自分が嫁をいびるからおはぎが蛙になったのだと後悔する
・姑、心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:姑
S2:嫁

O(オブジェクト:対象)
O1:おはぎ
O2:まじない
O3:家
O4:壺
O5:蛙

m(修飾語)
m1:不仲な

+:接
-:離


・仲の悪い姑と嫁がいた
(存在)X:S1姑+S2嫁
(不仲)S1姑:S2嫁+m1不仲な
・姑はおはぎをこしらえて、嫁が来たときには蛙になれとまじないをかける
(調理)S1姑:S1姑+O1おはぎ
(まじない)S1姑:O1おはぎ+O2まじない
・それを聞いた嫁は姑の外出を見計らっておはぎを食べてしまう
(盗み聞き)S2嫁:S1姑+O2まじない
(外出)S1姑:S1姑-O3家
(盗み食い)S2嫁:S2嫁+O1おはぎ
・嫁、おはぎを入れてあった壺に蛙を二三匹入れておく
(仕掛け)S2嫁:O4壺+O5蛙
・姑が帰ってきておはぎを食べようとすると壺から蛙が出てきた
(帰宅)S1姑:S1姑+O3家
(予想外の結果)S1姑:S1姑+O5蛙
・姑、蛙に自分は婆さんだと言うが、蛙のままである
(まじない無効)S1姑:O2まじない-S1姑
・姑、自分が嫁をいびるからおはぎが蛙になったのだと後悔する
(いびり)S1姑:S1姑-S2嫁
(後悔)S1姑:O1おはぎ+O5蛙
・姑、心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした
(改心)S1姑:S1姑+S2嫁

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(おはぎはどうなるか)
           ↓
送り手(姑)→ おはぎにまじない(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)

  聴き手(嫁の行為の結果はどうなるか)
           ↓
送り手(嫁)→ おはぎを一人で食べてしまう(客体)→ 受け手(姑)
           ↑
補助者(なし)→ 嫁(主体)←反対者(姑)

  聴き手(嫁と姑の関係はどうなるか)
           ↓
送り手(姑)→ 和解(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし) → 姑(主体)←反対者(嫁)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。仲の悪い嫁と姑です。姑はあるとき、おはぎを作りますが、嫁が食べられないようまじないをかけます。それを盗み見た嫁はおはぎを一人で食べてしまい、おはぎを蛙とすり替えます。果たしておはぎを食べようとした姑はまじないが自分に返ってきたと誤解し、そのことがきっかけで嫁姑は和解するという筋立てです。

 嫁―姑、おはぎ―蛙、といった対立軸が見受けられます。おはぎ/壺/蛙の図式におはぎを独り占めしようとする姑の意地悪さが暗喩されています。また、おはぎ/蛙の図式には食べられるもの/食べられないものの対比があり、食べられるものを食べられないものに変えてしまうまじないの効力が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

嫁♌♁―姑♂♌(-1)♎♁

 といった風に表記できるでしょうか。嫁と姑、両者が和解することを価値と置くと、嫁と姑とも享受者♁となります。どちらを主体と置くか迷うところですが、ここでは嫁を主体♌、姑を対立者♂と置きました。姑はマイナスの主体♌(-1)とも置けるかもしれません。ここでは姑を対立者♂でありかつ自身のまじないが良くない行いであったと反省しますので審判者♎と判断しました。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「嫁と姑は果たして和解できるのか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「おはぎに嫁が見たら蛙になれとまじないをかける」ところでしょうか。実際には嫁がおはぎと蛙をすり替えてしまうのですが、姑は自分のまじないが予想しない形で実現したと勘違いします。その結果、和解がもたらされますので、姑のまじないは思わぬ形で別の結果をもたらしたとみることも可能でしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.212.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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