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2024年7月 6日 (土)

行為項分析――化け猫

◆あらすじ

 昔ある所で若者たちが大勢集まって踊っていると、そこへ見たこともない姉さんが来て皆と一緒に踊った。踊りが済んでそれぞれ家へ帰るとき、姉さんに興味を抱いた一人の若者があとから姉さんの跡をついていった。すると、姉さんは近所のお寺へ入り、ニャンと啼いた。若者はそれを聞くと真っ青になって帰った。明くる日若者はお寺へ行って和尚さんにそのことを話した。お寺には和尚さんが可愛がっている古い猫がいた。和尚さんは若者が帰ると猫を呼んで出ていってくれと言った。猫は出ていけというなら出ていく。自分がいると参詣人も少ないだろうから、これまで長いこと可愛がっていただいた恩返しに参詣人が沢山来るようにしてあげると言った。そして何時何日(いついつか)にどこどこの婆さんが死ぬから葬式の時に自分が火車になって死人を棺から出して空へ吊り上げる。よその坊さんが来てお経をあげると死人は上へあがるが、和尚さんが経をあげると死人は下がって棺へ収まるようにすると言った。猫が言ったその日になるとその婆さんは死んだ。そして葬式をしていると結縁の時に空が曇って火車が来て死人を掴んで空に吊り上げた。葬式に来ていた坊さんは一生懸命お経を読んだが、死人は空に吊されたままだんだん上へ上がっていく。それで近所の寺の和尚さんを呼んでお経をあげてもらうと死人はだんだん下りて来て棺へ収まり、無事に葬式が済んだ。それから和尚さんの評判が高くなって参詣人がどんどん来るようになった。そして猫はいつの間にかいなくなった。

◆モチーフ分析

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
・和尚さんの評判が高くなる
・猫はいつの間にか消える

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:若者
S2:姉さん(猫、火車)
S3:和尚

O(オブジェクト:対象)
O1:踊り
O2:猫の鳴き声
O3:寺
O4:恩返し
O5:葬式
O6:読経
O7:死体

m(修飾語)
m1:評判の


+:接
-:離

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
(踊り)S1若者:S1若者+O1踊り
(参入)S2姉さん:S2姉さん+O1踊り
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
(追跡)S1若者:S1若者+S2姉さん
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
(鳴く)S2姉さん:S2姉さん+O2猫の鳴き声
(帰宅)S2姉さん:S2姉さん+O3寺
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
(打ち明ける)S1若者:S1若者+S3和尚
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
(追放)S3和尚:S2猫-O3寺
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
(宣言)S2猫:S3和尚+O4恩返し
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
(出現)S2火車:S2火車+O5葬式
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
(読経)S3和尚:S2火車+O6読経
(奪取失敗)S2火車:S2火車-O7死体
・和尚さんの評判が高くなる
(声望上昇)X:S3和尚+m1評判の
・猫はいつの間にか消える
(退去)S2猫:S2猫-O3寺

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(姉さんはどこの人か)
           ↓
送り手(若者)→ 追跡(客体)→ 受け手(姉さん)
           ↑
補助者(なし)→ 若者(主体)←反対者(なし)

  聴き手(古猫と化した猫を和尚はどう扱うか)
           ↓
送り手(和尚)→ 追放(客体)→ 受け手(猫)
           ↑
補助者(なし)→ 和尚(主体)←反対者(猫)

  聴き手(火車に和尚はどう対応するか)
           ↓
送り手(和尚)→ 死体の奪取の阻止(客体)→ 受け手(火車)
           ↑
補助者(猫) → 火車(主体)←反対者(火車)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。年を経た古猫は化け猫と化すと言われていますが、この寺の猫は姉さんに化けて踊ったところを若者に目撃されてしまいます。若者からそのことを知らされた和尚は猫を寺から追放することに決めますが、猫は今まで飼ってもらった恩返しをしようと言います。果たして、ある婆さんの葬式に火車が現れ死体を奪取しようとしますが、和尚の読経で阻止されます。そのことで和尚の評判は高くなりましたが、それは猫が仕掛けたものだったという筋立てです。

 若者―姉さん、和尚―猫、和尚―火車、他の坊さん―火車、といった対立軸が見受けられます。姉さん/踊りに化け猫となり意識を得た猫の寺の外で遊びたいという気持ちが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

和尚♌♁―猫(姉さん、火車)♂♎―若者☾(♌)―他の坊さん♂☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。猫の計らいで和尚の評判が高まりますので、それを価値☉と置くと、猫は対立者♂であり審判者♎でもあります。若者は猫が化けたことを和尚に知らせますので和尚の援助者☾としていいでしょう。葬式における他の坊さんたちは和尚の引き立て役ですが、これをどう置いたらいいでしょうか。対立者♂とも置けますし、知らず知らずの内に和尚に協力している援助者☾とも見ることができます。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「猫はどのような形で恩返しするのか」ということでしょうか。それに対する発想の飛躍は「猫が火車となって死体を奪取するふりをする」でしょうか。「和尚―死体―火車/猫」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.210-211.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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