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2024年7月

2024年7月28日 (日)

怪我のため遠征を見合わせる

今日は相模原市立博物館で「日本の神楽と神代神楽」という講演会があったので行きたかったのだけど、生憎と左足を剥離骨折していて、足に負荷をかけたくなかったので見合わせた。現在、相模原市立博物館では番田神代神楽の展示を行っており、こういう首都圏の神楽に関する講演は10年に一度あるかないかといったところだと思われる。

骨折したのは7月6日で(※段差のあるところで空足を踏んでしまった)既に三週間くらい経過しているのだけど、土曜日に整形外科でレントゲン撮影をしたところ、骨折した箇所に白く写るものがあったので治りつつはあるらしいものの、二週間後にまたレントゲン撮影をしましょうとのことだったので治りきってはいない。

痛みはだいぶ引いたものの、まだ左足に重心をかけて歩けない状態で、まあ講演自体は座って聴いていればいいだけの話なのだけど、それ以外ではどうしても多少の距離は歩かなければならない。もしくは立ち続けることになる。……という訳で今年は家族が病気をしたり自分も怪我をしたりとどうも縁遠くなっているようだ。

同様の理由で7月31日の鷲宮神社の夏祭りも見合わせることになるだろう。

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2024年7月 8日 (月)

行為項分析――蛙壺

◆あらすじ

 昔あるところに大変仲の悪い姑と嫁がいた。ある日、姑はおはぎをこしらえて「おはぎや、嫁がきた時には蛙になって、わしが来た時にはおはぎになってくれ」と言った。嫁はそれを聞いて、お母さんはあんなことを言ってるから、自分が食ってやろうと姑が出るのを待っていた。姑がやがてお寺参りにいった。嫁は戸棚からおはぎを出して皆食べて、おはぎのあった壺へ田からとった蛙を二三匹入れておいた。姑が帰ってきておはぎを食べようと思って壺の蓋をとると蛙がピョンピョン飛び出した。そこで姑が「蛙や。嫁じゃない。婆さんだ」と言っても蛙はやはりピョンピョン飛ぶので、「わしがあんまり嫁をいびったので、おはぎが蛙になったのであろう」と後悔した。それからは心を入れ替えて嫁を可愛がり仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・仲の悪い姑と嫁がいた
・姑はおはぎをこしらえて、嫁が来たときには蛙になれとまじないをかける
・それを聞いた嫁は姑の外出を見計らっておはぎを食べてしまう
・嫁、おはぎを入れてあった壺に蛙を二三匹入れておく
・姑が帰ってきておはぎを食べようとすると壺から蛙が出てきた
・姑、蛙に自分は婆さんだと言うが、蛙のままである
・姑、自分が嫁をいびるからおはぎが蛙になったのだと後悔する
・姑、心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:姑
S2:嫁

O(オブジェクト:対象)
O1:おはぎ
O2:まじない
O3:家
O4:壺
O5:蛙

m(修飾語)
m1:不仲な

+:接
-:離


・仲の悪い姑と嫁がいた
(存在)X:S1姑+S2嫁
(不仲)S1姑:S2嫁+m1不仲な
・姑はおはぎをこしらえて、嫁が来たときには蛙になれとまじないをかける
(調理)S1姑:S1姑+O1おはぎ
(まじない)S1姑:O1おはぎ+O2まじない
・それを聞いた嫁は姑の外出を見計らっておはぎを食べてしまう
(盗み聞き)S2嫁:S1姑+O2まじない
(外出)S1姑:S1姑-O3家
(盗み食い)S2嫁:S2嫁+O1おはぎ
・嫁、おはぎを入れてあった壺に蛙を二三匹入れておく
(仕掛け)S2嫁:O4壺+O5蛙
・姑が帰ってきておはぎを食べようとすると壺から蛙が出てきた
(帰宅)S1姑:S1姑+O3家
(予想外の結果)S1姑:S1姑+O5蛙
・姑、蛙に自分は婆さんだと言うが、蛙のままである
(まじない無効)S1姑:O2まじない-S1姑
・姑、自分が嫁をいびるからおはぎが蛙になったのだと後悔する
(いびり)S1姑:S1姑-S2嫁
(後悔)S1姑:O1おはぎ+O5蛙
・姑、心を入れ替えて嫁と仲良く暮らした
(改心)S1姑:S1姑+S2嫁

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(おはぎはどうなるか)
           ↓
送り手(姑)→ おはぎにまじない(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし)→ 姑(主体)←反対者(嫁)

  聴き手(嫁の行為の結果はどうなるか)
           ↓
送り手(嫁)→ おはぎを一人で食べてしまう(客体)→ 受け手(姑)
           ↑
補助者(なし)→ 嫁(主体)←反対者(姑)

  聴き手(嫁と姑の関係はどうなるか)
           ↓
送り手(姑)→ 和解(客体)→ 受け手(嫁)
           ↑
補助者(なし) → 姑(主体)←反対者(嫁)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。仲の悪い嫁と姑です。姑はあるとき、おはぎを作りますが、嫁が食べられないようまじないをかけます。それを盗み見た嫁はおはぎを一人で食べてしまい、おはぎを蛙とすり替えます。果たしておはぎを食べようとした姑はまじないが自分に返ってきたと誤解し、そのことがきっかけで嫁姑は和解するという筋立てです。

 嫁―姑、おはぎ―蛙、といった対立軸が見受けられます。おはぎ/壺/蛙の図式におはぎを独り占めしようとする姑の意地悪さが暗喩されています。また、おはぎ/蛙の図式には食べられるもの/食べられないものの対比があり、食べられるものを食べられないものに変えてしまうまじないの効力が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

嫁♌♁―姑♂♌(-1)♎♁

 といった風に表記できるでしょうか。嫁と姑、両者が和解することを価値と置くと、嫁と姑とも享受者♁となります。どちらを主体と置くか迷うところですが、ここでは嫁を主体♌、姑を対立者♂と置きました。姑はマイナスの主体♌(-1)とも置けるかもしれません。ここでは姑を対立者♂でありかつ自身のまじないが良くない行いであったと反省しますので審判者♎と判断しました。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「嫁と姑は果たして和解できるのか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「おはぎに嫁が見たら蛙になれとまじないをかける」ところでしょうか。実際には嫁がおはぎと蛙をすり替えてしまうのですが、姑は自分のまじないが予想しない形で実現したと勘違いします。その結果、和解がもたらされますので、姑のまじないは思わぬ形で別の結果をもたらしたとみることも可能でしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)p.212.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年7月 6日 (土)

行為項分析――化け猫

◆あらすじ

 昔ある所で若者たちが大勢集まって踊っていると、そこへ見たこともない姉さんが来て皆と一緒に踊った。踊りが済んでそれぞれ家へ帰るとき、姉さんに興味を抱いた一人の若者があとから姉さんの跡をついていった。すると、姉さんは近所のお寺へ入り、ニャンと啼いた。若者はそれを聞くと真っ青になって帰った。明くる日若者はお寺へ行って和尚さんにそのことを話した。お寺には和尚さんが可愛がっている古い猫がいた。和尚さんは若者が帰ると猫を呼んで出ていってくれと言った。猫は出ていけというなら出ていく。自分がいると参詣人も少ないだろうから、これまで長いこと可愛がっていただいた恩返しに参詣人が沢山来るようにしてあげると言った。そして何時何日(いついつか)にどこどこの婆さんが死ぬから葬式の時に自分が火車になって死人を棺から出して空へ吊り上げる。よその坊さんが来てお経をあげると死人は上へあがるが、和尚さんが経をあげると死人は下がって棺へ収まるようにすると言った。猫が言ったその日になるとその婆さんは死んだ。そして葬式をしていると結縁の時に空が曇って火車が来て死人を掴んで空に吊り上げた。葬式に来ていた坊さんは一生懸命お経を読んだが、死人は空に吊されたままだんだん上へ上がっていく。それで近所の寺の和尚さんを呼んでお経をあげてもらうと死人はだんだん下りて来て棺へ収まり、無事に葬式が済んだ。それから和尚さんの評判が高くなって参詣人がどんどん来るようになった。そして猫はいつの間にかいなくなった。

◆モチーフ分析

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
・和尚さんの評判が高くなる
・猫はいつの間にか消える

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:若者
S2:姉さん(猫、火車)
S3:和尚

O(オブジェクト:対象)
O1:踊り
O2:猫の鳴き声
O3:寺
O4:恩返し
O5:葬式
O6:読経
O7:死体

m(修飾語)
m1:評判の


+:接
-:離

・若者たちが踊っているところに姉さんがやって来る
(踊り)S1若者:S1若者+O1踊り
(参入)S2姉さん:S2姉さん+O1踊り
・踊りが済み、帰る際に若者の一人が姉さんの跡をつける
(追跡)S1若者:S1若者+S2姉さん
・姉さん、ニャアと啼いて寺へ入る
(鳴く)S2姉さん:S2姉さん+O2猫の鳴き声
(帰宅)S2姉さん:S2姉さん+O3寺
・翌日、若者はお寺の和尚さんに訳を話す
(打ち明ける)S1若者:S1若者+S3和尚
・和尚さん、飼い猫に出ていってくれと言う
(追放)S3和尚:S2猫-O3寺
・猫、出ていく代わりに恩返しすると言う
(宣言)S2猫:S3和尚+O4恩返し
・ある婆さんの葬式に火車が現れる
(出現)S2火車:S2火車+O5葬式
・火車、和尚さんの読経で死体を取り損ねる
(読経)S3和尚:S2火車+O6読経
(奪取失敗)S2火車:S2火車-O7死体
・和尚さんの評判が高くなる
(声望上昇)X:S3和尚+m1評判の
・猫はいつの間にか消える
(退去)S2猫:S2猫-O3寺

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(姉さんはどこの人か)
           ↓
送り手(若者)→ 追跡(客体)→ 受け手(姉さん)
           ↑
補助者(なし)→ 若者(主体)←反対者(なし)

  聴き手(古猫と化した猫を和尚はどう扱うか)
           ↓
送り手(和尚)→ 追放(客体)→ 受け手(猫)
           ↑
補助者(なし)→ 和尚(主体)←反対者(猫)

  聴き手(火車に和尚はどう対応するか)
           ↓
送り手(和尚)→ 死体の奪取の阻止(客体)→ 受け手(火車)
           ↑
補助者(猫) → 火車(主体)←反対者(火車)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。年を経た古猫は化け猫と化すと言われていますが、この寺の猫は姉さんに化けて踊ったところを若者に目撃されてしまいます。若者からそのことを知らされた和尚は猫を寺から追放することに決めますが、猫は今まで飼ってもらった恩返しをしようと言います。果たして、ある婆さんの葬式に火車が現れ死体を奪取しようとしますが、和尚の読経で阻止されます。そのことで和尚の評判は高くなりましたが、それは猫が仕掛けたものだったという筋立てです。

 若者―姉さん、和尚―猫、和尚―火車、他の坊さん―火車、といった対立軸が見受けられます。姉さん/踊りに化け猫となり意識を得た猫の寺の外で遊びたいという気持ちが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

和尚♌♁―猫(姉さん、火車)♂♎―若者☾(♌)―他の坊さん♂☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。猫の計らいで和尚の評判が高まりますので、それを価値☉と置くと、猫は対立者♂であり審判者♎でもあります。若者は猫が化けたことを和尚に知らせますので和尚の援助者☾としていいでしょう。葬式における他の坊さんたちは和尚の引き立て役ですが、これをどう置いたらいいでしょうか。対立者♂とも置けますし、知らず知らずの内に和尚に協力している援助者☾とも見ることができます。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「猫はどのような形で恩返しするのか」ということでしょうか。それに対する発想の飛躍は「猫が火車となって死体を奪取するふりをする」でしょうか。「和尚―死体―火車/猫」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.210-211.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年7月 1日 (月)

機会を逃す

下北沢の小劇場で不条理演劇を観たかったのだが、機会を逃してしまった。コロナワクチンを接種したため体調が若干不良だったという理由もある。

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行為項分析――狼と牛鬼

◆あらすじ

 狼は人間が牛鬼や狐に危害を加えられようとするときは、その人間の眉毛を一本抜いて目に当ててその人が良い人が悪い人かをみる。その人が悪い人であったら体は人間であっても頭は畜生の類いになって見えるが、良い人であったら頭も人間に見えるということである。狼は悪い人だったら決して助けないが、良い人は助けてくれて、その人の家まで送り届けてくれる。これを送り狼といって、送り狼に送ってもらったときは足を洗ったたらいの水を捨ててたらいを逆さにして伏せ「ご苦労だったのう」と礼をいうと狼は安心して帰る。もしそうしないと狼は立ち去らないでいつまでもそこにいるそうだ。

 昔、川戸の小田の桜屋の爺さんが田野へズク(銑鉄)を負って行っての帰りに日が暮れて七日渕の向こうまで行ったとき、狼が袖をくわえて竹藪の中へ連れ込んだ。狼に喰われるのかとビクビクしていると、狼は爺さんをそこへ座らせて腰を下ろした。すると人臭いと言って牛鬼が出てきた。川向こうの住郷の平からも牛鬼が「よい肴(さかな)があるではないか」と言った。こっちの牛鬼は「肴はあっても守りがついていてつまらんから、これから波子(はし)の浜へ出よう」と言った。両方の牛鬼は江川を挟んで話し合っていたが、そのまま行ってしまった。しばらくして狼は爺さんの袖をくわえて道へ連れ出した。「ようこそ助けてくれたのう」と礼を言うと、狼はなおも袖をくわえて小田の家まで送ってきた。爺さんは足を洗ってその水を移して「ご苦労だったのう」と言ってたらいを伏せると、狼は安心したように山へ帰っていった。

◆モチーフ分析

・狼は人間が牛鬼や狐に襲われたときには、その人間の眉毛を一本抜いて良い人か悪い人かみる
・悪い人だったら頭が畜生の類いに見える
・良い人だったら頭も人間に見える
・狼は悪い人だったら決して助けない
・狼は良い人だったら助けてその人の家まで送り届けてくれる
・送り狼に送ってもらったときは、足を洗ったたらいの水を捨てて、たらいを逆さにして伏せて、ご苦労だったと礼を言うと狼は安心して帰る
・そうしないと狼は立ち去らないで、いつまでもそこにいる
・川戸の爺さんが銑鉄を背負って行っての帰り道で狼に遭遇した
・狼は爺さんの袖をくわえて竹藪の中へ入った
・中に入ると狼は腰をおろした
・すると牛鬼の声が聞こえてきた
・人がいるが狼がいるから獲られないと牛鬼たち会話する
・牛鬼たち去って行く
・狼、爺さんの袖をくわえて道に出る
・爺さんの家まで送り狼する
・爺さん、狼に礼を言ってたらいを伏せる
・安心した狼、去っていく

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:狼
S2:牛鬼
S3:人間
S4:悪人
S5:善人
S6:爺さん

O(オブジェクト:対象)
O1:眉毛
O2:畜生
O3:自宅
O4:たらい
O5:銑鉄
O6:竹藪
O7:会話
O8:道

m(修飾語)
m1:腰を下ろした
m2:安心した

+:接
-:離

・狼は人間が牛鬼や狐に襲われたときには、その人間の眉毛を一本抜いて良い人か悪い人かみる
(条件)S1狼:S2牛鬼+S3人間
(判別)S1狼:S3人間-O1眉毛
・悪い人だったら頭が畜生の類いに見える
(見分け)S1狼:S4悪人+O2畜生
・良い人だったら頭も人間に見える
(見分け)S1狼:S5善人+S3人間
・狼は悪い人だったら決して助けない
(救助せず)S1狼:S1狼-S4悪人
・狼は良い人だったら助けてその人の家まで送り届けてくれる
(救助)S1狼:S1狼+S5善人
(送迎)S1狼:S5善人+O3自宅
・送り狼に送ってもらったときは、足を洗ったたらいの水を捨てて、たらいを逆さにして伏せて、ご苦労だったと礼を言うと狼は安心して帰る
(慣習)S3人間:S3人間+O4たらい
(慣習)S1狼:S3人間-S1狼
・そうしないと狼は立ち去らないで、いつまでもそこにいる
(去らず)S1狼:S1狼+O3自宅
・川戸の爺さんが銑鉄を背負って行っての帰り道で狼に遭遇した
(仕事)S6爺さん:S6爺さん+O5銑鉄
(遭遇)S6爺さん:S6爺さん+S1狼
・狼は爺さんの袖をくわえて竹藪の中へ入った
(誘導)S1狼:S6爺さん+O6竹藪
・中に入ると狼は腰をおろした
(着座)S1狼:S1狼+m1腰を下ろした
・すると牛鬼の声が聞こえてきた
(聴聞)S6爺さん:S6爺さん+O7会話
・人がいるが狼がいるから獲られないと牛鬼たち会話する
(会話)S2牛鬼:S2牛鬼-S1狼
・牛鬼たち去って行く
(退却)S2牛鬼:S2牛鬼-S6爺さん
・狼、爺さんの袖をくわえて道に出る
(誘導)S1狼:S6爺さん+O8道
・爺さんの家まで送り狼する
(送迎)S1狼:S6爺さん+O3自宅
・爺さん、狼に礼を言ってたらいを伏せる
(感謝)S6爺さん:S1狼+O4たらい
・安心した狼、去っていく
(安心)S1狼:S1狼+m2安心した
(退却)S1狼:S1狼-S6爺さん

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(狼はどんな人間を助けるか)
           ↓
送り手(狼)→ 助ける(客体)→ 受け手(人間)
           ↑
補助者(眉毛)→ 狼(主体)←反対者(牛鬼、狐)

  聴き手(狼と遭遇した爺さんはどうなるか)
           ↓
送り手(狼)→ 正体を知る(客体)→ 受け手(爺さん)
           ↑
補助者(なし)→ 狼(主体)←反対者(牛鬼)

  聴き手(爺さんはどう狼に返礼するか)
           ↓
送り手(爺さん)→ 足を洗ってたらいを伏せる(客体)→ 受け手(狼)
           ↑
補助者(なし) → 爺さん(主体)←反対者(なし)


といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。善人しか助けないと言われる狼ですが、ある日川戸の爺さんは狼と遭遇してしまいます。狼が袖を引っ張るのでなすがままに竹藪の中に入ると、牛鬼の会話が聞こえてきて、爺さんは牛鬼に狙われていたところを狼に救われたことが分かります。爺さんは送り狼に礼をして安心した狼は去るという筋立てです。

 狼―人間、狼―牛鬼、狼―狐、狼―爺さん、といった対立軸が見受けられます。足を洗う/たらいを伏せるに送り狼の一連の様式が暗喩されているとみることができるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

爺さん♌♁―牛鬼♂―狼♎☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。ここでは川戸の爺さんの命を価値☉と置くことができるでしょうか。それを狙う牛鬼たちが対立者♂となり、阻止する狼が援助者☾となります。審判者♎はお話の前段から狼と置くことができるでしょうか。狼は爺さんを善人と判断して命を救っている訳です。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「狼と遭遇した川戸の爺さんはどうなるか」でしょうか。それに対する発想の飛躍は「爺さんを襲うかに見えた狼が実は牛鬼から守っていた」というところでしょうか。「狼―牛鬼―爺さん」の図式です。狼は眉毛は抜きませんが爺さんを善人と判断する訳です。送り狼に対する返礼の様式も発想の飛躍といえるでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.208-209.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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