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2024年6月17日 (月)

行為項分析――粟の飯

◆あらすじ

 昔、鴻池に聟がいることになった。大金持ちだから聟にしてくれという人は沢山あった。そこで鴻池では「粟(あわ)ばかりのご飯を茶碗いっぱい盛り付けて何杯でも出しておいて一粒もこぼさぬ様に食べた者を聟にする」と立札を立てた。そこで我こそはという者がどんどん出かけて食べかけるが、ご飯があまりにこわい(かたい)ので、ぽろぽろこぼれて皆失敗した。ここに息子をもった父親がいた。この話を聞いて何とかして自分の息子を聟にやりたいと思って「中、食うちゃあへりをいれ 中、食うちゃあへりをいれ」という歌を作って、その歌を歌いながら歌の通りに中を食べてはほとりを中へ入れて食べる様にしつけた。そうして長いことやっている内に粟を一粒もこぼさずに食べられるようになった。そこで息子は鴻池へ行って粟飯を食べることになった。そしてこれまで教えられた通りに口の中で歌いながら食べたところ、見事一粒もこぼさずに食べることができた。それでめでたく鴻池の聟になった。我が子を出世させるためには、親はこうまで苦心をし、一粒のご飯もこぼさぬようなものでなければ出世はできない。

◆モチーフ分析

・鴻池で聟をとることになった
・粟ばかりで茶碗一杯に盛り付けて一粒もこぼさない者を聟とするとした
・我こそはと挑戦するが皆失敗する
・父親が息子に歌に合わせて飯を食べるようにしつける
・息子は教えられた通りにして一粒も残さず食べてみせ、聟になる
・子を出世させるにはこうまで苦心しなければならない

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:鴻池
S2:挑戦者
S3:父親
S4:息子

O(オブジェクト:対象)
O1:聟
O2:課題
O3:歌

m(修飾語)
m1:躾けられた
m2:苦心した

+:接
-:離

・鴻池で聟をとることになった
(婿取り)S1鴻池:S1鴻池+O1聟
・粟ばかりで茶碗一杯に盛り付けて一粒もこぼさない者を聟とするとした
(条件提示)S1鴻池:X+O2課題
・我こそはと挑戦するが皆失敗する
(失敗)S2挑戦者:O2課題-S2失敗
・父親が息子に歌に合わせて飯を食べるようにしつける
(教示)S3父親:S4息子+O3歌
(躾け)S3父親:S4息子+m1躾けられた
・息子は教えられた通りにして一粒も残さず食べてみせ、聟になる
(達成)S4息子:S4息子+O2課題
(婿入り)S1鴻池:S4息子+O1聟
・子を出世させるにはこうまで苦心しなければならない
(教訓)S3父親:S3父親+m2苦心した

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(息子は果たして聟となることができるか)
           ↓
送り手(息子)→ 粟粒を漏らさず食べる(客体)→ 受け手(鴻池)
           ↑
補助者(なし)→ 父親(主体)←反対者(なし)


といった行為項モデルが作成できるでしょうか。大阪の豪商である鴻池が婿取りすることになったが、難題が提示され、それをクリアできる者は誰もいなかった。そこにある父親が息子に知恵を授けて難題を克服させ、立身出世の道を開くという筋立てです。

 鴻池―人々、鴻池―息子、父親―息子、といった対立軸が見出せます。粟/歌の図式に難題を感覚的に克服する知恵が暗喩されています。

 本来であれば、鴻池が望んでいるのは知恵者の聟でしょう。ですが、この話では父親が知恵を働かせることで息子を躾けるという展開となっています。息子自身が知恵者かどうかは明らかにされていません。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

父親♌☾(♁)―息子♁―鴻池☉♎―挑戦者♂

 といった風に表記できるでしょうか。価値を鴻池に婿入りすることと置くと、息子が享受者♁であり、父親はその援助者☾となります。鴻池はまた難題を課す審判者♎でもあります。他の挑戦者たちは対立者♂ではありませんが、直接親子に対峙する訳ではありません。鴻池が課す難題が関係分析では上手く記述できないことは指摘できるでしょうか。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 この物語の焦点は「息子は果たして鴻池へ婿入りできるか」でしょうか。発想の飛躍は一粒もこぼさずに粟飯を完食すること、またその際に歌われる歌でしょうか。「鴻池―粟/歌―息子―父親」の図式です。粟飯に限りませんが、茶碗に盛られた飯を一粒もこぼさずに完食するという難題は昔話でよく見受けられます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.191-192.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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