行為項分析――葬式の使い
◆あらすじ
昔あるところに猟の好きな六兵衛という男がいた。毎日いろいろな鳥獣を獲ってくるので女房が嫌がって猟を止めるように頼んだが、六兵衛は猟が面白くて止めようとしない。いつも女房と口げんかをしていた。ある日のこと、また口げんかをして山へ鉄砲を担いでいった。そして山の中をあちこち獲物を探したが、その日に限って獲物が獲れない。山奥深く探していく内に道に迷ってしまった。六兵衛は大きな木に登って夜を明かすことにした。すると、夜中頃になってどんどん人の足音がしてきた。六兵衛を呼ぶ声がして、女房が腹痛で苦しがっている。帰るようにと告げた。六兵衛が黙っていると、そこにいるのは分かっているんだ。早く帰りなさいと告げた。それでも黙っていると、これほど言っても戻らんなら死んだって知らない。集落の者まで集まって相談しているのにと言ってぶつぶつ言いながら帰った。六兵衛は変な事を言ってきたと思っていた。すると提灯の火が見えてきた。また六兵衛に家に戻るように告げた。六兵衛が黙っていると、女房が死にそうなのに猟に憑かれた者は訳が分からないとぶつぶつ言って帰ってしまった。しばらくすると、また提灯の火が見えてきた。女房がとうとう死んだ。葬式のことがあるから早く戻るようにと告げた。それでも黙っていると、帰ってしまった。しばらくして夜が明けたら帰ろうと思っていると、今度はぞろぞろと人が棺を担いで来た。六兵衛が戻らないから死人を一人おく訳にもいかないから棺をこしらえてここまで持ってきたと告げた。六兵衛は一晩の内にこしらえて持ってくるはずはないから何かが化かそうとしているのだと思ってずっと動かずにいた。その内だんだん夜が更けてしんとしてきたら柩がバリバリと音をたてて裂けた。そして中から女房が出てきた。女房が六兵衛に呼びかけたが黙っていると木へ登りはじめた。だんだん近づいてきて手が届くかと思ったところで六兵衛は鉄砲を構え、足に手が触ったのでズドーンと撃つとドッタンと落ちた。その内に夜もしらじらと明けたので、やれやれ変なことがあったが何が化かしたのだろうかと思って下へ降りてみると、ずっと血の跡が続いているので、その跡をつけていくと自分の家へ帰っていた。おかしなことだ。本当に女房が死んだのだろうかと思って帰ってみると、女房が鉄砲で撃たれて死んでいた。これは仏さまが見せしめのためにやってくださったのだろうと思って、はじめて六兵衛も目が覚めて、それから猟をすっぱりと止めた。
◆モチーフ分析
・六兵衛という猟が好きな男がいて、殺生を諫める女房と喧嘩ばかりしていた
・ある日、山に入ったが獲物が一匹も撮れない
・その内に道に迷ってしまった
・大きな木に登り、一晩明かすことにする
・夜が更けると、足音がして女房が腹痛で苦しんでいると告げる
・六兵衛は黙ったままやりすごす
・今度は提灯の火が見え、女房が死にそうだと言い六兵衛に家に帰るように告げる
・六兵衛は黙ったままやり過ごす
・今度は女房が死んだ、葬式のことがあるから帰るようにと告げる
・六兵衛は黙ったままやり過ごす
・今度は棺を運んでくる
・六兵衛は黙ってやり過ごす
・棺から女房が出てくる
・女房、木に登ってくる。手が触れそうになる
・六兵衛、女房を鉄砲で撃つ
・六兵衛、血の跡を追うと自宅に戻る
・女房が鉄砲に撃たれて死んでいた
・六兵衛、改心する
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:六兵衛
S2:女房
S3:声
O(オブジェクト:対象)
O1:猟
O2:山
O3:獲物
O4:道
O5:木
O6:葬式
O7:棺
O8:血痕
O9:自宅
m(修飾語)
m1:死んだ
m2:改心した
+:接
-:離
・六兵衛という猟が好きな男がいて、殺生を諫める女房と喧嘩ばかりしていた
(存在)X:S1六兵衛+O1猟
(諫言)S2女房:S1六兵衛-O1猟
(喧嘩)S1六兵衛:S1六兵衛-S2女房
・ある日、山に入ったが獲物が一匹も撮れない
(入山)S1六兵衛:S1六兵衛+O2山
(不猟)S1六兵衛:S1六兵衛-O3獲物
・その内に道に迷ってしまった
(迷う)S1六兵衛:S1六兵衛-O4道
・大きな木に登り、一晩明かすことにする
(停泊)S1六兵衛:S1六兵衛+O5木
・夜が更けると、足音がして女房が腹痛で苦しんでいると告げる
(告知)S3声:S1六兵衛+S2女房
・六兵衛は黙ったままやりすごす
(黙殺)S1六兵衛:S1六兵衛-S3声
・今度は提灯の火が見え、女房が死にそうだと言い六兵衛に家に帰るように告げる
(再告知)S3声:S1六兵衛+S2女房
・六兵衛は黙ったままやり過ごす
(黙殺)S1六兵衛:S1六兵衛-S3声
・今度は女房が死んだ、葬式のことがあるから帰るようにと告げる
(再告知)S3声:S1六兵衛+O6葬式
・六兵衛は黙ったままやり過ごす
(黙殺)S1六兵衛:S1六兵衛-S3声
・今度は棺を運んでくる
(搬入)S3声:S1六兵衛+O7棺
・六兵衛は黙ってやり過ごす
(黙殺)S1六兵衛:S1六兵衛-S3声
・棺から女房が出てくる
(登場)S3声:S2女房-O7棺
・女房、木に登ってくる。手が触れそうになる
(接近)S3声:S2女房+S1六兵衛
・六兵衛、女房を鉄砲で撃つ
(射撃)S1六兵衛:S1六兵衛-S2女房
・六兵衛、血の跡を追うと自宅に戻る
(追跡)S1六兵衛:S1六兵衛+O8血痕
(帰宅)S1六兵衛:S1六兵衛+O9自宅
・女房が鉄砲に撃たれて死んでいた
(認識)S1六兵衛:S2女房+m1死んだ
・六兵衛、改心する
(改心)S1六兵衛:S1六兵衛+m2改心した
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(六兵衛は無事朝を迎えられるか)
↓
送り手(声)→ 黙殺(客体)→ 受け手(六兵衛)
↑
補助者(なし)→ 六兵衛(主体)←反対者(声)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。猟で殺生することが好きな六兵衛はそれを諫める女房と喧嘩したまま山に入ります。道に迷った六兵衛は木に登り一晩明かそうとしますが、そこに声がして女房の不幸を告げ、六兵衛を木から降ろそうとします。黙殺する六兵衛ですが、棺が運ばれていて中から女房が現れ六兵衛に接近すると、女房を撃ってしまいます。血痕を追うと自宅に戻り、そこで女房が撃たれて死んでいたという筋立てです。この話には別バージョンがあり、それは狸の仕業だったという結末になっていますが、『石見の民話』に収録されたバージョンでは声の正体を明らかにせず怖い話として描いています。
六兵衛―女房、六兵衛―声、六兵衛―仏、昼間―夜、といった対立軸が見受けられます。夜/声という図式は夜が魔物の出没する時間帯である暗喩となっています。
この行為項モデルでは、客体が黙殺という不作為になっていることが指摘できるでしょうか。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
六兵衛♌♎♁―女房☉☾(♌)―声♂
といった風に表記できるでしょうか。これは何に価値☉を置くか難しい問題です。六兵衛自身の命を守ることかもしれませんし、六兵衛の日常を守ることかもしれません。ここでは結末に沿って女房を価値☉と置きます。すると、六兵衛は女房を撃ち殺してしまいますので享受者♁(-1)とでもおけるでしょうか。また、六兵衛は帰宅することで真相を知りますので審判者♎と置いていいでしょうか。女房は六兵衛に諫言するなど援助者☾としての側面も持ちますが、死体となった女房は援助者☾(-1)とも置けるでしょうか。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は得体の知れない声が六兵衛を木から降ろそうとあの手この手を尽くすことでしょうか。「声―女房―六兵衛」の図式です。
この話は、六兵衛が日常→非日常→日常と巡る話でもあります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.166-170.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
| 固定リンク
« 行為項分析――難題聟 | トップページ | 概要を把握する――川上成年『テキストマイニングでできる特許データ分析入門 図で解説! KH CoderとJ-PlatPatで特許データを分析してみよう。』 »
「昔話」カテゴリの記事
- 抽象化がキーか――小澤俊夫『昔話の語法』(2025.09.12)
- 未来社『石見の民話』三周目の下準備にかかる(2025.08.19)
- 未来社『石見の民話』ロールバック二周目の作業が終了(2025.08.15)
- 未来社『石見の民話』二周目ロールバック作業――石西編終了(2025.08.07)
- 未来社『石見の民話』二周目ロールバック作業中――那賀編終了(2025.06.19)

