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2024年6月 5日 (水)

行為項分析――オミユキの竹

◆あらすじ

 あるところに夫婦がいた。女房は夫の留守に旨いものをこしらえて一人で食べていた。夫はそれを聞いていたので、ある日のこと山へ行くふりをして別の道を通って戻ってきて天井裏へ上がって女房のすることを見ていた。すると女房は寿司屋から刺身を取り寄せて酒を飲み始めた。夫は今自分が帰ると夫婦げんかになるが、何かよい工夫はないものかと天井裏を歩いていると煤(すす)で真っ黒になった竹の筒が見つかった。それを磨きながらいろいろ考えた。この竹を帝釈(たいしゃく)さんがら貰ったといって嬶(かか)の顔を赤らめてやろうと思い、そっと天井裏から降りて、今戻ったふりをした。神さまから天のオミユキの竹を貰った。この竹で見るとどんなに隠していることでも分かると言うと、女房は震えだして謝った。このことが隣近所の評判になった。近所の意地の悪い夫婦はあの親父が嬶を騙したのよ。オミユキの竹なんて、そんなものがあるかと思って自分の家で鉈(なた)が無くなったといってオミユキの竹で見て貰うことにした。親爺は今日は都合でいけないので明日の朝行くと答えた。親爺は二人が帰るとそろっと隣の家の周りに行ってしゃがんで内輪話を聞いた。すると土の中の芋釜の底がよかろうと聞こえた。翌朝。親爺はオミユキの竹を風呂敷に包んで持っていった。そしてしばらく竹の筒で見ていたが、これは土の中に入っていると答えた。土の中というと芋の穴しかないとなって近所の夫婦も感心して、いよいよ不思議な竹だと大評判になった。それがお殿さまの耳に入った。その頃城内で千鳥の香炉が失せて探しているところだったのでオミユキの竹で見て貰おうということになった。親爺は困ったが仕方ない。心配しながら出かけた。途中で暑くて仕方ないので稲荷堂へ入って昼寝をした。みるとお稲荷さまに小豆飯が供えてあるので頂戴した。そこへ人が来て、小豆飯を食ったのは太郎狐だ。あれが殿さまの香炉も前の池へ投げ込んだという夢を見た。よい夢を見たと喜んで殿さまの所へ出かけた。そしてオミユキの竹を出して方々を見て歩いたが、蓮の池の所へ来て、どうもこの底が怪しい。この池を干してみて下さいと答えた。仰せによって池の水を干してみると、池の底から香炉が出てきた。これはでかしたと親爺は褒美を貰って帰った。それから十日も経たない内にまた殿さまから使いが来た。また千鳥の香炉が無くなったから見てくれとのことだった。親爺は困ったが断る訳にもいかない。駕籠(かご)で迎えが来たので仕方なく駕籠に乗ったが、半里ばかり行った時、山奥へ入って果てる覚悟で大事な品物を忘れたと駕籠を止めさせた。親爺は家に帰るふりをして山の奥へ入った。すると炭がまがあって人の話声がする。耳をそばだてて聞いていると、殿さまの香炉を二千両で買えという声が聞こえた。この炭焼きたちが盗んでいると思いながらまた元のところへ帰ってきた。そして待っていた駕籠に乗ってお殿さまのところへ行った。親爺は二丈八尺もある高い櫓(やぐら)を作らせて、櫓に登って見ていたが、これより八九里先の山奥の炭焼きが盗んでいる。日が経つといけない急ぐのがよいと答えた。殿さまは捕手の役人を二三十人仕立てて、親爺の案内でその山に入った。炭焼きは捕らえられて白状したので香炉は無事戻ってきた。殿さまは喜んで追って沙汰があるので待つように言った。それからしばらくしてまた駕籠で迎えに来た。今度は若殿が九つになるが、未だにものを言わない。易者に見てもらっても分からない。どうした訳か聞きたい。殿中評議の上で迎えに来たとなった。親爺は覚悟を決めて駕籠に乗った。殿さまに頼まれた親爺は気晴らしに散歩に出ることにした。城山へ登りかけると途中で爺婆の狐が二匹いた。親爺は気味悪がったが恐る恐る近づくと、狐の方から話しかけてきた。今日あなたのオミユキの竹で見ると若殿の唖の原因がよく分かる。それは自分たちの父親の皮が殿さまの刻(とき)の太鼓に張ってある。太鼓を打たれると自分たちは五臓六腑が張り裂けるばかりに苦しい。それでそれを恨んで若殿を唖にしているのだ。オミユキの竹で見破られると狐狩りとなり、長い間住んだこの山を去らねばならない。どうか自分たちの仕業ということを明かさないで欲しいと狐は頼んだ。親爺は狐に困った節には助力してくれるように約束させ、山から下りてくると、オミユキの竹を見てから刻の太鼓の皮を張り替えたらよいと答えた。早速太鼓が張り替えられた。太鼓を叩くと若殿は太鼓の音というものは何と面白いものかと初めてものを言った。殿さまは大変喜んで、親爺夫婦に八万石の知行を与えて、二人は一生安楽に暮らした。

◆モチーフ分析

・女房が夫の留守に旨いものを一人で食べている
・夫、山へ行くふりをして天井裏に登る
・夫、煤けた竹筒を見つけ、オミユキの竹と名づける
・夫、女房にどんな隠し事でも分かるのだと騙す
・女房、謝る
・近所の意地の悪い夫婦が親爺に探し物の依頼をする
・親爺、こっそり夫婦の会話の盗み聞きをする
・隠していた場所を言い当てる
・評判が広まる
・殿さまから香炉の探し物の依頼が来る
・親爺、城へ向かう途中、稲荷堂で昼寝する
・夢で香炉の行方が語られる
・親爺、香炉の場所を言い当てて褒美を貰う
・また香炉が無くなった
・駕籠で迎えが来て止むなく乗る
・途中で山奥に入ったところ炭焼きの会話を聞く
・それを殿さまに報告、香炉が取り戻される
・若殿が声を出さないことについて尋ねられる
・時間を貰って城山を歩いていると狐夫婦に逢う
・狐夫婦、若殿の唖の原因を語る
・親爺、その事は口外しない代わりに困ったときの助力を約束させる
・親爺、太鼓の皮を張り替えるよう進言する
・若殿の唖が治る
・親爺夫婦、八万石の知行を授かる

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:夫
S2:女房
S3:夫婦
S4:村人
S5:殿さま
S6:炭焼き
S7:若殿
S8:狐夫婦

O(オブジェクト:対象)
O1:旨いもの
O2:山
O3:オミユキの竹
O4:隠し事
O5:探し物
O6:会話
O7:城
O8:稲荷堂
O9:夢
O10:褒美
O11:香炉
O12:駕籠
O13:山
O14:原因
O15:太鼓の皮
O16:知行

m(修飾語)
m1:声が出ない

+:接
-:離

・女房が夫の留守に旨いものを一人で食べている
(不在)S1夫:S1夫-S2女房
(独占)S2女房:S2女房+O1旨いもの
・夫、山へ行くふりをして天井裏に登る
(騙し)S1夫:S1夫+O2山
(潜伏)S1夫:S1夫+O3天井裏
・夫、煤けた竹筒を見つけ、オミユキの竹と名づける
(入手)S1夫:S1夫+O3オミユキの竹
・夫、女房にどんな隠し事でも分かるのだと騙す
(騙し)S1夫:S2女房-O4隠し事
・女房、謝る
(謝罪)S2女房:S2女房+S1夫
・近所の意地の悪い夫婦が親爺に探し物の依頼をする
(依頼)S3夫婦:S1夫+O5探し物
・親爺、こっそり夫婦の会話の盗み聞きをする
(盗聴)S1夫:S3夫婦-O6会話
・隠していた場所を言い当てる
(明答)S1夫:S3夫婦+O5探し物
・評判が広まる
(評価)S4村人:S4村人+S1夫
・殿さまから香炉の探し物の依頼が来る
(依頼)S5殿さま:S1夫+O5探し物
・親爺、城へ向かう途中、稲荷堂で昼寝する
(登城)S1夫:S1夫+O7城
(昼寝)S1夫:S1夫+O8稲荷堂
・夢で香炉の行方が語られる
(夢見)S1夫:S1夫+O9夢
(予知)S1夫:S1夫+O5探し物
・親爺、香炉の場所を言い当てて褒美を貰う
(明答)S1夫:S5殿さま+O5探し物
(褒章)S5殿さま:S1夫+O10褒美
・また香炉が無くなった
(再紛失)X:S5殿さま-O11香炉
・駕籠で迎えが来て止むなく乗る
(搭乗)S1夫:S1夫+O12駕籠
・途中で山奥に入ったところ炭焼きの会話を聞く
(入山)O12駕籠:S1夫+O13山
(盗聴)S1夫:S1夫+S6炭焼き
・それを殿さまに報告、香炉が取り戻される
(報告)S1夫:S1夫+S5殿さま
(奪還)S5殿さま:S5殿さま+O11香炉
・若殿が声を出さないことについて尋ねられる
(質問)S5殿さま:S1夫+S7若殿
・時間を貰って城山を歩いていると狐夫婦に逢う
(散策)S1夫:S1夫+O7城
(遭遇)S1夫:S1夫+S8狐夫婦
・狐夫婦、若殿の唖の原因を語る
(証言)S8狐夫婦:S1夫+O14原因
・親爺、その事は口外しない代わりに困ったときの助力を約束させる
(封殺)S1夫:S5殿さま-O14原因
(助力)S1夫:S8狐夫婦+S1夫
・親爺、太鼓の皮を張り替えるよう進言する
(進言)S1夫:S5殿さま-O15太鼓の皮
・若殿の唖が治る
(治癒)S7若殿:S7若殿-m1声が出ない
・親爺夫婦、八万石の知行を授かる
(授封)S5殿さま:S1夫+S2女房+O16知行

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(夫は女房を出し抜けるか)
           ↓
送り手(夫)→ オミユキの竹(客体)→ 受け手(女房)
           ↑
補助者(なし)→ 夫(主体)←反対者(女房)

   聴き手(夫は隣人を出し抜けるか)
           ↓
送り手(夫)→ 探し物(客体)→ 受け手(隣の夫婦)
           ↑
補助者(なし)→ 夫(主体)←反対者(隣の夫婦)

   聴き手(夫は香炉を見つけられるか)
           ↓
送り手(夫)→ 香炉(客体)→ 受け手(殿さま)
           ↑
補助者(稲荷)→ 夫(主体)←反対者(太郎狐)

   聴き手(夫は香炉を見つけられるか)
           ↓
送り手(夫)→ 香炉(客体)→ 受け手(殿さま)
           ↑
補助者(なし)→ 夫(主体)←反対者(炭焼き)

   聴き手(夫は若殿を癒せるか)
           ↓
送り手(夫)→ 太鼓の皮(客体)→ 受け手(若殿)
           ↑
補助者(狐夫婦)→ 夫(主体)←反対者(なし)


といった五つの行為項モデルが作成できるでしょうか。夫(親父)はオミユキを竹を入手したと女房を騙して反省させます。また、夫(親父)は隣人の会話を盗み聞きすることで隣人の難癖を切り抜けます。ここに夫(親父)の知恵が示されています。また、夫(親父)は殿さまの香炉を二度も取り戻すことで殿さまの信用を得ます。更に若殿の唖の原因を突き止めることで若殿を癒します。そして後に同様の問題が発生したら狐夫婦の助力を得られるよう協力を取り付けるという抜け目のなさも示します。こうして殿さまの信頼を獲得した夫(親父)は知行持ちに出世するのです。

 夫―女房。夫―隣の夫婦、夫―殿さま、夫―炭焼き、夫―若殿、夫―狐夫婦、といった対立軸が見受けられます。オミユキの竹/探し物の図式に夫(親父)の機知と知恵とが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

夫(親父)♌♁―女房♂♁―隣の夫婦♂―殿さま♎☉―太郎狐♂―炭焼き♂―若殿♁―稲荷☾(♌)―狐夫婦☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。女房は旨い料理を独り占めしますので夫にとって対立者♂でもありますが、改心し最後は夫と共に知行持ちとなりますので享受者♁ともなります。隣の夫婦、太郎狐、炭焼きは対立者♂となります。殿さまは夫(親父)の行いを評価し知行を与えますので価値☉の源泉であり審判者♎ともなります。若殿は唖が癒されますので享受者♁となります。稲荷堂の稲荷と狐夫婦は夫(親父)を助けますので援助者☾となります。援助者がどちらも狐に関連していることも興味深いです。

◆物語の焦点と発想の飛躍

 グレマスの行為項モデルに「聴き手の関心」という項目を付け加えた訳ですが、これは「物語の焦点」とも置き換えられます。ここで、昔話の肝を「物語の焦点」に如何に「発想の飛躍」をぶつけるかと考えます。

 このお話の焦点は「夫(親父)はいかにして難題を切り抜けるか」でしょうか。一方で、発想の飛躍は「どんな隠し事も見抜くオミユキの竹」でしょうか。「夫(親父)―オミユキの竹―女房/隣の夫婦/殿さま/炭焼き/狐夫婦」といった図式です。

 こうして難題を切り抜けるためのアイテムとして登場したオミユキの竹ですが、実際は古い竹筒に過ぎず、夫(親父)は己の機知と知恵とで難局を切り抜けるという筋立てとなっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.171-179.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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