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2024年5月17日 (金)

行為項分析――屁ひり爺

◆あらすじ

 昔あるところに爺さんがいた。ある日お殿さまの山で木を伐っていたら、お殿さまの行列が通った。お殿さまが人の山で木を伐るのはどいつだと言った。爺さんは日本一の屁ひりじいと言った。それなら屁を一つひってみよとなり、ここには尻にとげがたってひられない、板の間は冷たくてひられない、畳はつるつるしてひられないとなり、毛氈(もうせん)ならひられるとなった。毛氈の上で錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原はスッポロポンのポンと大きな屁を見事にひった。お殿さまは大層喜ばれて、まさしく日本一の屁こき爺だ。褒美をとらせると言った。爺さんは褒美をもらった。それを聞いた隣の欲張り爺さんが自分も褒美を貰わねばと、お殿さまの山で木を伐っていた。お殿さまの行列が通って人の山で木を伐るのはどいつだと言った。欲張り爺さんは日本一の屁ひり爺と言った。それでは屁をひとつひってみせよとなった。ここには尻にとげがたってひられない、板の間は冷たくてひられない、畳はつるつるしてひられないとなり、毛氈ならひられるとなった。毛氈の上で錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原とやったが屁が出ない。そこで爺さんは錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原はスッポロポンのポンとやったが、出たのは屁ではなく大きな黄色なのがポン。お殿さまは怒って、よくも嘘をついたなと一刀のもとに尻を切ってしまった。だから欲張りをして人まねをしてはいけない。

◆モチーフ分析

・爺さんがお殿さまの山で木を伐っている
・そこにお殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
・爺さんは自分を日本一の屁ひり爺と言う
・それなら屁をひってみよとなる
・爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
・毛氈の上で大きな屁をひる
・お殿さま、大層喜んで、褒美を賜る
・それを隣の欲張り爺さんが聞く
・隣の爺さん、お殿さまの山で木を伐る
・お殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
・隣の爺さん、自分が日本一の屁ひり爺と名乗る
・それなら屁をひってみよとなる
・隣の爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
・毛氈の上だが屁が出ない
・もう一度ひると大便が出てしまう
・お殿さま、怒って隣の爺さんの尻を切ってしまう

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:殿さま
S3:隣の爺さん

O(オブジェクト:対象)
O1:殿さまの山
O2:木
O3:屁
O4:毛氈
O5:褒美
O6:大便

m(修飾語)
m1:日本一

+:接
-:離

・爺さんがお殿さまの山で木を伐っている
(木こり)S1爺さん:O1殿さまの山-O2木
・そこにお殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
(咎める)S2殿さま:S2殿さま-S1爺さん
・爺さんは自分を日本一の屁ひり爺と言う
(自称)S1爺さん:S1爺さん+m1日本一
・それなら屁をひってみよとなる
(命令)S2殿さま:S1爺さん+O3屁
・爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
(言い訳)S1爺さん:S1爺さん-O3屁
・毛氈の上で大きな屁をひる
(放屁)S1爺さん:O4毛氈+O3屁
・お殿さま、大層喜んで、褒美を賜る
(褒章)S2殿さま:S1爺さん+O5褒美
・それを隣の欲張り爺さんが聞く
(聴聞)S3隣の爺さん:S3隣の爺さん+S1爺さん
・隣の爺さん、お殿さまの山で木を伐る
(木こり)S3隣の爺さん:O1殿さまの山-O2木
・お殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
(咎める)S2殿さま:S2殿さま-S3隣の爺さん
・隣の爺さん、自分が日本一の屁ひり爺と名乗る
(自称)S3隣の爺さん:S3隣の爺さん+m1日本一
・それなら屁をひってみよとなる
(命令)S2殿さま:S3隣の爺さん+O3屁
・隣の爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
(言い訳)S3隣の爺さん:S3隣の爺さん-O3屁
・毛氈の上だが屁が出ない
(不発)S3隣の爺さん:O4毛氈-O3屁
・もう一度ひると大便が出てしまう
(排便)S3隣の爺さん:O4毛氈+O6大便
・お殿さま、怒って隣の爺さんの尻を切ってしまう
(懲罰)S2殿さま:S2殿さま-S3隣の爺さん

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(爺さんは日本一と証明できるか)
            ↓
送り手(爺さん)→ 放屁(客体)→ 受け手(殿さま)
            ↑
補助者(なし)→  爺さん(主体)← 反対者(殿さま)

  聴き手(隣の爺さんは上手く真似できるか)
             ↓
送り手(隣の爺さん)→ 放屁(客体)→ 受け手(殿さま)
             ↑
補助者(なし)→  隣の爺さん(主体)← 反対者(殿さま)

といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。殿さまが持ち主の山で勝手に木こりをしていた爺さんですが、その行為を咎められてもたじろがず、自分を日本一の屁ひりじいと自称して実演してみせます。その際のじらし具合が面白いのですが、分析では捨象されてしまっています。喜んだ殿さまは爺さんに褒美を与えます。一方で隣の爺さんもその真似をしますが上手くいかず、毛氈の上に便を漏らして殿さまの怒りを買ってしまうという筋立てです。安易に他人の真似をするものではないと諫める教訓話となっています。

 爺さん―隣の爺さん、爺さん―殿さま、隣の爺さん―殿さま、屁―便、といった対立軸が見出せます。放屁/褒美は芸が身を助けることの暗喩と見なせるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

爺さん♌♁―隣の爺さん♂―殿さま☉♎

 といった風に表記できるでしょうか。殿さまが山の持ち主であり、褒美を与えるところから価値☉を体現する人物であり、また褒美を与えたり懲罰したりと審判者♎の役割を果たしています。爺さんは褒美を与えられますので享受者♁となります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍はなかなか放屁せずにじらすところでしょうか。「爺さん―屁―毛氈―殿さま」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.134-136.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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