行為項分析――難題聟
◆あらすじ
昔、大仙(だいせん)の麓に色粉(いろこ)(染粉)屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた。ある日西の方からきれいな娘が来た。この娘はお前の聟になる者は大仙の色粉屋の手代より他にいないと聞いていたので、手代を試しにきたのであった。娘は色粉を二両も買って出ようとしたが、手代はその金を受け取らず貰うところで貰うと言った。そして娘が去りかけると呼び返して所を訊いた。娘は「所はふさんの麓」「家の名ははるば屋」名前は「四月生え五月禿げ」と答えて行ってしまった。それから手代は考えてみたが、どうしても分からない。休みの日に山寺の和尚さんのところへ将棋をしに行って、将棋の入れ言葉に「ふさんの麓」と言って打ち込んだ。和尚は「草津の町に」と打ち返した。「はるば屋とは」「あめがた屋」「四月生え五月禿げ」「お竹さんの事よ」それで草津の町のあめがた屋の小竹という娘と分かったので手代は主人に暇を貰った。主人は草鞋(わらじ)銭に二十両くれた。手代はそれを持って西に向けて三日目の箸間(はしま)時分に茶店によって「ここは何という町か」と訊くと、婆さんが「草津の町だ」と言った。「草津の町にはあめがた屋という家があるか」と訊くと「それは白壁の物持ちの家だ」と言う。「そこにお竹さんといういい娘がいるか」と訊くと、「それは一人娘だ」と言う。手代は「その娘の男になりたいから世話をしてくれ」と頼むと、婆さんは「自分のような者では相手にしてくれない。手紙の小使いくらいならしてやる」言うので手代は思いのたけを手紙に書いて婆さんに頼むと娘から返事が来た。それには「このよでなし、今度のよでなし、その次のよに、天竺の花の咲く時分、草へ実のある時分に、背戸の裏門までこい。話し会おう」とあった。こんな難しいことを言ってくるのは逢わないつもりかも知れないと思って沈んでいると、婆さんがそれを聞いて「この意味は昨夜でなし、今夜(こんべ)でなし、明日の晩のことだが、今夜行ってもかまわないのだ」と言った。そして時刻は「星が空に出、草に露のおく時分という意味だ」と教えてくれた。そこでその晩の夕方に訪ねていくと、娘は「汝(わ)は聟にするけえ、この奥(おき)の五兵衛という者が町の当職だ。それへ行って話してみい」と教えた。そこを訪ねていくと五兵衛がお前ならあそこの若旦那になろう、自分が世話をしよう」と腰をあげた。五兵衛があめがた屋の旦那に話すと、それだけの働きのある者ならここへ連れてこいと言うので、五兵衛が手代を連れて行くと、旦那は「聟にはするが、三品の買物をしてくれ。みなこの草津の町にある物だけえ」と言って書付けを渡した。書付けには「一には西行法師、二には夜のドージマ(履き物のポックリ)、三に花嫁じょう」とあった。手代は幾ら考えてみても分からないので、呼んで歩けば売ってくれるものがあるかもしれないと思って、大きな声で呼び歩いたが売ってくれる者がいない。困っていると町中で大夫(神主)さんと和尚さんが将棋をさしていた。手代はそこへ入って仲間になり、和尚さんに「西行法師」と打ち込むと「法螺(ほら)貝のことよ」「闇夜のドージマ」「ろうそくのことよ」「花嫁じょうとは」「麦饅頭のことだ」。そこでその品を探してみると、皆あめがた屋の近所で売っているものばかりであった。これを買って帰りかけると、途中で座頭に出会って、その杖に引っかかったので座頭が転んだ。座頭は手代の持っていた法螺貝をひったくって中の身を食ってしまった。手代が「杖に当たったのはこっちが悪いが、人の物をとって食う奴があるか」と怒ると、座頭が「それはお前を聟にしたい故に食ったのだ。俺もあの家では世話になっている。これからはお前にも世話にならねばならんから言うて聞かせるが、これをこのまま持っていんだのでは旦那は取りはせん」と言って今度は麦饅頭の粉を抜いて食った。そして「これには意味がある。先ずあれへ去(い)んだ時分にはようやく戻りました。西行法師と書いてありましたが、西行法師さんのところへ行ったところが、今日は歌詠みに出て留守でありました。何ぼ待っても戻れんで、あれの家のを持って戻りましたと言え。また、花嫁じょうと書いてありましたが、それはこの奥(おき)に子を生んでおりました。子は川へ流れましたからそれで親ほどと思って持って戻りました。闇の夜のドージマは怪我なしに戻りました。こう言えば旦那はもう難しいことは言い付けまい」と教えてくれた。手代は教えられた通りに三つの品を差し出すと、旦那は感心して手代を聟にして安穏に暮らした。
◆モチーフ分析
・大仙の麓に色粉屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた
・ある日、西の方からきれいな娘が来た
・娘は自分の夫になるのは大仙の色粉屋の手代と聞いていたので手代を試しに来た
・娘、色粉を二両も買う
・手代、その金を受け取らず、貰うところで貰うと言う
・手代が訊くと娘は謎かけして去る
・手代、考えても分からないので山寺の和尚さんの所へ将棋をしに行く
・和尚、謎を解く
・草津だと分かったので手代、主人に暇をもらう
・手代、三日かかって草津に行く
・手代、茶店の婆さんに娘の夫になりたいからと世話を頼む
・手代、娘に手紙を書く
・娘、手紙で謎かけする
・婆さんが謎を解く
・娘に会いに行くと、五兵衛に会う様に言う
・五兵衛、旦那に取り次いでくれる
・旦那、買物の謎かけをする
・神主と和尚が将棋を指していたので仲間に入る
・和尚、謎を解く
・手代、買物をする
・手代、座頭とぶつかる
・座頭に文句を言うと、自分は旦那に世話になっている。これからはお前にも世話になるといって買物の謎を解く
・座頭の言う通りにして旦那に面会すると旦那は手代を聟にする
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:手代
S2:娘
S3:和尚1
S4:婆さん
S5:五兵衛
S6:旦那
S7:和尚2
S8:座頭
O(オブジェクト:対象)
O1:大仙
O2:色粉屋
O3:色粉
O4:二両
O5:謎かけ
O6:将棋
O7:草津
O8:手紙
O9:法螺貝
+:接
-:離
・大仙の麓に色粉屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた
(存在)O1大仙:O1大仙+O2色粉屋
(存在)O2色粉屋:O2色粉屋+S1手代
・ある日、西の方からきれいな娘が来た
(来訪)S2娘:S2娘+O2色粉屋
・娘は自分の夫になるのは大仙の色粉屋の手代と聞いていたので手代を試しに来た
(予言)X:S2娘+S1手代
(試験)S2娘:S2娘+S1手代
・娘、色粉を二両も買う
(購入)S2娘:S2娘+O3色粉
・手代、その金を受け取らず、貰うところで貰うと言う
(不受理)S1手代:S1手代-O4二両
(告知)S1手代:S1手代+S2娘
・手代が訊くと娘は謎かけして去る
(謎かけ)S2娘:S1手代+O5謎かけ
(退去)S2娘:S2娘-S1手代
・手代、考えても分からないので山寺の和尚さんの所へ将棋をしに行く
(解答不能)S1手代:S1手代-O5謎かけ
(訪問)S1手代:S1手代+S3和尚1
(将棋)S1手代:S3和尚1+O6将棋
・和尚、謎を解く
(解答)S3和尚1:S3和尚1+O5謎かけ
・草津だと分かったので手代、主人に暇をもらう
(判明)S1手代:S1手代+O7草津
(退職)S1手代:S1手代-O2色粉屋
・手代、三日かかって草津に行く
(訪問)S1手代:S1手代+O7草津
・手代、茶店の婆さんに娘の夫になりたいからと世話を頼む
(依頼)S1手代:S1手代+S4婆さん
・手代、娘に手紙を書く
(送信)S1手代:S2娘+O8手紙
・娘、手紙で謎かけする
(返信)S2娘:S1手代+O8手紙
(謎かけ)S2娘:S1手代+O5謎かけ
・婆さんが謎を解く
(解答)S4婆さん:S4婆さん+O5謎かけ
・娘に会いに行くと、五兵衛に会う様に言う
(訪問)S1手代:S1手代+S2娘
(指示)S2娘:S1手代+S5五兵衛
・五兵衛、旦那に取り次いでくれる
(面会)S1手代:S1手代+S5五兵衛
(取次)S5五兵衛:S1手代+S6旦那
・旦那、買物の謎かけをする
(謎かけ)S6旦那:S1手代+O5謎かけ
・神主と和尚が将棋を指していたので仲間に入る
(将棋)S7和尚2:S7和尚2+O6将棋
(観戦)S1手代:S1手代+S7和尚2
・和尚、謎を解く
(解答)S7和尚2:S7和尚2+O5謎かけ
・手代、買物をする
(買物)S1手代:S1手代+O9法螺貝
・手代、座頭とぶつかる
(衝突)S1手代:S1手代+S8座頭
・座頭に文句を言うと、自分は旦那に世話になっている。これからはお前にも世話になるといって買物の謎を解く
(奪取)S8座頭:S1手代-O9法螺貝
(文句)S1手代:S1手代+S8座頭
(謎解き)S8座頭:S8座頭+O5謎かけ
・座頭の言う通りにして旦那に面会すると旦那は手代を聟にする
(面会)S1手代:S1手代+S6旦那
(解答)S1手代:S1手代+O5謎かけ
(婿取り)S6旦那:S1手代+S2娘
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(手代は娘と結婚できるか)
↓
送り手(手代) → 謎解き(客体)→受け手(娘)
↑
補助者(和尚、婆さん、五兵衛、座頭)→ 手代(主体)←反対者(なし)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。大仙の色粉屋の手代が自分の将来の婿だと予言された娘が手代を試しに来ます。娘は謎かけをして去ります。娘に惹かれた手代は和尚の知恵を借りて謎を解き、草津に向かいます。草津では茶店の婆さんや五兵衛、和尚、座頭などの助けを借りて謎を解き、旦那に娘との婚姻を認めさせるという筋立てです。
手代は難題を課せられますが、本人の性格の良さもあり他者の助力を得ることができます。難題を解くことで手代は娘との知恵比べを克服し、結婚に至ります。
手代―娘、手代―和尚、手代―婆さん、手代―五兵衛、手代―座頭、手代―旦那、といった対立軸が見受けられます。難題/将棋といった図式に知恵比べの構図が暗喩されているでしょうか。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
手代♌♁―娘♂☉―旦那♎―和尚☾(♌)1―婆さん☾(♌)2―五兵衛☾(♌)3―座頭☾(♌)4―色粉屋☾(♌)5
といった風に表記できるでしょうか。娘を得ることが価値☉となります。娘は難題を課しますので対立者♂でもあります。手代はその享受者♁となります。旦那は最終的に娘との結婚を認めますので審判者♎となります。その他の登場人物は手代の援助者☾となります。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は数々の謎かけでしょうか。「手代―謎かけ―娘」の図式です。手代は自身では謎を解くことができず、他人の助力を借りることとなります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.160-165.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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