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2024年5月

2024年5月31日 (金)

行為項分析――難題聟

◆あらすじ

 昔、大仙(だいせん)の麓に色粉(いろこ)(染粉)屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた。ある日西の方からきれいな娘が来た。この娘はお前の聟になる者は大仙の色粉屋の手代より他にいないと聞いていたので、手代を試しにきたのであった。娘は色粉を二両も買って出ようとしたが、手代はその金を受け取らず貰うところで貰うと言った。そして娘が去りかけると呼び返して所を訊いた。娘は「所はふさんの麓」「家の名ははるば屋」名前は「四月生え五月禿げ」と答えて行ってしまった。それから手代は考えてみたが、どうしても分からない。休みの日に山寺の和尚さんのところへ将棋をしに行って、将棋の入れ言葉に「ふさんの麓」と言って打ち込んだ。和尚は「草津の町に」と打ち返した。「はるば屋とは」「あめがた屋」「四月生え五月禿げ」「お竹さんの事よ」それで草津の町のあめがた屋の小竹という娘と分かったので手代は主人に暇を貰った。主人は草鞋(わらじ)銭に二十両くれた。手代はそれを持って西に向けて三日目の箸間(はしま)時分に茶店によって「ここは何という町か」と訊くと、婆さんが「草津の町だ」と言った。「草津の町にはあめがた屋という家があるか」と訊くと「それは白壁の物持ちの家だ」と言う。「そこにお竹さんといういい娘がいるか」と訊くと、「それは一人娘だ」と言う。手代は「その娘の男になりたいから世話をしてくれ」と頼むと、婆さんは「自分のような者では相手にしてくれない。手紙の小使いくらいならしてやる」言うので手代は思いのたけを手紙に書いて婆さんに頼むと娘から返事が来た。それには「このよでなし、今度のよでなし、その次のよに、天竺の花の咲く時分、草へ実のある時分に、背戸の裏門までこい。話し会おう」とあった。こんな難しいことを言ってくるのは逢わないつもりかも知れないと思って沈んでいると、婆さんがそれを聞いて「この意味は昨夜でなし、今夜(こんべ)でなし、明日の晩のことだが、今夜行ってもかまわないのだ」と言った。そして時刻は「星が空に出、草に露のおく時分という意味だ」と教えてくれた。そこでその晩の夕方に訪ねていくと、娘は「汝(わ)は聟にするけえ、この奥(おき)の五兵衛という者が町の当職だ。それへ行って話してみい」と教えた。そこを訪ねていくと五兵衛がお前ならあそこの若旦那になろう、自分が世話をしよう」と腰をあげた。五兵衛があめがた屋の旦那に話すと、それだけの働きのある者ならここへ連れてこいと言うので、五兵衛が手代を連れて行くと、旦那は「聟にはするが、三品の買物をしてくれ。みなこの草津の町にある物だけえ」と言って書付けを渡した。書付けには「一には西行法師、二には夜のドージマ(履き物のポックリ)、三に花嫁じょう」とあった。手代は幾ら考えてみても分からないので、呼んで歩けば売ってくれるものがあるかもしれないと思って、大きな声で呼び歩いたが売ってくれる者がいない。困っていると町中で大夫(神主)さんと和尚さんが将棋をさしていた。手代はそこへ入って仲間になり、和尚さんに「西行法師」と打ち込むと「法螺(ほら)貝のことよ」「闇夜のドージマ」「ろうそくのことよ」「花嫁じょうとは」「麦饅頭のことだ」。そこでその品を探してみると、皆あめがた屋の近所で売っているものばかりであった。これを買って帰りかけると、途中で座頭に出会って、その杖に引っかかったので座頭が転んだ。座頭は手代の持っていた法螺貝をひったくって中の身を食ってしまった。手代が「杖に当たったのはこっちが悪いが、人の物をとって食う奴があるか」と怒ると、座頭が「それはお前を聟にしたい故に食ったのだ。俺もあの家では世話になっている。これからはお前にも世話にならねばならんから言うて聞かせるが、これをこのまま持っていんだのでは旦那は取りはせん」と言って今度は麦饅頭の粉を抜いて食った。そして「これには意味がある。先ずあれへ去(い)んだ時分にはようやく戻りました。西行法師と書いてありましたが、西行法師さんのところへ行ったところが、今日は歌詠みに出て留守でありました。何ぼ待っても戻れんで、あれの家のを持って戻りましたと言え。また、花嫁じょうと書いてありましたが、それはこの奥(おき)に子を生んでおりました。子は川へ流れましたからそれで親ほどと思って持って戻りました。闇の夜のドージマは怪我なしに戻りました。こう言えば旦那はもう難しいことは言い付けまい」と教えてくれた。手代は教えられた通りに三つの品を差し出すと、旦那は感心して手代を聟にして安穏に暮らした。

◆モチーフ分析

・大仙の麓に色粉屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた
・ある日、西の方からきれいな娘が来た
・娘は自分の夫になるのは大仙の色粉屋の手代と聞いていたので手代を試しに来た
・娘、色粉を二両も買う
・手代、その金を受け取らず、貰うところで貰うと言う
・手代が訊くと娘は謎かけして去る
・手代、考えても分からないので山寺の和尚さんの所へ将棋をしに行く
・和尚、謎を解く
・草津だと分かったので手代、主人に暇をもらう
・手代、三日かかって草津に行く
・手代、茶店の婆さんに娘の夫になりたいからと世話を頼む
・手代、娘に手紙を書く
・娘、手紙で謎かけする
・婆さんが謎を解く
・娘に会いに行くと、五兵衛に会う様に言う
・五兵衛、旦那に取り次いでくれる
・旦那、買物の謎かけをする
・神主と和尚が将棋を指していたので仲間に入る
・和尚、謎を解く
・手代、買物をする
・手代、座頭とぶつかる
・座頭に文句を言うと、自分は旦那に世話になっている。これからはお前にも世話になるといって買物の謎を解く
・座頭の言う通りにして旦那に面会すると旦那は手代を聟にする

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:手代
S2:娘
S3:和尚1
S4:婆さん
S5:五兵衛
S6:旦那
S7:和尚2
S8:座頭

O(オブジェクト:対象)
O1:大仙
O2:色粉屋
O3:色粉
O4:二両
O5:謎かけ
O6:将棋
O7:草津
O8:手紙
O9:法螺貝

+:接
-:離

・大仙の麓に色粉屋があって十七から二十一まで真面目に務めた手代がいた
(存在)O1大仙:O1大仙+O2色粉屋
(存在)O2色粉屋:O2色粉屋+S1手代
・ある日、西の方からきれいな娘が来た
(来訪)S2娘:S2娘+O2色粉屋
・娘は自分の夫になるのは大仙の色粉屋の手代と聞いていたので手代を試しに来た
(予言)X:S2娘+S1手代
(試験)S2娘:S2娘+S1手代
・娘、色粉を二両も買う
(購入)S2娘:S2娘+O3色粉
・手代、その金を受け取らず、貰うところで貰うと言う
(不受理)S1手代:S1手代-O4二両
(告知)S1手代:S1手代+S2娘
・手代が訊くと娘は謎かけして去る
(謎かけ)S2娘:S1手代+O5謎かけ
(退去)S2娘:S2娘-S1手代
・手代、考えても分からないので山寺の和尚さんの所へ将棋をしに行く
(解答不能)S1手代:S1手代-O5謎かけ
(訪問)S1手代:S1手代+S3和尚1
(将棋)S1手代:S3和尚1+O6将棋
・和尚、謎を解く
(解答)S3和尚1:S3和尚1+O5謎かけ
・草津だと分かったので手代、主人に暇をもらう
(判明)S1手代:S1手代+O7草津
(退職)S1手代:S1手代-O2色粉屋
・手代、三日かかって草津に行く
(訪問)S1手代:S1手代+O7草津
・手代、茶店の婆さんに娘の夫になりたいからと世話を頼む
(依頼)S1手代:S1手代+S4婆さん
・手代、娘に手紙を書く
(送信)S1手代:S2娘+O8手紙
・娘、手紙で謎かけする
(返信)S2娘:S1手代+O8手紙
(謎かけ)S2娘:S1手代+O5謎かけ
・婆さんが謎を解く
(解答)S4婆さん:S4婆さん+O5謎かけ
・娘に会いに行くと、五兵衛に会う様に言う
(訪問)S1手代:S1手代+S2娘
(指示)S2娘:S1手代+S5五兵衛
・五兵衛、旦那に取り次いでくれる
(面会)S1手代:S1手代+S5五兵衛
(取次)S5五兵衛:S1手代+S6旦那
・旦那、買物の謎かけをする
(謎かけ)S6旦那:S1手代+O5謎かけ
・神主と和尚が将棋を指していたので仲間に入る
(将棋)S7和尚2:S7和尚2+O6将棋
(観戦)S1手代:S1手代+S7和尚2
・和尚、謎を解く
(解答)S7和尚2:S7和尚2+O5謎かけ
・手代、買物をする
(買物)S1手代:S1手代+O9法螺貝
・手代、座頭とぶつかる
(衝突)S1手代:S1手代+S8座頭
・座頭に文句を言うと、自分は旦那に世話になっている。これからはお前にも世話になるといって買物の謎を解く
(奪取)S8座頭:S1手代-O9法螺貝
(文句)S1手代:S1手代+S8座頭
(謎解き)S8座頭:S8座頭+O5謎かけ
・座頭の言う通りにして旦那に面会すると旦那は手代を聟にする
(面会)S1手代:S1手代+S6旦那
(解答)S1手代:S1手代+O5謎かけ
(婿取り)S6旦那:S1手代+S2娘

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

            聴き手(手代は娘と結婚できるか)
                     ↓
送り手(手代)  →         謎解き(客体)→受け手(娘)
                     ↑
補助者(和尚、婆さん、五兵衛、座頭)→ 手代(主体)←反対者(なし)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。大仙の色粉屋の手代が自分の将来の婿だと予言された娘が手代を試しに来ます。娘は謎かけをして去ります。娘に惹かれた手代は和尚の知恵を借りて謎を解き、草津に向かいます。草津では茶店の婆さんや五兵衛、和尚、座頭などの助けを借りて謎を解き、旦那に娘との婚姻を認めさせるという筋立てです。

 手代は難題を課せられますが、本人の性格の良さもあり他者の助力を得ることができます。難題を解くことで手代は娘との知恵比べを克服し、結婚に至ります。

 手代―娘、手代―和尚、手代―婆さん、手代―五兵衛、手代―座頭、手代―旦那、といった対立軸が見受けられます。難題/将棋といった図式に知恵比べの構図が暗喩されているでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

手代♌♁―娘♂☉―旦那♎―和尚☾(♌)1―婆さん☾(♌)2―五兵衛☾(♌)3―座頭☾(♌)4―色粉屋☾(♌)5

 といった風に表記できるでしょうか。娘を得ることが価値☉となります。娘は難題を課しますので対立者♂でもあります。手代はその享受者♁となります。旦那は最終的に娘との結婚を認めますので審判者♎となります。その他の登場人物は手代の援助者☾となります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は数々の謎かけでしょうか。「手代―謎かけ―娘」の図式です。手代は自身では謎を解くことができず、他人の助力を借りることとなります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.160-165.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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文化資本の実践例――広島の文化的催しをしゃぶり尽くす

今頃になって「文化資本」という言葉があることを知る。本来は個人の学歴や教養を指すようだが、Xでは美術館や博物館といった文化的インフラというニュアンスで語られているようだ。

酒井小言「音楽、映画、美術、舞台、食事、文学、観光についての体験感想文集」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054888469610

僕が知っている実践例として上記のエッセイがある。広島市在住の著者(※元は都民らしい)が主に広島市の文化について克明に綴ったもの。「広島は実はこんな文化的な街だったのか」と思うほど、広島市の文化的施設、催しをしゃぶり尽くしている。

かなり幅広い教養の持ち主で、執筆にはかなり手間がかかるはずだが、ほぼ毎日更新している驚異的な人。著者さんのバックボーンについては僕が読んだ範囲では文中で明らかにされていないので、どのようにして身につけたかは不明。

既に3000話近くある。ガラホで読んでいたのだけど、あるとき履歴が消えてどこまで読んだか分からなくなってしまった。幸い、システムには履歴が残っていたので再読は可能だが、もう追いつけないくらいに進んでいる。

……と書いていて、ふと第一話を読んでみたら、履歴が上書きされてしまった。本当にどこまで読んだか分からなくなってしまった。こういう失敗をときどきやらかす。

 

これだけのインプットとアウトプットを日々継続しているのだから、他に割ける時間は限られてくると思う。たとえば、気づいた限りではテレビドラマに関する記述はない。また、他の作品を読んだところ、純文学というか文芸志向が強くサブカル的なジャンルには興味がないようだ。

純文学に関しては大手出版社は小説投稿サイトから作品を発掘することをしていない。僕は純文学系のコンクールに投稿したことがないので実情はよく知らないが、今でも編集者の目利きによって作品を選んでいるはずである。

カクヨムのような小説投稿サイトは基本的には娯楽小説を投稿するためのサイトなのである。なぜ発表媒体として小説投稿サイトを選んだのかという問題もある。別にブログでもよかったはずなのである。

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2024年5月30日 (木)

共起語――今はマニュアルを買わないでおく

共起語について検索してみる。大まかに、検索サイトで検索したいキーワードを入力するとサジェストや関連キーワードが示されるが、それに似たようなもの、あるキーワードについて頻出する単語といったところか。ツールを検索してみるが、上位に表示されるのはキーワードを入力してWEB上の上位サイトから共起語を検出するというサービスが多い。SEOに活用されるからだが、形態素解析を行って、そこから共起語を抽出するといった工程までは実施できない。

テキストマイニングには、KH Coderといったツールがあるようだ。マニュアルはAmazonで販売されているが、紙の本だけなので今は買わないでおく。KH Coderは元はフリーウェアだったが現在は有償化されている。機能限定版は無償で利用できる。僕のやりたいことなら限定版で大丈夫だとは思うが、プログラミングスキルに欠ける僕にはあまり適性がなさそうなので実際に分析できるかどうかは実際に触ってみないと分からない。

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2024年5月29日 (水)

行為項分析――怪我の功名

◆あらすじ

 昔、大ほら吹きの男がいた。どこへ行って何を殺したと剣術が上手だとかほらを吹いていた。そこへ余所の村からそんなに強いならうちの村で化物が出て困っているが来て退治してくれないかと頼みに来た。どうも行かれないとは言えない。それで応じてその村へ出かけた。これは大変なことになった。どんな物が出るだろうと思って来てみると、大きな蜘蛛(くも)の巣の張った空き家で長押(なげし)に五人張り二十五束という弓が掛けてあった。これはいいものがあると思って弓を取ってみた。さて、夜遅く静かになってから向こうの山がごうっといってしばらくすると破風でダダダッと大きな音がした。すると天井の間から一ツ目の大きな化物がニューっと覗いた。それで恐ろしくなってその方へ向けて五人張りの弓をパーンと投げた。すると化物はギャーッといって逃げてしまった。そうこうする内に鶏(にわとり)が鳴いて夜が明けた。夕べの男はどうなったかと村の者たちが連れ立って見に来た。男は元気で座っているので、どうしたかと言うと、確かに化物が出た。ここにあった弓で自分が退治した。確かに手応えがあったから見よ、血を落として逃げていると答えた。村の者が見るとずうっと血が落ちているので、跡をつけて行くと山の奥の洞穴に大きな古狸が死んでいた。それで化物を退治してくれたというので村では手のたつ名人ということになった。とうとう村一番の身上のよい家の聟(むこ)に貰われた。その家の娘はとてもきれいな娘だった。ところが大ほらふきの男は手がたつとは言っても大変みっともない男だった。それで娘はこんな聟では恥ずかしいからどうにかして帰ってもらいたいと思ったが、どうしても帰らない。そこである日、遠くの村からうちの村で山賊がたくさん出て悪いことをして困っている、ここには大変手の立つ人がいたので来て退治してくれないかと頼みに来た。男は快く引き受けた。これはいい。山賊を退治しに行けば弁当を持っていくからその時に毒むすびをこしらえて持たせればいいと思って女房はむすびの中へ毒を入れて風呂敷に包んで持たせた。さて、山賊がいるという山へ行ってみると、山賊たちは大きな松の木の根元へ鍋やら釜やら置いてそこで寝起きしていた。ちょうど山賊たちは出かけていない。戻ったら恐ろしいので松の木のずっと上の方へ登って隠れていた。そんなことを知らない山賊は夕方になると分捕ったものをたくさん持って帰って飲み食いした。ところが松の木の下で火を焚いて酒を沸かすので煙たくてどうしようも無い。それで風上へあっち行きこっち行きして廻っていたところ、腰へつけていたおむすびがいつの間にか落ちてしまった。山賊は大騒ぎをして飲んだり歌ったりしていたが、その内に静かになった。山賊は寝た塩梅だから、むすびでも一つ出て食おうと思って男は腰を探したがむすびは一つも無い。ははあ、ああだこうだする内に落ちたのだろうと思って降りてみると山賊たちは皆酒に酔ったのか死んだのか分からないようになって寝ている。男はそれを片っ端から首を切って、山賊は皆退治したと言って戻った。山賊は男の弁当を拾って食べたので毒にあたって死んだのだ。これは本当に手のたつ偉い人だと思って、それからは女房も男を大切にして仲良く暮らした。

◆モチーフ分析

・ほら吹きの男がいて自分は強いと吹聴していた
・そんなに強いのならある村の化物を退治しろと言われる
・行かないとは言えないので、その村へ出かけた
・空き家に入る。五人張りの弓を手にする
・夜、一ツ目の化物が出るが弓で射る
・村の者たちが様子を見にきた
・血の跡を辿ると古狸が死んでいた
・手の立つ名人と見なされ、村一番の家に聟入りする
・嫁、男がみっともないと嫌う
・遠くの村で山賊が出るという話が出、男が行くことになった
・嫁、毒入りのおむすびを作って男に持たせる
・男、松の木の上で山賊の様子を窺う
・山賊たちが戻ってきて宴会をはじめる
・男、煙たいのであっちこっちへと逃げ回る
・その隙に腰の弁当を落としてしまう
・静かになったので降りてみると、山賊たちは死んだ様になっていた
・男、山賊たちの首を切り凱旋する
・山賊たちは毒入りのおむすびを食べて死んだのだった
・嫁、男を見直した

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:男
S2:村人
S3:一ツ目の化物
S4:古狸
S5:嫁
S6:山賊

O(オブジェクト:対象)
O1:村
O2:別の村
O3:化物
O4:空き家
O5:弓
O6:村一番の家
O7:遠くの村
O8:毒入りおむすび
O9:松
O10:宴会
O11:煙
O12:首

m(修飾語)
m1:ほら吹き
m2:強い
m3:死んだ
m4:名人
m5:みっともない
m6:静か
m7:死んだ

+:接
-:離

・ほら吹きの男がいて自分は強いと吹聴していた
(存在)O1村:S1男+m1ほら吹き
(吹聴)S1男:S1男+m2強い
・そんなに強いのならある村の化物を退治しろと言われる
(けしかけ)S2村人:S1男+O3化物
・行かないとは言えないので、その村へ出かけた
(出立)S1男:S1男+O2別の村
・空き家に入る。五人張りの弓を手にする
(入室)S1男:S1男+O4空き家
(入手)S1男:S1男+O5弓
・夜、一ツ目の化物が出るが弓で射る
(遭遇)S1男:S1男+S3一ツ目の化物
(攻撃)S1男:S1男+S3一ツ目の化物
・村の者たちが様子を見にきた
(来訪)S2村人:S2村人+O4空き家
・血の跡を辿ると古狸が死んでいた
(確認)S2村人:S4古狸+m3死んだ
・手の立つ名人と見なされ、村一番の家に聟入りする
(評価)S2村人:S1男+m4名人
(婿入り)O6村一番の家:S1男+S5嫁
・嫁、男がみっともないと嫌う
(評価)S5嫁:S1男+m5みっともない
(嫌悪)S5嫁:S1男-S5嫁
・遠くの村で山賊が出るという話が出、男が行くことになった
(噂)S2村人:S6山賊+O7遠くの村
(受諾)S2村人:S1男+O7遠くの村
・嫁、毒入りのおむすびを作って男に持たせる
(準備)S5嫁:S1男+O8毒入りおむすび
・男、松の木の上で山賊の様子を窺う
(偵察)S1男:S1男+O9松
・山賊たちが戻ってきて宴会をはじめる
(帰還)S6山賊:S6山賊+O9松
(宴)S6山賊:S6山賊+O10宴会
・男、煙たいのであっちこっちへと逃げ回る
(逃避)S1男:S1男-O11煙
・その隙に腰の弁当を落としてしまう
(落下)S1男:S1男-O8毒入りおむすび
・静かになったので降りてみると、山賊たちは死んだ様になっていた
(沈黙)S6山賊:S6山賊+m6静か
(降下)S1男:S1男-O9松
(確認)S1男:S6山賊+m7死んだ
・男、山賊たちの首を切り凱旋する
(斬首)S1男:S6山賊-O12首
(帰還)S1男:S1男+O1村
・山賊たちは毒入りのおむすびを食べて死んだのだった
(解説)O8毒入りおむすび:S6山賊+m7死んだ
・嫁、男を見直した
(再評価)S5嫁:S5嫁+S1男

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

      聴き手(男は化物を退治できるか)
               ↓
送り手(男)→ 化物退治(客体)→受け手(ある村の村人)
               ↑
補助者(なし) →    男(主体)  ←反対者(古狸)

    聴き手(男は嫁の策謀から逃れられるか)
             ↓
送り手(男)→ 毒入りおむすび(客体)→受け手(山賊)
             ↑
補助者(嫁)  →  男(主体)  ←反対者(山賊)

といった二種類の行為項モデルが作成できるでしょうか。ほら吹きの男がそれなら化物を退治しろとけしかけられて退治に向かわざるを得なくなります。ある村の空き家に入った男はそこで強い弓を手にして偶然、化物を退治します。化物の正体が古狸だったことが判明して男は名を挙げます。そして村一番の家へ婿入りするのですが、見た目がみっともなかったため嫁に嫌われてしまいます。そこへ山賊退治の話が持ち上がります。嫁はここぞとばかりに毒入りのおむすびを男に持たせます。山賊の縄張りに入った男は松の木によじ登って上から様子を観察します。すると山賊が戻ってきて宴会を始めます。煙で煙たいので逃げ回っていたところ、おむすびが腰から落ちてしまいます。山賊たちは毒入りと知らずにおむすびを食べ死んでしまいます。難なく首を獲った男は村に凱旋、嫁も男を見直したという筋立てです。

 男は幸運にも助けられますが、案外、豪胆な一面も見せます。ほら吹きのために難題を押し付けられますが、幸運と豪胆さでその場を切り抜けるという強さを発揮するのです。

 男―村人、男―化物、男―嫁、男―山賊、といった対立軸が見受けられます。弓/毒入りおむすびという図式に幸運で難局を乗り切る勇気が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

1. 男♌―化物(古狸)♂1―村人♎1♁―村一番の家♎2

2. 男♌―山賊♂2―嫁☾(♌)――村人♎3♁

 といった風に表記できるでしょうか。化物と山賊を退治することを価値☉と置くと、享受者は村人♁となります。また、審判者♎でもあります。村一番の家も男を評価し婿に迎えますので審判者♎と置けるでしょう。一方、嫁は男を嫌い、毒入りおむすびを持たせますので援助者☾(-1)と置けるでしょうか。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は毒入りおむすびでしょうか。男を殺すはずが、山賊を退治してしまいます。「嫁―男―おむすび/毒―山賊」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.156-159.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月27日 (月)

行為項分析――えんこうの一文銭

◆あらすじ

 昔あるところに川の東の岸と西の岸に一軒ずつ家があって、それぞれ爺さんと婆さんが住んでいた。東岸の爺さんは正直者で一匹の猫を飼っていたが貧乏なので十分食べさせることができなかった。ところがある日、竜宮さまがえんこうの一文銭をやるから天井の裏へ下げて祀れとお告げになった。朝起きてみると果たして爺さんの枕元にえんこうの一文銭がおいてあった。その一文銭を天井の裏に吊すと、これまで貧乏だった爺さんの家は日増しに身上が良くなった。反対に西岸の欲張り爺さんの家は次第に身上が悪くなっていった。女はとかく口さがなく東岸の爺さんがえんこうの一文銭を授かってから日ごと身上が良くなったということを西岸の婆さんに話したので、これを聞いた爺さんは早速東岸の家へ行ってえんこうの一文銭を貸してくれないかと頼んだ。正直者の爺さんは長い間は貸せられないが一時なら貸してあげようと言って貸した。西岸の爺さんはその一文銭を持って帰って天井裏に吊しておくとその日から身上が次第に盛り返してきた。東岸の家は一文銭を貸した日からまた昔のように目に見えて貧乏になっていった。そこで西岸の爺さんに貸した一文銭を返してくれと催促にいったが、何とか理由をつけてどうしても返さないので、爺さんは困って戻ってきた。婆さんは考えあぐねた末に家の飼い猫に一文銭をとって来るようにいいつけた。猫は川が渡れないので困っていると、一匹の犬が来た。犬に訳を話して川を背負って渡してくだされと頼んだので、猫は犬に負われて川を渡ることができた。猫が西岸の家に行ってみると、鼠がいたので猫はすかさずこの鼠を捕って、お前の命を助けてやるから天井裏にある一文銭を取ってこいと頼んだ。鼠は天井裏に上がって一文銭を落として持ってきた。猫はそれを貰って、また犬に川を渡してもらうように頼んだ。犬の背に負われて川の中程まで来たとき、犬がくわえた物を落とすなよと言ったので猫はハイと返事した。その調子で一文銭が水の中へ落ちた。猫は泣かんばかりになって思案した。そうしたら空から一羽の鳶(とび)が下りて来たので猫は鳶を狙って咥えた。そして命を助けてやるからこの川に落ちた一文銭を探してこいと頼んだ。鳶は川の底にあるものは見えないので、川の上を泳いでいた鵜(う)を咥えて、お前は水の底にいる鮎(あゆ)でも捕るのだから水の底に落ちた一文銭を拾ってくれと頼んだ。そこで鵜は川の端を上下したがちっとも見えないので大きな鮎を咥えてお前の命をとるのではない。この川に落ちているえんこうの一文銭を取ってくれ。お前は水の底を歩いて蟹(かに)とえびでさえ餌にするくらい水の底のことは達者だからと頼んだ。鮎は水の底を泳いでいくと果たしてえんこうの一文銭があった。それを拾い上げて鵜に渡した。鵜はそれを鳶に渡して鳶はそれを猫に渡した。猫はとうとう水の底から一文銭を拾い上げることができたので、喜んで歌にうたった。「猫に鼠に空たつ鳶に 川で鵜の鳥、鮎の魚」。犬は川を渡してくれたが大切な一文銭を水の中に落とすようなことをさせたので、この歌の仲間に入れていないそうだ。猫はえんこうの一文銭を持って帰って爺さんに渡したので東岸の家はまた次第に身上がよくなった。

◆モチーフ分析

・川の東岸と西岸に爺さんと婆さんがそれぞれ住んでいた。
・東岸の爺さんは正直者だったが、飼い猫にろくに食わせられないほど貧乏だった
・竜宮からえんこうの一文銭を授かり、天井裏に下げて祀る
・すると身上が段々と上向いてきた
・東岸の婆さんが口さがなく西岸の婆さんに話す
・西岸の爺さんが東岸の爺さんに一文銭を貸して欲しいと頼む
・東岸の爺さんは、少しの間だけならと貸す
・すると西岸の爺さんの身上が上向き、東岸の爺さんの身上が下向く
・東岸の爺さん、一文銭を返す様催促するが、何かと理由をつけて返さない
・東岸の婆さんが飼い猫に一文銭を取り戻すように言い付ける
・猫、川を渡れないので困っていると犬がやって来る
・猫、犬の背に負われて川を渡る
・猫、西岸の家の鼠を捕まえ、一文銭を持ってくるように言い付ける
・鼠、一文銭を天井から取って猫に渡す
・一文銭を受け取った猫、再び川を渡ろうとする
・犬が声をかけたので応答してしまい、一文銭を川底に落としてしまう
・猫、鳶を捕まえて川底の一文銭を取ってくるように言い付ける
・鳶、川底が見えないので鵜を捕まえて一文銭を取るように言い付ける
・鵜、川底をさらえないので鮎を捕まえて一文銭を取るように言い付ける
・鮎、川底の一文銭を取って鵜に渡す
・鵜は鳶に一文銭を渡す
・鳶が猫に一文銭を渡す
・喜んだ猫は歌を詠む。ただし犬は除く
・一文銭を取り戻した東岸の家はまた身上がよくなった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:東岸の爺さん
S2:東岸の婆さん
S3:西岸の爺さん
S4:西岸の婆さん
S5:猫
S6:犬
S7:鼠
S8:鳶
S9:鵜
S10:鮎

O(オブジェクト:対象)
O1:川
O2:食事
O3:竜宮
O4:一文銭
O5:天井裏
O6:川底
O7:歌

m(修飾語)
m1:正直
m2:貧乏
m3:身上がよい

+:接
-:離

・川の東岸と西岸に爺さんと婆さんがそれぞれ住んでいた
(居住)O1川:S1東岸の爺さん+S2東岸の婆さん
(居住)O1川:S3西岸の爺さん+S4西岸の婆さん
・東岸の爺さんは正直者だったが、飼い猫にろくに食わせられないほど貧乏だった
(状態)S1東岸の爺さん:S1東岸の爺さん+m1正直
(飼育)S1東岸の爺さん:S5猫-O2食事
(状態)S1東岸の爺さん:S1東岸の爺さん+m2貧乏
・竜宮からえんこうの一文銭を授かり、天井裏に下げて祀る
(授与)O3竜宮:S1東岸の爺さん+O4一文銭
(祭祀)S1東岸の爺さん:O4一文銭+O5天井裏
・すると身上が段々と上向いてきた
(向上)O4一文銭:S1東岸の爺さん+m3身上がよい
・東岸の婆さんが口さがなく西岸の婆さんに話す
(漏洩)S2東岸の婆さん:S4西岸の婆さん+O4一文銭
・西岸の爺さんが東岸の爺さんに一文銭を貸して欲しいと頼む
(依頼)S3西岸の爺さん:S1東岸の爺さん-O4一文銭
・東岸の爺さんは、少しの間だけならと貸す
(貸与)S1東岸の爺さん:S3西岸の爺さん+O4一文銭
・すると西岸の爺さんの身上が上向き、東岸の爺さんの身上が下向く
(向上)O4一文銭:S3西岸の爺さん+m3身上がよい
(悪化)O4一文銭:S1東岸の爺さん+m2貧乏
・東岸の爺さん、一文銭を返す様催促するが、何かと理由をつけて返さない
(催促)S1東岸の爺さん:S3西岸の爺さん-O4一文銭
(はぐらかし)S3西岸の爺さん:S1東岸の爺さん-O4一文銭
・東岸の婆さんが飼い猫に一文銭を取り戻すように言い付ける
(命令)S2東岸の婆さん:S5猫+O4一文銭
・猫、川を渡れないので困っていると犬がやって来る
(足止め)S5猫:S5猫-O1川
(遭遇)S5猫:S5猫+S6犬
・猫、犬の背に負われて川を渡る
(渡河)S6犬:S5猫+O1川
・猫、西岸の家の鼠を捕まえ、一文銭を持ってくるように言い付ける
(捕獲)S5猫:S5猫+S7鼠
(命令)S5猫:S7鼠+O4一文銭
・鼠、一文銭を天井から取って猫に渡す
(回収)S7鼠:O5天井裏-O4一文銭
(引き渡し)S7鼠:S5猫+O4一文銭
・一文銭を受け取った猫、再び川を渡ろうとする
(渡河)S5猫:S5猫+O1川
・犬が声をかけたので応答してしまい、一文銭を川底に落としてしまう
(応答)S6犬:S6犬+S5猫
(落下)S5猫:S5猫-O4一文銭
・猫、鳶を捕まえて川底の一文銭を取ってくるように言い付ける
(捕獲)S5猫:S5猫+S8鳶
(命令)S5猫:S8鳶+O4一文銭
・鳶、川底が見えないので鵜を捕まえて一文銭を取るように言い付ける
(不視)S8鳶:S8鳶-O6川底
(捕獲)S8鳶:S8鳶+S9鵜
(命令)S8鳶:S9鵜+O4一文銭
・鵜、川底をさらえないので鮎を捕まえて一文銭を取るように言い付ける
(接近不可)S9鵜:S9鵜-O6川底
(捕獲)S9鵜:S9鵜+S10鮎
(命令)S9鵜:S10鮎+O4一文銭
・鮎、川底の一文銭を取って鵜に渡す
(回収)S10鮎:O6川底-O4一文銭
(引き渡し)S10鮎:S9鵜+O4一文銭
・鵜は鳶に一文銭を渡す
(引き渡し)S9鵜:S8鳶+O4一文銭
・鳶が猫に一文銭を渡す
(引き渡し)S8鳶:S5猫+O4一文銭
・喜んだ猫は歌を詠む。ただし犬は除く
(詠歌)S5猫:S5猫+O7歌
(除外)S5猫:O7歌-S6犬
・一文銭を取り戻した東岸の家はまた身上がよくなった
(回収)S5猫:S1東岸の爺さん+O4一文銭
(繁栄)S1東岸の爺さん+S2東岸の婆さん:S1東岸の爺さん+S2東岸の婆さん+m3身上がよい

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

      聴き手(東岸の爺さんは豊かさを取り返せるか)
               ↓
送り手(東岸の爺さん)→ 一文銭を取り返す(客体)→受け手(西岸の爺さん)
               ↑
補助者(猫) →    東岸の爺さん(主体)  ←反対者(西岸の爺さん)
 補助者の補助者(犬・鼠・鳶・鵜・鮎)

 一方で、猫を主体と置くことも可能です。

      聴き手(猫は一文銭を取り返せるか)
               ↓
送り手(猫)→ えんこうの一文銭(客体)→受け手(東岸の爺さん)
                ↑
補助者(犬・鼠・鳶・鵜・鮎)→ 猫(主体)←反対者(西岸の爺さん)


といった二種類の行為項モデルが作成できるでしょうか。この「えんこうの一文銭」では主体が東岸の爺さんから猫へ途中で入れ替わるのです。

 繁栄をもたらすえんこうの一文銭を竜宮から授けられた東岸の爺さんと婆さんだったが、お人よしだったため西岸の爺さんに知られてしまい、一文銭を一時的に貸すも返してもらえない(※いわゆる借りパク)事態に陥ります。猫に命じて一文銭の回収を試みます。猫は犬の協力を得て川を渡り、西岸の爺さんの家の鼠を捕獲し一文銭を回収します。ところが帰路で犬に声をかけられたため咥えていた一文銭を川底に落としてしまいます。ここから猫→鳶→鵜→鮎と動物のリレーが始まります。無事一文銭を回収した猫は東岸の爺さんに渡し、東岸の家は繁栄を取り戻すという筋立てです。

 東岸の爺さん―西岸の爺さん、東岸の婆さん―西岸の婆さん、身上がよい―身上が悪い、猫―鼠、猫―鳶、鳶―鵜、鵜―鮎、といった対立軸が見受けられます。一文銭/身上という図式に繁栄をもたらす魔法が暗喩されています。

・主体が東岸の爺さんから途中で猫に代わっている
・補助者の補助者とは本来想定されていない項目である
・物語全体を貫く意図は東岸の貧しい爺さんが川の西岸の裕福な爺さんから豊かさをもたらすえんこうの一文銭を取り戻すということになる
・本来、猫は補助者に過ぎない
・が、面白いのは猫→鼠→猫(ここで一文銭を川に落としてしまう)→鳶→鵜→鮎→(省略)→猫といった一文銭のリレーである
・つまり、行為項モデルは物語の基本構造を示してはいるが、それは面白さの源とは必ずしも一致していない

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

1. 東岸の爺さん婆さん♌♁―猫☾(♌)―西岸の爺さん婆さん♂―その他動物☾(☾)―竜宮♎

2. 猫♌―東岸の爺さん婆さん♁♎1―西岸の爺さん婆さん♂―その他動物☾(♌)―竜宮♎2

 といった風に表記できるでしょうか。繁栄をもたらすえんこうの一文銭を価値☉と置くと、1、2いずれの場合でも享受者♁は東岸の爺さん婆さんとなります。西岸の爺さん婆さんは対立者♂、その他動物は援助者☾となります。竜宮は東岸の爺さんに一文銭を授けますので審判者♎としました。

 ただし、猫を援助者とすると、援助者の援助者☾(☾)となります。スーリオはこのケースは想定していなかったと考えられます。猫を主体とすると、東岸の爺さん婆さんは使役者になりますが、これもスーリオが想定していないケースです。☾(♌)(-1)とでも表記できるでしょうか。また、一文銭を回収することの結果を判断する立場ですから審判者♎となります。竜宮も審判者♎と置くと、審判者が複数存在することになり、♎1♎2と表記できるでしょうか。

 「えんこうの一文銭」は途中で主体が東岸の爺さんから猫に移るため、関係分析も複数の解釈が併存することになります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍はえんこう(河童)の一文銭を回収する動物たちのリレーでしょうか。「猫―一文銭―鼠/鳶/鵜/鮎」の図式です。えんこうの一文銭は繁栄をもたらす魔法のアイテムです。

 「えんこうの一文銭」は世界的には「魔法の指輪」として分布しています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.152-155.
・『民間説話―理論と展開―』上巻(S・トンプソン, 荒木博之, 石原綏代/訳, 社会思想社, 1977)pp.116-117.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月26日 (日)

行為項分析――西行法師

◆あらすじ

 西行法師が鼓が原へ行った。タンポポの花がきれいに咲いているので「人に聞く鼓が原に来て見れば 磯辺に咲けるタンポポの花」と詠んだ。我ながら良く詠めたと感心する。広い原で家が無い。どこか泊まるところはないかと探していると小さな家が見つかった。入って見ると髪の白い老人夫婦がいたので一夜の宿を求めた。許されたので上がると何しに来たのか問われた。花を見に来たと答える。西行と名乗ると歌詠みの先生だなと言われる。ひとつ歌を詠んで欲しいと言われたので、我ながらよく詠めたと思う歌だといって詠んだ。それを聞いた老人はどうにもいけないところがある、自分がこの歌を直そうとと答える。鼓というものは音のするものである。それでは音に聞くと言わなければ鼓が原に来た甲斐がない。磯辺に咲ける、鼓は皮を張ったものである。だから川辺に咲けるとやってみよ。「音に聞く鼓が原に来て見れば 川辺に咲けるタンポポの花」と直すように言った。西行は感心して、そのうちうとうとと寝てしまった。目が覚めてみるともう夜明けで、そこには家もなくただの野原であった。そしてほとりに短冊が落ちていた。そこには「柿本人麿」と書いてあった。

◆モチーフ分析

・西行法師、鼓が原へ行く
・西行法師、歌を詠んで自賛する
・西行法師、宿を借りる
・西行法師、老人に歌を詠んで聴かせる
・老人、歌に手入れを施す
・納得した西行法師、そのまま寝てしまう
・目が覚めるとそこは野原で「柿本人麿」と書かれた短冊が落ちていた。

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:西行法師
S2:老人
S3:柿本人麿

O(オブジェクト:対象)
O1:鼓が原
O2:歌
O3:宿
O4:短冊

m(修飾語)
m1:自賛した
m2:納得した
m3:寝た
m4:起きた

+:接
-:離

・西行法師、鼓が原へ行く
(来訪)S1西行法師:S1西行法師+O1鼓が原
・西行法師、歌を詠んで自賛する
(詠歌)S1西行法師:S1西行法師+O2歌
(自賛)S1西行法師:S1西行法師+m1自賛した
・西行法師、宿を借りる
(宿泊)S1西行法師:S1西行法師+O3宿
・西行法師、老人に歌を詠んで聴かせる
(詠歌)S1西行法師:S2老人+O2歌
・老人、歌に手入れを施す
(教示)S2老人:S2老人+S1西行法師
・納得した西行法師、そのまま寝てしまう
(納得)S2老人:S1西行法師+m2納得した
(入眠)S1西行法師:S1西行法師+m3寝た
・目が覚めるとそこは野原で「柿本人麿」と書かれた短冊が落ちていた。
(覚醒)S1西行法師:S1西行法師+m4起きた
(判明)S3柿本人麿:S1西行法師+O4短冊

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(西行法師はどう一夜を過ごすか)
           ↓
送り手(西行法師)→ 歌(客体)→ 受け手(老人)
           ↑
補助者(老人)→  西行法師(主体)← 反対者(なし)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。旅の途中で詠んだ和歌を自画自賛した西行法師は一夜の宿を借ります。そこの老人に和歌を披露したところ手を入れられてしまいます。気づくと宿はなく野原で、老人は歌聖・柿本人麿だったことが明らかとなったという筋立てです。

 西行法師―老人、西行法師―柿本人麿、宿―野原、音―鼓、川―皮、といった対立軸が見出せます。西行法師/柿本人麿の図式に時代を超えた歌人同士の交流が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

西行法師♌♁―老人(柿本人麿)♎☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。よい歌を詠むことを価値☉と置くと、老人は審判者♎であり西行法師を指導する援助者☾でもあります。西行法師はその享受者♁です。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は名高い歌人である西行法師に歌の指導をしたのが歌聖・柿本人麿だったということでしょうか。『石見の民話』には他にも西行法師を主人公とした昔話が収録されていますが、西行法師は昔話ではユーモラスな役回りで登場するようです。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.149-151.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月25日 (土)

行為項分析――天の釣舟

◆あらすじ

 馬鹿な息子がいた。兄だったが跡取りにできそうもないので百両渡されてお前はこれで利口を買ってこいと追い出された。息子は大金を貰ったのでうれしくてたまらない。毎日利口を買わせてくださいといって歩いた。ある日ばくち打ちのいるところに通りかかった。ひとつ騙して取ってやろうとなって、ばくち打ちは短冊に「天の釣舟」と書いて渡し、息子から百両貰った。息子はこれが利口だと喜んであっちこっち歩いていると日が暮れてしまった。見るとそこに大きな家があった。宿を貸してもらうと思って縁側に寝ることになった。息子は縁側に寝てみたが、どうも眠れないので障子の穴から覗いてみると、きれいなお姫様が机に向かって一生懸命何か書いていた。夜遅くまで何をしているのかと思ったのでなおも覗いていたが、その内に眠ってしまって、障子に頭をぶつけてしまった。お姫様は「とんとん鳴る沖のとなかの音は」と歌を詠んだ。息子は今日買った短冊のことを思い出して「天の釣舟」と答えた。お姫様は感心して、誰だろうとなった。両親が起こされてそのうち家に使われている人も皆起きた。探してみると、宿を借りている小丁稚であることが分かった。お姫様はこれはただのお方ではない。この家の若旦那として差し支えない。早く祝言をしてくださいと言った。お姫様は歌の師匠でたくさんの弟子がいたが、呆れたのは一の弟子、二の弟子で、何だ夕べの夜這いがと忌々しがったが仕方がない。すぐに祝言があげられた。

 ある日一の弟子が若旦那の前に進み出て一つ歌の題を出してくださいと言った。若旦那は小便に行くと待たせて思案した。考えていると便所の前に白い藁(わら)もく(藁くず)がふわりふわりとしていた、早速帰って「白いもくあり黒いもくあり」と題を出した。さすがの一の弟子もさっぱり分からない。お姫様はお前は一の弟子でありながら分からぬか「雀が門に巣をかけて 白いもくあり黒いもくあり」と答えた。今度は二の弟子が自分にも題を出してくれと言った。若旦那は今度も題が分からないのでしばらく考えていたが、さっき便所に行ったとき、上履きが上の段に片つら下の段に片つらあったことを思い出して、「上の片かた下に片かた」と出した。二の弟子もさっぱろ分からないので困っていると、お姫様は「月も日も水鏡でみるならば 上の片かた下に片かた」と答えた。今度は三番目の弟子が申し出た。若旦那はいよいよ題がないので小便に行った。すると小便がぼたりぽたりと落ちたので「頭ぶるぶる雫(しずく)ぽたぽた」と題を出した。三番目の弟子もさっぱり分からない。お姫様は「鷺(さぎ)が水田にこりをして 頭ぶるぶる雫ぽたぽた」と詠んだ。一の弟子も二の弟子も三の弟子もみな失敗したので、それからは若旦那とあがめるようになった。

◆モチーフ分析。

・馬鹿な息子がいた
・跡取りにできないので百両渡されて追い出された
・息子、百両で利口を買おうと歩き回る
・ばくち打ちと遭遇、短冊を百両で買う
・息子、大きな家で宿を借りる
・縁側から障子の穴を覗くとお姫様が歌を詠んでいた
・末の句に「天の釣舟」と答える
・お姫様、驚き、下の句を詠んだのは誰かと探す
・息子のことだと分かり、祝言をあげる
・面白くない一番弟子、二番弟子が歌の題を要求する
・便所で思案中に題を思いつく
・一番弟子、答えられない
・二番弟子、答えられない
・三番目の弟子が申し出る
・再び便所に行き、題を着想する
・三番弟子、答えられない
・お姫様それぞれに回答する
・それで若旦那と認められる

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:息子
S2:親
S3:ばくち打ち
S4:お姫さま
S5:弟子

O(オブジェクト:対象)
O1:百両
O2:利口
O3:短冊
O4:大きな家
O5:宿
O6:歌
O7:下の句
O8:歌の題
O9:便所

m(修飾語)
m1:馬鹿な
m2:驚いた

+:接
-:離

・馬鹿な息子がいた
(存在)X:S1息子+m1馬鹿な
・跡取りにできないので百両渡されて追い出された
(譲渡)S2親:S1息子+O1百両
(追放)S2親:S2親-S1息子
・息子、百両で利口を買おうと歩き回る
(探索)S1息子:O1百両+O2利口
・ばくち打ちと遭遇、短冊を百両で買う
(遭遇)S1息子:S1息子+S3ばくち打ち
(購入)S3ばくち打ち:S1息子+O3短冊
(詐取)S3ばくち打ち:S1息子-O1百両
・息子、大きな家で宿を借りる
(到達)S1息子:S1息子+O4大きな家
(宿泊)S1息子:S1息子+O5宿
・縁側から障子の穴を覗くとお姫様が歌を詠んでいた
(覗き)S1息子:S1息子+S4お姫さま
(詠歌)S4お姫様:S4お姫さま+O6歌
・末の句に「天の釣舟」と答える
(返歌)S1息子:S4お姫様+O7下の句
・お姫様、驚き、下の句を詠んだのは誰かと探す
(感嘆)S1息子:S4お姫さま+m2驚いた
・息子のことだと分かり、祝言をあげる
(判明)S4お姫さま:S4お姫さま+S1息子
(結婚)S4お姫さま:S4お姫さま+S1息子
・面白くない一番弟子、二番弟子が歌の題を要求する
(要求)S5弟子:S4お姫さま+O8歌の題
・便所で思案中に題を思いつく
(逃避)S1息子:S1息子+O9便所
(着想)S1息子:S1息子+O7下の句
・一番弟子、答えられない
(回答不能)S5弟子:S5弟子-O8歌の題
・二番弟子、答えられない
(回答不能)S5弟子:S5弟子-O8歌の題
・三番目の弟子が申し出る
(申し出)S5弟子:S5弟子+O8歌の題
・再び便所に行き、題を着想する
(逃避)S1息子:S1息子+O9便所
(着想)S1息子:S1息子+O7下の句
・三番弟子、答えられない
(回答不能)S5弟子:S5弟子-O8歌の題
・お姫様それぞれに回答する
(回答)S4お姫さま:S4お姫さま+O7下の句
・それで若旦那と認められる
(承認)S5弟子:S1息子+S4お姫さま

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(追放された息子はどうなるか)
           ↓
送り手(親)→ 百両(客体)→ 受け手(息子)
           ↑
補助者(なし)→  親(主体)← 反対者(なし)

    聴き手(騙された息子はどうなるか)
              ↓
送り手(ばくち打ち)→ 短冊(客体)→ 受け手(息子)
              ↑
補助者(なし)→  ばくち打ち(主体)← 反対者(なし)

   聴き手(息子とお姫さまの出会いはどうなるか)
           ↓
送り手(息子)→ 返歌(客体)→ 受け手(お姫さま)
           ↑
補助者(なし)→  息子(主体) ← 反対者(なし)

   聴き手(弟子のたくらみはどうなるか)
           ↓
送り手(息子)→ 返歌(客体)→ 受け手(弟子)
           ↑
補助者(お姫さま)→ 息子(主体)← 反対者(弟子)

といった四つの行為項モデルが作成できるでしょうか。利発でないため親から手切れ金を渡された息子は利口を求めて放浪しますが、ばくち打ちに騙されて短冊と引き換えに百両を失ってしまいます。ところが一夜の宿を借りたところ、その家のお姫さまの歌に短冊の句で下の句を返歌したところ、お姫さまに認められてしまいます。反発した弟子たちが息子に歌で勝負を挑みますが、息子はその場しのぎに逃れた便所で適当なお題を編み出してしまいます。突飛な内容に答えられない弟子たちにお姫さまがこう解くのだと返歌します。結局、息子は周囲に認められてお姫さまと結婚したという筋立てです。単なる偶然に過ぎなかったものをお姫さまは勘違いしてしまうのですが、更に息子を助ける行動に出るという一面を示します。偶然の連鎖が不幸を転化し幸運をもたらすという図式です。

 息子―親、息子―ばくち打ち、息子―お姫さま、息子―弟子たち、といった対立軸が見受けられます。短冊/結婚という図式から不幸が幸運に転化する様が暗喩されています。

 親に追放されるパートとばくち打ちに騙されるパートは言わばセットアップの段階ですから行為項モデルから省いてもいいかもしれません。主体が親やばくち打ちとなってしまいますから。ただ、状況に流される主人公という過程も描いた方がよく、行為項モデルはそこら辺でどこまで盛り込むべきか考えどころです。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

息子♌♁―お姫さま☉♎☾(♌)―弟子♂―ばくち打ち♂☾(♌)―親☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。お姫さまは価値そのものであり、息子を婿にふさわしいと判断する審判者♎でもあります。また、窮地に陥った息子を援助する援助者☾でもあります。弟子とばくち打ちとは対立者♂です。また、ばくち打ちの渡した短冊が意外な結果をもたらしますので援助者☾(♌)(-1)とも見なせるでしょうか。親は息子に手切れ金を渡して追放しますので、援助者☾(♌)(-1)といったところでしょうか。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は馬鹿な息子と利口なお姫さまのカップルでしょうか。「息子―短冊/下の句―お姫さま」という図式です。また、息子の考えた突飛なお題も発想の飛躍と言えるでしょう。馬鹿な息子の窮地を利口なお姫さまが救うという将来が暗示されているのかもしれません。果たして息子は利口を手に入れられたのでしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.144-148.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月19日 (日)

行為項分析――竜宮女房

◆あらすじ

 孝行息子と母親が二人で暮らしていた。毎日薪(たきぎ)をとって町に売りに行って、それで母親を養っていた。大晦日の日、息子は薪を町に売りに行ったが、誰も買う者はいなかった。日も暮れたので、この薪は竜宮にあげようと橋の上から川へ投げた。それから家へ帰ったところ、美しい女の人が来て今夜泊めてくれと頼んだ。何も食べるものがないと断ったが、きかないのでとうとう泊めてやって嫁にした。女は金を出したので三人でよい年をとった。それから何日か経って男は畑に行ったが、嫁が見たくてたまらないので、家へ帰って話すと、嫁は自分の姿を絵に描いてやった。男はその絵姿を木にかけて、それを見ながら畑仕事をしていた。その内に酷い風が吹いてきて、その絵をどこかへ持っていってしまった。男は悲しんで嫁にそのことを話した。その内に殿さまから何月何日出てこいと殿さまから手紙が来た。何か悪いことをしたのかと心配して出ていくと、こんな女房を持っているかと問われた。それを見ると、嫁の絵姿だったので持っていると答えると、女房を連れてこいと言われた。連れてこられないと断ると、それなら殿さまの言うことを叶えよと難題を言われた。「けむくぞうに、これわいさに、打たん太鼓に鳴る太鼓、音なし笛のじんばらほ」を持ってこいと。心配して嫁に話すと、それはたやすいこと。私が整えてあげると言われた。明くる日、嫁はそれぞれ桐の箱に入れてこれを持っていけ。自分はこれまで隠していたが竜宮の乙姫だ。今日から別れると言った。男は悲しんだ。仕方ないので仰せの通りの物を殿さまのところへ持っていった。殿さまが箱を開けると毛虫やら二丈ある男やら蜂が出てきて殿さまを苦しめた。殿さまは痛くてたまらないので早くしまえと仰せになり、よくその品物を持ってきたと褒美をくださったので、一生安楽に暮らした。

◆モチーフ分析

・孝行息子が母と二人で暮らしていた
・大晦日に薪を売りに町にいったが買い手がつかない
・薪を竜宮にあげようと橋の上から川に落とす
・美しい女人がやってきて泊めて欲しいと頼む
・断り切れず泊めてやる
・女人、そのまま嫁になる
・女人の金でよい年始をおくる
・男、畑仕事に出るが、女房のことが気にかかる
・男、嫁に相談して絵姿を描いてもらう
・絵姿を畑に持っていったところ、風で飛ばされてしまう
・殿さまから呼び出しがかかる
・参上したところ、絵姿は男の嫁か訊かれる
・そうだと答えたところ、では連れてこいと命じられる
・断ると無理難題を申しつけられる
・帰って嫁に相談する
・嫁、正体を明かす。竜宮の乙姫
・嫁が課題の品を箱に入れて渡す
・嫁と別れて殿さまのところにいく
・殿さまが箱を開けたところ、毛虫や蜂が出てきて散々な目に遭う
・男、それで許されて褒美をもらう

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:息子
S2:母
S3:女人
S4:殿さま

O(オブジェクト:対象)
O1:町
O2:薪
O3:家
O4:畑
O5:絵姿
O6:無理難題
O7:褒美

m(修飾語)
m1:安楽な
m2:散々な

+:接
-:離

・孝行息子が母と二人で暮らしていた
(存在)X:S1息子+S2母
・大晦日に薪を売りに町にいったが買い手がつかない
(訪問)S1息子:S1息子+O1町
(販売不振)S1息子:S1息子+O2薪
・薪を竜宮にあげようと橋の上から川に落とす
(献上)S1息子:S1息子-O2薪
・美しい女人がやってきて泊めて欲しいと頼む
(来訪)S3女人:S3女人+O3家
・断り切れず泊めてやる
(許可)S1息子:S3女人+O3家
・女人、そのまま嫁になる
(結婚)S3女人:S3女人+S1息子
・女人の金でよい年始をおくる
(生活)S3女人:S1息子+S2母+m1安楽な
・男、畑仕事に出るが、女房のことが気にかかる
(仕事)S1息子:S1息子+O4畑
(気がかり)S1息子:S1息子-S3女人
・男、嫁に相談して絵姿を描いてもらう
(描画)S1息子:S3女人+O5絵姿
・絵姿を畑に持っていったところ、風で飛ばされてしまう
(紛失)S1息子:S1息子-O5絵姿
・殿さまから呼び出しがかかる
(呼出)S4殿さま:S4殿さま+S1息子
・参上したところ、絵姿は男の嫁か訊かれる
(質問)S1息子:S4殿さま+S1息子
・そうだと答えたところ、では連れてこいと命じられる
(命令)S4殿さま:S4殿さま+S3女人
・断ると無理難題を申しつけられる
(拒絶)S1息子:S3女人-S4殿さま
(強制)S4殿さま:S1息子+O6無理難題
・帰って嫁に相談する
(相談)S1息子:S1息子+S3女人
・嫁、正体を明かす。竜宮の乙姫
(開示)S3女人:S1息子-S3女人
・嫁が課題の品を箱に入れて渡す
(回答)S3女人:S1息子+O7箱
・嫁と別れて殿さまのところにいく
(別離)S1息子:S1息子-S3女人
(訪問)S1息子:S1息子+S4殿さま
・殿さまが箱を開けたところ、毛虫や蜂が出てきて散々な目に遭う
(開封)S4殿さま:S4殿さま+O7箱
(遭難)S4殿さま:S4殿さま+m2散々な
・男、それで許されて褒美をもらう
(許し)S4殿さま:S4殿さま+S1息子
(褒章)S4殿さま:S1息子+O7褒美

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(息子の行為の結果はどうなるか)
           ↓
送り手(息子)→ 薪(客体)→ 受け手(竜宮)
           ↑
補助者(なし)→  息子(主体)← 反対者(なし)

   聴き手(息子の執着心はどうなるか)
           ↓
送り手(女人)→ 絵姿(客体)→ 受け手(息子)
           ↑
補助者(なし)→  女人(主体)← 反対者(なし)

   聴き手(殿さまの無理難題から逃れられるか)
           ↓
送り手(殿さま)→ 無理難題(客体)→ 受け手(息子)
           ↑
補助者(女人)→ 息子(主体) ← 反対者(殿さま)

といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。このお話は竜宮女房と絵姿女房とが合成されたお話と見ることができます。売れなかった薪を竜宮に献上することで孝行息子の許に美しい女人がやってきて結婚します。女人と片時も離れたくない息子は女人に絵姿を書いてもらって畑仕事に出ますが、絵が風で飛ばされ殿さまが入手してしまいます。絵姿の主が息子の妻と知った殿さまは女人を我が物としようとしますが、息子が拒絶したため無理難題を押し付けます。ですが、女人が正体を明かし、箱を授けることで息子は無理難題から逃れるといった筋立てです。

 息子―女人、息子―殿さま、女人―殿さま、薪―女人、といった対立軸があるでしょうか。薪/女人の構図は善意の譲渡が思わぬ形で良い結果をもたらすことを暗示しています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

息子♌♁―女人☉☾(♌)♎―殿さま♂♎

 といった風に表記できるでしょうか。女人は竜宮の乙姫であり価値☉そのものです。息子はその享受者♁となります。また、女人は何かにつけて息子を支援しますので援助者☾と置くことができます。審判者♎を女人とするか殿さまとするか難しいところです。全体的に見れば息子の善意を評価するのは女人ですし、負けを認めて褒美を与える殿さまも審判者的役割を担っています。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍はあらすじでは描かれませんが無理難題とその解答でしょうか。「箱―毛虫/蜂―殿さま」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.140-143.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月18日 (土)

行為項分析――榎の実ならいで金がなる

◆あらすじ

 昔、二人の兄弟がいた。弟は横着者で、兄の財産を皆もって分家した。兄は年取った母を養わねばならないのに、財産は皆弟に取られて貧乏していたので、除夜がきても餅もつけない有様だった。弟は餅をたくさん搗いたが兄へはひとつもやらない。兄はせめて母だけでも餅を食べさせたいと思って弟のところへ餅をもらいに行った。弟の家ではたくさん餅を並べていたが、兄に一つでも食えとは言わない。自分で搗いて食べさせたらいいだろうと言ってくれようとしなかった。兄はすごすごと戻ってきたが、つくづく情けなくなって自分は年の暮れになっても餅さえよく搗かぬと言って杵を海に捨ててしまった。すると竜宮から使いが来て兄を竜宮へ連れていった。竜宮では唐金の馬を一匹くれた。そしてこの馬に一日を米を五合ずつ食べさせよ。五合しか食べさせてはいけないと言った。兄は喜んで馬を連れて帰ると、米を五合食べさせた。すると馬は金を一升ひった。そして毎日五合ずつ食べさせたので、まもなく沢山の金が貯まった。それを聞いて弟がやって来て、いい馬を貰ったそうだが兄弟の間柄だ、少し貸してくれないかと言った。兄は正月の餅をせめて母に食べさせたいと思って弟のところに貰いにいったが、一つもくれなかったと言って馬を貸さなかった。すると母がそれでは二日だけ貸してやらぬかと言ったので、とうとう馬を貸してやった。そして決して一日に米を五合しか食わせてはいけないぞと言った。弟は馬を連れて帰ると、欲張りだから一日に一升の米を食べさせた。すると馬はぽっくり死んでしまった。弟は馬を背戸の柿の木の根元へ埋めた。兄は弟がいつまで待っても馬を返さないので、馬を戻すように弟のところへやって来た。弟は馬は死んだから柿の木の根元へ埋めたと言った。兄はお前が米を余計に食わせたからだと言って、大層力を落として柿の木の根元に埋めてある馬を掘りあてて持って帰り、自分の家の背戸の畑へ埋めて、墓印に榎(えのき)を一本植えておいた。ところが榎には葉が出ないで黄金がいっぱいついて出た。それで「これのお背戸の三つ又榎 榎の実ならいで金がなる」というのだそうだ。

◆モチーフ分析

・二人の兄弟がいた
・弟は兄の財産を皆もって分家した
・兄は母を養わなければならないのに、貧乏だった
・兄、弟に餅を分けてもらうよう頼む
・弟、一つも分けてやらない
・兄、情けなくなって杵を海に捨てる
・竜宮から使いが来る
・竜宮で唐金の馬をもらう
・一日に五合の米を食べさせるように教えられる
・言われた通りにすると、馬は一升の黄金をひる
・兄、次第に裕福になる
・弟が知って馬を借りようとする
・兄は餅のこともあって貸そうとしない
・母が二日だけ貸してやれと言う
・それで兄は馬を弟に貸す
・弟、馬に一升の米を食わせて死なせてしまう
・弟、馬を柿の木の根元に埋める
・兄、弟に馬を返すように言う
・弟、死んだので埋めたと答える
・兄、死体を掘って自分の家の畑に植え、榎を植える
・榎には葉が成らないで黄金が出た

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:兄
S2:弟
S3:母
S4:竜宮の使者

O(オブジェクト:対象)
O1:財産
O2:餅
O3:杵
O4:海
O5:竜宮
O6:馬
O7:五合の米
O8:黄金
O9:一升の米
O10:柿の木
O11:畑
O12:榎

m(修飾語)
m1:貧乏
m2:裕福
m3:死んだ

+:接
-:離

・二人の兄弟がいた
(存在)X:S1兄+S2弟
・弟は兄の財産を皆もって分家した
(分家)S2弟:S1兄-O1財産
・兄は母を養わなければならないのに、貧乏だった
(扶養)S1兄:S1兄+S3母
(窮乏)S1兄:S1兄+m1貧乏
・兄、弟に餅を分けてもらうよう頼む
(依頼)S1兄:S2弟-O2餅
・弟、一つも分けてやらない
(拒否)S2弟:S1兄-O2餅
・兄、情けなくなって杵を海に捨てる
(投棄)S1兄:O3杵+O4海
・竜宮から使いが来る
(来訪)S4竜宮の使者:S1兄+O5竜宮
・竜宮で唐金の馬をもらう
(贈与)O5竜宮:S1兄+O6馬
・一日に五合の米を食べさせるように教えられる
(教示)S1兄:O6馬+O7五合の米
・言われた通りにすると、馬は一升の黄金をひる
(排泄)S1兄:O6馬+O8黄金
・兄、次第に裕福になる
(致富)S1兄:S1兄+m2裕福
・弟が知って馬を借りようとする
(要求)S2弟:S1兄-O6馬
・兄は餅のこともあって貸そうとしない
(拒否)S1兄:S2弟-O6馬
・母が二日だけ貸してやれと言う
(進言)S3母:S1兄+S2弟
・それで兄は馬を弟に貸す
(貸与)S1兄:S2弟+O6馬
・弟、馬に一升の米を食わせて死なせてしまう
(過剰摂取)S2弟:O6馬+O9一升の米
(死亡)S2弟:O6馬+m3死んだ
・弟、馬を柿の木の根元に埋める
(埋葬)S2弟:O6馬+O10柿の木
・兄、弟に馬を返すように言う
(返却要求)S1兄:S2弟-O6馬
・弟、死んだので埋めたと答える
(回答)S2弟:O6馬+m3死んだ+O10柿の木
・兄、死体を掘って自分の家の畑に埋め、榎を植える
(埋葬)S1兄:O6馬+O11畑
(植樹)S1兄:O11畑+O12榎
・榎には葉が成らないで黄金が出た
(獲得)S1兄:O12榎+O8黄金

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

    聴き手(兄の境遇はどうなるか)
            ↓
送り手(竜宮)→ 馬(客体)→ 受け手(兄)
            ↑
補助者(竜宮)→  兄(主体)← 反対者(弟)

   聴き手(黄金の馬を貸してどうなるか)
           ↓
送り手(兄)→ 馬(客体)→ 受け手(弟)
           ↑
補助者(母)→  兄(主体)← 反対者(弟)

   聴き手(黄金の馬を貸してどうなるか)
           ↓
送り手(弟)→ 馬の死体(客体)→ 受け手(兄)
           ↑
補助者(なし)→  弟(主体) ← 反対者(兄)

といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。弟に財産を全てとられた挙句に母を扶養しなければならなくなった兄は窮乏します。せめて正月の餅だけでも分けてくれと頼みますが断られます。自暴自棄になった兄は杵を海に捨てますが、そのことが竜宮への贈与となり、竜宮から使者が来て竜宮へ連れて行かれます。竜宮で黄金をひる馬を得た兄は言いつけを守り裕福になります。それを知った弟が馬の貸与を求めます。兄は拒否しますが、母の助言で貸さざるを得なくなります。弟は欲をかいて決められた以上の米を馬に食べさせて死なせてしまいます。そして柿の木の根元に埋めて知らぬふりをします。馬の死体を取り返した兄は自分の家の畑に馬を埋葬し榎を植樹します
すると榎から葉ではなく黄金が実ったという筋立てです。

 兄―弟、貧乏―裕福、五合の米―一升の米、柿の木―榎、といった対立軸が見出せます。杵/馬に竜宮への贈与が暗喩されています。贈与への返礼として黄金の馬が贈られる訳です。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

兄♌♁―馬☉―弟♂―竜宮♎―母☾(♂)

 といった風に表記できるでしょうか。黄金を排泄する馬を価値と置くと、馬を贈った竜宮が審判者と置けるでしょう。母は情に負けて弟への馬の貸与を進言しますので、ここでは対立者の援助者☾(♂)となっていると見ることができるでしょうか。兄は馬の死体を取り返し、榎から黄金を得ますので享受者♁となります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は五合の米を食べて一升の黄金をひる馬でしょうか。「馬―五合の米―黄金」の図式です。五合の米を食べさせるところを一升の米を無理に食わせて死なせてしまうことも発想の飛躍でしょうか。「馬―一升の米―死」の図式です。また、死体を埋めた場所に植えた榎から黄金が実るのもそうでしょう。「死体―榎―黄金」の図式です。

 竜宮を訪れることから異郷訪問譚でもあります。馬は異郷の呪具です。馬が死んでも竜宮の贈与は続き、兄は榎から黄金を得る結末となります。

 また、兄弟譚でもあります。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.137-139.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月17日 (金)

行為項分析――屁ひり爺

◆あらすじ

 昔あるところに爺さんがいた。ある日お殿さまの山で木を伐っていたら、お殿さまの行列が通った。お殿さまが人の山で木を伐るのはどいつだと言った。爺さんは日本一の屁ひりじいと言った。それなら屁を一つひってみよとなり、ここには尻にとげがたってひられない、板の間は冷たくてひられない、畳はつるつるしてひられないとなり、毛氈(もうせん)ならひられるとなった。毛氈の上で錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原はスッポロポンのポンと大きな屁を見事にひった。お殿さまは大層喜ばれて、まさしく日本一の屁こき爺だ。褒美をとらせると言った。爺さんは褒美をもらった。それを聞いた隣の欲張り爺さんが自分も褒美を貰わねばと、お殿さまの山で木を伐っていた。お殿さまの行列が通って人の山で木を伐るのはどいつだと言った。欲張り爺さんは日本一の屁ひり爺と言った。それでは屁をひとつひってみせよとなった。ここには尻にとげがたってひられない、板の間は冷たくてひられない、畳はつるつるしてひられないとなり、毛氈ならひられるとなった。毛氈の上で錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原とやったが屁が出ない。そこで爺さんは錦ざらざら黄金ざらざら五葉の松原はスッポロポンのポンとやったが、出たのは屁ではなく大きな黄色なのがポン。お殿さまは怒って、よくも嘘をついたなと一刀のもとに尻を切ってしまった。だから欲張りをして人まねをしてはいけない。

◆モチーフ分析

・爺さんがお殿さまの山で木を伐っている
・そこにお殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
・爺さんは自分を日本一の屁ひり爺と言う
・それなら屁をひってみよとなる
・爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
・毛氈の上で大きな屁をひる
・お殿さま、大層喜んで、褒美を賜る
・それを隣の欲張り爺さんが聞く
・隣の爺さん、お殿さまの山で木を伐る
・お殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
・隣の爺さん、自分が日本一の屁ひり爺と名乗る
・それなら屁をひってみよとなる
・隣の爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
・毛氈の上だが屁が出ない
・もう一度ひると大便が出てしまう
・お殿さま、怒って隣の爺さんの尻を切ってしまう

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:殿さま
S3:隣の爺さん

O(オブジェクト:対象)
O1:殿さまの山
O2:木
O3:屁
O4:毛氈
O5:褒美
O6:大便

m(修飾語)
m1:日本一

+:接
-:離

・爺さんがお殿さまの山で木を伐っている
(木こり)S1爺さん:O1殿さまの山-O2木
・そこにお殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
(咎める)S2殿さま:S2殿さま-S1爺さん
・爺さんは自分を日本一の屁ひり爺と言う
(自称)S1爺さん:S1爺さん+m1日本一
・それなら屁をひってみよとなる
(命令)S2殿さま:S1爺さん+O3屁
・爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
(言い訳)S1爺さん:S1爺さん-O3屁
・毛氈の上で大きな屁をひる
(放屁)S1爺さん:O4毛氈+O3屁
・お殿さま、大層喜んで、褒美を賜る
(褒章)S2殿さま:S1爺さん+O5褒美
・それを隣の欲張り爺さんが聞く
(聴聞)S3隣の爺さん:S3隣の爺さん+S1爺さん
・隣の爺さん、お殿さまの山で木を伐る
(木こり)S3隣の爺さん:O1殿さまの山-O2木
・お殿さまの行列が通りかかり、とがめられる
(咎める)S2殿さま:S2殿さま-S3隣の爺さん
・隣の爺さん、自分が日本一の屁ひり爺と名乗る
(自称)S3隣の爺さん:S3隣の爺さん+m1日本一
・それなら屁をひってみよとなる
(命令)S2殿さま:S3隣の爺さん+O3屁
・隣の爺さん、あれこれ理由をつけて屁をひらない
(言い訳)S3隣の爺さん:S3隣の爺さん-O3屁
・毛氈の上だが屁が出ない
(不発)S3隣の爺さん:O4毛氈-O3屁
・もう一度ひると大便が出てしまう
(排便)S3隣の爺さん:O4毛氈+O6大便
・お殿さま、怒って隣の爺さんの尻を切ってしまう
(懲罰)S2殿さま:S2殿さま-S3隣の爺さん

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(爺さんは日本一と証明できるか)
            ↓
送り手(爺さん)→ 放屁(客体)→ 受け手(殿さま)
            ↑
補助者(なし)→  爺さん(主体)← 反対者(殿さま)

  聴き手(隣の爺さんは上手く真似できるか)
             ↓
送り手(隣の爺さん)→ 放屁(客体)→ 受け手(殿さま)
             ↑
補助者(なし)→  隣の爺さん(主体)← 反対者(殿さま)

といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。殿さまが持ち主の山で勝手に木こりをしていた爺さんですが、その行為を咎められてもたじろがず、自分を日本一の屁ひりじいと自称して実演してみせます。その際のじらし具合が面白いのですが、分析では捨象されてしまっています。喜んだ殿さまは爺さんに褒美を与えます。一方で隣の爺さんもその真似をしますが上手くいかず、毛氈の上に便を漏らして殿さまの怒りを買ってしまうという筋立てです。安易に他人の真似をするものではないと諫める教訓話となっています。

 爺さん―隣の爺さん、爺さん―殿さま、隣の爺さん―殿さま、屁―便、といった対立軸が見出せます。放屁/褒美は芸が身を助けることの暗喩と見なせるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

爺さん♌♁―隣の爺さん♂―殿さま☉♎

 といった風に表記できるでしょうか。殿さまが山の持ち主であり、褒美を与えるところから価値☉を体現する人物であり、また褒美を与えたり懲罰したりと審判者♎の役割を果たしています。爺さんは褒美を与えられますので享受者♁となります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍はなかなか放屁せずにじらすところでしょうか。「爺さん―屁―毛氈―殿さま」の図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.134-136.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月16日 (木)

義兄が放送大学に入学する

義兄が放送大学に入学したとのこと。日本近世史を学ぶらしい。義兄は漫画原作者兼小説家で時代小説も書いているので趣味と実益を兼ねているのだろう。

僕は出席日数が足りなくて単位を落とす夢を今でも時折みるので、もう一度学生生活を送りたいとは思っていない。放送大学ならほとんどオンラインで受講できるのだが。

もし僕が入学するとしたら人文系のコースになると思うが、その前に高校の勉強をやり直さなければならないのではないかという気がする。それだけで数年かかる。さすがにそこまでやりたくない。今積読にしている本を消化するだけでも大変なのだ。

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シンギュラリティは既に来ている? 野口悠紀雄『生成AI革命 社会は根底から変わる』

野口悠紀雄『生成AI革命 社会は根底から変わる』を読む。ホワイトカラーとブルーカラーとを合わせた数字だが、生成AIによって平均して約25%の業務が代替されるとのこと。知的労働の方が影響が大きく技能労働に関しては影響度は低くなる。

まあ、紙の伝票がいきなり消える訳ではないので、今すぐ全ての事務処理がAIに代替されてしまうとまではならないだろう。

本書では考察の対象とされていないが、クリエイティブな職種でもイラストレーターが無断学習され被害に遭っていると話題になっている。創造性が発揮される分野でも安泰という訳でもないのだ。

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行為項分析――桃太郎

◆あらすじ

 昔、爺さんと婆さんがいた、爺さんは山へ木を伐りに、婆さんは川へ洗濯に行った。婆さんが川で洗濯していると上流から大きな桃が流れてきた。あまりに大きな桃なので爺さんと一緒に食べようと思って持って帰った。婆さんが包丁で桃を切ろうとすると桃がひとりでに割れ、中から大きな男の子が生まれた。たらいに湯を入れて洗ってやると、力の強い子でたらいを高くさしあげた。桃から生まれた桃太郎と名づけられた。桃太郎は成長して力の強い息子となった。ある日桃太郎はこれから鬼ヶ島へ征伐に行くから、きび団子を作ってくれと言った。婆さんはきび団子をこしらえて爺さんは鎧(よろい)や兜(かぶと)をこしらえて持たせ、刀も持たせ大きな幟(はた)をこしらえてやった。桃太郎は爺さん婆さんと別れて弁当を食べていると犬が来てどこに行くか訊いた。鬼ヶ島へ行くと答えて、きび団子を与えると犬はお供となった。次に猿がやって来た。猿もきび団子を与えてお供にした。今度は雉子(きじ)がやって来た。雉子もきび団子を与えてお供にした。それから丸木舟に乗って鬼ヶ島へ渡った。鬼ヶ島に行ってみると鬼が門番をしていた。雉子が鬼の目や鼻をつついて門番は中に逃げた。猿が門をよじ登って中から門を開けた。桃太郎が中へ攻め込んだ。犬はワンワン吠えて噛みつく。桃太郎は一番大きな鬼に刀を抜いて斬りかかった。鬼は金棒を振り回して桃太郎と戦ったがとうとう負けて降参した。助命する代わりに鬼たちが取った宝物を出させた。これを船に積み込んで戻った。爺さん婆さんは大喜びで、鬼からとった宝物や金を村の人に分けた。

◆モチーフ分析

・爺さんは山へ木を伐りに、婆さんは川へ洗濯へ行った
・婆さんが洗濯していると、上流から大きな桃が流れてきた
・婆さん、桃を家へ持って帰る
・婆さんが包丁で切ろうとすると、桃が割れ、中から男の子が生まれた
・男の子、たらいを差し上げて力の強いことを示す
・桃太郎と名づける
・桃太郎、成長して力の強い息子となった
・桃太郎、鬼ヶ島に征伐に行くから、きび団子をこしらえてくれと頼む
・爺さんと婆さん、きび団子や武具をこしらえる
・桃太郎、出発する
・桃太郎、きび団子で犬をお供にする
・桃太郎、きび団子で猿をお供にする
・桃太郎、きび団子で雉子をお供にする
・丸木舟に乗って鬼ヶ島へ渡る
・門番を雉子がつつく
・猿が門をよじ登って中から開ける
・桃太郎、中に攻め込む
・犬は鬼に噛みつく
・桃太郎、一番大きな鬼と戦う
・桃太郎、勝利。鬼たち降参する
・助命する代わりに宝物を持って帰る
・桃太郎、村に帰る
・爺さんと婆さん、宝物を分配する

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:婆さん
S3:桃太郎
S4:犬
S5:猿
S6:雉子
S7:門番
S8:鬼
S9:鬼の大将
S10:村人

O(オブジェクト:対象)
O1:木こり
O2:洗濯
O3:桃
O4:家
O5:たらい
O6:鬼ヶ島
O7:きび団子
O8:武具
O9:村
O10:丸木舟
O11:門
O12:城
O13:宝物

m(修飾語)
m1:強い

+:接
-:離

・爺さんは山へ木を伐りに、婆さんは川へ洗濯へ行った
(木こり)S1爺さん:S1爺さん+O1木こり
(洗濯)S2婆さん:S2婆さん+O2洗濯
・婆さんが洗濯していると、上流から大きな桃が流れてきた
(遭遇)S2婆さん:S2婆さん+O3桃
・婆さん、桃を家へ持って帰る
(運搬)S2婆さん:O3桃+O4家
・婆さんが包丁で切ろうとすると、桃が割れ、中から男の子が生まれた
(誕生)S2婆さん:O3桃+S3桃太郎
・男の子、たらいを差し上げて力の強いことを示す
(誇示)S3桃太郎:S3桃太郎+O5たらい
・桃太郎と名づける
(命名)S1爺さん+S2婆さん:S1爺さん+S2婆さん+S3桃太郎
・桃太郎、成長して力の強い息子となった
(成長)S3桃太郎:S3桃太郎+m1強い
・桃太郎、鬼ヶ島に征伐に行くから、きび団子をこしらえてくれと頼む
(依頼)S3桃太郎:S2婆さん+O7きび団子
・爺さんと婆さん、きび団子や武具をこしらえる
(製作)S1爺さん:S3桃太郎+O8武具
・桃太郎、出発する
(出発)S3桃太郎:S3桃太郎-O9村
・桃太郎、きび団子で犬をお供にする
(合流)S3桃太郎:S4犬+O7きび団子
・桃太郎、きび団子で猿をお供にする
(合流)S3桃太郎:S5猿+O7きび団子
・桃太郎、きび団子で雉子をお供にする
(合流)S3桃太郎:S6雉子+O7きび団子
・丸木舟に乗って鬼ヶ島へ渡る
(渡海)S3桃太郎:S3桃太郎+O6鬼ヶ島
・門番を雉子がつつく
(攻撃)S3桃太郎:S6雉子+S7門番
・猿が門をよじ登って中から開ける
(開錠)S3桃太郎:S5猿+O11門
・桃太郎、中に攻め込む
(討ち入り)S3桃太郎:S3桃太郎+O12城
・犬は鬼に噛みつく
(攻撃)S3桃太郎:S4犬+S8鬼
・桃太郎、一番大きな鬼と戦う
(戦闘)S3桃太郎:S3桃太郎+S9鬼の大将
・桃太郎、勝利。鬼たち降参する
(降伏)S9鬼の大将:S8鬼-S3桃太郎
・助命する代わりに宝物を持って帰る
(助命)S3桃太郎:S3桃太郎-S8鬼
(獲得)S3桃太郎:S8鬼-O13宝物
・桃太郎、村に帰る
(帰村)S3桃太郎:S3桃太郎+O9村
・爺さんと婆さん、宝物を分配する
(分配)S1爺さん+S2婆さん:S10村人+O13宝物

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(桃太郎は手柄をたてることができるか)
            ↓
送り手(桃太郎)→ 鬼退治(客体)→ 受け手(鬼)
            ↑
補助者    →  桃太郎(主体)← 反対者(鬼)
(爺さん、婆さん、犬、猿、雉)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。桃太郎は桃から生まれるという点で異常出生譚の登場人物です。誕生した時点で既に怪力を発揮しています。成長した桃太郎は爺さんに武具を、婆さんにきび団子を作ってもらうことで旅立ちの準備を整えます。村を出ることで桃太郎は爺さん婆さんの庇護下から離れて自立の道を歩みはじめます。道中で犬、猿、雉子を配下に加えます。鬼ヶ島に乗り込んだ桃太郎は犬、猿、雉子の協力もあり鬼を退治します。鬼の宝物を獲得した(※これは鬼が略奪したものを取り返したと見ることができるでしょう)桃太郎は村に帰り、宝物を分配する……という筋立てとなっています。

 爺さん―婆さん、桃―桃太郎、武具―きび団子、桃太郎―鬼、村―鬼ヶ島、といった対立軸が見受けられます。桃/鬼は日本神話にも見られるように鬼を排除する神聖な果物という暗喩、そしてその桃の神聖さを体現した人物という暗喩も見られます。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

桃太郎♌―鬼♂―犬/猿/雉子☾(♌)―爺さん/婆さん♎☾(♌)―村人♁

 といった風に表記できるでしょうか。鬼の脅威を取り除くことを価値☉と置くと、爺さん婆さんを含めた村人たちが享受者♁となります。爺さん婆さんは桃太郎の秘められたポテンシャルを評価し養育しますので援助者☾でありかつ審判者♎と置けるでしょうか。犬、猿、雉は桃太郎の援助者☾です。

◆元型分析

 桃太郎はユングの提唱した元型(アーキタイプ)に照らすと、始原児(the miracle child)と考えることができます。桃太郎は誕生時から怪力を発揮する点で突出した力の持ち主であることが描かれています。そして鬼退治を成し遂げることで英雄としての性格も獲得する訳です。

◆発想の飛躍

 桃から生まれた桃太郎が発想の飛躍でしょうか。「婆さん―桃―桃太郎」の図式です。桃から生まれたという描写がされる前は桃を食べて若返った爺さんと婆さんが子づくりをして桃太郎が誕生するという筋立てだったそうです。また、きび団子で犬、猿、雉子を配下に加えるのも発想の飛躍と言えるでしょう。「桃太郎―きび団子―犬/猿/雉子」の図式です。きび団子を交渉用のアイテムとして使う訳です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.129-133.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月15日 (水)

行為項分析――瓜姫

◆あらすじ

 昔あるところに爺さんと婆さんがいた。ある日爺さんは木を伐りに行った。婆さんは川へ洗濯に行った。婆さんは川で着物をすすいでいると、上の方から瓜が流れてきた。婆さんがそれを拾って食べたところ旨かったので、もう一つ流れよ、爺さんに持って帰ろうと言うと、また大きなのが流れてきた。持って帰るには難儀な大きな瓜だった。その瓜を婆さんは櫃(ひつ)の中に入れて爺さんが戻るのを待っていた。爺さんが帰ってきたので瓜を包丁で割ろうとすると瓜がぽっかり割れて中から可愛いお姫様が出てきた。瓜の中から出てきたから瓜姫という名にして可愛がって育てた。瓜姫が大きくなると、婆さんは糸を紡ぎ、爺さんは杼(ひ)やくだをこしらえて機を織った。瓜姫は毎日機を織っていた。ある日、爺さんと婆さんは外出するので、留守中にあまんじゃくが来ても戸を開けるなと言い付けて出ていった。それで瓜姫は独りで機を織っていた。そこへあまんじゃくがやって来て姫さん、ちいと開けちゃんさいと言った。瓜姫が嫌だと言うと、そう言わんと指の入るほど開けちゃんさい。叱られたらわしが詫びるからと言って指の入るほど戸を開けさせた。今度は手の入るほど開けちゃんさいと言ったので手の入るほど開けてやった。次に頭の入るほど開けちゃんさいと言ったので頭の入るほど開けてやった。今度は身がらの入るほど開けちゃんさいと言った。瓜姫は嫌だと言ったが、あまんじゃくが自分が侘びるからと言ってとうとう中に入ってしまった。それから話をしていたが、これから柿を採りに行こうと言った。瓜姫はここから出たら爺さん婆さんに叱られるから嫌だと言ったが、爺さん婆さんの居ない内に戻ればいいと言って瓜姫を連れて柿の木谷へ出した。あまんじゃくは高い柿の木に登って採っては食いしたが瓜姫には一つもやらなかった。瓜姫には渋柿ばかり投げてよこした。瓜姫がせっかく来たのだから柿が食べたいというと、瓜姫を上がらせて、瓜姫の着ていた着物とあまんじゃくのぼろの汚い着物を交換して姫を高いところへ登らせて、葛(かずら)を持ってきて姫を柿の木に縛りつけてしまった。あまんじゃくは瓜姫のきれいな着物を着て姫に化けて戻ってきて機を織っていた。そのうちに瓜姫はよいところに嫁にもらわれた。嫁入りの日が来て瓜姫に化けたあまんじゃくを駕籠(かご)に乗せて出かけた。柿の木谷を通ろうか栗の木谷を通ろうかと言うとあまんじゃくが栗の木谷を通ろうと言った。そこで栗の木谷を通ったが、栗のいがが足にたってやれないので引き返して柿の木谷を通った。柿の木の下を通ると瓜姫があまんじゃくが嫁入りすると言って泣いた。爺さんが上を見ると瓜姫が縛られているので、駕籠の中のはあまんじゃくが化けていることに気づいて、瓜姫は縄を解いて下ろして、あまんじゃくは引きずり出して三つに切った。粟(あわ)の木に一切れ、麦の根に一切れ、蕎麦(そば)の根に一切れ埋めた。するとそれらの根は赤くなった。瓜姫はきれいな着物に着替えて嫁入りをした。

◆モチーフ分析

・爺さんは木を伐りに、婆さんは川へ洗濯に行く
・婆さんが洗濯していると、上流から瓜が流れてくる
・瓜をとって食べると美味しいので、もう一つ流れてこいと言う
・今度は大きな瓜が流れてくる
・婆さん、大きな瓜を難儀して家に持ち帰る
・爺さんが帰ってきたので食べようとしたら、瓜が割れて中から姫が出てくる
・瓜姫と名づけて可愛がって育てる
・大きくなった瓜姫、機を織るようになる
・爺さんと婆さん、外出するので瓜姫にあまんじゃくがやって来ても戸を開けないように言いつける
・瓜姫が機を織っていると、あまんじゃくがやってくる
・あまんじゃく、言葉巧みに徐々に戸を開けさせる
・中に入ったあまんじゃく、柿を採りに瓜姫を外出させる
・柿の木に登ったあまんじゃく、柿を独り占めする
・あまんじゃく、瓜姫と着物を交換する
・あまんじゃく、瓜姫を柿の木に上がらせて葛で縛る
・瓜姫に化けたあまんじゃく、家に戻る
・姫、嫁に行くことになる
・瓜姫に化けたあまんじゃく、駕籠に乗る
・栗の木谷を通ろうとするが、栗のいがが沢山で引き返す
・柿の木谷を通ったところ、瓜姫が危機を知らせる
・瓜姫を救出する
・あまんじゃくを三つに斬る
・あまんじゃくの死骸を埋める
・蕎麦などの根が赤くなる
・瓜姫は無事嫁に行った

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:婆さん
S3:瓜姫
S4:あまんじゃく

O(オブジェクト:対象)
O1:木こり
O2:洗濯
O3:瓜
O4:大きな瓜
O5:家
O6:機
O7:戸
O8:柿
O9:着物
O10:嫁入り
O11:駕籠
O12:栗の木谷
O13:柿の木谷
O14:死骸
O15:蕎麦

m(修飾語)
m1:美味
m2:変装した
m3:赤い

+:接
-:離

・爺さんは木を伐りに、婆さんは川へ洗濯に行く
(木こり)S1爺さん:S1爺さん+O1木こり
(洗濯)S2婆さん:S2婆さん+O2洗濯
・婆さんが洗濯していると、上流から瓜が流れてくる
(遭遇)S2婆さん:S2婆さん+O3瓜
・瓜をとって食べると美味しいので、もう一つ流れてこいと言う
(美味)S2婆さん:O3瓜+m1美味
(要求)S2婆さん:S2婆さん+O3瓜
・今度は大きな瓜が流れてくる
(遭遇)S2婆さん:S2婆さん+O4大きな瓜
・婆さん、大きな瓜を難儀して家に持ち帰る
(運搬)S2婆さん:O4大きな瓜+O5家
・爺さんが帰ってきたので食べようとしたら、瓜が割れて中から姫が出てくる
(食事)S2婆さん:S1爺さん+O4大きな瓜
(誕生)O4大きな瓜:O4大きな瓜+S3瓜姫
・瓜姫と名づけて可愛がって育てる
(愛育)S1爺さん+S2婆さん:S1爺さん+S2婆さん+S3瓜姫
・大きくなった瓜姫、機を織るようになる
(成長)S3瓜姫:S3瓜姫+O6機
・爺さんと婆さん、外出するので瓜姫にあまんじゃくがやって来ても戸を開けないように言いつける
(禁止)S1爺さん+S2婆さん:S3瓜姫-S4あまんじゃく
・瓜姫が機を織っていると、あまんじゃくがやってくる
(来訪)S3瓜姫:S3瓜姫+S4あまんじゃく
・あまんじゃく、言葉巧みに徐々に戸を開けさせる
(誘惑)S4あまんじゃく:S4あまんじゃく+S3瓜姫
・中に入ったあまんじゃく、柿を採りに瓜姫を外出させる
(外出)S4あまんじゃく:S3瓜姫-O5家
・柿の木に登ったあまんじゃく、柿を独り占めする
(独占)S4あまんじゃく:S3瓜姫-O8柿
・あまんじゃく、瓜姫と着物を交換する
(交換)S4あまんじゃく:S3瓜姫-O9着物
・あまんじゃく、瓜姫を柿の木に上がらせて葛で縛る
(緊縛)S4あまんじゃく:S3瓜姫+O8柿
・瓜姫に化けたあまんじゃく、家に戻る
(変装)S4あまんじゃく:S4あまんじゃく+m2変装した
(帰宅)S4あまんじゃく:S4あまんじゃく+O5家
・姫、嫁に行くことになる
(婚約)S1爺さん+S2婆さん:S3瓜姫+O10嫁入り
・瓜姫に化けたあまんじゃく、駕籠に乗る
(搭乗)S4あまんじゃく:S4あまんじゃく+O11駕籠
・栗の木谷を通ろうとするが、栗のいがが沢山で引き返す
(引き返し)O11駕籠:O11駕籠-O12栗の木谷
・柿の木谷を通ったところ、瓜姫が危機を知らせる
(通過)O11駕籠:O11駕籠+O13柿の木谷
(警告)S3瓜姫:S3瓜姫+O11駕籠
・瓜姫を救出する
(救出)S1爺さん+S2婆さん:S3瓜姫-S4あまんじゃく
・あまんじゃくを三つに斬る
(斬撃)S1爺さん:S1爺さん-S4あまんじゃく
・あまんじゃくの死骸を埋める
(埋葬)S1爺さん:S1爺さん-O14死骸
・蕎麦などの根が赤くなる
(変化)O14死骸:O15蕎麦+m3赤い
・瓜姫は無事嫁に行った
(嫁入り)S1爺さん+S2婆さん:S3瓜姫+O10嫁入り

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

 聴き手(瓜姫はあまんじゃくの誘惑を跳ねのけられるか)
              ↓
送り手(あまんじゃく)→ 外出(客体)→ 受け手(瓜姫)
              ↑
補助者(爺さん、婆さん)→ 瓜姫(主体)← 反対者(あまんじゃく)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。瓜から生まれた瓜姫は桃太郎と同じく異常出生譚の登場人物です。特別な人物には異常な出生エピソードが見られるという思考によるものです。その瓜姫は機織りを得意としていますが、爺さんと婆さんの留守にあまんじゃくがやってきます。瓜姫とあまんじゃくとの「ちょっとだけ」というやりとりが面白いのですが、本分析では捨象されてしまっています。おそらく家に閉じこもって機織りをする瓜姫には外の世界への憧れがあるのかもしれません。あまんじゃくはその心理を突いてくるのです。ここに<禁止>の<侵犯>が見られます。外出した瓜姫ですが、渋柿しか与えられず、着物を交換させられた挙句に柿の木に縛られてしまいます。瓜姫になりすましたあまんじゃくは瓜姫の代わりに嫁入りしようとしますが正体がばれて斬殺されます。その血で蕎麦の根が赤くなったという由来譚でもあります。

 瓜―瓜姫、瓜姫―機織り、瓜姫―あまんじゃく、柿―栗、といった対立軸が見受けられます。機織り/外出に瓜姫の外の世界への憧憬が暗喩されています。女の子の外出には危険が伴うという暗喩も込められているでしょうか。一般に、機織りは女の仕事とされています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

瓜姫♌☉―あまんじゃく♂♁―爺さん/婆さん♎☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。瓜姫そのものを価値☉と置くことができます。あまんじゃくは瓜姫にすり替わろうとして失敗しますので享受者♁(-1)と置けるでしょうか。爺さんと婆さんは瓜姫を養育し、あまんじゃくの正体を見抜きますので援助者☾であり審判者♎でもあります。

◆元型分析

 瓜姫はユングの提唱した元型(アーキタイプ)に照らすと、始原児(the miracle child)と考えることができます。瓜姫は異常出生譚の登場人物ではありますが、特に超常的な力を発揮する訳ではありません。女性にとって機織りは特別なスキルであるとは言えないでしょう。ただ、瓜姫の無垢さは特筆すべきものがあるかもしれません。

◆発想の飛躍

 瓜から生まれた瓜姫が発想の飛躍でしょうか。「婆さん―瓜―瓜姫」の図式です。瓜姫には姫が殺されてしまうタイプの類話もありますが、この話では生存するタイプとなっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.123-128.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月14日 (火)

本紀だけでも読破したい

ちくま学芸文庫の史記、電子書籍版を買う。史記については司馬遼太郎の『項羽と劉邦』や横山光輝の漫画で全く知らないでもなかったのだが、これまで中々購入に踏み切れなかった。電子書籍だとかなりハードルが下がる。まあ、全巻読破できるとは思っていないのだが、第一巻の本紀だけでも読みたいとは思っている。

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2024年5月13日 (月)

行為項分析――ぶいが谷の酒

◆あらすじ

 昔あるところに良い爺さんと悪い爺さんがいた。良い爺さんがあるとき山の中で木を伐っていると、木を伐るたびに「ぶいぶいぶいが谷に酒が湧く」という音がする。ぶいが谷に行ってみると谷から酒が湧き出ていた。爺さんが飲んでみると、とても旨いので、夢中になって飲むうちにすっかり酔って寝込んでしまった。すると、猿がたくさん出てきて、ここに地蔵さんが寝ている。どこかへ持っていってお祀りしようと言って爺さんをかついで走っていった。その内に爺さんの金玉がぶらりと下がった。猿たちはこれを見て、ぶらりと下がった。何だろうと言ったので、爺さんはお香の袋と言った。しばらく行くと爺さんが屁をひった。ぷうんと出たのは何だろう。爺さんはお香の匂いと言った。爺さんは山の中のどこかへ連れて行かれて地蔵にされた。猿たちは爺さんを座らせると供物をたくさん供え、拝んでどこかへ行ってしまった。爺さんは猿がいなくなると供物を持って帰って近所の人たちに配った。

 隣の悪い爺さんはそれを聞いて、自分もそんな目に遭おうと思って、ぶいぶい谷へ行って酒を飲んで寝ていた。すると猿がまた出てきて爺さんをかついで行った。その内に屁の方が先に出たので、爺さんがおかしくてくすくす笑うと、猿たちは怒ってまた昨日の様に地蔵さまの真似をして供物だけをとって行こうとするふとい奴だと言って、よってたかってかきむしったので爺さんは血だらけになってしまた。婆さんは夕方になっても爺さんが帰らないので山へ迎えに行くと遠くに爺さんが見えた。爺さんと同じ様に欲張りの婆さんは爺さんが赤いきれいな着物を着て帰ったと思って大喜びしたが、近寄ってみると、爺さんは血だらけになってうんうん苦しんでいた。

◆モチーフ分析

・良い爺さんと悪い爺さんがいた
・良い爺さんが山で木を伐っていると、ぶいが谷に酒が湧くという音がする
・谷に行ってみると酒が湧き出ていた
・夢中になって飲む内に酔って寝込んでしまう
・猿が出てくる
・猿、地蔵さんが寝ていると爺さんを担いでいった
・爺さんの金玉がぶらりと下がる。お香の袋と答える
・爺さん、屁をする。お香の匂いという
・爺さん、山の中のどこかで地蔵さんとして祀られる
・猿、たくさんの供物を供える
・猿が去った後で爺さんは供物を持って帰り、近所の人に配る
・隣の悪い爺さんは良い爺さんの話を聞いてぶいが谷に行く
・悪い爺さん、谷で酒を飲んで寝てしまう
・猿がまた出てきて悪い爺さんを担ぐ
・悪い爺さん、屁をする。爺さん、くすくす笑う
・猿たちは昨日のように地蔵さまの真似をして供物を取ると言って、よってたかってかきむしる
・悪い爺さん、血だらけになる
・悪い婆さん、爺さんが赤い着物を着ていると思う
・近づくと、爺さんは血だらけになって苦しんでいる

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:良い爺さん
S2:悪い爺さん
S3:猿
S4:近所の人
S5:悪い婆さん

O(オブジェクト:対象)
O1:不思議な音
O2:谷
O3:酒
O4:地蔵
O5:金玉
O6:屁
O7:供物
O8:赤い着物

m(修飾語)
m1:眠った
m2:笑った
m3:血まみれ

+:接
-:離

・良い爺さんと悪い爺さんがいた
(存在)X:S1良い爺さん+S2悪い爺さん
・良い爺さんが山で木を伐っていると、ぶいが谷に酒が湧くという音がする
(聴聞)S1良い爺さん:S1良い爺さん+O1不思議な音
・谷に行ってみると酒が湧き出ていた
(発見)S1良い爺さん:S1良い爺さん+O3酒
・夢中になって飲む内に酔って寝込んでしまう
(飲酒)S1良い爺さん:S1良い爺さん+O3酒
(意識喪失)S1良い爺さん:S1良い爺さん+m1眠った
・猿が出てくる
(登場)S3猿:S3猿+O2谷
・猿、地蔵さんが寝ていると爺さんを担いでいった
(誤認)S3猿:S3猿+O4地蔵
(運搬)S3猿:S3猿+S1良い爺さん
・爺さんの金玉がぶらりと下がる
(はみ出し)S3猿:S1良い爺さん+O5金玉
・爺さん、お香の袋と答える
(回答)S1良い爺さん:S1良い爺さん+S3猿
・爺さん、屁をする
(放屁)S1良い爺さん:S1良い爺さん+O6屁
・爺さん、お香の匂いという
(回答)S1良い爺さん:S1良い爺さん+S3猿
・爺さん、山の中のどこかで地蔵さんとして祀られる
(祭祀)S3猿:S1良い爺さん+O4地蔵
・猿、たくさんの供物を供える
(お供え)S3猿:S1良い爺さん+O7供物
・猿が去った後で爺さんは供物を持って帰り、近所の人に配る
(配布)S1良い爺さん:S4近所の人+O7供物
・隣の悪い爺さんは良い爺さんの話を聞いてぶいが谷に行く
(訪問)S2悪い爺さん:S2悪い爺さん+O2谷
・悪い爺さん、谷で酒を飲んで寝てしまう
(飲酒)S2悪い爺さん:S2悪い爺さん+O3酒
(意識喪失)S2悪い爺さん:S2悪い爺さん++m1眠った
・猿がまた出てきて悪い爺さんを担ぐ
(運搬)S3猿:S3猿+S2悪い爺さん
・悪い爺さん、屁をする
(放屁)S2悪い爺さん:S2悪い爺さん+O6屁
・爺さん、くすくす笑う
(微笑)S2悪い爺さん:S2悪い爺さん+m2笑った
・猿たちは昨日のように地蔵さまの真似をして供物を取ると言って、よってたかってかきむしる
(暴行)S3猿:S3猿-S2悪い爺さん
・悪い爺さん、血だらけになる
(怪我)S2悪い爺さん:S2悪い爺さん+m3血まみれ
・悪い婆さん、爺さんが赤い着物を着ていると思う
(誤認)S5悪い婆さん:S2悪い爺さん+O8赤い着物
・近づくと、爺さんは血だらけになって苦しんでいる
(認識)S5悪い婆さん:S2悪い爺さん+m3血まみれ

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

     聴き手(良い爺さんは無事解放されるか)
             ↓
送り手(猿) →  供物(客体)→ 受け手(良い爺さん)
             ↑
補助者(不思議な声)→ 良い爺さん(主体)← 反対者(なし)

    聴き手(悪い爺さんの真似は上手くいくか)
             ↓
送り手(猿) →  供物(客体)→ 受け手(悪い爺さん)
             ↑
補助者(不思議な声)→ 悪い爺さん(主体)← 反対者(猿)

といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。不思議な声に導かれてぶいが谷に至った良い爺さんはそこで谷に酒が湧いていることを発見します。酒を飲んで酩酊した良い爺さんを猿が地蔵と勘違いしてどこかに運び供物をします。良い爺さんはその供物を持ち帰った。一方、その真似をした悪い爺さんはうっかり笑ってしまうことで正体がばれ、猿に暴行を受けて血だらけになってしまうという筋立てです。隣の爺型のお話で両者を対比させる構成となっています。

 良い爺さん―悪い爺さん、良い爺さん―猿、悪い爺さん―猿、良い爺さん―地蔵、悪い爺さん―地蔵、といった対立軸が見受けられます。赤い着物/血まみれに暴行の形跡が、地蔵/供物に天恵が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

良い爺さん♌♁―猿☉♎―悪い爺さん♂―不思議な声☾(♌)☾(♂)

 といった風に表記できるでしょうか。猿は供物をするという点で価値☉をもたらす存在と見なすことができます。また、良い爺さんを地蔵と勘違いしたり、悪い爺さんの正体を見抜いたりしますので審判者♎と置くことができます。良い爺さんは供物を持ち帰りますので享受者♁と置けるでしょう。また、ぶいが谷の存在を告げる不思議な声は良い爺さんに対しても悪い爺さんに対しても中立であるとも見ることができます。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は猿が眠った爺さんを地蔵と勘違いすることでしょうか。「猿―地蔵/爺さん」という図式です。また、金玉がはみ出たときや屁をしたときの答えも発想の飛躍と言えるでしょう。安易に他所の真似をするものではないという教訓話となっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.121-122.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月12日 (日)

伝統か女の子のやる気をとるか

NHK Dearにっぽん「神楽響く私の“ふるさと” ~青森・牛滝地区~」をNHK+で視聴する。下北半島の西端の漁村が舞台。青森市から車で4時間もかかると言う。人口90人ほどの村。その村に帰郷した漁師一家が取り上げられる。父親は村出身の漁師。母親は隣村出身。子供は一男三女。上の姉と弟が小学校に通学している。下の妹二人はまだ幼い。小学校の生徒は姉弟の二人のみという状況。子供の多い地区で子育てがしたいと村を離れていたが、老親の介護なども視野に入り、一年前に帰郷した。村に伝わる神楽に姉弟が興味を示す。獅子が村中を練り歩く祭り。獅子頭は黒い。神社の祭神が天照大神のため、女神を嫉妬させないようこれまでは女人禁制だった。漁師は危険な職業であるため信仰深く長年に渡って伝統が守られてきた。神楽は若者(わかいもの)組によって担われている。昔は50人ほどで構成されていたが今は十数名。人手不足。伝統と女の子のやる気とどちらを取るかという問題。集会で今年初めて議題に上がり、神社以外の場所での神楽参加が認められるようになった。上の姉は笛を希望する。父親によると音が出るようになるまで何年もかかったという。練習が始まる。弟はすぐに若者組に馴染む。バチをする?ような感じの稽古を行う。上の姉はまだ笛が吹けないため太鼓を練習することになる。練習は放課後毎日続く。姉弟とも意欲的。祭りの日、上の姉は掌のまめを潰しながらも見事にやりきった。弟も獅子の近くで芸を披露する。見守る女性たちも暖かい視線を送る。夏の神楽は三か月後……といった内容。

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行為項分析――神さまから授かった下駄

◆あらすじ

 昔々、お爺さんとお婆さんが二人で暮らしていた。二人は貧乏だった。ある日お爺さんは畑から帰ると、お宮へ参ってくると言って仕事着のまま出かけていった。お爺さんはお宮へ参ってどうかお金を授けて下さいますようにと一生懸命お願いした。すると、神さまが裏庭に下駄があるから、それを持って帰れと言った。お爺さんが喜んで行ってみると、古ぼけたきたない下駄が片っぽだけあった。こんなぼろ下駄が片っぽでは仕方がないと思ったが、それでも神さまの授け物だからと思い直して持って帰った。家へ帰ってお婆さんに下駄を見せると、お婆さんはそんな古い下駄では何にもならないではないかと言った。お爺さんは捨ててしまおうかと思ったが、試しに履いてみようと思った。するとおじいさんはころりと転げた。起きてみるとその拍子にお爺さんの身体の下に金がごっそり出ていた。お爺さんは大喜びでもう一遍履いてみた。すると、またころりと転んで起きてみると身体の下にお金がごっそりあった。お爺さんは面白くなってまた転んだ。ところが不思議なことに、お爺さんが転ぶたびにお爺さんの身体は段々小さくなった。お爺さんはそれでも履いては転び、歩いて転びしたので、お金は山の様にたまった。しばらくしてお婆さんが来てみると、大きな金の山のほとりにお爺さんが虫のように小さくなっていた。

◆モチーフ分析

・貧乏な爺さんと婆さんが二人で暮らしていた
・爺さん、仕事着のままお宮に参りに行く
・爺さん、お金を授けて欲しいと祈る
・裏庭に下駄があるからそれを持って帰れと神さまが教える
・爺さんが見ると、汚い下駄がかたっぽだけだった
・神さまの授け物だからと、爺さん、下駄を持って帰る
・家に帰って婆さんに下駄を見せる
・婆さん、そんな古い下駄では何にもならないと言う
・爺さん、捨ててしまおうかと考えるが、試しに履いてみる
・爺さん、転げる
・すると、お金がどっさり出てきた
・爺さん、何度も履いては転ぶを繰り返す
・婆さんが気づくと、爺さん、虫の様に小さくなっていた

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:婆さん
S3:神さま

O(オブジェクト:対象)
O1:お宮
O2:裏庭
O3:下駄
O4:お金

m(修飾語)
m1:転んだ
m2:小さな

+:接
-:離

・貧乏な爺さんと婆さんが二人で暮らしていた
(存在)S1爺さん:S1爺さん+S2婆さん
・爺さん、仕事着のままお宮に参りに行く
(参拝)S1爺さん:S1爺さん+O1お宮
・爺さん、お金を授けて欲しいと祈る
(祈願)S1爺さん:S1爺さん+S3神さま
・裏庭に下駄があるからそれを持って帰れと神さまが教える
(啓示)S3神さま:O2裏庭+O3下駄
・爺さんが見ると、汚い下駄がかたっぽだけだった
(発見)S1爺さん:S1爺さん+O3下駄
・神さまの授け物だからと、爺さん、下駄を持って帰る
(入手)S1爺さん:S1爺さん+O3下駄
・家に帰って婆さんに下駄を見せる
(提示)S1爺さん:S2婆さん+O3下駄
・婆さん、そんな古い下駄では何にもならないと言う
(否定)S2婆さん:S2婆さん-O3下駄
・爺さん、捨ててしまおうかと考えるが、試しに履いてみる
(装着)S1爺さん:S1爺さん+O3下駄
・爺さん、転げる
(転倒)S1爺さん:S1爺さん+m1転んだ
・すると、お金がどっさり出てきた
(換金)S1爺さん:S1爺さん+O4お金
・爺さん、何度も履いては転ぶを繰り返す
(繰り返し)S1爺さん:S1爺さん+m1転んだ
・婆さんが気づくと、爺さん、虫の様に小さくなっていた
(縮小)S2婆さん:S1爺さん+m2小さな

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

      聴き手(爺さんの願いは叶うか)
             ↓
送り手(神さま)→ 下駄(客体)→ 受け手(爺さん)
             ↑
補助者(神さま)→ 爺さん(主体)← 反対者(なし)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。神さまは爺さんの願いを聞き入れて古びた下駄を一足授けます。それは転ぶと身体が小さくなる代わりにお金が出てくるものでしたが、爺さんは限度を超えて使い過ぎたために身体が虫のように小さくなってしまった……という教訓含みの内容です。

 爺さん―婆さん、爺さん―神さま、下駄―お金、お金―体が縮小、といった対立軸が見出せます。下駄/転ぶ/体が縮小にリスクを負って対価を得るといった暗喩が示されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

爺さん♌♁―神さま☉♎―婆さん☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。神さまは爺さんの願いを聞き入れお金の出る下駄を授けるという点で価値☉を体現しており、また審判者♎でもあります。婆さんの位置づけは明確ではありませんが、古びた下駄に懐疑的であり、また小さくなった爺さんを見つけますので援助者☾(-1)と見ることも可能でしょうか。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は下駄を履いて転ぶとお金が出る代償に体が小さくなることでしょうか。「爺さん―下駄/転ぶ/体が縮小―神さま」といった図式です。欲をかいてはいけないという教訓含みのお話です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.119-120.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月11日 (土)

行為項分析――大歳の火

◆あらすじ

 昔、出雲に長者の家があった。大歳の晩になった。この晩には昔から火を絶やしてはいけないことになっているので、下女や下男の中から一番年下の女中に火の番を命じて他の者は寝てしまった。女中は一生懸命寝ないようにして火の番をしていたが、昼間の疲れで眠たくなってうとうとしてしまった。気がつくと囲炉裏の火はすっかり消えていた。大切な大歳の火を消したことが分かったら大変だ。驚いた女中が辺りを見回すと向こうの山に火が見えた。女中は度胸がよいので夜中の真っ暗な中を独りその火のところへ歩いて行った。火を目当てに山の上へ登っていると、髪の真っ白な老人が一人で火を焚いていた。火をくれるように女中が頼むと、死んだ人と一緒ならあげると老人は言った。見ると火のほとりに亡者が横にしてあった。亡者と一緒でもいいから下さいと言って女中は火をもらい、亡者を背に引っかけて帰ってきた。そして亡者は庭先へ寝かせてむしろを掛けておいて火を焚きつけ夜が明けるまで一生懸命火の番をした。夜明けになって皆が起きてきた。番頭が女中をよく番をしたと褒めた。その内に皆が庭先にむしろの掛けてあるのを見つけて、これは何だろうという話になった。女中がそれを今めくってはいけないと言ったが、番頭が何気なしにめくると中からざあっと小判が出た。皆、びっくりした。それで女中が昨夜の話をすると旦那が出てきて、白髪の老人とは金の神さまだ。女中があまりに度胸がいいので今の通りになったのだろうと言った。そして女中を若旦那の奥さんにした。

◆モチーフ分析

・一番年下の女中に大歳の日の火の番が命じられる
・女中は疲労からついうとうとしてしまう
・気がつくと囲炉裏の火が消えてしまう
・山の向こうに火が見える
・女中、屋敷を出て山に向かう
・白髪の老人が火を焚いていた
・老人、亡者と一緒なら火をあげると言う
・女中、応じる
・女中、亡者を背負って火を屋敷に運ぶ
・亡者を庭におき、むしろを掛ける
・女中、火の番を終える
・他の者たち、起きてくる
・番頭、女中を褒める
・庭のむしろが皆の目に入る
・番頭がめくってみると小判の山だった
・女中、昨夜の経緯を話す
・旦那が出てきて、それは金の神だと言う
・女中、若旦那と結婚する

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:女中
S2:番頭
S3:白髪の老人
S4:使用人
S5:旦那
S6:金の神
S7:若旦那

O(オブジェクト:対象)
O1:火の番
O2:囲炉裏
O3:火
O4:山
O5:亡者
O6:屋敷
O7:むしろ
O8:小判の山

m(修飾語)
m1:うとうとした

+:接
-:離

・一番年下の女中に大歳の日の火の番が命じられる
(下命)S2番頭:S1女中+O1火の番
・女中は疲労からついうとうとしてしまう
(まどろみ)S1女中:S1女中+m1うとうとした
・気がつくと囲炉裏の火が消えてしまう
(失態)S1女中:O2囲炉裏-O3火
・山の向こうに火が見える
(視認)S1女中:O3火+O4山
・女中、屋敷を出て山に向かう
(出発)S1女中:S1女中+O4山
・白髪の老人が火を焚いていた
(遭遇)S1女中:S1女中+S3白髪の老人
・老人、亡者と一緒なら火をあげると言う
(提案)S3白髪の老人:S3白髪の老人+S1女中
・女中、応じる
(応諾)S1女中:S1女中+O3火+O5亡者
・女中、亡者を背負って火を屋敷に運ぶ
(運搬)S1女中:O3火+O4亡者+O6屋敷
・亡者を庭におき、むしろを掛ける
(隠ぺい)S1女中:O5亡者+O7むしろ
・女中、火の番を終える
(終業)S1女中:S1女中-O1火の番
・他の者たち、起きてくる
(起床)S4使用人:S4使用人+O2囲炉裏
・番頭、女中を褒める
(賞賛)S2番頭:S2番頭+S1女中
・庭のむしろが皆の目に入る
(目撃)S4使用人:S4使用人+O7むしろ
・番頭がめくってみると小判の山だった
(発見)S2番頭:O7むしろ+O8小判の山
・女中、昨夜の経緯を話す
(告白)S1女中:S1女中+S2番頭
・旦那が出てきて、それは金の神だと言う
(解釈)S5旦那:S3白髪の老人+S6金の神
・女中、若旦那と結婚する
(結婚)S5旦那:S1女中+S7若旦那

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

      聴き手(なぜ亡者を一緒に運ぶのか)
             ↓
送り手(白髪の老人)→ 亡者(客体)→ 受け手(女中)
             ↑
補助者(なし)  →  女中(主体)← 反対者(なし)

     聴き手(女中の秘密はばれないか)
             ↓
送り手(女中)→ 亡者にかけたむしろ(客体)→ 受け手(旦那)
             ↑
補助者(金の神)→   女中(主体)    ← 反対者(なし)

といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。女中は火の番を任されるもののうとうとして肝心の火を消してしまいます。その後女中は暗い中山の中へと進み、白髪の老人から亡者とセットで火を得て屋敷に持ち帰ります。亡者にむしろをかけて隠していましたが番頭がむしろをめくるとそこから小判の山が出てきたということで、亡者が小判の山に転化したという話となっています。更に女中は度胸の良さを認められて若旦那と結婚するという筋立てとなっています。

 亡者―小判の山、白髪の老人―金の神、女中―白髪の老人、といった対立軸が見出せるでしょうか。亡者/小判の山から女中の度胸の良さに対する金の神の恵みが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

女中♌♁―白髪の老人☉―番頭☾(♌)―旦那♎

 といった風に表記できるでしょうか。白髪の老人は女中の勇気に対し火と小判の山をもたらしますので価値☉と置けるでしょう。番頭は女中の援助者☾と置けるでしょうか。旦那は白髪の老人は金の神だろうと判断し、若旦那と女中を娶せますので審判者♎と置けるでしょう。その点で女中は享受者♁でもあります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は亡者が小判の山に変化することでしょうか。「女中―火―亡者/小判―白髪の老人」という図式です。

 大歳の火は消してはならないという禁忌がありますが、女中はそれを破ってしまいます。ところが女中は事態を打開するために自身で行動して、亡者すら担いでしまうといった豪胆な行動を見せます。これは金の神から与えられた試練かもしれません。こういった行動力が金の神の心を動かしたのでしょう。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.116-118.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月10日 (金)

行為項分析――とりつこうかひっつこうか

◆あらすじ

 昔、あるところに爺さんと婆さんがいた。爺さんは山へ木こりに行った。婆さんは後から弁当を持っていった。松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がした。恐ろしくなった婆さんは急いで爺さんのところへ行った。帰りはどうしようかと婆さんが言うと「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と言えと教えた。そこで婆さんが帰りに松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がしたのでは婆さんは爺さんに聞いた通りに言った。そうしたら大判、小判、白金が手も足も動かないほどに引っ付いた。婆さんはうんうん唸って家に戻って、身体にひっついた黄金、白金、大判、小判をむしりとって大金持ちになった。

 これを隣の婆さんが聞いて、爺さんを無理やり山へ木こりにやった。そして後から弁当を持っていった。松の木原を通りかかると「とりつこうかひっつこうか」と声がした。帰りにまた声がした。婆さんは「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言った。すると婆さんの身体に松やにが一杯引っ付いた。そこへ六部さんが通りかかった。婆さんがうんうん唸っているので具合が悪いのか訊いたところ、「具合どころではない。松やにだらけで手も足も動かされん」と言った。そこで六部さんがこの松やにを取るには家へ帰って大火を焚いて焙(あぶ)れと言った。そこで婆さんは家へ帰って大火を焚いて焙った。そうしたら、婆さんの身体に火がついて、婆さんは焼け死んだ。人まねをして欲張るものではない。

◆モチーフ分析

・爺さん、山へ木こりに行く
・婆さん、弁当を持っていく
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
・婆さん、爺さんにどうするか相談する
・爺さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と教える
・婆さん、爺さんに言われた通りにする
・大判、小判、白金が身体にひっつく
・爺さんと婆さん、大金持ちになる
・隣の婆さん、爺さんを無理やり木こりにやる
・隣の婆さん、弁当を持っていく
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
・帰りに声がして婆さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言う
・松やにが隣の婆さんの身体につく
・通りかかった六部が火を焚いて焙れと教える
・焙ったら、松やにに火がついて隣の婆さんは死んでしまう

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:婆さん
S3:声
S4:隣の婆さん
S5:隣の爺さん
S6:六部

O(オブジェクト:対象)
O1:山
O2:木こり
O3:弁当
O4:解答
O5:大判小判
O6:松やに
O7:火

m(修飾語)
m1:金持ち

+:接
-:離

・爺さん、山へ木こりに行く
(出勤)S1爺さん:S1爺さん+O1山
・婆さん、弁当を持っていく
(持参)S2婆さん:S2婆さん+O3弁当
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
(問いかけ)S3声:S3声+S2婆さん
・婆さん、爺さんにどうするか相談する
(相談)S2婆さん:S2婆さん+S1爺さん
・爺さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ、黄金、白金、大判も小判もひっつけ」と教える
(教示)S1爺さん:S2婆さん+O4解答
・婆さん、爺さんに言われた通りにする
(解答)S2婆さん:O4回答+S3声
・大判、小判、白金が身体にひっつく
(付着)S3声:S2婆さん+O5大判小判
・爺さんと婆さん、大金持ちになる
(致富)S3声:S1爺さん+S2婆さん+m1金持ち
・隣の婆さん、爺さんを無理やり木こりにやる
(強制)S4隣の婆さん:S5隣の爺さん+O2木こり
・隣の婆さん、弁当を持っていく
(持参)S4隣の婆さん:S5隣の爺さん+O3弁当
・途中で「とりつこうかひっつこうか」と声がした
(問いかけ)S3声:S3声+S4隣の婆さん
・帰りに声がして婆さん、「とりつかばとりつけ、ひっつかばひっつけ」と言う
(解答)S4隣の婆さん:S3声+O4解答
・松やにが隣の婆さんの身体につく
(付着)S3声:S4隣の婆さん+O6松やに
・通りかかった六部が火を焚いて焙れと教える
(教示)S6六部:O6松やに+O7火
・焙ったら、松やにに火がついて隣の婆さんは死んでしまう
(焼死)S4婆さん:S4婆さん+O7火

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

    聴き手(問いかけの意味は何か)
           ↓
送り手(声)→ 解答(客体)→ 受け手(婆さん)
           ↑
補助者(爺さん)→ 婆さん(主体)← 反対者(声)

    聴き手(婆さんと同じ結果になるか)
           ↓
送り手(声)→ 婆さんと同じ解答(客体)→ 受け手(隣の婆さん)
           ↑
補助者(隣の爺さん)→ 隣の婆さん(主体)← 反対者(声)

といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。「隣の爺さん」型のお話では行為項モデルが複数作成されることになります。婆さんは謎の声の問いかけに対し、爺さんの教え通りに裕福になれと切り返したところ、その通りに大判小判を得ます。対して隣の婆さんは真似をしたところ、松やにが身体に付着して身動きできなくなります。それどころか火で炙れと間違った教えを受けて焼死してしまうという結末となります。

 婆さん―隣の婆さん、爺さん―隣の爺さん、大判小判―松やに、といった対立軸が見られるでしょうか。松やに/火に着火して燃えてしまうことが暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

婆さん♌♁―隣の婆さん♂―声♎―爺さん☾(♌)―隣の爺さん☾(♂)―六部☾(♂)

 といった風に表記できるでしょうか。大判小判を得て裕福になることを価値☉とおくと、婆さんが享受者♁となります。隣の婆さんが対立者♂で謎の声が審判者♎となります。爺さんは婆さんに知恵を授けるので援助者☾となります。六部は誤った知識で隣の婆さんを死に至らしめますので援助者☾(-1)と置くことができるでしょうか。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は婆さんと隣の婆さんとでくっつくものが違うことでしょうか。「婆さん―大判小判―声」「隣の婆さん―松やに―声」の図式です。「隣の婆さん―松やに―火」の図式も発想の飛躍と言えます。

 謎の声は隣の婆さんにも機知の富んだ解答を期待していたのかもしれません。解答が丸写しだったのでつまらない結果を返したのかもしれません。松やには手につくと、中々落ちなくて大変です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.113-115.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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2024年5月 4日 (土)

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