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2024年4月18日 (木)

行為項分析――賀茂神社の三重の塔

◆あらすじ

 昔、石見町中野の賀茂神社の三重の塔を建てた時のこと。この塔は有名な左甚五郎に頼んで建てた。甚五郎は日本一の大工だから、どんな力を持っているかと思って原山の山姥が様子を見にやってきた。山姥が甚五郎にこの塔を一夜で建てることができるか尋ねた。甚五郎は一夜で建ててみせると請け負った。すると山姥が甚五郎が一夜で建てるなら自分も一夜で機を織ってその布で原山を包んでみせると言った。勝負をすることになった。夕方から仕事にかかった甚五郎は一生懸命細工をしたが夜明け近くなったので、ふと原山の方をみると、一面に白い布らしいものが山を包んでいる。負けてしまったと思った甚五郎は道具を片付けて早々に逃げ出した。日和を通って川戸越しの月の夜という所まで逃げたが、夜が明けたので原山の辺りを見回すとどうしたことか別に白い布らしいものは掛かっていない。よく考えてみると、どうも月の光で白く見えたのを布で包んであると勘違いしたのだと気がついた。しかし、今更帰る訳にもいかないので逃げていった。「月の夜」という地名は今でも残っている。

◆モチーフ分析

・賀茂神社の三重の塔を左甚五郎が建てた
・様子を見に原山の山姥がやって来た
・山姥、塔を一夜で建てることが出来るか甚五郎に尋ねる
・甚五郎、一夜で出来ると請け負う
・山姥、ならば自分は一夜で機を織って原山を包んでみせると言った
・甚五郎と山姥、勝負することになる
・夕方から仕事を始めた甚五郎、夜明け近くに原山の方を見ると、一面に白い布が包んである
・負けたと思った甚五郎、道具を片付けて逃げ出す
・月の夜まで逃げたが、夜明けに原山を見ると白い布は掛かっていない
・月の光で白く見えたのを勘違いしたらしい
・今更帰る訳にはいかないので逃げていった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:左甚五郎
S2:山姥

O(オブジェクト:対象)
O1:賀茂神社
O2:三重の塔
O3:原山
O4:白い布
O5:月の夜
O6:月の光

m(修飾語)
m1:一夜の

+:接
-:離

・賀茂神社の三重の塔を左甚五郎が建てた
(建築)S1左甚五郎:S1左甚五郎+O2三重の塔
・様子を見に原山の山姥がやって来た
(来訪)S2山姥:S2山姥+O1賀茂神社
・山姥、塔を一夜で建てることが出来るか甚五郎に尋ねる
(質問)S2山姥:S2山姥+S1左甚五郎
・甚五郎、一夜で出来ると請け負う
(請負)S1左甚五郎:S1左甚五郎+m1一夜の
・山姥、ならば自分は一夜で機を織って原山を包んでみせると言った
(応酬)S2山姥:S2山姥+m1一夜の
・甚五郎と山姥、勝負することになる
(勝負)S1左甚五郎:S1左甚五郎+S2山姥
・夕方から仕事を始めた甚五郎、夜明け近くに原山の方を見ると、一面に白い布が包んである
(視認)S1左甚五郎:S1左甚五郎+O4白い布
・負けたと思った甚五郎、道具を片付けて逃げ出す
(逃亡)S1左甚五郎:S1左甚五郎-O1賀茂神社
・月の夜まで逃げたが、夜明けに原山を見ると白い布は掛かっていない
(逃亡)S1左甚五郎:S1左甚五郎+O5月の夜
(視認)S1左甚五郎:O3原山-O4白い布
・月の光で白く見えたのを勘違いしたらしい
(誤認)S1左甚五郎:S1左甚五郎-O3原山
・今更帰る訳にはいかないので逃げていった
(逃亡)S1左甚五郎:S1左甚五郎-O1賀茂神社

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

  聴き手(左甚五郎は山姥との勝負に勝てるか)
             ↓
送り手(左甚五郎)→ 三重の塔(客体)→ 受け手(山姥)
             ↑
補助者(なし) →  左甚五郎(主体)← 反対者(山姥)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。左甚五郎は賀茂神社の三重の塔を一晩で完成させる、山姥は一晩で原山を布で覆うと勝負します。月の光を白い布と誤認した左甚五郎は負けたと逃亡してしまいます。後にそれは誤認だったと分かりますが今更戻る訳にもいかなかったというお話です。

 左甚五郎―山姥、三重の塔―白い布、白い布―月の光、といった対立軸が見出せます。月の光/白い布といった誤認の暗喩が同定できます。

 左甚五郎は伝説的な腕前の大工です。対する山姥は超自然的な力の象徴です。両者を対比させることで伝説の面白みが生じます。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

左甚五郎♌♎♁―山姥♂

 といった風に表記できるでしょうか。価値☉を勝負に勝つこととすると、左甚五郎は享受者となります。また、自身で勝ち負けを判断していますので審判者♎ともおけます。左甚五郎と山姥との二人だけの勝負となりますので援助者は存在しません。

◆元型分析

 山姥はユングの元型(アーキタイプ)として解釈すると太母(great mother)とおけるでしょうか。超自然的な力の象徴である山姥は時として人を喰らう恐ろしい存在でもあります。このお話では山姥は逃げ出した左甚五郎に対して特に何もしていません。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は一夜で山を布で覆うと宣言するところでしょうか。「左甚五郎―塔/布―山姥」といった図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.97-98.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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