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2024年4月26日 (金)

行為項分析――狸と狐

◆あらすじ

 狐と狸が出会った。狐が狸に空死にするように言って、狐は猟師に化けて狸を背負って町へ出て狸を売った。狐は狸は空死にするものだから、しっかり縛り付けておくように言ったので買い手は狸をしっかり縛った。狐の猟師は狸を売った金で焼き餅を買って、吊されている狸のところへ行って、焼き餅を買ったから下りてこいと言った。しっかり縛られているので中々身体が抜けない。ようやく下りてくると狐は焼き餅を全部食べてしまった。狸は皆食ったとプンプン怒った。狸は仇をとってやるぞと思って翌晩狐のところに鮒(ふな)を持っていった。狐がどうして獲ったか訊くと、狸は夜に堤へ尻尾をつけているといくらでも食いつくと言った。狐は狸に案内されて堤へ行った。そして狸の言う通り尻尾を水につけてじっとしていた。狸がまだまだと言うので狐はじっと尻尾をつけていた。そうして夜中尻尾を堤につけていたので氷が張って尻尾がとれなくなった。夜が明けて動けなくなっているところを人に見つけられ、散々な目に遭った。

◆モチーフ分析

・狐と狸が出会った
・狸に空死にするように言い、狐は猟師に化けて狸を売る
・買い手、言われた通りに狸をしっかり縛る
・狐、狸を売った金で焼き餅を買う
・狐、狸に降りてこいと言う
・狸、しっかり縛られているため身体が抜けない
・ようやく下りてくると、狐は焼き餅を全部食べてしまった
・狸、狐が全部食べたと怒る
・狸、仇を取るために翌晩狐のところに鮒を持っていく
・狸、夜に堤に尻尾をつけていると食いつくと言う
・狐、狸に連れられて堤へ行く
・狐、狸の言う通り、尻尾を水につける
・狐、尻尾を水につけ続ける
・氷が張って、狐、動けなくなる
・夜が明けて人に見つかり、散々な目に遭う

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:狐
S2:狸
S3:猟師
S4:買い手
S5:人

O(オブジェクト:対象)
O1:金
O2:焼き餅
O3:鮒
O4:堤
O5:尻尾
O6:水
O7:散々な目

m(修飾語)
m1:空死に
m2:縛られた
m3:凍った
m4:動けない

+:接
-:離

・狐と狸が出会った
(遭遇)S1狐:S1狐+S2狸
・狸に空死にするように言い、狐は猟師に化けて狸を売る
(偽装)S1狐:S2狸+m1空死に
(変装)S1狐:S1狐+S3猟師
(売却)S1狐:S3猟師-S2狸
・買い手、言われた通りに狸をしっかり縛る
(緊縛)S4買い手:S2狸+m2縛られた
・狐、狸を売った金で焼き餅を買う
(購入)S1狐:S1狐+O2焼き餅
・狐、狸に降りてこいと言う
(声かけ)S1狐:S1狐+S2狸
・狸、しっかり縛られているため身体が抜けない
(苦闘)S2狸:S2狸-m2縛られた
・ようやく下りてくると、狐は焼き餅を全部食べてしまった
(消尽)S1狐:S2狸-O2焼き餅
・狸、狐が全部食べたと怒る
(激怒)S2狸:S1狐+O2焼き餅
・狸、仇を取るために翌晩狐のところに鮒を持っていく
(持参)S2狸:S1狐+O3鮒
・狸、夜に堤に尻尾をつけていると食いつくと言う
(入れ知恵)S2狸:S1狐+O5尻尾
・狐、狸に連れられて堤へ行く
(移動)S2狸:S1狐+O4堤
・狐、狸の言う通り、尻尾を水につける
(釣り)S1狐:O5尻尾+O6水
・狐、尻尾を水につけ続ける
(継続)S1狐:O5尻尾+O6水
・氷が張って、狐、動けなくなる
(氷結)S1狐:O5尻尾+m3凍った
(拘束)S1狐:S1狐+m4動けない
・夜が明けて人に見つかり、散々な目に遭う
(被害)S5人:S1狐+O7散々な目

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

    聴き手(狐はどんな意地悪をするか)
           ↓
送り手(狐)→ 死んだふり(客体)→ 受け手(狸)
           ↑
補助者(なし)→ 狐(主体)← 反対者(狸)

    聴き手(狸は仕返しできるか)
           ↓
送り手(狸)→ 鮒(客体)→ 受け手(狐)
           ↑
補助者(なし)→ 狸(主体)← 反対者(狐)

といった二つの行為項モデルが作成できるでしょうか。狐は狸に死んだふりをさせて売り飛ばしてしまいます。そしてその金で焼き餅を買って全部食べてしまいます。怒った狸は鮒が釣れると狐を騙して尻尾の釣りをさせます。尻尾が凍り付いて動けなくなった狐は酷い目に遭ったという筋立てです。狐の意地悪と狸の仕返しが描かれています。狐と狸が争う話では狐が勝つ話が多いように思えますが、この話では狸がきっちりと復讐します。

 狐―狸、焼き餅―鮒、死んだふり―尻尾の釣り、といった対立軸が見出せるでしょうか。尻尾/釣りに狐の間抜けな一面が暗喩されています。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

狸♌♁―狐♂―買い手♎☾(♂)―人♎☾(♌)

 といった風に表記できるでしょうか。仕返しすることを価値☉と置くと、狸は享受者♁となります。買い手は死んだふりをした狸を買い取り、人は尻尾が凍り付いた狐を発見しますので審判者♎と置くことができるでしょうか。買い手は狐に金を渡しますので狐の援助者☾、人は狸の援助者☾と見ることも可能です。

◆発想の飛躍

 狐と狸の化かし合いが発想の飛躍でしょうか。「狐―焼き餅―狸」「狸―鮒―狐」といった図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.110-112.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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