行為項分析――久手の狐
◆あらすじ
新田(しんた)に喜六という男がいて久手(くて)の西田屋へ奉公していた。その頃は狐がたくさんいて夜になると畑へ出て芋を掘るので小屋がけして芋番をしていた。喜六も毎晩芋番に出ていた。ある日芋番をしていると狐が出てきた。喜六は持っていた鎌を力まかせに投げつけた。鎌は当たらなかったが、驚いた狐は逃げていった。
それから三日目の晩、喜六はいつもの様に芋番に出ていると、狐が喜六の友達の姿になってやって来た。友達は観音さまの庭で踊りの最中だ。親方も見ていないし、これから踊りに行こうと誘った。応じた喜六は観音さまの庭で踊り始めた。その内訳が分からなくなってしまった。
一方、西田屋では朝になっても喜六が帰ってこないので大騒ぎとなって、村中総出で喜六を探した。四日目の朝、喜六は新田の実家の納屋の入口に髪をおどろにして身体中血だらけになって放心して座っていた。
◆モチーフ分析
・喜六という男がいて西田屋へ奉公していた
・狐が畑で芋を掘るので喜六も芋番をしていた
・ある日、芋番をしていると狐が出てきた
・喜六、鎌を投げつけた
・鎌は当たらなかったが、狐は驚いて逃げた
・それから数日、芋番に出ていると友人(狐)がやってきた
・友人、観音さまの庭で踊りをやっていると喜六を誘う
・喜六、親方もいないしと踊りに行くことにする
・踊っていると訳が分からなくなる
・西田屋では喜六がいなくなったと大騒ぎとなる
・村中総出で探す
・四日目に血だらけの姿で新田の実家で見つかる
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:喜六
S2:狐
S3:友人(狐)
S4:親方
S5:村人
O(オブジェクト:対象)
O1:新田
O2:久手
O3:西田屋
O4:芋
O5:鎌
O6:観音さまの庭
O7:踊り
m(修飾語)
m1:前後不覚
+:接
-:離
・喜六という男がいて西田屋へ奉公していた
(存在)S1喜六:S1喜六+O3西田屋
・狐が畑で芋を掘るので喜六も芋番をしていた
(監視)S1喜六:S2狐+O4芋
・ある日、芋番をしていると狐が出てきた
(出現)S1喜六:S1喜六+S2狐
・喜六、鎌を投げつけた
(攻撃)S1喜六:S2狐+O5鎌
・鎌は当たらなかったが、狐は驚いて逃げた
(逃走)S2狐:S2狐-S1喜六
・それから数日、芋番に出ていると友人(狐)がやってきた
(来訪)S1喜六:S1喜六+S3友人(狐)
・友人、観音さまの庭で踊りをやっていると喜六を誘う
(誘惑)S3友人(狐):S1喜六+O7踊り
・喜六、親方もいないしと踊りに行くことにする
(離脱)S1喜六:S1喜六-S4親方
・踊っていると訳が分からなくなる
(前後不覚)S1喜六:S1喜六+m1前後不覚
・西田屋では喜六がいなくなったと大騒ぎとなる
(騒動勃発)O3西田屋:O3西田屋-S1喜六
・村中総出で探す
(捜索)S5村人:S5村人+S1喜六
・四日目に血だらけの前後不覚の姿で新田の実家で見つかる
(発見)S5村人:S1喜六+m1前後不覚
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(果たして喜六は仕返しされるか)
↓
送り手(狐)→ 踊り(客体)→受け手(喜六)
↑
補助者(友人)→ 喜六(主体)← 反対者(狐)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。喜六は芋を盗りに来た狐に鎌を投げつけます。鎌は命中しなかったものの狐の強い恨みをかってしまうという筋立てです。巧みに踊りに誘われた喜六は狐の力で前後不覚となってしまい仕返しされます。
喜六―狐、喜六―友人、踊り―前後不覚、前後不覚―血みどろ、久手―新田、といった対立軸が見出せます。踊り/前後不覚といった暗喩が同定できます。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
喜六♌☾(☉)―友人(狐)☾(♂)―狐♂―村人♎☾(♌)
といった風に表記できるでしょうか。芋を奪われないことを価値☉とすると芋番をする喜六は一応援助者☾(☉)とおけるでしょうか。狐が化けた友人は同一人物ですが狐の援助者☾(♂)と見なすことができます。村人は喜六を発見した後で事情を知るでしょうからここでは審判者♎としました。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は踊っている内に前後不覚に陥ることでしょうか。「喜六―踊り/前後不覚―狐」という図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.75-76.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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