« 行為項分析――嫁と姑 | トップページ | 行為項分析――久手の狐 »

2024年4月10日 (水)

行為項分析――お松狐

◆あらすじ

 浄福寺が鳥越(とりごえ)にあった頃、ここではお松狐に化かされる者が沢山いた。鳥居村迫(さこ)の原政四郎が魚商人をしていた。ある日魚を売っての帰りがけ、日の暮れぬ時刻に浄福寺の後ろを通りかかるとにわかに暗くなった。政四郎は自分を化かそうとしても叶わない。お松は七変化しか知らないだろうが自分は九変化できる皮をもっているからと叫んだ。すると元の様に明るくなった。そしてお松狐が出てきて政四郎の九変化の皮と自分の七変化の皮を換えてくれと頼んだ。政四郎は家へ連れて帰って座布団にしている猫の皮を出して、七変化の皮と取り替えた。そして近いうちに宮脇で婚礼があるから、この皮を被ってご馳走をよばれるとよいと教えた。さて、宮脇の婚礼の晩になると、お松は九変化の猫の皮を被ってのこのこと座敷へ上がっていった。宮脇ではこの狐めとよってたかって殴りつけた。お松はやっとのことで逃げて帰った。政四郎に騙されたと気づいたお松は七変化の皮を返して欲しいと頼んだ。政四郎はもう人を化かさないと約束させて返してやった。それから浄福寺のところで人が化かされることはなくなった。

◆モチーフ分析

・鳥越ではお松狐に化かされる者が大勢いた
・魚商人の政四郎が魚を売っての帰りがけに浄福寺の辺りを通りかかる
・急に暗くなる
・政四郎、自分は九変化の皮を持っているから化かされないと叫んだ
・お松狐が現れ、自分の七変化の皮と交換して欲しいと頼む
・政四郎、座布団にしていた猫の皮を七変化の皮と交換する
・近い内に婚礼があるから九変化の皮を被ってご馳走をよばれるといいと教える
・お松狐、九変化の皮を被って婚礼の席に出る
・狐とばれて散々な目に遭う
・政四郎に騙されたと悟ったお松狐は七変化の皮を返して欲しいと頼む
・政四郎、これから先は人を化かさないと約束させて皮を返す
・それから浄福寺で人が化かされることはなくなった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:お松狐
S2:村人
S3:政四郎

O(オブジェクト:対象)
O1:浄福寺
O2:九変化の皮
O3:七変化の皮
O4:猫の皮
O5:婚礼の席

m(修飾語)
m1:暗い

+:接
-:離

・鳥越ではお松狐に化かされる者が大勢いた
(被害)S2村人:S1お松狐-S2村人
・魚商人の政四郎が魚を売っての帰りがけに浄福寺の辺りを通りかかる
(通貨)S3政四郎:S3政四郎+O1浄福寺
・急に暗くなる
(暗転)O1浄福寺:O1浄福寺+m1暗い
・政四郎、自分は九変化の皮を持っているから化かされないと叫んだ
(否定)S3政四郎:S1お松狐-O2九変化の皮
・お松狐が現れ、自分の七変化の皮と交換して欲しいと頼む
(依頼)S1お松狐:S1お松狐+O3七変化の皮
・政四郎、座布団にしていた猫の皮を七変化の皮と交換する
(交換)S3政四郎:S3政四郎+O3七変化の皮
・近い内に婚礼があるから九変化の皮を被ってご馳走をよばれるといいと教える
(教唆)S3政四郎:S3政四郎+S1お松狐
・お松狐、九変化の皮を被って婚礼の席に出る
(出席)S1お松狐:S1お松狐+O5婚礼の席
・狐とばれて散々な目に遭う
(発覚)S1お松狐:S2村人-S1お松狐
・政四郎に騙されたと悟ったお松狐は七変化の皮を返して欲しいと頼む
(再依頼)S1お松狐:S1お松狐+S3政四郎
・政四郎、これから先は人を化かさないと約束させて皮を返す
(返却)S3政四郎:S3政四郎-O3七変化の皮
・それから浄福寺で人が化かされることはなくなった
(平和)S2村人:S2村人-S1お松狐

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(政四郎はお松狐を騙せるか)
           ↓
送り手(政四郎)→ 猫の皮(客体)→受け手(お松狐)
           ↑
補助者(なし)→ 政四郎(主体)← 反対者(お松狐)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。政四郎は九変化の皮と偽って猫の皮をお松狐に渡します。お松狐より能力が上だと欺くのです。それを信じたお松狐は猫の皮を被って婚礼の席に呼ばれて散々な目に遭ってしまうという筋立てです。

 お松狐―村人、お松狐―政四郎、お松狐―婚礼の席の人々、七変化の皮―九変化の皮、といった対立軸が見出せます。皮/変化という暗喩が同定できます。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

政四郎♌―お松狐♂☉―婚礼の席の人々☾(♌)―村人♁

 といった風に表記できるでしょうか。ここではお松狐の持つ七変化の皮が価値☉でしょうか。政四郎によってお松狐は人を化かすのを止めますので享受者♁は村人となります。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は九変化の皮でしょうか。「政四郎―九変化/七変化―お松狐」の図式です。狐を欺く知恵を発揮するという点で特徴的なお話です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.73-74.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

|

« 行為項分析――嫁と姑 | トップページ | 行為項分析――久手の狐 »

昔話」カテゴリの記事