行為項分析――榎の木山の山姥
◆あらすじ
清見の大掛と平田の田原との境に榎(えのき)の木山という山がある。むかし榎の木山に山姥がいて大掛の川渕や田原の伊の木へ時々木綿を引きに出てきた。山姥は一日に糸巻きの管にやっと二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと不思議に巻いても巻いても糸が出てきて榎の木山の高さよりもっと長く出た。山姥の髪は真っ白だったが、山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くしていつまでも流れた。その後榎の木山の持ち主が山の木を伐り払ったため、山姥は髪の白いのが恥ずかしくていることができず石見町の原山へ逃げていった。その時、清見の川渕と田原の伊の木の二軒だけは食物に不自由のないようにといって飯杓子を一本ずつ渡して、飯が少ないときはこの杓子でまぜるといくらでも増えると教えていった。ところが伊の木では父親が外から帰ってきてこんな汚い杓子はいらんと捨ててしまった。後からその杓子の有り難さを知って探しに行ったが、どこにも見えなかった。山姥が田原の金沢へ一度宿を借りに来た。気持ちよく宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をあげるから、これからは水に不自由はせぬと言った。この水は濁っているが今でも絶えることはない。榎の木山の九合目には山姥のせんち石といって山姥がせんちにした跡という岩がある。
◆モチーフ分析
・昔、榎の木山に山姥がいて時々木綿を引きに出てきた
・一日に糸巻きの管に二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと巻いても巻いても糸が出てきた
・山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くした
・榎の木山の木が伐り払われたため、山姥は恥ずかしがって原山へ逃げていった
・その際、二軒の家に飯杓子を渡した
・その飯杓子で混ぜると飯が幾らでも増えた
・伊の木では父親が汚いといって飯杓子を捨ててしまった
・後でありがたさを知って探したが見つからなかった
・山姥に宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をくれた
・その水は濁っているが涸れることがない
・山姥が雪隠にしたという岩がある
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:山姥
S2:家
S3:伊の木の父親
O(オブジェクト:対象)
O1:榎の木山
O2:木綿
O3:かせ
O4:糸
O5:とぎ汁
O6:榎の木川
O7:飯杓子
O8:飯
O9:宿
O10:とぎ汁
O11:雪隠
O12:岩
m(修飾語)
m1:白い
m2:増えた
m3:濁った
m4:涸れない
+:接
-:離
・昔、榎の木山に山姥がいて時々木綿を引きに出てきた
(存在)S1山姥:S1山姥+O1榎の木山
(糸引き)S1山姥:S1山姥+O2木綿
・一日に糸巻きの管に二本くらいしか引かなかったが、かせに巻くと巻いても巻いても糸が出てきた
(増殖)S1山姥:O3かせ+O4糸
・山姥が米をとぐとぎ汁は榎の木川を白くした
(着色)S1山姥:O6榎の木川+m1白い
・榎の木山の木が伐り払われたため、山姥は恥ずかしがって原山へ逃げていった
(移住)S1山姥:S1山姥-O1榎の木山
・その際、二軒の家に飯杓子を渡した
(譲渡)S1山姥:S2家+O7飯杓子
・その飯杓子で混ぜると飯が幾らでも増えた
(増殖)S2家:O7飯杓子+O8飯
・伊の木では父親が汚いといって飯杓子を捨ててしまった
(廃棄)S3伊の木の父親:S2家-O7飯杓子
・後でありがたさを知って探したが見つからなかった
(捜索)S3伊の木の父親:S3伊の木の父親-O7飯杓子
・山姥に宿を貸したところ、お礼に米のとぎ汁をくれた
(宿泊)S2家:S1山姥+O9宿
(贈与)S1山姥:S2家+O10とぎ汁
・その水は濁っているが涸れることがない
(濁り)O10とぎ汁:O10とぎ汁+m3濁った
(増殖)O10とぎ汁:O10とぎ汁+m4涸れない
・山姥が雪隠にしたという岩がある
(存在)O12岩:S1山姥+O11雪隠
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(山姥の能力はどのようなものか)
↓
送り手(山姥)→ 糸引き(客体)→ 受け手(山姥)
↑
補助者(なし)→ 山姥(主体)← 反対者(なし)
聴き手(山姥が渡したものの効用は何か)
↓
送り手(山姥)→ 飯杓子(客体)→ 受け手(家)
↑
補助者(なし)→ 山姥(主体)← 反対者(伊の木の父親)
聴き手(山姥が渡したものの効用は何か)
↓
送り手(山姥)→ とぎ汁(客体)→ 受け手(家)
↑
補助者(なし)→ 山姥(主体)← 反対者(なし)
といった三つの行為項モデルが作成できるでしょうか。榎の木山の山姥は超自然的な力を持っており周辺の人々に幸をもたらします。そういった点では害意のない山姥像が描かれています。
山姥―糸、山姥―飯杓子、山姥―とぎ汁、といった対立軸が見出せます。飯杓子/とぎ汁から尽きることのない豊饒さの暗喩が同定できます。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
山姥♌☉―家♁☾(♌)―伊の木の父親♂♎
といった風に表記できるでしょうか。山姥のもたらす豊饒さを価値☉と置くと、家の者はその享受者♁となります。おそらく彼らは山姥に親切に接しているはずなので援助者☾とも見なせます。伊の木の父親は山姥のもたらした飯杓子の価値を見誤りますので審判者♎(-1)とでも置けるでしょうか。
◆元型分析
ユングの提唱した元型(アーキタイプ)ですと山姥は一般的に太母(great mother)とおけるでしょう。榎の木山の山姥は恥ずかしがりやで、また周囲の人々に親切であるという点では太母的ではありません。ただ、超自然的な力を発揮して豊饒さをもたらすという点では太母的です。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は山姥のもたらす豊饒さでしょうか。「山姥―糸巻き/飯杓子/とぎ汁―尽きない」といった図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.104-105.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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