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2024年4月 4日 (木)

行為項分析――大森銀山

◆あらすじ

 昔、博多にゆう丹という船乗りがいた。ある年の初夢に梶の棒が折れた夢をみた。縁起が悪いのでゆう丹は起きずに寝ていた。妻が心配したので夢見が悪いと訳を話した。妻はそれは吉夢だと答えた。博多のゆう丹己詩(おれかじ)と言うではないかと。ゆう丹は喜んで起きた。

 間もなく萩へ向かって出帆した。にわかに大南風(はえ)になって朝鮮の近くまで流された。そこへ南風のかわしが来たので、あの手この手で地方(じかた)に近づこうと努めたが、萩へ入ることができない。とうとう温泉津(ゆのつ)を過ぎて琴ヶ浜の神子地(みこじ)に着いた。

 船を浜に上げて痛んだところを修理していると、大森から薪を売る者が来た。見ると薪の間に銀鉱がついていた。驚いて尋ねたところ、こんな石はいくらでもあると答えた。ゆう丹は倍払うからと言って船一杯の石を買いつけた。薪売りはゆう丹を馬鹿だと思った。帰ったゆう丹はそれを売って大もうけした。

 また神子地へやって来たゆう丹だったが、薪売りはまた馬鹿な船頭が来たので石を出し始めたところ、船に半分出したところで代官から出してはいけないとなった。代官が石を鑑定させたところ銀鉱だと分かったからである。

 ゆう丹は仕方なく船半分の荷を積んで帰ったが、今度は博多を引き上げて大森へやってきて銀を掘ることにした。これが大森銀山のはじまりだという。

◆モチーフ分析

・船乗り、初夢をみる
・船乗り、縁起が悪いと思い、そのまま寝ている
・妻に夢の内容を打ち明ける
・妻、それは吉夢だと言う
・船乗り、出帆するが大風で流される
・船乗り、目的地に辿り着けず、神子地へ漂着する
・船の修理をしていると、薪売りが来る
・薪売りの薪に挟まっていた小石を薪の倍の値段で買う
・船一杯に小石を買い、博多へ帰る
・再度、神子地へやって来る
・小石を買いつけていると、船に半分で止められた
・代官が小石を鑑定させ、銀鉱石だと判明した
・船乗り、止むなく半分の荷で博多へ帰る
・船乗り、博多を引き上げて大森へ移住する
・大森銀山の元となった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:船乗り
S2:妻
S3:薪売り
S4:代官
S5:鑑定者

O(オブジェクト:対象)
O1:夢
O2:博多
O3:神子地
O4:小石
O5:大森
O6:大森銀山

+:接
-:離

・船乗り、初夢をみる
(初夢)S1船乗り:S1船乗り+O1夢
・船乗り、縁起が悪いと思い、そのまま寝ている
(ふて寝)S1船乗り:S1船乗り-O1夢
・妻に夢の内容を打ち明ける
(説明)S1船乗り:S2妻+O1夢
・妻、それは吉夢だと言う
(解釈)S2妻:S2妻+O1夢
・船乗り、出帆するが大風で流される
(出帆)S1船乗り:S1船乗り-O2博多
・船乗り、目的地に辿り着けず、神子地へ漂着する
(漂着)S1船乗り:S1船乗り+O3神子地
・船の修理をしていると、薪売りが来る
(邂逅)S1船乗り:S1船乗り+S3薪売り
・薪売りの薪に挟まっていた小石を薪の倍の値段で買う
(購買)S1船乗り:S1船乗り+O4小石
・船一杯に小石を買い、博多へ帰る
(帰還)S1船乗り:S1船乗り+O2博多
・再度、神子地へやって来る
(再訪)S1船乗り:S1船乗り+O3神子地
・小石を買いつけていると、船に半分で止められた
(差し止め)S1船乗り:S1船乗り-O4小石
・代官が小石を鑑定させ、銀鉱石だと判明した
(判明)S4代官:S5鑑定者+O4小石
・船乗り、止むなく半分の荷で博多へ帰る
(帰還)S1船乗り:S1船乗り+O2博多
・船乗り、博多を引き上げて大森へ移住する
(移住)S1船乗り:S1船乗り+O5大森
・大森銀山の元となった
(開山)S4代官:S1船乗り+O6大森銀山

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(初夢が示唆したものは何か)
           ↓
送り手(薪売り)→ 銀鉱石(客体)→受け手(船乗り)
           ↑
補助者(妻)→ 船乗り(主体)← 反対者(代官)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。船乗りは初夢を縁起の悪いものと考えますが、妻が別の解釈を与え考え直します。それから博多を出たところ神子地に漂着してしまい、そこで銀鉱石の存在に気づくという筋立てとなっています。

 船乗り―妻、船乗り―薪売り、船乗り―代官、初夢―銀鉱石、出帆―漂流、博多―神子地、小石―銀鉱石、馬鹿―賢い、といった対立軸が見出せるでしょうか。無価値と思われたものに価値があり、それにいち早く気づくという点で、初夢/無価値/価値といった暗喩が同定できます。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

船乗り♌♎♁―妻☾(♌)♎―薪売り♂☉―代官♎

といった風に表記できるでしょうか。妻は初夢の意味に気づくという点で、船乗りと代官は小石が銀鉱石であることに気づくという点で審判者♎と見なすことができるでしょうか。薪売りは小石を運んでくるという点で価値☉の運搬者となっています。

◆発想の飛躍

 発想の飛躍は無価値と思われた小石が実は銀鉱石だったということでしょうか。「小石―初夢―銀鉱石」という図式です。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.62-64.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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