行為項分析――三把の藁を十八把
◆あらすじ
昔、爺さんと婆さんがいた。娘がいていい女房だった。多くの若者が我こそは聟にと思っていた。いい聟をとろうと思った爺さんと婆さんは門口に立て札をたてた。三把の藁を十八把に数えた者に娘をやると宣言した。若者が代わる代わるやってきて、どうにか十八把に数えようと思ったが、どうしてもできない。皆、諦めて帰った。そこへ村一番の頓知(とんち)の利く者が行って、「ちょいと来ると二把(庭)ござる。なかえの隅に九把(鍬)ござる。門に三把で十八把」と答えた。感心した婆さんはこの者が聟だといって娘をやった(十四把にしかならないが話はこのようになっている)。
◆モチーフ分析
・爺さんと婆さんにいい娘がいた
・多くの若者が娘を嫁に欲しがっていた
・爺さんは門に立て札をたてお題を出す
・誰も解けない
・村一番の頓知の利く者がお題を解く
・婆さんは娘を嫁にやった
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:爺さん
S2:婆さん
S3:娘
S4:若者
S5:知恵者
O(オブジェクト:対象)
O1:お題
O2:嫁
O3:頓智
+:接
-:離
・爺さんと婆さんにいい娘がいた
(存在)S1爺さん:S1爺さん+S3娘
・多くの若者が娘を嫁に欲しがっていた
(求愛)S4若者:S4若者+O2嫁
・爺さんは門に立て札をたてお題を出す
(出題)S1爺さん:O1お題+S4若者
・誰も解けない
(回答不能)S4若者:S4若者-O1お題
・村一番の頓知の利く者がお題を解く
(解答)S5知恵者:S5知恵者+O1お題
・婆さんは娘を嫁にやった
(結婚)S2婆さん:S5知恵者+S3娘
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(娘を嫁に勝ち取るのは誰か)
↓
送り手(婆さん)→ 娘(客体)→受け手(知恵者)
↑
補助者(婆さん)→ 爺さん(主体)← 反対者(若者)
といった行為項モデルが作成できるでしょうか。娘は知恵のある者に嫁にやると爺さん婆さんは一見意味不明なお題を出します。誰もそのお題を解けませんが、頓智の利く知恵者が見事にお題を解いてみせます。
爺さん―若者、婆さん―若者、娘―若者、爺さん―知恵者、婆さん―知恵者、娘―知恵者、お題―頓智といった対立軸が見出せます。頓智/結婚といった暗喩が同定できます。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
知恵者♌♁―娘☉―爺さん♂♎―婆さん☾(♂)―若者♂
といった風に表記できるでしょうか。娘を価値☉と置くと、その贈与者である爺さん婆さんが対立者♂であり審判者♎となります。ここでは婆さんを爺さんの援助者☾としました。他の若者たちもライバルですので対立者♂とします。
お題とその解答自体はナンセンスな内容ですが、物語の構図そのものはちゃんと成立しています。
◆発想の飛躍
発想の飛躍はお題とその解答のナンセンスな内容でしょうか。「爺さん/婆さん―娘/頓智―知恵者」の図式です。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.81-82.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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