未完――前田愛『文学テクスト入門』
前田愛『増補 文学テクスト入門』を読む。著者の急死によって未完となった本らしいが、関係者の手により編集作業が施されて出版されたとのこと。この本はその増補版。
冒頭、漱石はプロットの無い小説を構想していたことについて触れられる。それは漱石の死によって実現しなかったのだけど、プロットの無い小説とはどのようなものになるだろうかという興味はある。
僕自身、脚本術や創作論の本は結構読んだ(※小説そのものはロクに読まずに)。娯楽小説に関してはプロットは必要だろう。だが、純文学ではその限りではない。とはいえ、短編小説が限界じゃないかなという気もする。
解説によると著者にとってこのプロットという問題が執筆途中から膨れ上がっていったらしいのだが、その問題、著者の構想についてはよく理解できなかった。日本語という主語が欠けていても成立する言語、述語論理――パラディグムというのだろうか、そして身体感覚、そういった問題を内包する問いかけだったらしいのだが。西洋的な線条(リニア)な文体から空間的な文体へ、というところがピンと来ない。
コードとコンテクストについては何とか理解できたか。コードとは作中人物のコードとか物語のコードとして語られる。要するに切り口、趣向みたいなものか。コードを上部構造とすればコンテクストは下部構造になるのだとか。普通コンテクストというと行間を読むだろうか。文学鑑賞ではテクストに書かれていないことを想像する能力も求められる。
高田本で紹介されていたので読んでみたのだが、なかなか良い内容だった。文学理論の入門書として適当ではなかろうか。
高田本がこの本に注目したのは物語の中のミニマル・ストーリーが全体の物語と相同形を作る。要するに作品を象徴するシーンが作品の全体の構造を示していることがあるという指摘。そこに注目することで分析が容易になるといった箇所にあるのだが、それについてはやや明瞭には記されていないように見える。
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