占星術記号で登場人物の機能を表記――スーリオ「二十万の演劇状況」
スーリオ「二十万の演劇状況」を読み終える。読了までに約二週間かかったことになる。訳はこなれていたが内容を理解した訳ではない。スーリオは西洋近代演劇の該博な知識を元にあれこれ説明するのだけど、読み手のこちらは近代演劇の鑑賞経験がほとんどないのでピンとこないのである。
スーリオ以前には演劇の劇的状況は36種に分類されるとした見解が流布していたようだ。西洋近代演劇における典型的なシチュエーションが列挙されている。煩雑なので挙げないが、これらを見て自分は日本のシナリオ学校で受講生たちに配られるという物語の枷を100ほど列挙した資料があるらしいのを思い出した。
スーリオはこれらの劇的状況を二つの因子から成ると批判した。そして作劇術に独自の思考を加えるのである。スーリオの場合は演劇の作劇術由来でプロップの昔話の機能とは直接関係はない。
スーリオは演劇における登場人物の機能を6種に集約し占星術の記号で表記する。
♌しし座:主題的力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられる。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現される。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得る。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもある。
スーリオは舞台に登場する主要な人物をおよそ6人ほどと見積もっている。タイトルの二十万とはこれらの機能の順列組み合わせである。スーリオによると二十万百四十一の組み合わせがあるという。ただ、計算過程は作中で示されていない。
このアイデアは慧眼だった。ただ、このやり方が普及しなかったのは、記号で表記されても書いた本人以外はさっぱり分からないからだろう。単数ならまだ分かるのだが複数が組み合わされるとどういう人物像になるか想像できないのである。
♌☉―♁♎♂―☾(♌)
これが何だか分かるだろうか?
これはイブとアダムと蛇なのである。
イブ♌☉―アダム♁♎♂―蛇☾(♌)
こう補足すればまだ分かるかもしれない。
物語の構造分析的な手法はおよそ60年くらい前に確立されて以後進展していないようだ。これ以上要素を分解することもできない。ここから先はコンピューターによる量的分析手法へと移っていくのかもしれない。
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