集合無意識をシステムで捉えることができるか――成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』
成田悠輔『22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる』を読む。若手の研究者の本も読んでみないとと思ってのこと。この人、「老人は自決しろ」だか言ったらしい。確かに老人層がごそっと抜ければ現役世代の負担はかなり軽くなる。しかし、それは姥捨て山の繰り返しである。自分もいずれ自決を迫られる立場になる。
この本の焦点は「集合無意識をシステムで捉えることができるか」だろうか。中国はSNSを分析して貧富の差の拡大に対する不満を読み取って政策のかじ取りを変えたという噂が紹介されている。
SNSのデータを解析すれば色々見えてくるのは確かだろう。ただ、本書でも指摘される通り、SNSにはフェイクニュースやヘイトスピーチ、ポピュリズム等を増幅させてしまう側面もある。それらをいかに排除して抽出するかが問題となる。
それにSNSの喧騒から距離を置く人も一定数いる。たとえば創作といった極一部のジャンルではSNSから離脱して個人サイトの運営に切り替える人も少数ながらいるという。
生体データは皆がスマートウオッチや指輪をつけていれば収集可能かもしれない。が、(中国では実際に行われているそうだが)監視カメラにマイクを付けて街の声を収集するとなると、これはディストピアと紙一重である。
仮に集合無意識を補足できたとして、それは今どう思っているかに過ぎない。将来に対して漠然とした不安はあるかもしれないが、透徹した眼で将来を見通せる人などわずかしかいない。
政策は10年後、20年後にならないと結果が判断できない。将来を見越して布石を打っていくことは人間にしかできないだろう。
また、アルゴリズムを開発・調整する人材がテクノクラートと化してしまうだろう。アルゴリズムが公開されれば、それに対する対策は必ず行われる。
他、ブロックチェーン技術がデータの改ざんに有効であれば、ネット選挙も視野に入ってくるかもしれない。
本書は2022年7月刊行で、それからわずかな時間経過で生成AIが脚光を浴びたり、中国の天文学的な不良債権問題が明るみになったりしている。ほんのわずかな時間で状況が変わってしまう現在、技術力のない一般人に先を見通すのは不可能である。若手の斬新な発想に期待したい。
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