無意識の働きが重要――野口悠紀雄『「超」発想法』
野口悠紀雄『「超」発想法』を読む。この本は2000年に刊行されたものである。この本の内容は2023年刊行の『「超」創造法 生成AIで知的活動はどう変わる?』でリライトされていると考えていいだろう。ただ、全ての箇所が引き継がれている訳ではないので、依然として本書を読む意義はある。
2000年刊行の本なので序論は時代を感じさせる。また、第8章のパソコン活用法についても約四半世紀経過した現在では全く事情が異なっている。現在の野口氏はスマートホンで音声メモを録音し文字化する、また、文書はクラウドに移しそこで独自の管理手法をとっている。
それ以外は現在でも基本的な主張は変わっていない。注目すべき論点として、閃きにおける潜在意識下でのアイデアの無意識的な組み替えは審美眼によって行われているとしていること、及びカードを並べ替えて発想を得ようとする手法で代表的なKJ法をそういった作業は本来は脳内で無意識的に行っていることでわざわざカードに移す必要はないと徹底的に否定していることだ。
審美眼とは古い定義になってしまうが感性に快をもたらすものを美と捉えるその働きである。つまり、理性・悟性・感性の三区分の中で感性が閃きに重要な影響を及ぼしていることになる。筆者もこれ以上上手く説明できないが、興味深い指摘だと思う。
直感というのは言い換えれば思考のショートカットである。
KJ法批判については野口氏が量的分析を主体とする経済学者であることも大きいのではないか。例えば民俗学者の柳田国男はカードを並べ替えて講演の内容を考えていたという。KJ法を用いるのは社会学者・文化人類学者・民俗学者といったフィールドワーカーたちだろう。カードに記入する時点でインプットを行っていることになる。
量的分析とは別に質的分析という手法もある。フィールドノートを細分化してマトリクス化する作業が行われている。MAXQDAというソフトが知られているが、主にアカデミックなジャンルで用いられるもので一般向けには高価なため実際に使ってみたことはない。
カードを用いた発想法はZettelkastenというプロジェクトを通じてObsidianというアプリに結実した。筆者は使ったことがないが、野口氏がクラウドでドキュメント管理している手法と相通じるものがあるはずだ。ちなみに筆者は類似のWEBサービスでもっとシンプルなScrapboxを利用している。
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