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2024年3月29日 (金)

行為項分析――炭焼き長者

◆あらすじ

 昔、分限者の酒屋があった。娘がいたが大層な酒好きで朝から酒ばかり飲んでいた。旦那は色々言って聞かせたが一向に効き目がない。とうとう娘に大判小判を持たせて追い出してしまった。

 追い出された娘は江戸へ上り、日本橋でぶらぶらしていると易者に呼び止められた。娘の手相と人相をみた易者は娘の縁談は佐渡の国の何村の何兵衛に決まっているから訪ねるよう勧めた。

 娘は喜んで佐渡へ渡った。何日も探してようやく炭焼きのことだと分かった。炭焼きの家へ行って一晩泊めて欲しいと頼むと、あなたの様な人をこんな家には泊められないと断られた。無理に頼むとようやく泊めてくれた。

 夜が明けても米がないので娘は炭焼きに大判を一枚渡し、これで米を買ってくるように言い付けた。ところが炭焼きは途中でサギに大判を投げてしまった。もう一度渡すと今度は犬に投げて帰ってきた。あれは大判といって米でも何でも買えるのだと説明すると、炭焼きはあんなものは幾らでもあると答えた。行ってみると本当に黄金がごろごろ転がっていた。炭焼きもこれが黄金だと理解し、それから黄金を掘り出して大金持ちになって娘と夫婦になって楽しく暮らした。

◆モチーフ分析

・昔、分限者がいた。大酒飲みの娘がいた
・分限者、娘を諭すが効き目がない。娘に金をやって放逐する
・娘、江戸へ上る
・日本橋で易者と出会う。手相と人相を占った結果、佐渡に婿がいると予言される
・娘、佐渡へ渡る。あちこち探しまわって炭焼き小屋に辿り着く
・娘、炭焼きに一夜の宿を頼む。炭焼き、初めは拒否していたが、止むなく迎える
・朝、朝食の米がない。娘、炭焼きに大判を渡して買い物にいかせる
・炭焼き、サギに大判を投げてもどってくる
・娘、再び大判を渡す
・炭焼き、今度は犬に大判を投げて帰ってくる
・娘、炭焼きに大判の価値を説明する
・炭焼き、そんなものは裏にあると答える
・果たして黄金があった
・黄金を掘り出した炭焼きは金持ちとなり、娘と夫婦になった

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:分限者
S2:娘
S3:易者
S4:炭焼き

O(オブジェクト:対象)
O1:酒
O2:大判小判
O3:江戸
O4:佐渡
O5:米
O6:サギ
O7:犬
O8:黄金

+:接
-:離

・昔、分限者に娘がいた
(存在)S1分限者:S1分限者+S2娘
・娘は大酒飲みだった
(存在)S2娘:S2娘+O1酒
・分限者、娘を諭すが効き目がない。娘に金をやって放逐する
(放逐)S1分限者:S1分限者-S2娘
・娘、江戸へ上る
(上京)S2娘:S2娘+O3江戸
・日本橋で易者と出会う
(遭遇)S2娘:S2娘+S3易者
・手相と人相を占った結果、佐渡に婿がいると予言される
(占い)S3易者:S2娘+O4佐渡
・娘、佐渡へ渡る
(渡海)S2娘:S2娘+O4佐渡
・あちこち探しまわって炭焼き小屋に辿り着く
(到着)S2娘:S2娘+S4炭焼き
・娘、炭焼きに一夜の宿を頼む
(要求)S2娘:S2娘+S4炭焼き
・炭焼き、初めは拒否していたが、止むなく迎える
(承諾)S4炭焼き:S4炭焼き+S2娘
・朝、朝食の米がない
(不足)S4炭焼き:S4炭焼き-O5米
・娘、炭焼きに大判を渡して買い物にいかせる
(使い)S2娘:S4炭焼き+O2大判小判
・炭焼き、サギに大判を投げてもどってくる
(放擲)S4炭焼き:O6サギ-O2大判小判
・娘、再び大判を渡す
(使い)S2娘:S4炭焼き+O2大判小判
・炭焼き、今度は犬に大判を投げて帰ってくる
(放擲)S4炭焼き:O7犬-O2大判小判
・娘、炭焼きに大判の価値を説明する
(説明)S2娘:S4炭焼き+O2大判小判
・炭焼き、そんなものは裏にあると答える
(否定)S4炭焼き:S4炭焼き-O2大判小判
・果たして黄金があった
(発見)S2娘:S4炭焼き+O8黄金
・黄金を掘り出した炭焼きは金持ちとなった
(発掘)S4炭焼き:S4炭焼き+O8黄金
・炭焼きは娘と夫婦になった
(結婚)S4炭焼き:S4炭焼き+S2娘

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

    聴き手(娘と炭焼きは結ばれるか)
           ↓
送り手(娘)→ 大判小判(客体)→受け手(炭焼き)
           ↑
補助者(易者)→ 娘(主体)← 反対者(分限者)

といった行為項モデルが作成できるでしょうか。娘は分限者に放逐されるものの易者の勧めで佐渡に渡り炭焼きに会います。娘は炭焼きが大判小判の価値を認識していないことを知りますが、それは裏山に金山があったからと判明します。娘は放逐された先で結婚し幸せを得ます。

 娘―分限者、娘―易者、娘―炭焼き、炭―黄金といった対立軸が見出せます。炭/黄金という暗喩が同定できます。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

娘♌♎―炭焼き♁―易者☾(♌)―分限者♂

といった風に表記できるでしょうか。分限者を対立者♂としました。通常は主人公と対立者の関係が物語の軸となりますが、ここでは単に追放し物語のきっかけを作るだけです。価値☉は黄金となりますので登場人物としては表記されません。裏山に金山を知らずに有している炭焼きが価値の潜在的獲得者♁となり、娘はそのことを見抜く審判者♎となります。

◆発想の飛躍

 炭焼きが黄金の価値を認識していないことが発想の飛躍でしょうか。価値を認識していないから炭焼きで生計を立てている訳です。「炭―黄金」「佐渡―黄金」といった図式となります。佐渡金山の由来譚ともなっています。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.52-54.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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