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2024年2月20日 (火)

行為項分析――足半踊り

◆あらすじ

 馬路(仁摩町)の乙見神社は大国主命をまつっている。昔、大国主命が志賀美(しかみ)山(高山)を見て、あそこはとてもよいところだ。永くこの地にとどまって国造りをしようと言って船をこぎよせられた。神子路(みこじ)の浜は大国主命の子神が通ったと言われている。後に志賀見山に社を建てた。

 ある夏のはじめ、志賀見山に火事が起きた。火は社の近くまで迫った。願城寺に住んでいた婆さんがこれは一大事と神さまをお助けすることを近所の人たちに呼びかけたが、火事の中であり、うっかり神さまに触っては祟りがあるかもしれないと思って助けようとする者がいなかった。

 三年前に夫をなくした婆さんは自分ひとりでもと決心して足半(あしなこ)をもって山の上へ駆け上った。山は険しく、つまづいたりぶつかったり、こけたりまるげたりしながら煙の中に見える社にようやく駆けつけた。

 幸い社は無事だった。婆さんはお参りすると、どうして神さまをお連れしようか考えた。女は穢れのあるものとされているので直に身体に触ってはいけない。そこで履いてきた足半の表の土のつかない方を背中にあて、裏の土のついた方を神さまの方へ向け、ご神体を背負って急な坂を下りはじめた。

 火は路へは回っていなかったので、何度も滑って尻もちをつきながら、ようやく麓の乙見の里についた。

 村人たちは婆さんの勇敢な行いに感心し、さっそく新しい社をどこに作るか相談した。山火事でも危険の無いところにしようと東西に川のある今の所を選んで社を建て、乙見と名づけた。

 ある晩、婆さんが寝ていると、して欲しいことがあれば祈願せよと神さまのお告げがあった。婆さんは社にお参りして田畑の作物が枯れそうだ、雨を降らせて欲しいとお祈りした。すると、その願いを叶えようとお告げがあって、黒い雲が空を覆い、大粒の雨が降ってきた。田畑の作物は生気を取り戻した。これを見た村人たちは大喜びで仕事着に足半を履いたまま、婆さんを先頭に社へ参って踊りを踊って神さまにお礼を言った。

 それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると、必ず雨が降るようになり、足半踊りを踊ってお礼まいりするようになった。有名な馬路の盆踊りの足半踊りはこれが始まりである。

◆モチーフ分析

・ある夏、志賀見山に火事が起きて、火は社の近くまで迫った。
・願城寺に住んでいた婆さんがご神体を避難させようと提案したが、村人たちは祟りを怖れ消極的だった
・婆さんは自分ひとりで足半を持って山へ登った。山は険しく苦労したが社に辿り着いた
・社は無事だった。女は穢れのあるものとされているので婆さんは足半を間に挟んでご神体を持ち出した
・何とか麓まで辿り着いた
・村人たちは婆さんの行いに感心、新しい社を乙見に建てることにする
・婆さんが寝ていると、夢のお告げがあった。婆さんは日照りなので雨を降らせて欲しいと祈った
・お告げがあって雨が降ってきた。田畑の作物は生気を取り戻した
・村人たちは足半を履いたまま踊り、神さまに礼を言った
・それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると必ず雨が降った
・村人たちは足半踊りを神さまに奉納するようになった
・馬路の盆踊りの足半踊りの起源はこれである

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:婆さん
S2:村人
S3:神さま

O(オブジェクト:対象)
O1:志賀見山
O2:火
O3:社
O4:ご神体
O5:足半
O6:乙見の里
O7:雨
O8:作物

+:接
-:離

・ある夏、志賀見山に火事が起きて、火は社の近くまで迫った。
(出火)O2火:O2火+O3社
・願城寺に住んでいた婆さんがご神体を避難させようと提案したが、村人たちは祟りを怖れ消極的だった
(提案)S1婆さん:S1婆さん-S2村人
・婆さんは自分ひとりで足半を持って山へ登った
(単独行動)S1婆さん:S1婆さん+O1志賀見山
・山は険しく苦労したが社に辿り着いた
(到着)S1婆さん:S1婆さん+O3社
・社は無事だった。女は穢れのあるものとされているので婆さんは足半を間に挟んでご神体を持ち出した
(救出)S1婆さん:S1婆さん+O4ご神体
・何とか麓まで辿り着いた
(到着)S1婆さん:S1婆さん+O6乙見の里
・村人たちは婆さんの行いに感心、新しい社を乙見に建てることにする
(移築)S2村人:S2村人+O3社
・婆さんが寝ていると、夢のお告げがあった
(夢告)S3神さま:S3神さま+S1婆さん
・婆さんは日照りなので雨を降らせて欲しいと祈った
(祈願)S1婆さん:S1婆さん+S3神さま
・お告げがあって雨が降ってきた
(降雨)S3神さま:S3神さま+O7雨
・田畑の作物は生気を取り戻した
(回復)O7雨:O7雨+O8作物
・村人たちは足半を履いたまま踊り、神さまに礼を言った
(感謝)S2村人:S2村人+S3神さま
・それから日照りのときは婆さんやその子孫が願主になって雨乞いをすると必ず雨が降った
(雨ごい)S1婆さん:S1婆さん+O7雨
・村人たちは足半踊りを神さまに奉納するようになった
(奉納)S2村人:S2村人+S3神さま

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

   聴き手(関心)
      ↓
送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

 前半は下記の通りとなります。

     聴き手(婆さんは無事脱出できるか)
            ↓
送り手(婆さん)→ ご神体(客体)→ 受け手(神さま)
            ↑
補助者  なし  婆さん(主体) なし 反対者

 後半は下記の通りとなります。

     聴き手(婆さんの願いは何か)
            ↓
送り手(神さま)→ 雨(客体)→ 受け手(婆さん)
            ↑
補助者  なし  婆さん(主体) なし 反対者

     聴き手(村人たちはその後どう対応したか)
            ↓
送り手(村人)→ 足半踊り(客体)→ 受け手(神さま)
            ↑
補助者(婆さん)→ 村人(主体) なし 反対者

 山火事からご神体を救出した婆さんの願いを神さまが叶えます。願いは雨を降らせることでした。婆さんはあくまで村のためになることを願ったため、神の恩恵を得られたのです。婆さんの献身的な行いを称えるため足半踊りが奉納されているという由来譚でもあります。

 婆さんはご神体を背負って無事脱出できるか聴き手は関心を持って耳を傾けるでしょう。また、婆さんの願いは何なのかにも興味を示すことでしょう。

 これも行為項モデルが複数見出せます。

 山火事―ご神体、日照り―雨といった対立軸が見出せます。

 ここから祭り―恵みといった暗喩が同定できるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

婆さん♌♁―神さま☉♎―村人☾(☉)

といった風に表記できるでしょうか。村人の判断が難しいところですが、新しいお社を建てるので援助者と考えました。

◆発想の飛躍

 この伝説における発想の飛躍は「婆さん―足半―ご神体」という概念の組み合わせによるでしょうか。婆さんの命がけの行動が神さまの報恩を招きます。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.26-28.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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