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2024年2月16日 (金)

行為項分析――蛇島

◆あらすじ

 昔、温泉津の釜野の辺りに長者がいた。長者には美しい娘がいた。多くの若者たちは誰でもその娘を欲しいと思った。ところが近くに山の主と言われる大蛇がいた。大蛇も娘を欲しいと思って何度も長者に申し込んだが、長者は承知しなかった。

 蛇の頼みがあまりにしつこかったので、長者も断りきれなくなって、それでは釜野の沖の島を八回巻け。巻くことができたら娘を嫁にやろう。その代わり、巻くことができなかったら、この土地から出ていってもらうと言った。

 大蛇は大喜びで沖に出て島を巻きはじめた。そうして七巻き半まで巻いたが、どうしても後の半分ほどが足りない。大蛇は必死にぐいぐい締め付けたが、どうしても八回にならなかった。

 大蛇はくやし涙を流しながら長者との約束を守って、海を渡ってどこへともなく立ち去った。

 そのとき蛇が締め付けた跡が島に残った。それで蛇島と言うようになった。

◆モチーフ分析

・温泉津の釜野に長者がいる
・長者には美しい娘がいる
・多くの若者が娘に求婚したいと思う
・近所の山の主である蛇が求婚する
・断りきれなくなった長者は条件を出す
・蛇は実行する。島を身体で巻くが七巻き半しか巻けない
・どうしても八回巻けない
・あきらめた大蛇は約束を守って去る
・蛇が巻いた跡がついた島は蛇島と呼ばれる様になる

◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である

S(サブジェクト:主体)
S1:長者
S2:若者
S3:蛇

O(オブジェクト:対象)
O1:釜野
O1:娘
O2:島

+:接
-:離

・温泉津の釜野に長者がいる
(在住)S1長者:S1長者+O1釜野
・長者には美しい娘がいる
(存在)S1長者:S1長者+O2娘
・多くの若者が娘に求婚したいと思う
(願望)S2若者:S2若者+O2娘
・近所の山の主である蛇が求婚する
(求婚)S3蛇:S3蛇+S1長者
・断りきれなくなった長者は条件を出す
(提示)S1長者:S1長者-S3蛇
・蛇は実行する
(実行)S3蛇:S3蛇+O2島
・島を身体で巻くが七巻き半しか巻けない
(失敗)S3蛇:S3蛇-O2島
・あきらめた大蛇は約束を守って去る
(退去)S3蛇:S3蛇-O1釜野

◆行為項モデル

送り手→(客体)→受け手
      ↑
補助者→(主体)←反対者

というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。

  聴き手(関心)
     ↓
送り手→(客体)→受け手
     ↑
補助者→(主体)←反対者

 この聴き手は筆者が独自に付加したものです。後述する「浮布の池」で解説します。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。

   聴き手(蛇の求婚から逃れられるか)
         ↓
送り手(蛇)→娘への求婚(客体)→受け手(長者)
         ↑
補助者 なし  蛇(主体)  ← 反対者(長者)

ないしは

   聴き手(蛇の求婚から逃れられるか)
         ↓
送り手(長者)→求婚への条件(客体)→受け手(蛇)
          ↑
補助者 なし  長者(主体)   ← 反対者(蛇)

 蛇の求婚に長者は難題を出し、加えて実現できなかったら釜野から去るように条件をつけます。蛇は島を巻いたもののあと少しで実現できず涙を呑んで釜野を去ります。求婚の却下とその土地からの退去の一石二鳥となる長者の知恵が示されています。

 蛇の試みは果たして成功するのか聴き手は関心をもって耳を傾けるでしょう。そして失敗に終わったことで蛇が潔く去ることに感心するでしょう。

 蛇―長者、蛇―島といった対立軸の存在が指摘できます。

 ここから自然―追放という暗喩が見出せるでしょうか。

◆関係分析

 スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。

♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者

という六つの機能が挙げられます。

☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。

 これらを元に関係分析をすると、

蛇♌♁―長者♂♎―娘☉

といった風に表記できるでしょうか。

◆発想の飛躍

 この伝説の発想の飛躍は「八回―島―巻く」でしょうか。

◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.19-20.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)

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