行為項分析――ごうろ坂の一ツ目小僧
◆あらすじ
ごうろ坂は矢滝城山の中腹にある胸つき十八町といわれる急な坂道で、大森(銀山)へ行く難所だった。いつの頃からか、ここに一ツ目の化物が出て旅人をとって食うという噂が広がった。夕方になると道を歩く人もなくなってしまった。大森の代官所でも強い武士に化物を退治させようとしたが、その度に失敗した。
ある夕方、温泉津から清水を通って西田に来た一人の武士がいた。その武士が西田の茶店で休んで出発しようとすると、もう夕方なので化物が出る。今夜は泊まって明日出立した方がよいと茶店の婆さんに言われる。化物が出ると知った武士は退治してやろうと考える。武士は制止を振り切って出立した。
坂の頂上辺りまで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた。明日の朝温泉津を出る北前船に乗らなければならないのだが、急に腹が痛くなって動けないと女は答えた。闇に女の顔が白く浮かぶ。
人間ではないと気づいた武士だったが、女を背負うと西田へと下っていく。歩く内に背中の女は次第に重くなり、とうとう歩けなくなった。武士は決心して女を道ばたの石に投げ下ろした。ぎゃっという悲鳴とともに女の姿は消えてしまった。
あくる朝、矢滝の人々がいってみると、大石は血で染まり、側に狸の毛が一杯落ちていた。人々はそこに地蔵さまを祀った。それからはそういうことはなくなった。
◆モチーフ分析
・ごうろ坂は急な坂道で大森へ行く難所だった
・いつの頃からか坂に一ツ目の化物が出ると噂が立った
・夕方になると人気が絶えた
・代官所も武士に化物退治をさせたが、その度に失敗した
・ある夕方、温泉津から西田へ来た武士がいた
・武士が西田の茶店で休んでいると、茶店の婆さんにもう夕方だから今夜はここに泊まっていけといわれる
・化物がでると知った武士は制止を振り切って出立する
・坂の頂上まで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた
・明日の朝までに温泉津に行かねばならない
・闇に女の顔が白く浮かぶ。人でないと武士は見破る
・女を背負った武士、西田へと下っていく
・背中の女は次第に重くなり、歩けなくなってしまった
・思い切って女を道ばたの大石に投げ下ろした
・悲鳴とともに女の姿は消えた
・人々が行ってみると、大石は血で染まり、狸の毛がいっぱい落ちていた
・人々はそこに地蔵を祀った
・それから化物が出ることはなくなった
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:代官所
S2:武士
S3:茶店の婆さん
S4:若い女
S5:人々
O(オブジェクト:対象)
O1:ごうろ坂
O2:大森
O3:化物
O4:茶店
O5:大石
O6:地蔵
+:接
-:離
・いつの頃からかごうろ坂に一ツ目の化物が出ると噂が立った
(噂)O1ごうろ坂:O1ごうろ坂+O3化物
・代官所も武士に化物退治をさせたが、その度に失敗した
(失敗)S1代官所:S1代官所-O3化物
・ある夕方、温泉津から西田へ来た武士が茶店で休んでいると、茶店の婆さんにもう夕方だから今夜はここに泊まっていけといわれる
(制止)S3婆さん:S3婆さん+S2武士
・化物がでると知った武士は制止を振り切って出立する
(出立)S2武士:S2武士-S3婆さん
・坂の頂上まで来たとき、若い女が一人道ばたで苦しんでいた
(遭遇)S2武士:S2武士+S4若い女
・闇に女の顔が白く浮かぶ。人でないと武士は見破る
(看破)S2武士:S2武士+S4若い女
・女を背負った武士、西田へと下っていく
(出発)S2武士:S2武士+S4若い女
・背中の女は次第に重くなり、歩けなくなってしまった
(歩行困難)S2武士:S2武士-S4若い女
・思い切って女を道ばたの大石に投げ下ろした
(投下)S2武士:S2武士+S4若い女
・悲鳴とともに女の姿は消えた
(消失)S2武士:S2武士-S4若い女
・人々が行ってみると、大石は血で染まり、狸の毛がいっぱい落ちていた
(発見)S5人々:S5人々+O5大石
・人々はそこに地蔵を祀った
(祭祀)S5人々:S5人々+O6地蔵
・それから化物が出ることはなくなった
(解放)S5人々:S5人々-O3化物
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(女を背負った武士は無事でいられるのか)
↓
送り手(武士)→ 若い女の正体を暴く(客体)→ 受け手(化物)
↑
補助者(婆さん)→ 武士(主体) ← 若い女(反対者)
聴き手(女を背負った武士は無事でいられるのか)
↓
送り手(若い女)→ 武士を化かしてやろう(客体)→ 受け手(武士)
↑
補助者 なし 化物 ← 武士(反対者)
武士が若い女を化物が変化した姿と直感しつつ背負う行動に武士の勇敢さが表現されています。結局、武士は重さに耐えかねて女を大石に投げ捨てますが、それが結果的に化物を退治することになります。
逆に化物の立場からすると、若い女に化けて武士に背負われる、つまり背後をとることに成功したのですが、結局のところ大石に投げつけられて大怪我を負ってしまい姿を消すことになります。
また、地蔵を祀ることでその後の化物の復活を封じたと解釈することもできます。
武士が敢えて女を背負ったことで聴き手ははらはらするでしょう。物語の焦点は「女を敢えて背負った武士の安否」となります。そして結局女を大石に投げつけることで問題が解決することに安心するのではないでしょうか。
武士―女、大石―狸、地蔵―狸といった対立軸が見出せるでしょうか。狸は血を流しているのが確認されただけで死んだとは断定されていません。地蔵の効験によって封じられたとも考えられます。
ここから自然―動物、神仏―動物といった暗喩が同定できるでしょうか。ここでの動物は化かす意味での動物です。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
武士♌―女♂―婆さん☾(♌)―人々♁☾(☉)
といった風に表記できるでしょうか。人々を分析に含めるべきか迷いますが、地蔵を価値と考えれば援助者と見なせるでしょうか。
◆発想の飛躍
この伝説における発想の飛躍は「武士―背負う―女/狸」という概念の組み合わせによるでしょうか。あるいは「投げ下ろす―女/狸―大石」かもしれません。危険を悟りつつ敢えて女を背負うのです。その行為が事件の解決を招きます。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.29-31.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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