閃きは狙って起こせない――兎野卵
兎野卵というKindle作家の電子書籍を読み漁る。この人は漫画家として商業デビューしたものの単行本を一冊出した段階で商業活動は終わってしまったという経歴を持つ。難関大学の建築学科を卒業したらしく思考は明晰である。
兎野氏は売れなくてもいいからとにかく面白い漫画が描きたいと願っている。しかし、その面白い作品の核となる、つまりブレイクスルーとなるアイデアが閃かずに苦しんでいる。閃きというのは意思の力で狙って起こせるものではないからだ。狙って閃きを起こせるのはミステリーの探偵だけである。現在では一歩引いた視線で自分を見つめている。その視線で執筆したものが兎野氏の創作論シリーズとなる。
僕も現在ネタ切れを起こしているので、ブレイクスルーとなる閃きを渇望している。そういう点で自分と似ているなと思って読み進めた。
読んでいる内に、兎野氏は商業作家になりきれない自分を合理化しようとしているのではという思いが浮かんできた。それはそれで合理化の罠に囚われていることになる。解脱しようとしたつもりが別の罠に囚われてしまっている。
今は出版社を通さずともSNS等で漫画を発表することは可能だ。実際、漫画を発表してバズる漫画家も少なくない。ただ、そうなると更なるバズを狙って執筆していくこととなり、いつしか疲れてしまうのだとか。僕もSNSは少々利用しているがバズったことはないのでそこら辺の感覚は分からない。
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