行為項分析――影ワニ
◆あらすじ1
温泉津の辺りではサメのことをワニと言う。影ワニという怪物がいるという。船が沖を走っているとき、船乗りの影が海に映ることがある。その影を影ワニが呑むと、影を呑まれた船乗りは死ぬと言う。
昔、ある船乗りが影を呑まれそうになった。気づいた船乗りは反対に影ワニを撃ち殺した。村に帰った船乗りは、ある日浜を歩いていると魚の骨が足の内に突き刺さった。その傷が元で船乗りは死んでしまった。後になって調べてみると、その骨は船乗りが殺した影ワニの骨であった。
もし影ワニに見つかったら、むしろでも板でも海に投げて自分の影を消さなければならないと言う。
◆モチーフ分析
・温泉津の辺りでは影ワニという怪物がいる
・船乗りの海面に映った影が影ワニに呑まれると、その船乗りは死んでしまう
・影ワニに影を呑まれそうになった船乗りが逆に影ワニを撃ち殺した
・村に戻って浜を歩いていると船乗りの足に魚の骨が刺さった
・その傷が元で船乗りは死んでしまった
・その骨は船乗りが撃ち殺した影ワニだった
・もし影ワニに見つかったら、むしろや板を海に投げて自分の影を消さなければならない。
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:影ワニ
S2:船乗り
O(オブジェクト:対象)
O1:温泉津
O2:影
O3:魚の骨
+:接
-:離
・温泉津の辺りでは影ワニという怪物がいる
(存在)S1影ワニ:S1影ワニ+O1温泉津
・船乗りの海面に映った影が影ワニに呑まれると、その船乗りは死んでしまう
(捕食)S1影ワニ:S1影ワニ+S2船乗り
・影ワニに影を呑まれそうになった船乗りが逆に影ワニを撃ち殺した
(射殺)S2船乗り:S2船乗り-S1影ワニ
・村に戻って浜を歩いていると船乗りの足に魚の骨が刺さった
(怪我)S2船乗り:S2船乗り-O3魚の骨
・その傷が元で船乗りは死んでしまった
(死亡)O3魚の骨:O3魚の骨-S2船乗り
・その骨は船乗りが撃ち殺した影ワニのものだった
(由来)O3魚の骨:O3魚の骨+S1影ワニ
・もし影ワニに見つかったら、むしろや板を海に投げて自分の影を消さなければならない。
(伝承)S2船乗り:S1影ワニ-O2影
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(船乗りは影ワニから逃れられるのか)
↓
送り手(影ワニ)→ 魚の骨(客体)→受け手(船乗り)
↑
補助者(魚の骨)→ 影ワニ(主体)← 反対者(船乗り)
影ワニはある船乗りを捕食しようとしますが、逆に射殺されてしまいます。しかし、その後、影ワニの骨が船乗りの足に刺さり怪我を負うことで船乗りは死んでしまいます。復讐は成ったという結果となります。物語の主となる部分では影ワニが影を捕食する場面は描かれません。
聴き手は影ワニという恐ろしい妖怪の存在を知らされます。その影ワニが漁師に返り討ちに遭うという展開は驚きをもたらすでしょう。しかし、影ワニは骨になっても復讐するという結末で影ワニの恐ろしさを印象づけるのです。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
船乗り♌―影ワニ♂☾(♂)
といった風に表記できるでしょうか。影ワニの骨が船乗りを死に至らしめますので、影ワニ自身が援助者でもあると解釈できます。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は「影―ワニ」という概念の組み合わせによるものでしょう。ワニとはサメのことです。影を呑む影ワニという妖怪が誕生した訳です。この伝説では「足―刺さる―骨/影ワニ」という組み合わせも考えられます。
◆あらすじ2
日祖の港の西側にアバヤという所がある。そこの岬に東から西に通り抜ける大きな洞穴がある。この東側の入口の沖で二人の漁師が漁をしていた。二人とも夢中になっていたが、突然一人が悲鳴を上げた。もう一人が驚いて振り返ると影も形も無かった。海に落ちたのかと、そこら中メガネで探したが見当たらなかった。後で村中総出で、やっと海の底から死んだ漁師の着物だけを拾い上げた。アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいると言われている。
◆モチーフ分析
・アバヤの岬に洞穴がある
・洞穴の東側の沖で漁師が二人漁をしていた
・突然一人が悲鳴を上げ消える
・もう一人が探すが見つからない
・村中総出で探して消えた漁師の着物だけが見つかる
・アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいるという
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:漁師A
S2:漁師B
S3:村人
S4:影ワニ
O(オブジェクト:対象)
O1:アバヤ
O2:洞窟
03:着物
+:接
-:離
・アバヤの岬に洞穴がある
(存在)O2洞窟:O2洞窟+O1アバヤ
・洞穴の東側の沖で漁師が二人漁をしていた
(漁)S1漁師A:S1漁師A+S2漁師B
・突然一人が悲鳴を上げ消える
(消失)S2漁師B:S2漁師B-S1漁師A
・もう一人が探すが見つからない
(捜索)S1漁師A:S1漁師A-S2漁師B
・村中総出で探して消えた漁師の着物だけが見つかる
(発見)S3村人:S3村人+O3着物
・アバヤの洞穴には昔から影ワニが住んでいるという
(存在)S4影ワニ:S4影ワニ+O2洞窟
◆行為項モデル
聴き手(消えた漁師Bは発見されるか)
↓
送り手(漁師A)→ 着物(客体)→受け手(漁師B)
↑
補助者(村人)→ 漁師A(主体)← 反対者(影ワニ)
一緒に漁をしていた漁師Bが突然姿を消したので漁師Aは必死に捜索します。村人の協力を得ますが着物しか見つけられませんでした。結局、漁師Bは洞窟に住む影ワニに食べられたのだろうという解釈を導き出します。
漁師が一人突然行方不明になるという展開に聴き手は困惑するでしょう。それがどうやら影ワニの仕業らしいという結論になって聴き手は納得するのでしょう。
◆関係分析
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
これらを元に関係分析をすると、
漁師A♌☾(☉)―漁師B☉―影ワニ♂―村人♎
といった風に表記できるでしょうか。ここでは襲われた漁師Bを価値と解釈してみました。村人は影ワニの仕業だろうと結論づけますので審判者♎としました。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は「漁師―着物―影ワニ」という概念の組み合わせによるでしょうか。着物を残して行方不明となったことで影ワニに捕食されたという推論が浮かんだ訳です。
影ワニ―漁師、影―死といった対立軸が見出せます。影ワニに関しては牛鬼と違ってこれを防ぐアイテムは存在せず、手近なもので影を隠すしか逃れる術はないと語られています。
これらから海―死という暗喩が見出せるでしょうか。海上における危険を影ワニという妖怪に仮託して語っていると考えられます。
なお、伝説の舞台となる大田市の漁港ではサメが水揚げされ、中国山地に出荷、その地の食文化を彩っているという背景もあります。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.37-38.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)
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