◆あらすじ1
波路浦に一人の漁師がいた。ある日の漁は大量であった。喜んで帰りかけると、海の中から大きな牛の様な怪物が大きな声で「魚をくれ」と叫ぶので、恐ろしくなって投げてやった。ところが怪物はまたしても「魚をくれ」と叫ぶので、その度に少しずつ投げてやった。ようやく港へ着くと急いで家へ帰った。しばらくすると怪物がやってきて、どんどん戸を叩きながら「魚をくれ」と言った。漁師が「家の中へ入れ。魚をやろう」というと「お前はお仏飯を食べているから、家の中へは入られない」といって逃げていった。あくる朝戸をあけて庭へ出てみると大きな足跡が残っていた。足跡は牛の様でもあるし、牛とは違う様にもあるし、村人は不思議に思った。これは昔から言われている牛鬼だろうということになった。
◆モチーフ分析
・波路浦に漁師がいた。ある日の漁は大漁だった
・帰りかけると海の中から怪物が「魚をくれ」と叫ぶので魚をやる
・「魚をくれ」と叫び続けるので、その都度魚をやる
・港へつくと急いで家へ帰る
・家まで怪物が来て「魚をくれ」と言う
・「家の中へ入れ」と言うと「お前はお仏飯を食べているから中に入れない」と怪物が答え逃げていく
・あくる朝、戸をあけると足跡が残っていた
・これは牛鬼だろうということになった
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1:漁師
S2:怪物
O(オブジェクト:対象)
O1:波路浦
O2:魚
O3:港
O4:家
O5:お仏飯
O6:足跡
O7:牛鬼
+:接
-:離
・波路浦に漁師がいた
(存在)O1波路浦:O1波路浦+S1漁師
・ある日の漁は大漁だった
(大漁)S1漁師:S1漁師+O2魚
・帰りかけると海の中から怪物が「魚をくれ」と叫ぶので魚をやる
(投与)S1漁師:S2怪物+O2魚
・「魚をくれ」と叫び続けるので、その都度魚をやる
(投与)S1漁師:S2怪物+O2魚
・港へつくと急いで家へ帰る
(帰宅)S1漁師:S1漁師+O4家
・家まで怪物が来て「魚をくれ」と言う
(要求)S2怪物:S2怪物+S1漁師
・「家の中へ入れ」と言うと「お前はお仏飯を食べているから中に入れない」と怪物が答え逃げていく
(逃亡)S2怪物:S2怪物-O5お仏飯
・あくる朝、戸をあけると足跡が残っていた
(発見)S1漁師:S1漁師+O6足跡
・これは牛鬼だろうということになった
(推測)S1漁師:S1漁師+O7牛鬼
◆行為項モデル
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
というモデルを構築するのですが、ここでこのモデルに一つの要素を付加します。
聴き手(関心)
↓
送り手→(客体)→受け手
↑
補助者→(主体)←反対者
この聴き手は筆者が独自に付加したものです。「浮布の池」で解説しています。客体は分析で使用したサブジェクトやオブジェクトとは限りません。むしろ主体のこうなって欲しいという願いと説明した方が分かりやすいかもしれません。
聴き手(漁師は牛鬼の追跡から逃れられるのか)
↓
送り手(漁師)→ 魚(客体)→ 受け手(怪物)
↑
補助者(お仏飯)→ 漁師(主体)← 反対者(怪物)
漁師は怪物から逃れるためせっかく獲った魚を与え続けます。そしてお仏飯を食べていたため、かろうじて怪物の追跡から逃れます。
ここでは補助者が主体ではなく客体(お仏飯)となっています。
牛鬼の追跡から逃れることができるか聴き手ははらはらしながら耳を傾けるでしょう。とうとう家の中に逃げ込みますが牛鬼はまだ追ってきます。しかし、お仏飯を食べているという理由で牛鬼は退散します。これで聴き手は安心するでしょう。
◆関係分析
スーリオは演劇における登場人物の機能を六種に集約し占星術の記号で表記します。
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
☾は☾(♌)主題の援助者という風に表現されます。
☾(☉)☾(♁)☾(♂)☾(♎)もあり得ます。
一人の登場人物に二つまたは三つの星が該当することもあります。
これらを元に関係分析をすると、
漁師♌☉♁―牛鬼♂♎
といった風に表記できるでしょうか。審判者であるてんびん座を牛鬼に割り当てるべきかですが、牛鬼は漁師がお仏飯を食べている(すなわち♁)ことを見抜きますので、ここでは審判者の役割を割り当てました。
発想の飛躍は「漁師―お仏飯―牛鬼」という概念の組み合わせによるでしょうか。お仏飯を食べていたことで牛鬼の襲撃から免れます。
◆あらすじ2
波路浦の大下(おおしも)という家の何代も前の主人が三人の仲間と一緒に四月のある晩釣りに出た。他の舟は沖へ出ていたが、この舟は温泉津の港と福光海岸の中程のシューキの岸近くで糸を下ろした。ここは秘密の釣り場で、その日もよく釣れた。夜が更けて岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがあった。この辺りは断崖絶壁で人のゆける所ではない。狐が悪戯をするのだと思って「おう、来たけりゃ、来い」とからかい半分に言った。ところが「おう」と返事と共に何か大きなものが海にどぶんと飛び込んだ。舟に向かって牛鬼が泳いできた。真っ青になった四人は一生懸命波路浦に向けてこぎ出した。牛鬼も舟を追って来る。ようやく一里ばかり離れた波路浦の浜に着くと、一番近い大下の家へ飛び込んで戸を閉めた。牛鬼は戸をどんどん叩きながら「開けろ、開けろ」とどなる。四人は土間にへばりこんでさっぱり動こうともしない。家の者が火箸を囲炉裏で真っ赤に焼いて、大戸の鍵穴に口を寄せて「今戸を開けてやるから静かにせい」と怒鳴った。牛鬼は声のした鍵穴から中をのぞき込んだ。その時、焼き火箸を鍵穴へ突っ込んだ。目を焼き火箸で突き刺された牛鬼はたけり狂ったが、柱の上に張ってある出雲大社のお札に気づくと身震いしてもの凄い声をあげて逃げていった。この辺りの漁師はそれから必ず出雲大社のお札を戸口に貼るようになった。
◆モチーフ分析
・波路浦の大下の家の主人が仲間と共にある晩釣りにでかけた
・温泉津と福光の間のシューキの秘密の釣り場で釣りをする
・よく釣れた
・岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがいる
・狐だと思い、「おう」と返すと牛鬼が海に飛び込み舟めがけて追いかけてきた
・焦った主人たちは波路浦に向けてこぎ出す。牛鬼も舟を追ってくる
・ようやく波路浦の浜につくと大下の家に逃げ込む
・牛鬼が「開けろ」と怒鳴る
・牛鬼が鍵穴をのぞき込んだところ、家のものが焼いた火箸を鍵穴に突っ込む
・目を突かれた牛鬼はたけり狂うが、出雲大社のお札に気づくと逃げていった
・それからこの辺りの家は出雲大社のお札を戸口に貼るようになった
◆行為項分析
S1:(S2+O1)
意思の主体者がS1であり、行為の主体者がS2、S2の行為の対象がO1である
S(サブジェクト:主体)
S1;主人
S2:仲間
S3:牛鬼
S4:家の者
S5:住民
O(オブジェクト:対象)
O1:舟
O2:家
O3:鍵穴
O4:火箸
O5:お札
+:接
-:離
・波路浦の大下の家の主人が仲間と共にある晩釣りにでかけた
(出発)S1主人:S1主人+S2仲間
・温泉津と福光の間のシューキの秘密の釣り場で釣りをする
(釣り)S1主人:S1主人+S2仲間
・岸の方から「行こうか、行こうか」と声をかけるものがいる
(呼びかけ)S3牛鬼:S3牛鬼+S1主人
・狐だと思い、「おう」と返すと牛鬼が海に飛び込み舟めがけて追いかけてきた
(追跡)S1主人:S3牛鬼+O1舟
・焦った主人たちは波路浦に向けてこぎ出す。牛鬼も舟を追ってくる
(逃走)S1主人:S3牛鬼-S1主人
・ようやく波路浦の浜につくと大下の家に逃げ込む
(逃入)S1主人:S1主人+O2家
・牛鬼が「開けろ」と怒鳴る
(威嚇)S3牛鬼:S3牛鬼+S1主人
・牛鬼が鍵穴をのぞき込んだところ、家のものが焼いた火箸を鍵穴に突っ込む
(奇襲)S4家の者:S3牛鬼+O4火箸
・目を突かれた牛鬼はたけり狂うが、出雲大社のお札に気づくと逃げていった
(逃散)S3牛鬼:S3牛鬼-O5お札
・それからこの辺りの家は出雲大社のお札を戸口に貼るようになった
(魔除け)S5住民:S5住民+O5お札
◆行為項モデル
聴き手(主人たちは牛鬼の追跡から逃れられるのか)
↓
送り手(主人)→ 火箸(客体) → 受け手(牛鬼)
↑
補助者(家の者)→ 主人(主体) ← 反対者(牛鬼)
牛鬼に追われた大下の主人は仲間と共に家に逃げ込みますが牛鬼が威嚇してきます。機転を利かせた家の者が火箸で牛鬼の目を潰します。家の者の知恵が示されます。牛鬼は出雲大社のお札でそれ以上近づけず逃亡します。出雲大社の効験を示す伝説でもあります。
これも牛鬼の追跡劇です。牛鬼の目を火箸で潰すというのは残酷な表現ですが聴き手は納得するのでしょう。出雲大社のお札も聴き手を安心させるに違いありません。
◆関係分析
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
主人♌♁―牛鬼♂♎―家の者☾(♌)
といった風に表記できるでしょうか。分析には出てきませんが、出雲大社のお札のご利益(すなわち☉)を受ける者が主人と仲間ですなわち♁です。牛鬼はお札を恐れて逃げますので、ここでは審判者♎としました。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は「火箸―突く―目」の概念の組み合わせによるでしょうか。あるいは「主人―お札―牛鬼」かもしれません。火箸で目を突くことで牛鬼を撃退しようとしますが、却って牛鬼を怒らせてしまいます。ですが、出雲大社のお札の効験で危機を免れるのです。
◆あらすじ3
日祖(にそ)の漁師に友村清市という人がいた。ある晩一人で小舟に乗って沖へ出た。すると牛鬼が一匹、追いかけてきた。力が強く胆のすわった清市は舟中の綱をまとめて牛鬼が近づくのを待った。間もなく牛鬼は船べりにきて舟に上がろうとした。清市はこれに組み付き、舟へ引き上げて、がんじがらめに縛り上げた。清市は小二町(こふたまち)まで舟で帰り、そこから山越しに日祖まで牛鬼を担いで帰った。浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、日祖中の人がぞろぞろ見にきた。わいわい言っていると、一人の若者が櫂を持って牛鬼の頭を力任せに殴りつけた。すると変な音がして櫂は二つに折れた。近寄ってよく見ると、椿の木の古い根ががんじがらめに縛ってあった。昔から椿は化けるということで、椿の花は仏さまには絶対に供えない。
◆モチーフ分析
・日祖に漁師がいた
・ある晩、小舟に乗って沖へ出た
・牛鬼が一匹追いかけてきた。牛鬼は船べりまでやって来た
・漁師は組み付き、舟へ引き上げてがんじがらめに縛り上げた
・漁師は小二町まで舟で帰り、日祖まで牛鬼を担いで帰った
・浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、村中の人が見物にきた
・一人の若者が櫂で牛鬼の頭を殴りつけた。すると櫂は二つに折れた
・近寄ってよく見ると、椿の古い根ががんじがらめに縛ってあった
・昔から椿は化けるので、椿の花は仏さまには絶対に供えない
◆行為項分析
S(サブジェクト:主体)
S1:漁師
S2:牛鬼
S3:村人
S4:若者
O(オブジェクト:対象)
O1:舟
O2:日祖
O3:櫂
O4:椿
O5:仏さま
+:接
-:離
・日祖に漁師がいた
(存在)S1漁師:S1漁師+O2日祖
・ある晩、小舟に乗って沖へ出た
(出漁)S1漁師:S1漁師+O1舟
・牛鬼が一匹追いかけてきた
(遭遇)S1漁師:S1漁師+S2牛鬼
・牛鬼は船べりまでやって来た
(接近)S2牛鬼:S2牛鬼+O1舟
・漁師は組み付き、舟へ引き上げてがんじがらめに縛り上げた
(格闘)S1漁師:S1漁師+S2牛鬼
・漁師は小二町まで舟で帰り、日祖まで牛鬼を担いで帰った
(帰還)S1漁師:S1漁師+S2牛鬼
・浜の舟小屋の前へ牛鬼を投げ出しておくと、村中の人が見物にきた
(見物)S1漁師:S3村人+S2牛鬼
・一人の若者が櫂で牛鬼の頭を殴りつけた。すると櫂は二つに折れた
(殴打)S4若者:S4若者+S2牛鬼
・近寄ってよく見ると、椿の古い根ががんじがらめに縛ってあった
(変化の解除)S4若者」S2牛鬼-O4椿
・昔から椿は化けるので、椿の花は仏さまには絶対に供えない
(習慣)O4椿:O4椿-O5仏さま
◆行為項モデル
聴き手(捕獲された牛鬼はどうなるのか)
↓
送り手(漁師)→ 牛鬼を見世物にする(客体)→受け手(牛鬼)
↑
補助者(若者)→ 漁師(主体) ← 反対者(牛鬼)
牛鬼を生け捕りにした漁師は村へ牛鬼を連れ帰り見世物にします。ここでは漁師の強さが強調されます。ですが、若者が殴打したところ椿の根が変化したものだったことが明らかとなります。椿は変化する不吉な樹だとの説明ともなっています。
牛鬼が逆に捕獲されてしまうという意外な展開となります。聴き手は村に連れ帰られた牛鬼はどうなるのだろうと想像することでしょう。結局牛鬼は椿の根の変化だったと明らかにされ聴き手は一応の納得はするでしょう。
◆関係分析
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
漁師♌―牛鬼♂☉―若者♎☾(♌)
といった風に表記できるでしょうか。若者が牛鬼を殴ることで正体が判明しますので、若者を審判者♎としてもいいでしょうか。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は「漁師―縛る―牛鬼/椿」という概念の組み合わせによるでしょうか。せっかく捕獲した牛鬼が実は椿の根の変化したものだったという結末です。
◆あらすじ4
日祖である晩いわしの地引き網を入れた。ところがどうしたことか一尾もかからない。気をくさらせて皆は酒を飲んでさっさと引き上げた。そのとき小舟にいた一人の老人が家に帰ってから煙草入れを忘れたのに気がついて取りにいこうとした。家内は不吉な予感がすると言って行くのを止めたが、老人は振り切って行こうとする。そこで家内は仏壇に供えてあったお仏飯を食べさせて出した。煙草入れを探すのに夢中になっていた老人が騒がしい波の音に気がついてふとその方を見ると一匹の牛鬼が側まで来ていた。舟の中であり、もう逃げられないと思ったが、思わず櫂で殴ってやろうと身構えた。すると牛鬼は「お前はお仏飯を食っているから近づけない」と言って逃げていった。昔から子供が海や山へ行くときには怪我の無いようにといってお仏飯を食べさせる。
◆モチーフ分析
・日祖である晩いわしの地引き網を入れた。が、一匹もかからない
・漁師たちは酒を飲んでさっさと引き上げた
・小舟にいた老人が煙草入れを忘れて取りに行こうとした
・家内が不吉だと止めたが、老人は振り切ったので、お仏飯を食べさせる
・老人が煙草入れを探していると牛鬼が側までやって来た
・老人は櫂で殴ろうとする
・牛鬼は「お前はお仏飯を食べているから近づけない」と言って逃げた
・昔から子供が海や山に行くときは怪我の無いようにお仏飯を食べさせる
◆行為項分析
S(サブジェクト:主体)
S1:漁師
S2:老人
S3:家内
S4:牛鬼
S5:住民
S6:子供
O(オブジェクト:対象)
O1:日祖
O2:いわし
O3:煙草入れ
O4:お仏飯
+:接
-:離
・日祖である晩いわしの地引き網を入れた。が、一匹もかからない
(不漁)S1漁師:S1漁師-O2いわし
・漁師たちは酒を飲んでさっさと引き上げた
(引揚げ)S1漁師:S1漁師-O1日祖
・小舟にいた老人が煙草入れを忘れて取りに行こうとした
(引き返す)S2老人:S2老人+O3煙草入れ
・家内が不吉だと止める
(制止)S3家内:S3家内+S2老人
・老人は振り切る
(無視)S2老人:S2老人-S3家内
・老人にお仏飯を食べさせる
(食餌)S3家内:S2老人+O4お仏飯
・老人が煙草入れを探していると牛鬼が側までやって来た
(接近)S4牛鬼:S2老人+O3煙草入れ
・老人は櫂で殴ろうとする
(殴打)S2老人:S2老人+S4牛鬼
・牛鬼は「お前はお仏飯を食べているから近づけない」と言って逃げた
(逃亡)S4牛鬼:S4牛鬼-S2老人
・昔から子供が海や山に行くときは怪我の無いようにお仏飯を食べさせる
(習慣)S5住民:S6子供+O4お仏飯
◆行為項モデル
聴き手(老人は牛鬼の襲撃を免れられるか)
↓
送り手(老人)→ お仏飯(客体)→ 受け手(牛鬼)
↑
補助者(家内) 老人(主体) ← 反対者(牛鬼)
下記のようにも書けます。
聴き手(老人は牛鬼の襲撃を免れられるか)
↓
送り手(牛鬼)→ 老人を襲う(客体)→ 受け手(老人)
↑
補助者 なし 牛鬼(主体) ← 反対者(家内)
牛鬼は老人を襲おうとしたものの老人がお仏飯を食べていたため断念します。老人の家内の危惧が当たったことになりますが、間一髪悲劇は食い止められます。仏力で怪物や危難を避けるという信仰があったことを示しています。
老人は制止を振り切って煙草入れを取りに行こうとします。禁止の侵犯に聴き手ははらはらするはずです。案の定牛鬼が登場しますが、老人がお仏飯を食べていたため無事だったという結末に終わり、聴き手は安堵するのです。
この行為項モデルでは老人が制止を振り切る、つまり禁止の侵犯を行っているという重要なモチーフが表現できていません。禁止の侵犯は物語の面白い箇所に相当しますが、上手くモデルに組み込めていないのです。
これらからは牛鬼―漁師、牛鬼―お仏飯、牛鬼―出雲大社のお札といった対立軸が見て取れます。牛鬼の襲撃を妨げるものとしてお仏飯、出雲大社のお札といったアイテムがクローズアップされるのです。
ここから神仏―妖怪といった暗喩が同定できるでしょうか。恐怖の存在である妖怪から加護する神仏の存在が伝説に込められています。
◆関係分析
♌しし座:主題の力(ヴェクトル)
☉太陽:価値、善
♁地球:善の潜在的獲得者
♂火星:対立者
♎てんびん座:審判者
☾月:援助者
という六つの機能が挙げられます。
老人♌♁―牛鬼♂♎―家内☾(♌)
といった風に表記できるでしょうか。分析には登場しませんが、お仏飯が価値☉となるでしょう。牛鬼はそれを見抜きますので審判者♎とします。
◆発想の飛躍
発想の飛躍は「漁師―お仏飯―牛鬼」という概念の組み合わせによるでしょうか。ここでもやはりお仏飯を食べていたことで危機を免れるのです。
◆参考文献
・『日本の民話 34 石見篇』(大庭良美/編, 未来社, 1978)pp.32-36.
・『物語構造分析の理論と技法 CM・アニメ・コミック分析を例として』(高田明典, 大学教育出版, 2010)