美は中立なのか――津上英輔『危険な「美学」』
津上英輔『危険な「美学」』を読む。古代の哲学者は真善美というように美は真と善に結び付くものとしていた。一方、後世では唯美主義、耽美主義というように美が悪や偽に結び付いて論じられたりしている。すると、美とは真偽や善悪とは中立なのかもしれない。
感性は時として鋭い嗅覚で時代を捉える。美は感性に訴えかけるが、その際知性や理性が働かず、偽や悪を覆い隠してしまう危険性があるとする。事例として詩人の高村光太郎が戦中に読んだ詩や宮崎駿の映画「風立ちぬ」が挙げられる。
後半は感性の統合反転作用という理論を提出し、その妥当性の検証が行われる。トーマス・マンの「魔の山」や「同期の桜」などが事例として挙げられる。桜が散る、散華には戦死というマイナスの意味が込められているが、それが桜と結びつくことで美しく散るという正のイメージに転換される作用が生じる……といった具合である。
理性知性感性としているが、知性は悟性の置き換えでいいのだろうか。悟性の意味合いがピンとこずそこで挫折したのだが。
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